異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第19話 着実に計画を進めるリシュカと妖魔帝国

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 ・・19・・
 1845年5の月12の日
 午後4時15分
 妖魔帝国・帝都レオニブルク
 皇宮・皇帝執務室


 人類諸国初の戦闘機『AFー44』がアカツキなど公での飛行を終えてから七ヶ月が経過した。
 いくら人類諸国の間に条約の休戦期間延長も語られるとはいえ、開戦時の事もあって各国軍に差はあれど一年後の休戦期限満了に備えて準備は整えられていた。
 特に国境を接する法国、連邦では既存戦力の強化を進めつつあったし連合王国は既存兵器と新開発の陸軍兵器や空の新兵器『AFー44』の生産とパイロットに余念は無く、少なくとも今年の夏までには約一〇〇機(約三個飛行団)を、年末までに約二一〇機(約六個飛行団)を保有するにまで至る予定であった。
 また、リシュカの予想通り連合王国海軍は空母を建造完了し、それが二隻あること。『AFー44』の艦載型である『AFー44B』も着々と生産されている事にも言及しておこう。
 彼女の予想と比較するとペースは遅いが、それでも想定とほぼ同じである点は特筆すべき点であろう。
 妖魔帝国と比較して人的資源が少ない各国軍は質を高めており、少ないながらも再度の軍拡で備えていた。
 だが、妖魔帝国にリシュカというイレギュラー要素が入り込んだ事で、人類諸国の予想に反して妖魔帝国はさらに強大化しつつあった。
 ここは妖魔帝国帝都レオニブルク。皇宮の皇帝執務室にはティータイムの皇帝レオニードとリシュカがいた。

「――以上が妖魔帝国軍の現状かな。休戦前の損害は補填完了。開戦までに陸海兵隊の総勢約二六〇個師団は揃うよ。魔物については消費しきったから全部魔人ないし征服地徴兵軍編成。総動員体制にすればもっと出せるはず」

「大変結構! やっぱりリシュカに任せておいて正解だったな!」

「私の力だけじゃ無理だったよ。軍編成は何かにつけて予算と人的資源。それを全て叶えてくれたのは陛下でしょ?」

「ふははっ、そりゃそうだ。俺は皇帝だからな。戦争計画の裁可は俺にかかっている。だが、こんなにも見違えるような軍になったのはお前と、軍の奴らの努力の賜物だ」

 レオニードはリシュカの説明を受けて非常に上機嫌だった。
 妖魔帝国軍は現在『威光輝きし五カ年計画』の計画後半段階まで至っている。壮大かつ莫大な予算を投入しなければならないこの計画だったが、帝国は多少民需を犠牲にしてはいるもののほとんど順調に進んでいた。

「五カ年計画は教育面はそう易々とは行かんが、まあまずまずと言ったところのようだな」

「さすがにこればかりかはね。教育は一年程度じゃそう簡単には成果が出ないから。そもそも教える側も必要だし」

「だが、士官クラスについては少なくとも満足する水準までやれてるから構わない。下士官クラスについても妥協出来る程度にはなった。兵は少しずつだが、再戦後に並行すればなんとでもなるだろう」

「どうせ消耗して補充したら同じことするだけだしね。マニュアルさえ作っておけば十分だよ」

「しかし他の面はまずまずといった所だろう。兵器類も揃ってきた。生産の為の工場も増やした。いざ戦争になっても困らないだろうさ」

「非魔法武器のライフルは一人一丁は行き届くよ。二人で一丁なんて悪夢すぎるもの」

「同感だな。正規兵でそのような愚策を犯す国があるのならば見てみたいものさ」

「あはは、本当だよね」

 鼻で笑うレオニードにリシュカは内心で、そんな国が私の前世であったんだよ。この国みたいに畑から人的資源が取れるくらいあって、でも不可侵条約を結んでおいて急襲されて初期は二人一丁だった国がね。
 と、苦笑いする。
 それでもあの国は最終的には同陣営からのレンドリースと自国の工業力で乗り切って勝ってるんだけどさ。とも一人ごちる。

「魔法銃はちょっと不足気味かなあ。素材と生産数の問題だけど、最悪不足分は旧式でしばらく我慢してもらって、置き換えになるかもね」

「致し方ないだろう。これでも工廠の奴曰く威力を犠牲にして生産性を高めてるらしいからな。重火力系が順調ならそれでいい」

「『ソズダーニア・タンク』とか? 計画より口径が十ミルラ小さくなったけど、数は定数を揃えられると思うけど」

「ならいいさ。モノが揃ってなくちゃ意味が無いからな。『異形機甲師団』の編成は出来るのだろう?」

「一応ね。研究所曰く制御面の不安は少し残るけれど、参謀本部は機甲師団は三個出来てあとは通常師団に少数配備だって」

「突破力を確保出来ればいい。戦争してるうちに数も増やせばいいんだよ」

「まーねー」

 二人が言及した『異形機甲師団』とは、計画より四半期遅れて研究完了した『ソズダーニア』に野戦砲程度の口径を搭載させた化物の形をした戦車のようなものだ。
『ソズダーニア』は研究完了したとはいえ満足するレベルに仕上がる確率はあまり高くなく、これまでに大量の廃棄品が出たものの一定の数が揃っていた。完成品と廃棄品の数が跳ね上がったのは光龍皇国と南方蛮族地域の征服完了と一致している事から、何を素材にしたかは言うまでもない。しかし、二人にとってはどうでもいい事であった。
 ともかくして、『ソズダーニア・タンク』や通常型のソズダーニアは着実に生産されていたのである。
 それからいくつかの点を互いに確認し合う二人だが、話題は例の計画へと移っていた。

「ところでリシュカ。例のアレ、大きい玩具はどこまで進んだんだ? ブライフマンや探索部隊によって数発分の素材は集まったようだが、装置の方はどうなんだ?」

「計画より遅延してるけれど、なんとか開戦までに間に合うかどうかってとこだね。幾つも新研究要素がある上に、精密さが求められるから時間がかかってるみたい。あとは技術的限界で当初より一メルラ大きくなっちゃった。あと威力も五パルラ低下してる」

「むう……。大型化してしまい威力も若干落ちたのは良くないが、完成しなりよりはマシか……」

 レオニードはティーカップをソーサーに置いて表情をやや曇らせるが、不満そうでは無かった。定期的にリシュカから研究の進捗は耳にしており、専門分野ではない彼でもどれだけ計画の研究が難しいかはよく把握していたからだ。

「元々も大きいけどさらに、だね。でも、私は少なくとも研究者達は知恵を絞って研究してるから横槍は入れるつもりは無いよ。作れてはいるんだから」

「お前がそう評価するならば俺は何も言わんよ。阿鼻叫喚が見られればそれでいい」

 当初より大型化されてしまった『レオニブルク計画』の『煉獄の太陽』。
 だが、研究そのものは完成段階に近付きつつあった。
 懸念されていた第二室の連結起動術式も従来の術式文数から内包術式文字数を増やした事で解決した。これにより起動までの時間が遅くなった弊害が発生したものの、確実性は確保されている。
 二次爆発用術式についてはリシュカ提案の術式を元に圧縮化に成功。ただし、どうしても計画一〇〇パルラの威力は実現出来ず九五パルラが限界と結論づけられた。これ以上は暴発の危険性もあるからだという。
 他の部門については問題は無いようで従来通り進んでいる。
 以上のように『煉獄の太陽』は計画の想定より大型化と威力に若干の減少はありつつも確実に完成へと近付いていた。
 となればあとは実物が出来上がって起爆実験を残すのみとなる。

「じゃあさ、皇帝陛下。そろそろ起爆実験場の策定をしたいんだけど」

「ああ、そうだったな。既に目星は付けたのか?」

「本土の中部以西は極力避けるようにしたよ。輸送は大変だけど南方蛮族の地域か、東部方面の端っこってとこ」

「なるほど、この辺りならば大した影響はないだろうな」

「皇帝陛下も知っていると思うけど、やっとあいつらも『ネズミ』を放ってきたからね。ゾリャーギのとこの諜報機関に比べれば能力は劣るけど、そこそこ上手くやってるみたいだし。きっかけは偶然だったけど、私達の目は誤魔化せないよ」

 ひひひ、と不気味に笑うリシュカ。
 ダロノワ大統領達による発案で発足した潜入部隊は潜入自体は成功していた。諜報任務もそつなくこなし、帝国の内情など情報は得ていて幾つかは既に持ち帰られていた。
 だが肝心の機密を入手するまでには至っていない。ソズダーニアの存在と量産こそ得られているものの、最も脅威となる『煉獄の太陽』については帝国の機密取扱が上手であって全く得られていなかった。
 それだけではない。リシュカはゾリャーギから人類諸国が諜報部隊を潜入させていて活動をしている情報を得ていたのである。
 きっかけは不幸な偶然だった。妖魔帝国諜報員が潜入任務を一旦終わらせて本国へ帰還する際に、たまたま見つけてしまったのである。無論、違和感が生じた妖魔帝国諜報員は追跡を急遽決定した。
 広大な国境線だからほとんど見つかるはずは無かった。しかし不幸な事に猟師に偽装した諜報員を妖魔帝国諜報員が街中で再度発見してしまったのである。その後もあくまで疑いだった状況故に追跡され、最終的には確定的な情報まで得られてしまう。
 しかし、レオニードもリシュカもあえて泳がせておいていた。油断を誘って一挙に捕縛するつもりだからである。

「俺がせっかく慈悲をかけて粛清者共を放っておいたというのに愚かだ。それに運も悪かったな」

「最重要機密が引っこ抜かれない限りはそのままにしておくんだよね。あいつらは西部を中心に活動していて拠点設置もせいぜいがここレオニブルクから西三〇〇キルラが限界なのも分かってる。とは言っても注意は必要だからね。実験場の選定を私が考えていたよりも東寄りとか南寄りにしたのはそういうこと」

 敵国の諜報員の話も交えながらリシュカは一枚の紙をレオニードへと差し出す。
 紙は妖魔帝国と征服した地域が書かれた地図だった。印が付けられているのは南方蛮族地域の中南部と、妖魔帝国の東部。いずれも今は無人地帯で実験にはうってつけだった。

「輸送路を踏まえるなら南方蛮族地域でもいいな……。あのあたりは四方が山に囲まれているが、そこそこに広い平野だ。とはいえ、東部の方が防諜上は万全か」

「五カ年計画は西部と帝都周辺を中心に輸送路も構築したけれど、東部も資源地帯からの輸送もあるから前よりは良くなってる。私は東部の方がいいと思うけど」

「俺とルシュカちゃんも視察するからそうするか。どうにも南方蛮族地域は気が進まん」

「ちょっと待って二人共実験場に来るわけ?! 資料は読んでるでしょうけど、危険性が皆無ってわけじゃないよ?!」

 リシュカはレオニードの発言に驚愕する。
『煉獄の太陽』は前世で例えるのならば核爆弾のような代物で、爆心地から数キルラは有害範囲である。にも関わらず、この国の頂点たるレオニードとリシュカが揃って訪れるというのだからリシュカの驚きようも無理はなかった。

「知ってるさ。だが、この目で確かめてみたいじゃないか。それにどうせ視察地点は爆心地から10キルラ以上離れるのだろう?」

「そりゃそうだけど……。距離的に往復二十日もかかるような場所に二人共向かうのは良くないって……。何かあったらどうするのよ」

「だがなあ……。新しい玩具は見たいものだろう?」

「絶対に反対。私は特別相談役だから立ち会えるけれど、貴方は皇帝。万が一はあったらダメでしょ。それに、ネズミの防諜の問題上移動はさせらんない」

「いっその事ネズミを消すか?」

「泳がせておくんでしょ。いやね、私も新兵器をその目で見たい気持ちはすごく分かるけど、帝都にいて」

「仕方ないなあ。お前の言うことを聞いておこう。ルシュカちゃんも楽しみにしていたんだが」

「頼むから皇帝と皇后らしくしてて……」

「分かった分かった。お前だから聞いてやるよ」

 リシュカはレオニードが自身の忠告を受け入れたことに心底ほっとする。
 ネズミが入り込んでいる事は大した事ではないが、皇帝と皇后が揃って動くとなれば否が応でも目立つ。
 この二人が新しい物好きなのは今に始まったことではないが、流石にリシュカも踏みとどまらせようとした。

(ったく……。変なとこで子供っぽくなるのは、二人が誰も逆らえない立場にあるからだろうね……。やけに信頼されてて良かったわ……)

「ああでも、引き換えにレポートはしっかり寄越せよ? 写真付きでな」

「彩度は期待しないでよ……。どんな影響あるのか分かんないんだから……」

「ある程度写っていればいい。写真はそっくりそのまま見られるものなのだからな」

「はいはい……。さて、私はそろそろ帰るけど他に聞きたいことはあるかしら?」

「いや、いい。愉しい話をしていたらすっかり時間も過ぎて午後も六時になってしまった。これからの時間は、ルシュカちゃんとの時間だ」

「相変わらずお熱いようで……。じゃあ失礼するわね」

「ご苦労だった。また報告ついでに茶でも飲みに来い」

「報告じゃなくても帝都にいる間は毎日会ってるでしょうに」

「くはは、違いない」

 人払いを済ませているため、終始気さくな様子で話を終えたリシュカはレオニードの執務室を出る。
 黒髪を揺らしながら靴の音を響かせる彼女。途中衛兵とすれ違う。皇帝の右腕となって久しい彼女に対して尊敬の念を込めて敬礼する彼等に模範的な答礼をして歩き、外に出た。
 条約切れまであと一年。アカツキが予想している以上に妖魔帝国は力を蓄えつつあった。
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