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第6章 旧首都・東京奪還前哨戦編
第2話 統合司令本部作戦会議で話されるは②
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・・Φ・・
香川上級大将の一声の後、会議は始まった。
最初の議題は現在の戦況について。世界各国の戦況確認が行われた後、国内についても報告がなされた。
九月末までの苦境から善戦している日本軍は首都東京の近くにまで迫っている。首都奪還は近い旨が話された。
二つ目は新兵器についてだった。席を立って報告を始めたのは、軍技研局長の鮫島奏少将。四〇代半ばのショートカットが特徴の女性軍人だ。
彼女が説明を始めると部屋が暗くなり、ホログラムが起動した。
「お手元の画面にある電子資料、三六ページからをご覧下さい。開戦初期から鹵獲していたCTの細胞分析が進み技研及び魔法軍技研の総力を結集して急ピッチで研究開発を行った結果、ようやく新兵器の実験運用段階までこぎ着けました。速やかに人材派遣及び機材提供を快諾して頂いた魔法軍大将中澤大将閣下にご感謝致します」
鮫島少将は中澤大将に頭を下げ、礼を返す意思として中澤大将は軽く右腕を上げる。
「今回の新兵器につきましては戦闘機でも無ければ戦車でもなく、ましてや新型の強化外骨格でもありません。各軍が必ず使用する砲弾薬の中身です。その名を『対CT弾薬』。通称『対CT弾』です」
ホログラム画面に映し出された弾丸や砲弾には目新しさは無さそうに見えた。それもそのはず。鮫島少将が話すように肝心なのは中身だからである。
事前に研究の進捗が耳に入っていた面々に驚きは無く、どちらかというと、ついにか。という期待の眼差しが注がれていた。
「開戦初期においてCTは謎の化け物でした。ゾンビのように食われても友軍がゾンビにならないだけマシという存在でした。しかし、小型はともかく大型CTの存在は厄介極まりないものに変わりはない。そこで我々は早期に前線部隊に鹵獲を要請し、素材を手に入れました。研究を進める初期段階でCTは神聖帝国の魔法科学の産物であることから、魔法技研と合同で細胞分析を行っていました。その結果判明したのは、CTは神聖帝国の魔法科学によって作られた人造兵器であること。細胞の過活性による凶暴化が原因であると突き止めました。ここまでは既に報告は入っているかと思います」
鮫島少将の発言に各々が頷くなどして反応を示す。それを見てから鮫島少将は一呼吸置くと、話を続ける。
「『対CT弾』にはこの研究によって得た、CTを不活化する特殊弾薬を使用します。ただし現段階では量産体制に入ったとしても数が限られる為、導入出来るのは小銃弾のみとなっています。戦車砲弾は現在の威力でも大型までにはある程度通用する点から導入は小銃弾の次に、陸軍ヘリや空軍戦闘機については今の時点でも既存の兵器類で十分な威力があり導入効果が薄いためさらに後です。ひとまず最もCTと相対する歩兵携行のアサルトライフルを優先とします。実験運用分の現地到着は来月初頭と首都奪還作戦に間に合いましたが、第一期大量導入予定は年明け一月の半ば。首都奪還が予定されている年末に間に合わず申し訳ございません」
「構わぬ。実験運用に間に合っただけでも上出来である。ようやってくれた」
「陸軍は上級大将閣下に同意する。大変有難い」
「海兵隊も上級大将閣下に同意である。元々の実験運用時期が年明けだった。一ヶ月早めてくれた事、感謝する」
香川上級大将、馬場大将、高田大将の順に発言し、その内容に鮫島少将はほっとしていた。トップ陣が理解のある人達で良かったと彼女が安心した瞬間であった。
「ありがとうございます。導入予定部隊と納入量は陸軍一個旅団の一会戦分。海兵隊も一個旅団一会戦分です。これ以上は年明けにしか確保出来ませんのでご容赦を」
鮫島少将の言葉に、陸軍と海兵隊の面々は十分だと納得し、魔法軍の面々も自分達の負担が減りそうだと期待の眼差しを送っていた。
「対CT弾の開発完了及び実験運用にこぎ着けた事、技研と魔法技研はようやってくれた。本件については私から国防省に上げ、内閣にも伝わっている。本大戦は人類が滅亡しかねない世界的危機であり、内閣と国会の承認のもと、世界各国に研究内容と製作方法は共有した。米国や欧州など友好国はもちろんの事、大戦前は仮想敵国だった中国にもだ。かの国は大戦が始まるまでは政治的に微妙な国であったが、今は共にCTと戦う同胞である。中国首脳と軍首脳部も『貴国が研究内容の提供をしてくれた事、最大限の感謝をしたい。我々は決して恩は忘れない。必ず恩を恩で返す』と返答があった。過去のいざこざ、開戦前に至るまできな臭い状況があったとはいえ、いがみ合っては互いに滅ぶ。人類存亡の危機を前にして、理性がある国で良かったとも言えるがの」
肩をすくながら言った香川上級大将に、五軍の面々は苦笑いをする。五年前までは中国とはごく一時的に危ない状態になったことがあり、記憶に新しいからだ。
「――それはともかくとして、我々はいつまでもCTなんぞに、異世界からの侵略者なぞに膝を屈するつもりなど毛頭ない。だからこそ、今年末を契機に大規模反転攻勢に打って出る。既に各軍は東京近郊に迫っている。ここで戦力の出し惜しみをするは、愚の骨頂。緩やかに滅びを待つなど、愚者の選択。故に、我等は勝負に出る。統合参謀本部作戦参謀部作戦参謀次長、滝川少将。首都奪還作戦と同時発動される作戦の説明を始めたまえ」
「はっ。――では、お集まりの各々方、電子資料の五〇ページをご覧下さい」
全員が視線を電子資料に移す。
そこには作戦名がこう書かれていた。
『首都奪還オペレーション『反撃の剣』作戦第二段『九十九里南部・白子~上総一宮方面上陸作戦』』
香川上級大将の一声の後、会議は始まった。
最初の議題は現在の戦況について。世界各国の戦況確認が行われた後、国内についても報告がなされた。
九月末までの苦境から善戦している日本軍は首都東京の近くにまで迫っている。首都奪還は近い旨が話された。
二つ目は新兵器についてだった。席を立って報告を始めたのは、軍技研局長の鮫島奏少将。四〇代半ばのショートカットが特徴の女性軍人だ。
彼女が説明を始めると部屋が暗くなり、ホログラムが起動した。
「お手元の画面にある電子資料、三六ページからをご覧下さい。開戦初期から鹵獲していたCTの細胞分析が進み技研及び魔法軍技研の総力を結集して急ピッチで研究開発を行った結果、ようやく新兵器の実験運用段階までこぎ着けました。速やかに人材派遣及び機材提供を快諾して頂いた魔法軍大将中澤大将閣下にご感謝致します」
鮫島少将は中澤大将に頭を下げ、礼を返す意思として中澤大将は軽く右腕を上げる。
「今回の新兵器につきましては戦闘機でも無ければ戦車でもなく、ましてや新型の強化外骨格でもありません。各軍が必ず使用する砲弾薬の中身です。その名を『対CT弾薬』。通称『対CT弾』です」
ホログラム画面に映し出された弾丸や砲弾には目新しさは無さそうに見えた。それもそのはず。鮫島少将が話すように肝心なのは中身だからである。
事前に研究の進捗が耳に入っていた面々に驚きは無く、どちらかというと、ついにか。という期待の眼差しが注がれていた。
「開戦初期においてCTは謎の化け物でした。ゾンビのように食われても友軍がゾンビにならないだけマシという存在でした。しかし、小型はともかく大型CTの存在は厄介極まりないものに変わりはない。そこで我々は早期に前線部隊に鹵獲を要請し、素材を手に入れました。研究を進める初期段階でCTは神聖帝国の魔法科学の産物であることから、魔法技研と合同で細胞分析を行っていました。その結果判明したのは、CTは神聖帝国の魔法科学によって作られた人造兵器であること。細胞の過活性による凶暴化が原因であると突き止めました。ここまでは既に報告は入っているかと思います」
鮫島少将の発言に各々が頷くなどして反応を示す。それを見てから鮫島少将は一呼吸置くと、話を続ける。
「『対CT弾』にはこの研究によって得た、CTを不活化する特殊弾薬を使用します。ただし現段階では量産体制に入ったとしても数が限られる為、導入出来るのは小銃弾のみとなっています。戦車砲弾は現在の威力でも大型までにはある程度通用する点から導入は小銃弾の次に、陸軍ヘリや空軍戦闘機については今の時点でも既存の兵器類で十分な威力があり導入効果が薄いためさらに後です。ひとまず最もCTと相対する歩兵携行のアサルトライフルを優先とします。実験運用分の現地到着は来月初頭と首都奪還作戦に間に合いましたが、第一期大量導入予定は年明け一月の半ば。首都奪還が予定されている年末に間に合わず申し訳ございません」
「構わぬ。実験運用に間に合っただけでも上出来である。ようやってくれた」
「陸軍は上級大将閣下に同意する。大変有難い」
「海兵隊も上級大将閣下に同意である。元々の実験運用時期が年明けだった。一ヶ月早めてくれた事、感謝する」
香川上級大将、馬場大将、高田大将の順に発言し、その内容に鮫島少将はほっとしていた。トップ陣が理解のある人達で良かったと彼女が安心した瞬間であった。
「ありがとうございます。導入予定部隊と納入量は陸軍一個旅団の一会戦分。海兵隊も一個旅団一会戦分です。これ以上は年明けにしか確保出来ませんのでご容赦を」
鮫島少将の言葉に、陸軍と海兵隊の面々は十分だと納得し、魔法軍の面々も自分達の負担が減りそうだと期待の眼差しを送っていた。
「対CT弾の開発完了及び実験運用にこぎ着けた事、技研と魔法技研はようやってくれた。本件については私から国防省に上げ、内閣にも伝わっている。本大戦は人類が滅亡しかねない世界的危機であり、内閣と国会の承認のもと、世界各国に研究内容と製作方法は共有した。米国や欧州など友好国はもちろんの事、大戦前は仮想敵国だった中国にもだ。かの国は大戦が始まるまでは政治的に微妙な国であったが、今は共にCTと戦う同胞である。中国首脳と軍首脳部も『貴国が研究内容の提供をしてくれた事、最大限の感謝をしたい。我々は決して恩は忘れない。必ず恩を恩で返す』と返答があった。過去のいざこざ、開戦前に至るまできな臭い状況があったとはいえ、いがみ合っては互いに滅ぶ。人類存亡の危機を前にして、理性がある国で良かったとも言えるがの」
肩をすくながら言った香川上級大将に、五軍の面々は苦笑いをする。五年前までは中国とはごく一時的に危ない状態になったことがあり、記憶に新しいからだ。
「――それはともかくとして、我々はいつまでもCTなんぞに、異世界からの侵略者なぞに膝を屈するつもりなど毛頭ない。だからこそ、今年末を契機に大規模反転攻勢に打って出る。既に各軍は東京近郊に迫っている。ここで戦力の出し惜しみをするは、愚の骨頂。緩やかに滅びを待つなど、愚者の選択。故に、我等は勝負に出る。統合参謀本部作戦参謀部作戦参謀次長、滝川少将。首都奪還作戦と同時発動される作戦の説明を始めたまえ」
「はっ。――では、お集まりの各々方、電子資料の五〇ページをご覧下さい」
全員が視線を電子資料に移す。
そこには作戦名がこう書かれていた。
『首都奪還オペレーション『反撃の剣』作戦第二段『九十九里南部・白子~上総一宮方面上陸作戦』』
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