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第12章 ブカレシタ攻防戦決着編
第12話 オーガ・キングとの戦いが決着したとてそれは終わりではなく
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・・12・・
10の月18の日
午前10時頃
3ヶ国軍ブカレシタ野戦病院・アカツキ個室
「ここは、病室か……」
再び目を覚ました時、最初に僕の視界に入ってきたのは天井だった。遠くからは散発的だけど砲音が聞こえてくる。
それでここがブカレシタのどこかまでは分かった。
身体を起こそうとすると、腕と胴体が痛む。頭痛はもう一度意識が途切れる前に比べるとずっと良くなっている。包帯はまだしておいた方がいいかも。
上体だけ起こした時点で格好が変わっているのに気付いた。軍服では無く、患者が着るような服だった。
「まさかだとは思うけど、何日も眠っていたって事は無いよね……。あの時と状況が似てる。リイナはあれからここに着いてずっといたのかな」
横に視線を移すと、背もたれに身体を預けて眠っているリイナがいた。戦闘服ではなくて、通常の軍服だった。
もしかつてのように長いこと目を覚まさなかったのならば、心配かけたよなと罪悪感は抱きつつもかといって起こすのは忍びなかった。
けれど、杞憂だった。リイナが瞼を開けたんだ。
「…………ん、もう朝なのね。……! 旦那様、おはよう。今回はすぐ目を開けてくれて良かったわ」
「おはよう、リイナ。すぐってことは、今日は」
「18の日よ」
「そっか。ところで、エイジスは? それに戦況は? 敵の損害と味方の損失は? ブカレシタ要塞の攻略はどうなってる? 僕が意識を失っていても戦争は続いているんだから――」
「こらこら。戦いの心配をするのも分かるけれど、その前にまずはアナタよ。エイジスならまだ起動していないわ。疲れが取れきっていないのでしょうね。軍についてはこの後お父様がお見舞いに来てくれるわ。けど、最初にするのはアナタの診察。まだ体が痛いのじゃないかしら?」
「う……」
「部屋の入口にいる兵に軍医を呼ぶよう伝えるから、ベッドで大人しく、よ?」
「……分かった」
僕の唇を人差し指でそっと触れる彼女。
リイナにたしなめられて、僕は素直に言うことを聞く。どうやら意識を回復した直後にエイジスのことや軍の状況を聞いてくれる事はお見通しだったみたいだ。
あれだけの怪我をしたのだからいかに魔法による治療があったとしても完治はありえない。魔法は便利だし特に魔法治療は現代医学さえ凌駕する部分さえあるとはいえ、死んだ命が復活するとか吹っ飛んだ腕を生やすとかみたいな前世の創作ほど万能ではないんだ。
リイナが入口にいた兵士に要件を伝えると、嬉しさの滲む声音で快諾した彼はすぐさま魔法軍医を呼びに行った。
数分後、軍医が従軍看護師数名を引き連れて僕の部屋へ到着する。
「連合王国軍魔法軍医のシェフィールドです。階級は少佐。アカツキ少将閣下、目を覚まされたようで何よりです。お加減はいかがですか?」
「頭痛はそこそこ治まったかな。身体の痛みは残っているけれど、昨日ほどじゃないね」
「順調に回復されているようですね。しかし、普通の兵士なら即死級のダメージを受けています。診断はしっかりさせてもらいますね」
「よろしくお願いするわ、シェフィールド軍医少佐。私の上官ったら無茶するのに定評があるもの」
「軍医同士の話題でも出たことがありますからね。チャイカ姉妹の件、そして今回。これは女性看護師達が言っていたのですが、少将閣下の可憐な顔に大きな傷が付いたら一大事だと」
「ははは……、そんな話があったんだ。いてて」
触診をしていた看護師や、検査の記録に軍医の補佐をしている彼女達は一様に頷く。負傷の一報を耳にした時は気を失いそうになった人もいたと彼女らは語ってくれた。熱烈なファンってやつらしい……。
シェフィールド少佐は探知魔法を応用した身体検査をすると、慣れた手つきで素早くカルテに文字を書き込んでいく。
「ふむ。やはり完治には少し時間がかかるみたいですね。全治十日から二週間ぐらいでしょうか。恐らくですが、一人でゆっくりと歩行するならともかく走るのは到底無理では?」
「そう、だね。まだ歩いてもいないけれどちょっと厳しいかも」
「でしたら向こう五日間は車椅子での移動のみと致しましょう。当然ではありますが、行動制限を伴います。車椅子など独力ないしリイナ大佐や部隊の方達との行動はこの野戦病院か総本部など最後方部分のみ。前線視察は厳禁ですし、最前線などもってのほかです。カルテを書き終えましたら速やかにマーチス大将閣下のサインを頂きますのでご存知だと思いますが」
「マーチス大将閣下の命令にもなるというわけだね」
「はい。既にマーチス大将閣下から軍医総監部に指令書が届いておりますが、軍医の許可無しに万が一痛覚緩和術式や脳内麻薬術式を使って向かわれた場合、厳罰に処すので必ず報告すること。と我々も厳命されておりますので」
「するつもりはないけれど、予防線は張られてるわけかあ」
「当然よ。アナタのお陰で、エイジスのお陰でオーガ・キングを討伐出来たけれど重体と紙一重、最悪戦死すら有り得たのだもの。完治までは絶対安静というわけね」
最前線に立つ将官だから戦死の可能性は常に付き纏う。けれど、こうして生きて帰ってきてまだ万全ではない以上当たり前の判断だった。マーチス侯爵の命令なら尚更だね。
だから僕は首を縦に振った。
「戦死傷者が予想以上でありましたので野戦病院は慌ただしくなっておりますが、数日間はアカツキ少将閣下がこの部屋を最優先で使えるようになっています。ご容赦ください」
「了解したよ、シェフィールド軍医少佐。少しの間世話になるけれど、よろしくね」
「はっ。幸い銃創や裂傷痕はありませんので完治した頃にはいつも通りに戻れます。我々の全力を持って治療させて頂きます。車椅子に関しても後程手配致します」
「うん。ありがとう」
「とんでもないです。それでは、私達はこれにて失礼致します」
診察と診断は三十分程で終わり、シェフィールド少佐達は部屋から出ていった。
直後、部屋の外から幾つもの靴の音と兵士達の上擦った声が聞こえた。
「アカツキ少将、リイナ大佐。入ってもいいか」
「ブリックだ。マーチス大将閣下と共に君の見舞いに来た」
「どうぞ、マーチス大将閣下。ブリック少将」
声の主はマーチス侯爵だった。扉が開くとそこにいたのは彼と彼の副官、ブリック少将だった。扉の前には総司令部にいる数名の参謀達もいた。
彼らやマーチス侯爵にブリック少将は僕の姿を確認して安心しつつも、怪我の様子を痛々しそうに見ていた。
僕は上体を起こした状態で、リイナは起立して敬礼すると二人は返礼をする。
「先程野戦病院に来た時軍医からお前が目を覚ましたのを聞いた。大事に至っていないようで何よりだった」
「君が軽傷で済んで心の底から良かったと安堵している。その様子ならあまり時間をかけずに復帰出来そうだな」
「マーチス大将閣下、ブリック少将、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「私もアカツキ少将閣下を守れず何も出来ませんでした。全てはアカツキ少将閣下の部下、アレン大尉達とエイジスのおかげです」
マーチス侯爵などを不安にさせたのは間違いないから、僕は頭を下げて謝罪する。
「アカツキ少将、リイナ大佐、頭は下げなくてもよい。むしろ貴官やリイナ大佐、エイジスに旅団の面々の不断の努力によって主攻面の西側戦線は崩壊の危機を免れたどころか見事に押し返した」
「礼を言いたいのはこちら側さ、アカツキ少将、リイナ大佐。本当に良くやってくれた」
「とんでもないです、マーチス大将閣下。戦力だけでなく、オーガ・キングの精神力を見誤ったのは私の方です。そのせいで多くの兵を死なせてしまいました」
「何を言うか。貴官達の働きが無ければ、死傷者は今の数字で収まっていなかった」
「アカツキ少将、君を責める者など誰もいないぞ。むしろそこらじゅうから感謝の声が上がっている。西側戦線が崩壊すれば東側だけじゃない。南北の戦線は孤立しかねなかった。感謝してもしきれないくらいだ」
「マーチス大将閣下、ありがとうございます。ブリック少将も、ありがとう。そう言ってくれると名誉の負傷だと思えるよ」
「気にするな、アカツキ少将。君によって救われた命の方が圧倒的に多かったんだ」
「うむ。ラットン中将も同じような事を言っていたぞ」
「そうでしたか。なら何よりでした」
二人の言葉に参謀達の頷きから、僕は胸を撫で下ろす。
いくらオーガ・キングの戦力が誰もが想定していなかったほど強大だったとしても、主攻面における重要人物たる自分の一時的な戦闘不能は戦線崩壊を招く重大事態だ。だけど、アレン大尉達が死守してくれ、エイジスが圧倒してくれたお陰で僕の憂慮とは真逆の感想ばかりだったらしい。
こうなったのも、僕の力が至らなかったから。エイジスがいても、僕自身がもっと強くならないとまた今回みたいな事になりかねない。
いくら彼等が擁護してくれていても事実は変わらないのだから。
…………いけないな。今こんな思考に陥っても仕方ない。
だから頭を切り替える為にも会話は一区切りしたし話題を切り替える事にした。
「――ところで、戦況はどのようになっていますか? 外の音が散発的ですから、本格的な攻勢は再開されていないように思いますが」
マーチス侯爵が来たら聞こうと思っていた。戦況がどうなったのかは軍人としても気になっていたからだ。
答えてくれたのはマーチス侯爵だった。
「うむ。戦線崩壊を免れたとはいえ、オーガ・キングの複数出現。そして、史料にあった以上の力を持つ奴らによって我々三カ国軍は大きな損害を受けた。よって、オレは全軍に部隊の再編成と入れ替え、後方に下げさせた部隊の休息を命じた。ブリック少将、味方の損害を伝えてやってくれ」
「はっ、マーチス大将閣下。アカツキ少将、リイナ大佐。この資料を渡すから目を通しながら説明を聞いてくれ」
「了解しましたわ」
「ありがとう、ブリック少将」
僕とリイナはブリック少将から資料を受け取る。リイナは大まかには知っているだろうけれど早速資料に目を通し、少し険しい目付きになっていた。
僕も損害報告が書かれている部分を読んでいく。
敵の損害は作戦開始からオーガ・キングの出現、討伐、追撃戦に至るまでの全体で約三八〇〇〇。高火力や新兵器、マーチス侯爵の独自魔法などによって投入火力相応の敵戦力を削っていて、特に追撃戦以降に希望が砕かれた事によって一部の敵将兵が投降している。これで妖魔帝国軍は残すところ約一五〇〇〇〇となっていた。要塞自体も全体の二割強が制圧地域になっていて、今後要塞内部を攻略するにあたっては充分な面積を手にはしている。
だけど、味方の損害はやっぱり芳しくないものだった。
「二人共、今日の朝の最新報告だが、まだ概算の数字というのに留意してくれ。昨日の一連の戦闘だけで、三カ国全体の死傷者は約一一〇〇〇だ。内訳は我々連合王国軍が約四〇〇〇。協商連合軍が約三〇〇〇。法国軍が約四〇〇〇だな」
「かなりの兵士を失ってしまったわね……」
「僅か数時間の戦闘で一万を越える死傷者、か……。大雑把で構わないのだけど、ここから戦線復帰や兵士として戻ってこれるのはどれくらいかな?」
「ライデン参謀、軍医総監部からの見立てが届いていただろう? アレにはいくつとかいてあった?」
ブリック少将が声を掛けたのは、後ろにいた参謀達の中でも作戦参謀の一人であるライデン中佐だった。
彼はすぐに回答をしてくれる。
「はっ。死者は約五千、負傷者は六千でありますので、あくまで確実にと言える数でしたら約三千かと。残念ながら残り三千は戦争には戻れないか、長期的な治療が必要です。よって、軍医総監部はこれらの将兵の後送を間もなく決定するかと。我々作戦参謀としては戦闘計画を変更せざるを得ない状況にあるともお伝え致します」
「だそうだ、アカツキ少将」
「なるほど……。ライデン参謀、ありがとう」
「はっ」
「ブリック少将、たった一日でこれだけの死傷者が出たとなると今日の散発的な攻勢と後々作戦計画の変更をせざるを得ないのにも納得だね……。死傷者もそうだけど、オーガ・キングの出現による戦闘は一日の規定以上の物資弾薬を消耗したはず。――よって、今日の状態にあるということでしょうか、マーチス大将閣下」
「その通りだ。昨日の戦術級召喚魔法によって奴らの切札と思惑を打ち崩す事が出来たが、軍全体には次もあるのではないかという警戒心がこびりついてしまっている。そうでなくとも要塞内部にどれだけ敵の罠があるかも分からん状態だ。再度昨日と同様の攻勢を行いたいのだが、あいにくオレもラットン中将も独自魔法を行使しておりこれを再び実行するには約一ヶ月を待たねばならない。となると、頼れるのは戦術級魔法やドクトリン通りの高火力、つまりは兵士達の力だが戦術級魔法も連発は出来んし射程の問題もある。敵が死ぬ気で防ぎにかかるだろうから、戦術級魔法は多くを望めんだろうな」
「敵の思惑は防げましたが、こちらも作戦通りにはさせてもらえなかったわけですね……」
独自魔法にはゲームで例えるのならば、充填時間というものがある。
マーチス侯爵にせよラットン中将にせよ、SSランク召喚武器ともなれば多大な魔力を消費するだけでなく一発放てばすぐ次をというわけにはいかない。例えばマーチス侯爵のそれは一度撃てば一週間から十日ほどの充填時間が必要となる。召喚武器内の魔力を使い切るからだ。おまけに起動から発動に時間がかかるからその戦場においては次は見破られやすい。
エイジスの第二解放もそれの一つだろう。未だに起動していないあたり、少なくとも第一解放よりは時間がかかる。それでも破格の短さのクールタイムだろうけど。
戦術級魔法については詠唱時間と射程の問題が常に付き纏う。詠唱に数十分。射程は種類によってまちまちだけど、ある程度前に出ないと放てない。昨日のようなあらゆる状況を整えて確実に狙われないようにするのならばともかく、今後は同じようにはいかない。
そうなると、待ち受けるのは泥沼の要塞内部での戦い。純粋な火力同士のぶつかり合いになるだろう。
大戦初期のような世代間格差が隔絶した兵器ではなく、正規軍同士の戦いともなるとどうなるかは目に見えている。
すなわち、膨大な死体の山を築きあげる戦いだ。無論、長期戦にもなるわけで……。
「恐らくだが、オレの見立てでは十の月以内に終わるのは有り得ない。十一の月までもつれ込むだろう。もし十二の月までとなってしまえば、北部経由の補給量は冬を迎えるから減少するだろうな。となると、これまでのような豊富な補給は受けられない。当然積雪があったとしても極力輸送量を維持するがどれだけ確保出来るかは分からん。兵力の補充もだ。何せ、今年が初の試みになるわけだからな」
「時が経てば経つほど、我々は苦しくなりますね。妖魔帝国軍は後方に膨大な兵力を揃えています。ブカレシタを見捨てるにしても本国領土が痛む訳では無いですが、こちらは損失が増えれば増えるほど今後の支障が出てきますから……」
「頭の痛い問題だ。連中は兵士を使い捨てしても軍集団単位で補充可能だが、こちらはそうはいかん。魔力に優れる奴らに対抗するには質の高い兵士がいる。訓練にも相応の時間がかかり、すぐに戦場には出せん。山脈越え前から多くの兵力を失っては戦争計画に綻びが生じてしまうわけだ」
「アカツキ少将。これは現実的な問題なのだが、法国軍がこの点で一番苦しい立場にあるのは火を見るより明らかでね……。マルコ大将閣下はブカレシタ戦以降は長期の立て直し期間が無いと今までのような戦いどころか防衛もおぼつかないそうだ。確かに、約一年半で彼等は多くの兵力を失いすぎた」
この戦いは僕達連合王国だけじゃない。遠征してきている協商連合もそうだけど法国は僕の予想していた通りかなり厳しい立場にあるようだった。
「Sランク召喚武器所有者、一般兵力、放棄した兵器。そして、財政だねブリック少将。さりとてそれは、我々連合王国軍も他人事ではないけれども」
「全くだ。連合王国軍であっても兵力も物資も無限じゃない。工業力と国民の愛国心によって支えられているだけだからな」
「長期的な視点もだが、今はブカレシタに集中せねばならん。よってアカツキ少将、なるべく早く総本部にだけでも復帰はしてもらうだろう。後々は、また最前線に。幸いにして、十日から二週間という短期治療で済んでいる。貴官が戻れば兵士達の士気は高まる。やれるな?」
マーチス侯爵は部下に対してという口調で言っているけれど、表情には申し訳なさが滲み出ていた。
部下である前に娘の夫であり、義理の息子という私情もあるのだろう。だけれども、総指揮官として決して口には出さなかった。
なら僕も応えるしかない。
「喜んでお受け致します。私は連合王国軍の軍人ですから」
「うむ。貴官のさらなる活躍を期待する。リイナ大佐、アカツキ少将をこれからも支えてやってくれ」
マーチス侯爵の言葉に、リイナは力強く頷く。ただ、次の発言を前に彼女に対してマーチス侯爵は口の動きだけですまん、と表していた。
「とはいえ、今日は体を労わってくれ」
「ありがとうございます、マーチス大将閣下。明日から四日から五日ほどは車椅子になりますが総本部に必ず顔を出します」
「うむ。貴官の心意気はしかと受け取った。よろしく頼む」
「はっ!」
「ああ、忘れていた。貴官にこれを渡しておく。後で読んでくれ」
「了解しました」
マーチス侯爵は僕に一枚の小さい封筒を渡してそう言うと、ブリック少将達と一緒に個室を後にしていった。
「お父様が渡したのは、大きさからすると手紙かしら」
「かもしれないね。開けてみようか」
彼等が去って少しして、リイナが自身の父が手渡した一つに言及すると僕は封筒を開ける。
リイナの言う通り、中には一枚の便箋が入っていた。
そこにはこう書いてあった。
『生きていて何よりだった。お前の性格や戦争の趨勢がそれを許さないだろうが、くれぐれも無茶だけはしないように。アカツキ、お前は国の宝である前にオレにとって大切な存在で、娘の最愛の人なのだから』
「ああ見えて、お父様はアナタを第一に考えているというのが伝わるわね。軍人として命令はしたけれど、義父としての気持ちがこの文面ということね」
「なるべく気をつけるよ。マーチス侯爵のためにも。それに、リイナ、君のためにも」
「ええ。本当に、本当に自分を大切にしてね?」
ブカレシタ星型要塞攻略戦はまだまだ続く。
戦争も果ては見えず、まさに総力戦の様相を呈しつつある。
だから僕は、もっと、もっと強くならないといけないんだ。
10の月18の日
午前10時頃
3ヶ国軍ブカレシタ野戦病院・アカツキ個室
「ここは、病室か……」
再び目を覚ました時、最初に僕の視界に入ってきたのは天井だった。遠くからは散発的だけど砲音が聞こえてくる。
それでここがブカレシタのどこかまでは分かった。
身体を起こそうとすると、腕と胴体が痛む。頭痛はもう一度意識が途切れる前に比べるとずっと良くなっている。包帯はまだしておいた方がいいかも。
上体だけ起こした時点で格好が変わっているのに気付いた。軍服では無く、患者が着るような服だった。
「まさかだとは思うけど、何日も眠っていたって事は無いよね……。あの時と状況が似てる。リイナはあれからここに着いてずっといたのかな」
横に視線を移すと、背もたれに身体を預けて眠っているリイナがいた。戦闘服ではなくて、通常の軍服だった。
もしかつてのように長いこと目を覚まさなかったのならば、心配かけたよなと罪悪感は抱きつつもかといって起こすのは忍びなかった。
けれど、杞憂だった。リイナが瞼を開けたんだ。
「…………ん、もう朝なのね。……! 旦那様、おはよう。今回はすぐ目を開けてくれて良かったわ」
「おはよう、リイナ。すぐってことは、今日は」
「18の日よ」
「そっか。ところで、エイジスは? それに戦況は? 敵の損害と味方の損失は? ブカレシタ要塞の攻略はどうなってる? 僕が意識を失っていても戦争は続いているんだから――」
「こらこら。戦いの心配をするのも分かるけれど、その前にまずはアナタよ。エイジスならまだ起動していないわ。疲れが取れきっていないのでしょうね。軍についてはこの後お父様がお見舞いに来てくれるわ。けど、最初にするのはアナタの診察。まだ体が痛いのじゃないかしら?」
「う……」
「部屋の入口にいる兵に軍医を呼ぶよう伝えるから、ベッドで大人しく、よ?」
「……分かった」
僕の唇を人差し指でそっと触れる彼女。
リイナにたしなめられて、僕は素直に言うことを聞く。どうやら意識を回復した直後にエイジスのことや軍の状況を聞いてくれる事はお見通しだったみたいだ。
あれだけの怪我をしたのだからいかに魔法による治療があったとしても完治はありえない。魔法は便利だし特に魔法治療は現代医学さえ凌駕する部分さえあるとはいえ、死んだ命が復活するとか吹っ飛んだ腕を生やすとかみたいな前世の創作ほど万能ではないんだ。
リイナが入口にいた兵士に要件を伝えると、嬉しさの滲む声音で快諾した彼はすぐさま魔法軍医を呼びに行った。
数分後、軍医が従軍看護師数名を引き連れて僕の部屋へ到着する。
「連合王国軍魔法軍医のシェフィールドです。階級は少佐。アカツキ少将閣下、目を覚まされたようで何よりです。お加減はいかがですか?」
「頭痛はそこそこ治まったかな。身体の痛みは残っているけれど、昨日ほどじゃないね」
「順調に回復されているようですね。しかし、普通の兵士なら即死級のダメージを受けています。診断はしっかりさせてもらいますね」
「よろしくお願いするわ、シェフィールド軍医少佐。私の上官ったら無茶するのに定評があるもの」
「軍医同士の話題でも出たことがありますからね。チャイカ姉妹の件、そして今回。これは女性看護師達が言っていたのですが、少将閣下の可憐な顔に大きな傷が付いたら一大事だと」
「ははは……、そんな話があったんだ。いてて」
触診をしていた看護師や、検査の記録に軍医の補佐をしている彼女達は一様に頷く。負傷の一報を耳にした時は気を失いそうになった人もいたと彼女らは語ってくれた。熱烈なファンってやつらしい……。
シェフィールド少佐は探知魔法を応用した身体検査をすると、慣れた手つきで素早くカルテに文字を書き込んでいく。
「ふむ。やはり完治には少し時間がかかるみたいですね。全治十日から二週間ぐらいでしょうか。恐らくですが、一人でゆっくりと歩行するならともかく走るのは到底無理では?」
「そう、だね。まだ歩いてもいないけれどちょっと厳しいかも」
「でしたら向こう五日間は車椅子での移動のみと致しましょう。当然ではありますが、行動制限を伴います。車椅子など独力ないしリイナ大佐や部隊の方達との行動はこの野戦病院か総本部など最後方部分のみ。前線視察は厳禁ですし、最前線などもってのほかです。カルテを書き終えましたら速やかにマーチス大将閣下のサインを頂きますのでご存知だと思いますが」
「マーチス大将閣下の命令にもなるというわけだね」
「はい。既にマーチス大将閣下から軍医総監部に指令書が届いておりますが、軍医の許可無しに万が一痛覚緩和術式や脳内麻薬術式を使って向かわれた場合、厳罰に処すので必ず報告すること。と我々も厳命されておりますので」
「するつもりはないけれど、予防線は張られてるわけかあ」
「当然よ。アナタのお陰で、エイジスのお陰でオーガ・キングを討伐出来たけれど重体と紙一重、最悪戦死すら有り得たのだもの。完治までは絶対安静というわけね」
最前線に立つ将官だから戦死の可能性は常に付き纏う。けれど、こうして生きて帰ってきてまだ万全ではない以上当たり前の判断だった。マーチス侯爵の命令なら尚更だね。
だから僕は首を縦に振った。
「戦死傷者が予想以上でありましたので野戦病院は慌ただしくなっておりますが、数日間はアカツキ少将閣下がこの部屋を最優先で使えるようになっています。ご容赦ください」
「了解したよ、シェフィールド軍医少佐。少しの間世話になるけれど、よろしくね」
「はっ。幸い銃創や裂傷痕はありませんので完治した頃にはいつも通りに戻れます。我々の全力を持って治療させて頂きます。車椅子に関しても後程手配致します」
「うん。ありがとう」
「とんでもないです。それでは、私達はこれにて失礼致します」
診察と診断は三十分程で終わり、シェフィールド少佐達は部屋から出ていった。
直後、部屋の外から幾つもの靴の音と兵士達の上擦った声が聞こえた。
「アカツキ少将、リイナ大佐。入ってもいいか」
「ブリックだ。マーチス大将閣下と共に君の見舞いに来た」
「どうぞ、マーチス大将閣下。ブリック少将」
声の主はマーチス侯爵だった。扉が開くとそこにいたのは彼と彼の副官、ブリック少将だった。扉の前には総司令部にいる数名の参謀達もいた。
彼らやマーチス侯爵にブリック少将は僕の姿を確認して安心しつつも、怪我の様子を痛々しそうに見ていた。
僕は上体を起こした状態で、リイナは起立して敬礼すると二人は返礼をする。
「先程野戦病院に来た時軍医からお前が目を覚ましたのを聞いた。大事に至っていないようで何よりだった」
「君が軽傷で済んで心の底から良かったと安堵している。その様子ならあまり時間をかけずに復帰出来そうだな」
「マーチス大将閣下、ブリック少将、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「私もアカツキ少将閣下を守れず何も出来ませんでした。全てはアカツキ少将閣下の部下、アレン大尉達とエイジスのおかげです」
マーチス侯爵などを不安にさせたのは間違いないから、僕は頭を下げて謝罪する。
「アカツキ少将、リイナ大佐、頭は下げなくてもよい。むしろ貴官やリイナ大佐、エイジスに旅団の面々の不断の努力によって主攻面の西側戦線は崩壊の危機を免れたどころか見事に押し返した」
「礼を言いたいのはこちら側さ、アカツキ少将、リイナ大佐。本当に良くやってくれた」
「とんでもないです、マーチス大将閣下。戦力だけでなく、オーガ・キングの精神力を見誤ったのは私の方です。そのせいで多くの兵を死なせてしまいました」
「何を言うか。貴官達の働きが無ければ、死傷者は今の数字で収まっていなかった」
「アカツキ少将、君を責める者など誰もいないぞ。むしろそこらじゅうから感謝の声が上がっている。西側戦線が崩壊すれば東側だけじゃない。南北の戦線は孤立しかねなかった。感謝してもしきれないくらいだ」
「マーチス大将閣下、ありがとうございます。ブリック少将も、ありがとう。そう言ってくれると名誉の負傷だと思えるよ」
「気にするな、アカツキ少将。君によって救われた命の方が圧倒的に多かったんだ」
「うむ。ラットン中将も同じような事を言っていたぞ」
「そうでしたか。なら何よりでした」
二人の言葉に参謀達の頷きから、僕は胸を撫で下ろす。
いくらオーガ・キングの戦力が誰もが想定していなかったほど強大だったとしても、主攻面における重要人物たる自分の一時的な戦闘不能は戦線崩壊を招く重大事態だ。だけど、アレン大尉達が死守してくれ、エイジスが圧倒してくれたお陰で僕の憂慮とは真逆の感想ばかりだったらしい。
こうなったのも、僕の力が至らなかったから。エイジスがいても、僕自身がもっと強くならないとまた今回みたいな事になりかねない。
いくら彼等が擁護してくれていても事実は変わらないのだから。
…………いけないな。今こんな思考に陥っても仕方ない。
だから頭を切り替える為にも会話は一区切りしたし話題を切り替える事にした。
「――ところで、戦況はどのようになっていますか? 外の音が散発的ですから、本格的な攻勢は再開されていないように思いますが」
マーチス侯爵が来たら聞こうと思っていた。戦況がどうなったのかは軍人としても気になっていたからだ。
答えてくれたのはマーチス侯爵だった。
「うむ。戦線崩壊を免れたとはいえ、オーガ・キングの複数出現。そして、史料にあった以上の力を持つ奴らによって我々三カ国軍は大きな損害を受けた。よって、オレは全軍に部隊の再編成と入れ替え、後方に下げさせた部隊の休息を命じた。ブリック少将、味方の損害を伝えてやってくれ」
「はっ、マーチス大将閣下。アカツキ少将、リイナ大佐。この資料を渡すから目を通しながら説明を聞いてくれ」
「了解しましたわ」
「ありがとう、ブリック少将」
僕とリイナはブリック少将から資料を受け取る。リイナは大まかには知っているだろうけれど早速資料に目を通し、少し険しい目付きになっていた。
僕も損害報告が書かれている部分を読んでいく。
敵の損害は作戦開始からオーガ・キングの出現、討伐、追撃戦に至るまでの全体で約三八〇〇〇。高火力や新兵器、マーチス侯爵の独自魔法などによって投入火力相応の敵戦力を削っていて、特に追撃戦以降に希望が砕かれた事によって一部の敵将兵が投降している。これで妖魔帝国軍は残すところ約一五〇〇〇〇となっていた。要塞自体も全体の二割強が制圧地域になっていて、今後要塞内部を攻略するにあたっては充分な面積を手にはしている。
だけど、味方の損害はやっぱり芳しくないものだった。
「二人共、今日の朝の最新報告だが、まだ概算の数字というのに留意してくれ。昨日の一連の戦闘だけで、三カ国全体の死傷者は約一一〇〇〇だ。内訳は我々連合王国軍が約四〇〇〇。協商連合軍が約三〇〇〇。法国軍が約四〇〇〇だな」
「かなりの兵士を失ってしまったわね……」
「僅か数時間の戦闘で一万を越える死傷者、か……。大雑把で構わないのだけど、ここから戦線復帰や兵士として戻ってこれるのはどれくらいかな?」
「ライデン参謀、軍医総監部からの見立てが届いていただろう? アレにはいくつとかいてあった?」
ブリック少将が声を掛けたのは、後ろにいた参謀達の中でも作戦参謀の一人であるライデン中佐だった。
彼はすぐに回答をしてくれる。
「はっ。死者は約五千、負傷者は六千でありますので、あくまで確実にと言える数でしたら約三千かと。残念ながら残り三千は戦争には戻れないか、長期的な治療が必要です。よって、軍医総監部はこれらの将兵の後送を間もなく決定するかと。我々作戦参謀としては戦闘計画を変更せざるを得ない状況にあるともお伝え致します」
「だそうだ、アカツキ少将」
「なるほど……。ライデン参謀、ありがとう」
「はっ」
「ブリック少将、たった一日でこれだけの死傷者が出たとなると今日の散発的な攻勢と後々作戦計画の変更をせざるを得ないのにも納得だね……。死傷者もそうだけど、オーガ・キングの出現による戦闘は一日の規定以上の物資弾薬を消耗したはず。――よって、今日の状態にあるということでしょうか、マーチス大将閣下」
「その通りだ。昨日の戦術級召喚魔法によって奴らの切札と思惑を打ち崩す事が出来たが、軍全体には次もあるのではないかという警戒心がこびりついてしまっている。そうでなくとも要塞内部にどれだけ敵の罠があるかも分からん状態だ。再度昨日と同様の攻勢を行いたいのだが、あいにくオレもラットン中将も独自魔法を行使しておりこれを再び実行するには約一ヶ月を待たねばならない。となると、頼れるのは戦術級魔法やドクトリン通りの高火力、つまりは兵士達の力だが戦術級魔法も連発は出来んし射程の問題もある。敵が死ぬ気で防ぎにかかるだろうから、戦術級魔法は多くを望めんだろうな」
「敵の思惑は防げましたが、こちらも作戦通りにはさせてもらえなかったわけですね……」
独自魔法にはゲームで例えるのならば、充填時間というものがある。
マーチス侯爵にせよラットン中将にせよ、SSランク召喚武器ともなれば多大な魔力を消費するだけでなく一発放てばすぐ次をというわけにはいかない。例えばマーチス侯爵のそれは一度撃てば一週間から十日ほどの充填時間が必要となる。召喚武器内の魔力を使い切るからだ。おまけに起動から発動に時間がかかるからその戦場においては次は見破られやすい。
エイジスの第二解放もそれの一つだろう。未だに起動していないあたり、少なくとも第一解放よりは時間がかかる。それでも破格の短さのクールタイムだろうけど。
戦術級魔法については詠唱時間と射程の問題が常に付き纏う。詠唱に数十分。射程は種類によってまちまちだけど、ある程度前に出ないと放てない。昨日のようなあらゆる状況を整えて確実に狙われないようにするのならばともかく、今後は同じようにはいかない。
そうなると、待ち受けるのは泥沼の要塞内部での戦い。純粋な火力同士のぶつかり合いになるだろう。
大戦初期のような世代間格差が隔絶した兵器ではなく、正規軍同士の戦いともなるとどうなるかは目に見えている。
すなわち、膨大な死体の山を築きあげる戦いだ。無論、長期戦にもなるわけで……。
「恐らくだが、オレの見立てでは十の月以内に終わるのは有り得ない。十一の月までもつれ込むだろう。もし十二の月までとなってしまえば、北部経由の補給量は冬を迎えるから減少するだろうな。となると、これまでのような豊富な補給は受けられない。当然積雪があったとしても極力輸送量を維持するがどれだけ確保出来るかは分からん。兵力の補充もだ。何せ、今年が初の試みになるわけだからな」
「時が経てば経つほど、我々は苦しくなりますね。妖魔帝国軍は後方に膨大な兵力を揃えています。ブカレシタを見捨てるにしても本国領土が痛む訳では無いですが、こちらは損失が増えれば増えるほど今後の支障が出てきますから……」
「頭の痛い問題だ。連中は兵士を使い捨てしても軍集団単位で補充可能だが、こちらはそうはいかん。魔力に優れる奴らに対抗するには質の高い兵士がいる。訓練にも相応の時間がかかり、すぐに戦場には出せん。山脈越え前から多くの兵力を失っては戦争計画に綻びが生じてしまうわけだ」
「アカツキ少将。これは現実的な問題なのだが、法国軍がこの点で一番苦しい立場にあるのは火を見るより明らかでね……。マルコ大将閣下はブカレシタ戦以降は長期の立て直し期間が無いと今までのような戦いどころか防衛もおぼつかないそうだ。確かに、約一年半で彼等は多くの兵力を失いすぎた」
この戦いは僕達連合王国だけじゃない。遠征してきている協商連合もそうだけど法国は僕の予想していた通りかなり厳しい立場にあるようだった。
「Sランク召喚武器所有者、一般兵力、放棄した兵器。そして、財政だねブリック少将。さりとてそれは、我々連合王国軍も他人事ではないけれども」
「全くだ。連合王国軍であっても兵力も物資も無限じゃない。工業力と国民の愛国心によって支えられているだけだからな」
「長期的な視点もだが、今はブカレシタに集中せねばならん。よってアカツキ少将、なるべく早く総本部にだけでも復帰はしてもらうだろう。後々は、また最前線に。幸いにして、十日から二週間という短期治療で済んでいる。貴官が戻れば兵士達の士気は高まる。やれるな?」
マーチス侯爵は部下に対してという口調で言っているけれど、表情には申し訳なさが滲み出ていた。
部下である前に娘の夫であり、義理の息子という私情もあるのだろう。だけれども、総指揮官として決して口には出さなかった。
なら僕も応えるしかない。
「喜んでお受け致します。私は連合王国軍の軍人ですから」
「うむ。貴官のさらなる活躍を期待する。リイナ大佐、アカツキ少将をこれからも支えてやってくれ」
マーチス侯爵の言葉に、リイナは力強く頷く。ただ、次の発言を前に彼女に対してマーチス侯爵は口の動きだけですまん、と表していた。
「とはいえ、今日は体を労わってくれ」
「ありがとうございます、マーチス大将閣下。明日から四日から五日ほどは車椅子になりますが総本部に必ず顔を出します」
「うむ。貴官の心意気はしかと受け取った。よろしく頼む」
「はっ!」
「ああ、忘れていた。貴官にこれを渡しておく。後で読んでくれ」
「了解しました」
マーチス侯爵は僕に一枚の小さい封筒を渡してそう言うと、ブリック少将達と一緒に個室を後にしていった。
「お父様が渡したのは、大きさからすると手紙かしら」
「かもしれないね。開けてみようか」
彼等が去って少しして、リイナが自身の父が手渡した一つに言及すると僕は封筒を開ける。
リイナの言う通り、中には一枚の便箋が入っていた。
そこにはこう書いてあった。
『生きていて何よりだった。お前の性格や戦争の趨勢がそれを許さないだろうが、くれぐれも無茶だけはしないように。アカツキ、お前は国の宝である前にオレにとって大切な存在で、娘の最愛の人なのだから』
「ああ見えて、お父様はアナタを第一に考えているというのが伝わるわね。軍人として命令はしたけれど、義父としての気持ちがこの文面ということね」
「なるべく気をつけるよ。マーチス侯爵のためにも。それに、リイナ、君のためにも」
「ええ。本当に、本当に自分を大切にしてね?」
ブカレシタ星型要塞攻略戦はまだまだ続く。
戦争も果ては見えず、まさに総力戦の様相を呈しつつある。
だから僕は、もっと、もっと強くならないといけないんだ。
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