異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第15章 戦間期編2

第20話 纏まらぬ会議と沈黙を破るアカツキ

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 ・・20・・
 1845年7の月7の日
 午後4時25分
 アルネシア連合王国・王都アルネセイラ
 軍統合本部大会議室

 妖魔帝国と結んだ休戦条約の期限が切れるまであと十ヶ月となった。戦争が一旦止まって久しくなった夏、今年は例年より暑いみたいだけど戦争の脅威を感じていない国民は平和を謳歌していた。
 けれど、いくら延長の可能性もゼロではないと言っても戦争の足音は近づいている。
 今から準備をしないと事前の用意はしてあるとはいえ準備が間に合わない事から、この日の午前中から僕やマーチス侯爵、リイナやエイジスも含めて、連合王国の将官級の軍人のかなりが集まって今後の戦争計画について会議をしていた。
 だけど、昼食を挟んで既に六時間が経過したにも関わらず会議の内容はほとんどまとまっていなかった。
 今も東部統合軍第八師団ノーエンロップ中将と中央統合軍第四師団サウザン中将が論戦を繰り広げていた。


「妖魔帝国の条約期限切れが十ヶ月に迫った今、戦争計画に基づく行動を成すべきであろう」

「いいや、外務省は条約の延長も視野に妖魔帝国外務省と交渉を重ねている。ノーエンロップ中将、ここで相手を無闇に刺激するのは良くないのではないか?」

「妖魔帝国が交渉に応じたとて約束を守る保証はどこにあるサウザン中将? 国交が無かったとはいえ宣戦布告も無しに交戦に入ったのは先の大戦で、休戦前の大戦もほぼ同時であっただろう」

「しかし今回の条約は守っているではないか。妖魔帝国からは昨年時点で条約の延長についての交渉も余地があると言っていた。ブカレシタの損害からも、魔物は出し尽くした可能性も高く魔人のみとの交戦の可能性が高い。いくら連合王国とはいえ、無限に兵士は供給出来ない」

「何を言っているか! どのみち長くとも二年半と少しが経てば戦争だぞ!」

「そこを外務省が努力して模索しているのではないか!」

「外務省が交渉に相当の力を入れているのは耳にしている。だが、万が一に備えることこそが軍の役目ではないか。我が国が軍縮をせずに維持、質の向上を続けてきたのが何よりの証拠であろう」

 サウザン中将とノーエンロップ中将が舌戦は続けていた。他の将官級も同様で二つに分かれて午前中からずっとこの様子だ。
 以前ならば西部統合軍と中央統合軍に東部統合軍と別れていた論調は、目立った派閥争いが無くなった今では『条約延長派』と『妖魔帝国懐疑派』に分かれての論戦になっている。両者には「どのみちいつかは妖魔帝国と戦争になる」という共通の考えがあるから内部分裂にはなっていないけれど、それでも極力総力戦への再突入を避けたい宥和派がいるのは以前と違った状態だった。

「自分としては妖魔帝国は信用出来ん。アカツキ中将がA号改革を提案し推進したからこそ我々は休戦まで勝利を続けていたが、もし改革を進めていなかったら今頃どうなっていたか想像もしたくない。間違いなく緒戦は蹂躙され東部は地獄の様相だったろう。貴官はその事実を忘れたか?」

「アカツキ中将による改革の恩恵は私も受けてきた立場であるから、否定はせん。むしろ感謝しているくらいだ。中央統合軍もブカレシタまで遠征をしていたからな。しかし、ブカレシタでの戦いがあったからこそ慎重になりたいのだ。あんな戦いが数年に及んでみたまえよ? 何十万と兵士がいても足らんぞ」

 サウザン中将の発言に「条約延長派」は頷く。
 だけど、最も妖魔帝国の脅威を感じ続けていたノーエンロップ中将は反論をした。

「ブカレシタの死傷者数が想定以上だったのは認めよう。しかしだな、こちらが軍の質を高めていると同時に妖魔帝国も質を高めている可能性が大いに高いことは例の情報からもたらされているではないか」

「妖魔帝国の制式採用小銃に、軍そのものの変化か……。確かに脅威だが、ならば何故妖魔帝国は条約延長をちらつかせる? そもそも妖魔帝国は休戦までに相当な損害を被り、魔物だけならともかく魔人編成の師団も消耗しているはず。光龍皇国や南方蛮族地域との戦争もあったろうからまだ回復仕切っておらんのかもしれんぞ?」

「理由が分からんから不気味なのではないか。あの国は兵士の徴兵力に関しては我々を凌駕しているからな。そうだ、情報機関長ザッカーハウゼン中将。例の情報はどうなっている?」

 二人共顔をザッカーハウゼン中将に向ける。ザッカーハウゼン中将は自分に矛先が向けられた事に表情を一瞬だけ険しくさせるけれど、すぐにいつもの冷静な顔つきに戻ると。

「すまないが、現在貴官等に提供した情報以外のものはまだ上がってきていない。妖魔帝国での諜報活動は魔法無線装置が使用不可能であるから召喚動物による原始的なやり取りで行っているが、妖魔帝国の質的向上及び、南方蛮族地域への本格的な進駐、それに敵本国での演習以外は特に真新しいものは見当たらない」

「ますます謎が深まるばかりだな……。ならば何故あの国が嬉々として条約を破棄して侵攻せんのか……」

「流石に痛い目を見たんだろうよノーエンロップ中将。何にせよ、むざむざ兵を失う必要はあるまい」

 結局議論は平行線だった。
 僕は今回の会議で最初に今後の戦争計画についの発表をした以外状況を静観しているからあまり口を開いていないけれど、煙草の本数が増えるばかり。そろそろ退屈というか辟易としてきていた。
 時刻は既に五時前。これ以上進展が無いのなら今日はお開きにでもなるだろうか。
 と、思いたい所だけれどそうはいかない。せめて全体での論調をまとめないことには物事が進まないからだ。
 人類諸国にとって妖魔帝国が怪しい動きをしているなど決定的な動向がない上に、当の帝国は条約延長も選択肢として存在しない訳では無いという玉虫色の回答をしているから連合王国ですらまとまりに欠ける状態。
 だけどこの状態は好ましくはないんだ。どうにも妖魔帝国は休戦後の時期を境に外交のやり口というか駆け引きが上手くなった気がする。
 まるで何かを待つかのような姿勢もそうだけど、僕達人類諸国にあえて選択肢を提示して考えさせるなんて休戦前の稚拙なやり方と比較して明らかに何かが違う。
 不気味で不気味で仕方ない。
 まあ、なんていうかさ。これ以上まとまんないならそろそろ口を出すべきかもしれない。自分の立場上階級以上の影響力があるしマーチス侯爵も将官級同士で意見の交換は必要だから知ってはいるだろうがしばらく見守っていろ。と事前の打ち合わせをしていたから何も言わなかった。
 でも、これだけ時間をかけて平行線なら仕方ない。
 僕はマーチス侯爵と顔を見合わせると、マーチス侯爵は指をトン、と叩いて頷く。発言やむ無しの合図だ。
 まずはマーチス侯爵が動かない議論に一つ投じた。

「貴官等の言い分はこの半日近くでよく知れた。条約延長派の論も理解出来る。連合王国は決して無限に徴兵なぞ無理な事だ。戦争は回避するべきだろう。また、懐疑派の論も理解出来る。妖魔帝国には前科があるからだ。しかし、休戦より前は一つに纏まった我々、参謀本部に情報機関に将官級の面々が集まっても事前に打ち合わせをしてもなお纏まらぬのではケリがつかん。期限切れまで最低で十ヶ月、長くても三年はない。どちらにせよ新戦争計画の賛否は問わねばならんのではないか? 我々が悩めば悩む程に、新戦争計画の始動は遅れる。万が一を想定せねばならんのが、軍の役目。そうではないか?」

「確かに……」

「元帥閣下の仰る通りだ……」

「しかし、下手に刺激して口実を与える訳には……」

「例の情報が捕まれば同じだろうて……」

「……アカツキ中将」

「はっ」

 マーチス侯爵の鶴の一声で空気は変わるものの、各派に対して決定的な変化はない。だからマーチス侯爵は自身の懐刀として僕の名前を口にしたのだろう。
 僕は返答し、この場にいる誰もが今まで沈黙を貫いてきた僕に注目する。

「アカツキ中将、貴官が会議の始めに発表した参謀本部作成の新戦争計画『悠久の栄光』を再度説明せよ。ただし、今度は貴官の主観的意見を交えても良い」

「承知しました。リイナ、僕が参謀本部やエイジスと共同作成した『悠久の栄光』の別資料を」

「分かったわ。補足も任せてちょうだい」

「ありがとう。エイジスも補足をよろしく」

「サー、マイマスター」

 僕はリイナ、エイジスに言うと二人は参謀本部の面々と協力しててきぱきと新しい資料は将官級の軍人達に渡されていく。

「皆様に行き渡ったようなので、再度私より新戦争計画『悠久の栄光』について説明を致します。ただしこれから話す内容は、先と違い私の主観が大いに入ったものとなりますが、どうかお聞きください」

「我らが英雄閣下の主観は聞きたかった。ぜひ発表してほしい」

「最初の発表が、アカツキ中将閣下の意見が殆ど無かった訳ですね。お聞かせ願いたいです」

「纏まらん時こそ貴官の意見だ。頼む」

「了解しました。では、先に結論から述べさせて頂きます」

 これから重大発表をする。というような表情をすると、終わりの見えない会議に疲れ始めていた面々は背筋を整えるか雰囲気を変える。
 僕は一度息を吸うと。

「既にご存知だと思いますが、妖魔帝国が強く望まない限り条約延長には反対。いえ、むしろ我々は条約延長は一切しないのが私の考えです。何故ならば、妖魔帝国は明らかに皇帝付近の中枢部体制が変更されたと思われ、我々が想像する以上に脅威度は大きくなっており、これ以上妖魔帝国に時間を与えるのは非常に危険であると考えたからであります」
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