185 / 390
第12章 ブカレシタ攻防戦決着編
第10話 主が目を覚ます時、視線の先にあるは見蕩れる程に美しい自動人形。
しおりを挟む
・・10・・
遠くから。とても遠くから声が聞こえる。
視界は真っ黒で、何も見えない。だけど、声だけはぼんやりと聞こえた。
何を言っているのかは分からない。けれど、響きから悲痛な叫びであるのだけは分かった。
ここはどこだろうか。
僕は、どうなっているんだろうか。
……………………。
ああ、そうか。僕は青の王にやられたのか。あの巨腕によって、吹き飛ばされたのだろう。
直前に誰かが法撃をした気がする。あれは庇う為だったのかもしれない。
けれど、今僕は生きているか死んでいるか分からない。
叫び声は相変わらず曖昧で誰かが判別出来ない。
もしかしたらリイナかもしれない。
ごめん、ごめんよリイナ。君を救いたいから僕は自分の身を犠牲にした。だけど君にとってだって僕は大切な人だって知っている。
これじゃあ本末転倒だ。
僕はエイジスと共にするようになってから強くなったはずなのに。SSランク召喚武器持ちになったのに。
そうだ。エイジスは。エイジスはどうしているんだろう。
青の王の目前にいた時、彼女の声も聞こえていた。
僕はダメな主だ。エイジスを使いこなせていない。もっと取るべき手があったかもしれないのに。
何の為の召喚武器なんだ。
「…………様! …………な様!」
声がようやくはっきりとしてきた。この声は、間違いなくリイナ。泣いている。
エイジスとの相互情報共有のリンクが外れている。リンクアウトしたという事は、僕がダメージを受けているということ。やっぱり死んだのか?
これは、僕の身体と魂が分離しようとしているから?
戦争はまだ途中なのに、山脈すら越えていないのに戦死?
「…………を…………て、…………す」
…………いいや、違う。
エイジスの声が聞こえた。
その声音は、いつもの彼女が放つ冷静なものでは無い。感じるのは、怒り。
大切な人を傷つけられたという純粋な感情。
彼女は自動人形という呼称にしては心を持つという人間に近しい存在だった。けれど、学習蓄積の浅い内はアンドロイドのような感情に乏しいものだった。
でも、一緒に過ごしてきたから分かる。彼女は最早人間と変わりない感情を手に入れていた。理解しているかどうかまでは分からないけれど、僕にはそう見えていた。
「…………え。…………たまえ。…………を。…………します。――」
彼女は何かを宣言した。
瞬間、真っ暗だった視界が白い光に包まれる。
とてつもない力を、魔力を感じる。
温かい。とても、温かい。これは、エイジスの魔力の波だ。
でもおかしい。エイジスの魔力はこんなにも大きくない。第一解放ですら、こんな力は無かったはず。
一体、何が起きているというんだ。
「……」
「……んな様! 旦那様! 目を、覚まして」
『マイマスター。聞こえているかは分かりませんが、ワタクシは貴方を守る為に、貴方の大切な人を守る為に戦います。この力で、倒してみせます。だからどうか、目を覚ましてください。奥様を心配させては、いけませんよ?』
ああ、聞こえているよ。エイジス。君の、優しく叱る声が。
そうか、聞こえるということは生きているんだ。回復魔法で癒されているのも感じた。
僕の為に、誰かが治療してくれている。
リイナはずっと僕を呼んでくれている。
そして、主に代わってエイジスは戦おうとしている。
全てが分かったその時、五感は急速に蘇る。
痛い。そこらじゅうをぶつけているから全身が痛い。
でも、起きないと。そろそろ、目を覚まさないと。
重い瞼が開く。視界はぼやけている。
そこに写っていたのは、リイナの泣き顔だった。
「…………旦那様!」
「りい、な」
「良かった! あああああ、良かった……! アカツキ様……!」
「おは、よう……?」
「おはようじゃ、ないわよ……! あんな事を、して! 私を助けるからって、旦那様は……!」
リイナはぼろぼろと泣いていた。瞳から沢山の涙を流していた。チャイカ姉妹との二度目の戦いの時に無茶しないと約束したのに、僕があんな事をしたから怒っていた。でも何より、僕が目を覚ましたのに喜んでいて、安心していて、泣いていた。
もし僕が目を覚まさなかったら彼女はずっとずっと罪悪感を抱きながら過ごすことになったのだろう。
だから、僕はこの言葉しか、言えなかった。
「ごめん、リイナ。心配かけて……。でも、リイナが無傷で良かった……。綺麗な君の顔が、身体が傷つくのは、嫌だから……」
「もう……! こうなっても私を第一に心配するなんてアナタって人は……! けれど、目を覚ましてくれて、本当に、良かった……!」
リイナはぎゅう、と強く強く僕を抱きしめる。実感を、確かめるように。
「いたた、いたたたた」
「知らない……! 私にアナタを感じさせてよ……!」
「水を差すようで誠に申し訳ございませんがリイナ大佐。アカツキ少将閣下は負傷者ですので、程々にしてください。簡易診断をさせて頂けませんか……?」
発言通り申し訳なさそうに声を掛けてきたのはやや若さを感じるさせる声の男性だった。リイナは、そうね。ごめんなさい。診断をしてあげて。というと僕を離す。それで声の主が分かった。魔法軍医だった。
「アカツキ少将閣下、魔法軍医のホフマンです。意識が回復して良かったです。自分の声が分かりますか? はっきり聞こえますか?」
「うん。ごめんよ、ホフマン少佐、かな? はっきり聞こえてる」
「はい。階級は少佐です。――診断を続けます。少将閣下、指は何本に見えますか?」
「三本」
「正解です。複数箇所の負傷がありますが治療中ですのでご安心を。ただ、頭痛はありますか?」
「まだ、頭がちょっと痛いかな。けれど、気持ち悪さはないよ」
「驚きました。簡易診断だけではありますが、目撃証言とエイジスさんの診断報告から脳にダメージがあると思っていましたが、ほとんど無いようですね。やはり少将閣下は、神に愛されている英雄です」
ホフマン魔法軍医は目を見開いて言う。慣れた手つきで簡易診断を終えると、回復魔法を施している他の衛生兵もびっくりしていた。
回復魔法を得意とする魔法能力者は治療している者の容態をよく理解して行っている。事前にどんな状態かも聞いているはずだから、僕の解答が予想外だったんだろう。特に心配していたはずの、頭部へのダメージ。包帯がされているから出血はあるけれど脳への衝撃は自分の身体だからよく分かる。軽い頭痛と、視界がまだ水平ではないけれどそれも急速に回復しつつある。
それを彼等は、神に愛されていると言った。現実的な判断を下す医療従事者が精神論で物を語るのだから、よっぽどだ。
「神に……? 確かにオーガ・キングの攻撃を受けて吹っ飛ばされたにしてはやけに軽いケガで済んでいるけれど」
「旦那様。私も驚愕したけれど、彼等の言う通りアナタは神様に愛されているわよ。だって今、アナタの為に宣言通り神の代行者が舞い降りたのだから」
「ええ。あの御姿はまさに神の代行者に相応しいです」
リイナにホフマン魔法軍医、皆が同じ方角に視線を向ける。僕は後ろからリイナに抱えられ、起こされた事でようやくどうなっているかを理解した。
ここは戦場だから激しい銃声と砲声、法撃音が響いているのはとっくに知っていた。
「…………キレイ、だ」
けれど、僕の目に映っていたのは思わず声に漏らしてしまう程に美しい姿だった。
青の王と激しい戦闘を繰り広げているのは純白の衣を身に纏い、背中から六枚の白翼をはためかせ、白銀の剣を振るいつつ凄まじい法撃で敵を圧倒する見蕩れる程に綺麗な女性だった。
彼女はアレン大尉達を下げさせて一人で戦っていた。
そして、僕はあの顔を知っている。間違えるはずもない。
だってあそこにいるのは。
「エイジス……?」
「そう、エイジスよ。新たな力を発現して、第二解放『神の代行者装束』になった彼女」
「第二解放? 『神の代行者装束』?」
「どうしてそうなったのかは私も分からない。でも確かなのは、エイジスはアナタが傷つけられて許せなかった。怒っていた。人間と何ら変わらない感情を抱いて、仇敵を討とうとしていた。だから、新しい力を得たのかもしれないわね。自動人形として、そして人としても進化したから」
「エイジスが、そんな風に……」
既に手負いだった青の王は、純白のエイジスに圧倒されていた。
彼女の声はここからでもよく聞こえた。
「ウドの大木ですね。遅い、遅すぎます」
どれだけ大斧を振り回した所でかすりもしない。
体術を駆使して一撃を与えようとも、エイジスは全てを躱し続けていた。
まるで数秒先を読む神の瞳を持っているかのような、全く無駄のない流麗な動作。
「ワタクシは主の剣。魔を切裂く者」
青の王の攻撃の合間を縫って、エイジスは反撃していた。僕達があれだけ苦労してようやく傷をつけていた硬い皮膚を白銀の剣はまるで布を裂くかのように斬り、軽微なダメージしか与えられなかったはずなのに彼女の法撃は確実に激しい痛覚を与えていた。
「ワタクシは主の杖。魔を焼き払い、聖風が切り刻み、大地をも支配する」
容赦が無い。炎属性で焼き、風属性で切り裂き、土属性で作り上げられた拳は青の王の腹部にめり込む。
「邪神ノ使イメガ! 我ノ前二姿ヲ現スナド……!」
「ワタクシは貴様が宣う邪神の使いではありません。神の代行者の装束を身に纏っていますが、ワタクシは主の盾で、主の剣で、主の杖であるだけです」
「主、アノニンゲンカ! 小賢シイ! ニンゲン共二、負ケルナド! 王ガ負ケルナドアッテハナラヌ!」
「黙りなさい。主に刃を向けた時点で万死に値します。『多重聖光弾』」
エイジスが冷徹に言い放ち、白銀の剣を横に薙いで出現したのは多数の白く輝く魔法陣。魔法陣の数だけ放たれたのは光の弾丸。
「グオオオオオオオオオオ!!!!」
光の弾丸は青の王の全身を容易く貫き、致命傷を与えた。それでもなお、青の王は立っている。
王であるが故の意地か。それとも気力だけで持ちこたえているのか。
でも、新たな力が芽生えたエイジスを前には、万に一つも勝機は無かった。
「そろそろくたばってください。ワタクシは主のもとへ戻らねばならないのです。そう、目を覚ましてくださった主のもとへ」
ちらりと、エイジスは微笑んで僕を見る。彼女は僕の意識が回復したのを知っていたんだ。情報共有をせずとも、彼女だから分かっていたんだろう。
「ニンゲンゴトキガッッ!! ニンゲンニ使ワレル邪神ノ使イゴトキガッッ!!」
「耳障りです。とても耳障り。だから、終わりにしましょう。死になさい、主に仇なす輩よ。極刑を下しましょう」
「ナァァァ!?!?」
エイジスが言い終えた時には、彼女はもう青の王の背後にいた。
「――『断魔一閃』」
エイジスが唱えると、白銀の剣は魔を滅する光に包まれる。
そして、一刀両断。青の王は断末魔を放つ事も許されず命を絶たれた。
圧勝。その一言に尽きる光景。
「天罰完了」
エイジスは青の王の死体を前に、白銀の剣に付着した血液を血振りし着剣すると、高らかに宣言した。
遠くから。とても遠くから声が聞こえる。
視界は真っ黒で、何も見えない。だけど、声だけはぼんやりと聞こえた。
何を言っているのかは分からない。けれど、響きから悲痛な叫びであるのだけは分かった。
ここはどこだろうか。
僕は、どうなっているんだろうか。
……………………。
ああ、そうか。僕は青の王にやられたのか。あの巨腕によって、吹き飛ばされたのだろう。
直前に誰かが法撃をした気がする。あれは庇う為だったのかもしれない。
けれど、今僕は生きているか死んでいるか分からない。
叫び声は相変わらず曖昧で誰かが判別出来ない。
もしかしたらリイナかもしれない。
ごめん、ごめんよリイナ。君を救いたいから僕は自分の身を犠牲にした。だけど君にとってだって僕は大切な人だって知っている。
これじゃあ本末転倒だ。
僕はエイジスと共にするようになってから強くなったはずなのに。SSランク召喚武器持ちになったのに。
そうだ。エイジスは。エイジスはどうしているんだろう。
青の王の目前にいた時、彼女の声も聞こえていた。
僕はダメな主だ。エイジスを使いこなせていない。もっと取るべき手があったかもしれないのに。
何の為の召喚武器なんだ。
「…………様! …………な様!」
声がようやくはっきりとしてきた。この声は、間違いなくリイナ。泣いている。
エイジスとの相互情報共有のリンクが外れている。リンクアウトしたという事は、僕がダメージを受けているということ。やっぱり死んだのか?
これは、僕の身体と魂が分離しようとしているから?
戦争はまだ途中なのに、山脈すら越えていないのに戦死?
「…………を…………て、…………す」
…………いいや、違う。
エイジスの声が聞こえた。
その声音は、いつもの彼女が放つ冷静なものでは無い。感じるのは、怒り。
大切な人を傷つけられたという純粋な感情。
彼女は自動人形という呼称にしては心を持つという人間に近しい存在だった。けれど、学習蓄積の浅い内はアンドロイドのような感情に乏しいものだった。
でも、一緒に過ごしてきたから分かる。彼女は最早人間と変わりない感情を手に入れていた。理解しているかどうかまでは分からないけれど、僕にはそう見えていた。
「…………え。…………たまえ。…………を。…………します。――」
彼女は何かを宣言した。
瞬間、真っ暗だった視界が白い光に包まれる。
とてつもない力を、魔力を感じる。
温かい。とても、温かい。これは、エイジスの魔力の波だ。
でもおかしい。エイジスの魔力はこんなにも大きくない。第一解放ですら、こんな力は無かったはず。
一体、何が起きているというんだ。
「……」
「……んな様! 旦那様! 目を、覚まして」
『マイマスター。聞こえているかは分かりませんが、ワタクシは貴方を守る為に、貴方の大切な人を守る為に戦います。この力で、倒してみせます。だからどうか、目を覚ましてください。奥様を心配させては、いけませんよ?』
ああ、聞こえているよ。エイジス。君の、優しく叱る声が。
そうか、聞こえるということは生きているんだ。回復魔法で癒されているのも感じた。
僕の為に、誰かが治療してくれている。
リイナはずっと僕を呼んでくれている。
そして、主に代わってエイジスは戦おうとしている。
全てが分かったその時、五感は急速に蘇る。
痛い。そこらじゅうをぶつけているから全身が痛い。
でも、起きないと。そろそろ、目を覚まさないと。
重い瞼が開く。視界はぼやけている。
そこに写っていたのは、リイナの泣き顔だった。
「…………旦那様!」
「りい、な」
「良かった! あああああ、良かった……! アカツキ様……!」
「おは、よう……?」
「おはようじゃ、ないわよ……! あんな事を、して! 私を助けるからって、旦那様は……!」
リイナはぼろぼろと泣いていた。瞳から沢山の涙を流していた。チャイカ姉妹との二度目の戦いの時に無茶しないと約束したのに、僕があんな事をしたから怒っていた。でも何より、僕が目を覚ましたのに喜んでいて、安心していて、泣いていた。
もし僕が目を覚まさなかったら彼女はずっとずっと罪悪感を抱きながら過ごすことになったのだろう。
だから、僕はこの言葉しか、言えなかった。
「ごめん、リイナ。心配かけて……。でも、リイナが無傷で良かった……。綺麗な君の顔が、身体が傷つくのは、嫌だから……」
「もう……! こうなっても私を第一に心配するなんてアナタって人は……! けれど、目を覚ましてくれて、本当に、良かった……!」
リイナはぎゅう、と強く強く僕を抱きしめる。実感を、確かめるように。
「いたた、いたたたた」
「知らない……! 私にアナタを感じさせてよ……!」
「水を差すようで誠に申し訳ございませんがリイナ大佐。アカツキ少将閣下は負傷者ですので、程々にしてください。簡易診断をさせて頂けませんか……?」
発言通り申し訳なさそうに声を掛けてきたのはやや若さを感じるさせる声の男性だった。リイナは、そうね。ごめんなさい。診断をしてあげて。というと僕を離す。それで声の主が分かった。魔法軍医だった。
「アカツキ少将閣下、魔法軍医のホフマンです。意識が回復して良かったです。自分の声が分かりますか? はっきり聞こえますか?」
「うん。ごめんよ、ホフマン少佐、かな? はっきり聞こえてる」
「はい。階級は少佐です。――診断を続けます。少将閣下、指は何本に見えますか?」
「三本」
「正解です。複数箇所の負傷がありますが治療中ですのでご安心を。ただ、頭痛はありますか?」
「まだ、頭がちょっと痛いかな。けれど、気持ち悪さはないよ」
「驚きました。簡易診断だけではありますが、目撃証言とエイジスさんの診断報告から脳にダメージがあると思っていましたが、ほとんど無いようですね。やはり少将閣下は、神に愛されている英雄です」
ホフマン魔法軍医は目を見開いて言う。慣れた手つきで簡易診断を終えると、回復魔法を施している他の衛生兵もびっくりしていた。
回復魔法を得意とする魔法能力者は治療している者の容態をよく理解して行っている。事前にどんな状態かも聞いているはずだから、僕の解答が予想外だったんだろう。特に心配していたはずの、頭部へのダメージ。包帯がされているから出血はあるけれど脳への衝撃は自分の身体だからよく分かる。軽い頭痛と、視界がまだ水平ではないけれどそれも急速に回復しつつある。
それを彼等は、神に愛されていると言った。現実的な判断を下す医療従事者が精神論で物を語るのだから、よっぽどだ。
「神に……? 確かにオーガ・キングの攻撃を受けて吹っ飛ばされたにしてはやけに軽いケガで済んでいるけれど」
「旦那様。私も驚愕したけれど、彼等の言う通りアナタは神様に愛されているわよ。だって今、アナタの為に宣言通り神の代行者が舞い降りたのだから」
「ええ。あの御姿はまさに神の代行者に相応しいです」
リイナにホフマン魔法軍医、皆が同じ方角に視線を向ける。僕は後ろからリイナに抱えられ、起こされた事でようやくどうなっているかを理解した。
ここは戦場だから激しい銃声と砲声、法撃音が響いているのはとっくに知っていた。
「…………キレイ、だ」
けれど、僕の目に映っていたのは思わず声に漏らしてしまう程に美しい姿だった。
青の王と激しい戦闘を繰り広げているのは純白の衣を身に纏い、背中から六枚の白翼をはためかせ、白銀の剣を振るいつつ凄まじい法撃で敵を圧倒する見蕩れる程に綺麗な女性だった。
彼女はアレン大尉達を下げさせて一人で戦っていた。
そして、僕はあの顔を知っている。間違えるはずもない。
だってあそこにいるのは。
「エイジス……?」
「そう、エイジスよ。新たな力を発現して、第二解放『神の代行者装束』になった彼女」
「第二解放? 『神の代行者装束』?」
「どうしてそうなったのかは私も分からない。でも確かなのは、エイジスはアナタが傷つけられて許せなかった。怒っていた。人間と何ら変わらない感情を抱いて、仇敵を討とうとしていた。だから、新しい力を得たのかもしれないわね。自動人形として、そして人としても進化したから」
「エイジスが、そんな風に……」
既に手負いだった青の王は、純白のエイジスに圧倒されていた。
彼女の声はここからでもよく聞こえた。
「ウドの大木ですね。遅い、遅すぎます」
どれだけ大斧を振り回した所でかすりもしない。
体術を駆使して一撃を与えようとも、エイジスは全てを躱し続けていた。
まるで数秒先を読む神の瞳を持っているかのような、全く無駄のない流麗な動作。
「ワタクシは主の剣。魔を切裂く者」
青の王の攻撃の合間を縫って、エイジスは反撃していた。僕達があれだけ苦労してようやく傷をつけていた硬い皮膚を白銀の剣はまるで布を裂くかのように斬り、軽微なダメージしか与えられなかったはずなのに彼女の法撃は確実に激しい痛覚を与えていた。
「ワタクシは主の杖。魔を焼き払い、聖風が切り刻み、大地をも支配する」
容赦が無い。炎属性で焼き、風属性で切り裂き、土属性で作り上げられた拳は青の王の腹部にめり込む。
「邪神ノ使イメガ! 我ノ前二姿ヲ現スナド……!」
「ワタクシは貴様が宣う邪神の使いではありません。神の代行者の装束を身に纏っていますが、ワタクシは主の盾で、主の剣で、主の杖であるだけです」
「主、アノニンゲンカ! 小賢シイ! ニンゲン共二、負ケルナド! 王ガ負ケルナドアッテハナラヌ!」
「黙りなさい。主に刃を向けた時点で万死に値します。『多重聖光弾』」
エイジスが冷徹に言い放ち、白銀の剣を横に薙いで出現したのは多数の白く輝く魔法陣。魔法陣の数だけ放たれたのは光の弾丸。
「グオオオオオオオオオオ!!!!」
光の弾丸は青の王の全身を容易く貫き、致命傷を与えた。それでもなお、青の王は立っている。
王であるが故の意地か。それとも気力だけで持ちこたえているのか。
でも、新たな力が芽生えたエイジスを前には、万に一つも勝機は無かった。
「そろそろくたばってください。ワタクシは主のもとへ戻らねばならないのです。そう、目を覚ましてくださった主のもとへ」
ちらりと、エイジスは微笑んで僕を見る。彼女は僕の意識が回復したのを知っていたんだ。情報共有をせずとも、彼女だから分かっていたんだろう。
「ニンゲンゴトキガッッ!! ニンゲンニ使ワレル邪神ノ使イゴトキガッッ!!」
「耳障りです。とても耳障り。だから、終わりにしましょう。死になさい、主に仇なす輩よ。極刑を下しましょう」
「ナァァァ!?!?」
エイジスが言い終えた時には、彼女はもう青の王の背後にいた。
「――『断魔一閃』」
エイジスが唱えると、白銀の剣は魔を滅する光に包まれる。
そして、一刀両断。青の王は断末魔を放つ事も許されず命を絶たれた。
圧勝。その一言に尽きる光景。
「天罰完了」
エイジスは青の王の死体を前に、白銀の剣に付着した血液を血振りし着剣すると、高らかに宣言した。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる