異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第12章 ブカレシタ攻防戦決着編

第11話 自動人形は主に抱きしめられ涙を流す

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 ・・11・・
「そんな、そんな……!」

「オーガ・キングが……!」

「我々の切り札が……!」

「おしまいだ……!」

 間もなく日没を迎える時刻。
 戦術級召喚魔法によって顕現したオーガ・キングの赤の王と青の王が討ち取られた事により、愕然とする妖魔帝国の将兵達。しかも目の前には無傷の第二解放の絶大な力を持つエイジス。王達ですら歯が立たなかった相手に勝てるはずもない。
 こうなってしまえば、持ち直した妖魔帝国兵達の士気は完全に瓦解する。

「逃げろ! 逃げろぉぉおおお!」

「勝てるわけがねえ!」

「邪神の使いを相手にするだなんて無理だ……!」

「逃げるたってどこへ!? 要塞以外のどこへ!?」

「とにかく中央へ逃げるんだ!」

 この戦線にいた妖魔帝国の将兵達は完全に戦意喪失し、てんでバラバラになって後退を始める。
 本当ならばここで追撃するのが最良だけど、この場にいる友軍は僕の直轄部隊であるアレン大尉達を含めてオーガ・キングとの激闘によって疲弊している。これ以上の追撃は不可能だ。中には緊張の糸が切れて地面に座り込んで動けなくなった者もいる。
 勝鬨を上げて勝利の大歓声が響き渡る中、攻撃をしている者達は比較的戦力が温存されていた部隊の指揮官はこれまでの恨みを晴らす勢いで深入りしない程度だった。
 でも、そこへ後方へ退避していた情報要員から報告が入る。

「アカツキ少将閣下、失礼致します。ご無事で何よりでした! そして朗報です! 本戦線に対して総本部の予備師団の援軍が間もなく到着します! 駆けつけて頂けるのは、第四師団! ロイス少将閣下の師団です!」

「それは重畳だ。感謝を伝えないと……」

 友軍の制圧地域から次々と砲撃音が耳に入る。恐らく立て直した軍だけじゃなくて第四師団砲兵隊が加勢したんだろう。
 いつまでも横になっている場合じゃないと僕は立ち上がろうとするけれど、頭痛はまだ治まらないし体の節々が痛い。顔をしかめているとリイナは。

「旦那様、無理はしないでそのままでいて。まだ意識が回復して間もないのだから」

「ごめんリイナ。そうさせてもらうよ……」

「ゆっくりしてちょうだい、旦那様。情報要員、クルス少尉。旦那様、アカツキ少将閣下の無事はもう伝えたかしら?」

「はい。全軍布告するように既に」

「よくやったわ。これで各戦線の士気は回復するわ」

「はい……!」

「アカツキ少将閣下……! よくぞご無事で!」

「マスター! マイマスター……!」

「アレン大尉、それにエイジスってわぷっ!?」

 オーガ・キングとの戦いを最も激しく繰り広げていたアレン大尉に部下達が走って僕のもとへやってくる。その中でも真っ先に僕の所へ来たのは、成人女性と同じ大きさになって涙を瞳にためていたエイジスだった。
 彼女は僕に飛びつく勢いで抱き締めてきた。かなりの勢いに僕の顔はエイジスの胸元に埋まる。

「マイマスター、アカツキ様! 目を覚まされて、目を開けてくれて良かったです……! 死なないのは分かっていても、それでも、ワタクシはマスターが心配で……! ワタクシはマスターの盾なのに守ることが出来ず、マスターを危険に晒して……! あの光景を見て気がどうにかなってしまいそうで、自動人形たるワタクシにあるまじき、失態です……。守護者、失格です……」

「むぐぅ……」

「気持ちは痛いほど分かるけれどエイジス、旦那様は貴女に強く抱かれて窒息しそうになってるわよ?」

「し、失礼、しました……」

 エイジスはやっとその事に気付いて僕から少しだけ力を弱めたけれど、ぎゅうっとすることはやめなかった。
 見上げると、エイジスは頬から幾筋も涙を流していた。ぼろぼろに泣いていた。
 彼女は自動人形ではない。もう、人間と何も変わりはなかった。
 僕は優しく微笑むと抱き締め返し、彼女の頭を優しく撫でる。

「そんな事ないよ、エイジス。君は僕を守ろうとしてくれていた。直撃の前の法撃が無かったら、死んでいたろうから」

「あんな手しか、思いつきませんでした……。マスターが負傷するかもしれないのに、でも、死ぬのはもっと嫌で……」

「ありがとう、エイジス。君のお陰でこれだけで済んだ。君は僕の命を、救ってくれた。命の恩人だ」

「うう……、マスター……。感謝の、極み、です。うううう、うあああああ……!!」

 感極まったエイジスは、ついに耐えられなくなって号泣する。
 その姿はオーガ・キングを圧倒していた神の代行者では無くて、一人の女性だった。
 僕は泣き続けるエイジスの背中をさすり、髪の毛を撫でる。背部にある折りたたまれた白翼が僕の頬に触れてくすぐったかった。
 エイジスにもリイナにもだけど、感謝をするべき人は他にもいる。
 方膝立ちしていたアレン大尉達にも声をかけた。

「アレン大尉、皆。ありがとう。上官たる僕が一時的とはいえああなってしまって、迷惑と心配をかけたね」

「とんでもない! 自分は、アカツキ少将閣下が戦死されてしまわれたのではないかと気が狂いそうで、ですが、生きておられ、このように話して頂けるだけで嬉しく、嬉しく、思い、ます……!」

 アレン大尉達も僕が負傷して心の底から不安だったのだろう。笑顔を向けると、男泣きするもの、へたりこんで泣く者が多かった。
 指揮が取れないわけだから、やってくる士官達に命令を伝えていると、直前まで戦場になっていて今は負傷兵の後送などをしているいくつかの通りから多くの将兵が現れた。第四師団の兵達だ。
 いくら師団の中で網の目を張るような通信体制が構築されつつあるとはいえ、まだ僕が意識を取り戻した事を知らない兵士達もいる。
 彼等は僕に気付き、手を上げると安堵の笑顔を向け、すぐに撤退中の敵へと視線を変える。

「アカツキ少将閣下は生きておられる! 目を覚ましておられる! 我等が英雄は倒れない! 総員、少将閣下を苦しめた妖魔共を許すな! とおぉぉぉつげぇぇぇき!」

「ロイヤル・アルネシアに栄光あれ!」

「アカツキ少将閣下に勝利を!」

「ロイヤル・アルネシアに、さらなる勝利を捧げよッッ!」

『うおおおおおおおおおおおおお!!』

 援軍に現れた第四師団の兵士達は恐れなどせず、元からこの戦線にいた兵達が後退を遅らせていた妖魔帝国兵達へと猛攻を始める。
 息を切らしていた兵に第四師団の衛生兵が駆け寄り、治療を施す。応急処置の速度は上がり、軽傷だからと衛生兵に感謝した後に再び銃を手にして戦う勇気ある兵もいた。
 そして、次に現れたのは騎乗している師団幕僚部の高級士官達。真ん中にいるのは、師団長たるロイド少将。
 彼は僕達を見つけると、副師団長などに簡潔に命令を伝えてこっちにやってきた。部下達は起立し敬礼、リイナは僕に付き添っているから座りながらの敬礼だ。エイジスは周りを気にするどころじゃないからこのままだけど。

「アカツキ少将、無事だったか!」

「ロイド少将、心配かけてごめんよ。この通り、軽傷ではあるけれど命に別状は無かった」

「誠に良かった! 貴官の姿をこの目で確かめるまでは、気が気でなくてな……。オーガ・キング共が現れたのもさることながら、貴官の負傷の一報に総本部は一時大混乱していたのだ」

「そんなことに……」

「だが、マーチス大将閣下は動じられなかった。アカツキ少将なら絶対に生きている。案ずることはない。だが、戦線は崩壊させてはならない。予備の出し惜しみなどするな。総力を持って各戦線へ救援へと向かえ! と仰られてな。私は総本部予備師団の長。真っ先にここ行くことを進言し、やってきたのだ」

「本当にありがとう。感謝するよ、ロイド少将。帰還したら、謝罪しないといけませんね……」

「いいや、自分にせよ皆にせよ貴官が無事であったことを何よりの喜びとしている。ただ、帰還の際にはその姿を見せてやってくれ」

「うん、ロイド少将」

「それにしても、此度の窮地もやはり貴官らは独力で潜り抜けたのだな。ここへ急行している内に随時報告は聞いていたが、そこにいるのが、まさか……?」

 ロイド少将は戦況報告を聞いていたとはいえエイジスの人間大になっているのは初めて目撃するし、いつもの正反対の色をしている衣服と背中から生える六枚の白翼だからイメージからかけ離れている。おまけに彼女が泣きっぱなしという状態に戸惑っていた。

「彼女はエイジスだよ。第二解放によって、この姿になっているんだ」

「それはまた……。召喚武器とは不思議な存在だな……。だからこそ興味が尽きんのだが」

「エイジス、そろそろ顔を上げても大丈夫かな? 第四師団師団長のロイド少将が援軍にやってきてくれたよ」

「ぐすっ……。サー、マスター。――失礼しました、ロイド少将閣下。マスターの召喚武器、自動人形のエイジスです。援軍に、感謝致します」

「おお、なんと美しい。神の代行者という報は、真であるな」

 ロイド少将や彼の部下達は立ち上がり敬礼するエイジスの姿に驚きつつも、現実離れした美麗さに感嘆する。

「ありがとうございます。オーガ・キング二体の内、赤の王はマスターや皆様により討伐。青の王についてはワタクシが断罪を下しました」

「うむ。多くの将兵の命と戦線崩壊の危機を救った事、私からも礼を言うぞ」

「はっ」

 拍手が巻き起こる。この戦線については決着した。
 けれど、他はそうはいかない。

「ロイド少将、北部や南部、東部の戦線はどうなっているか教えて貰えると助かるのだけれど」

「他戦線についてもマーチス大将閣下の命令により予備戦力を投入し、犠牲を払いつつもオーガ・キング共を倒しつつある。直前の報告ではラットン中将閣下の東側が一番早くケリがつくであろう。北部や南部も法国軍のSランク召喚武器所有者ラージ大佐や温存していた高位能力者部隊に召喚武器所有者を総動員している。いずれも討ち取るのは時間の問題だろう」

 この戦いには協商連合軍がSランク召喚武器所有者を二人、法国軍がヴァネティアの戦いで救ってくれたラージ大佐――あの活躍で昇進している――を含めて四人、我等が連合王国軍は三人参戦している。半数は万が一に備えての予備戦力で待機させていたけれど、この戦況だ。マーチス侯爵は全力投入しているようで、それらは間に合い、お陰で各戦線の崩壊は免れている。
 さらに主戦線のここが勝利した事が伝われば、再び押し返せる。既に日没の時間は過ぎていて辺りは暗くなっている。それに予備戦力を投入したとしても、オーガ・キングが出現する直前まで広げていた最大進出線を越えての攻勢は何が起きるか分からない以上危険だ。
 恐らくはあと一時間から二時間くらいの攻撃が限度だろう。
 それに、これまで一番頑張ってくれていたエイジスの問題もある。

「なら良かった。エイジス、情報共有を再起動、はそろそろ無理みたいだね」

「申し訳ありません、マイマスター……。そろそろ、稼働限界時間です……」

 エイジスはふらふらとし始め、気がよく利くアレン大尉はエイジスを後ろから抱きとめる。それから僕の隣に座らせてくれた。
 第一解放ですら稼働限界時間というものがあった。ともなれば第二解放にも同様の制限時間があっても当然の話。
 これは後日分かることになるんだけれど、第二解放の最大稼働時間は四十分らしい。それに伴い第一解放の最大稼働時間は二時間に伸びたようだ。ただし、いずれも限定解除の力だけあって長時間使える訳では無いし反動として暫くの間エイジスはまともに戦えなくなるので使い所は選ばないといけない能力だろう。

「お疲れ様、エイジス。本当にありがとう。ゆっくり、休んでね」

「サー、マスター……。魔力充填、整備回復状態に入ります。おやすみ、なさい……」

「おやすみ、エイジス」

 エイジスは白い光に包まれると、一度魔法粒子化し再び姿が現れると元の大きさへ戻り僕の身体に横たわるようにしてすやすやと寝るようにしていた。

「アカツキ少将、ここからは我々に任せて貴官も下がりたまえ。もう夜だから近いうちに戦闘は小康状態となるだろう。何せ貴官は負傷兵だ。貴官の部下も無傷ではない。ゆっくり休んでくれ」

「感謝するよ、ロイド少将。正直に言うと魔法障壁があったとはいえあそこに直撃しててね……。衛生兵や魔法軍医が治療をしてくれたんだけど、頭はクラクラしてそこかしこがまだ痛くて……」

「あの砕けている瓦礫の山に……。むしろそれで済んだのが幸運だな……。尚更、療養してくれ。護送用の馬車と護衛も手配してある」

「何から何まで、助かるよ……」

「なあに、貴官には我々はいつも助けられている。これくらいさせてくれ」

「ありが、と……」

「気にするな、アカツキ少将。あとは任せたまえ」

 ああ、僕も緊張が解けたから意識が途切れそうになってきた。さすがに、休みたいかな……。

「リイナ、僕も……」

「ええ。おやすみなさい、旦那様」

「おやすみ、リイナ……」

 リイナの微笑む顔を眺めながら、僕は眠りにつく。
 目を覚ましたのは総本部にとっくに到着していた翌朝だった。
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