You Could Be Mine 【改訂版】

てらだりょう

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そのなな

そのなな-4

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冬馬くんから、メッセージがきた。

二宮今なに中なう?

なんだ。この文章。

新宿なう。

返信したら、即電きた。

ちょうどお昼ご飯を食べてる時で、松本氏もいなかったから、電話に出た。

『お前、何してんの!?』

「仕事してるん。ホテルで」

『ふうん?来てんなら、連絡くらいしろよ。仕事終わったら、メシ食いに行く?』

「いや、無理っす」

『なんだとてめー、俺が誘ってんだぞ?』

「無理なもんは、無理っす。だって、原稿上がるまで出してもらえないもん」

だって、カンヅメなう、ですから。

『んじゃ、いつまで、こっちいる?』

「明日まで」

『そっか。明日までか…』

冬馬くんは暫く黙ってたんで、あたしも黙ってた。

『ま、いーか。何とかなるな』

何が。

『んで。新宿のどこにいるんだ?』

素直に、ホテルの名前を言った。

あたしって、つくづく、バカだと思う。

その時は、気が付かんけどね。

『時間あったら、メシ行こうぜ』

「うん。もし、あったらね」

多分、無いけど。

お昼すぎに、松本氏が来た。

をを!

今日は、とらやの羊羮ではないですかっ!

「大分、進みましたね」

今日の松本氏は、ため息をつかない。

松本氏の言葉のおかげであたしは、何かが弾けた様に、詰まっていた文章が出てくる様になった。

明日の締め切りまでに、書けそうだ。

まあ、今日、徹夜すればね。 

羊羮を美味しく頂いて、あたしは、原稿に向かった。







本日、締め切り。

カンヅメ最終日。

締め切りまで、後2時間半。

ふ、ふふふ…。

残り、5枚。

ひゃっひゃっひゃっ!

書ける!終わる!

あひゃひゃひゃひゃ!

い、いかん。

徹夜のせいで、脳内に変な物質が分泌されとる。

ハイてんしょーん、な、あたし。

しかし、マジ、危なかった。

松本氏の、編集者としての力量のおかげだ。

松本氏、そんけーする。

いつも怖いとか思って、申し訳ございません。

一息ついて、コーヒーを淹れようとしたら。

ピンポーン

ドアのベルが、鳴った。

お掃除かな?

と、思ってドアを開けたら。

「みのりさーん!!」

尊に抱きつかれた。

な、な、な、な、な、な。

なんでアンタがここにいるんっ!!!

「会いたかった…」

はっ!!

ハイてんしょーん、から、急降下する。

「あ、アンタ、何してるんっ!!」

「差し入れ、持って来たよ」

差し入れ、って、アンタ!

「すぐ、帰るよ。顔見たかっただけだから」

食べてね、とテーブルに置かれたのは2時間は並ばないと買えないとゆー、ロールケーキの箱。

尊…。

わざわざ、飛行機乗って。

並んで買って来てくれたん?

涙出そうになった。

「それだけの為に、来たん?」

「うん。そうだよ」

にっこり。

尊……。

「みのりさん?」

「…なに?」

尊は、ちょっと、もじもじしながら。

「帰る前に……キスだけしても、いい?」

なに、この可愛いさ。

「うん」

て、言ったら。尊はあたしの頬を両手で包んで、上を向かせた。

ゆっくり、顔を近付けて、唇を重ねた。

尊の舌が、あたしの舌を絡め取る。

久しぶりだったんもんで、あたしも、うっとりしてしまった。

「みのりさん…可愛い…」

潤んだあたしの顔を見て、尊が言う。

ずい、と、身体が押される。 

あたしの後ろには、ベッド。

押されてるうちに、足がベッドにぶつかった。

ちょっと待てええええい!!

「尊!仕事中!!」

慌てて、尊から離れた。

あ、危ねぇ。

その時。

ピンポーン

また、ベルが鳴った。 

誰だろ?今度こそ、お掃除かな? 

そう思って、ドアを開けたら

「二宮あ!元気かぁ?」

と、と、と、と、と、と。

「冬馬くんっ!?」

「差し入れ持って来た」

冬馬くんは、構わず部屋に入る。

「これ、食え」

と、見せたのは、テーブルの上にあるのと、同じ箱。

「みのりさん」

「二宮」

「「誰?そいつ」」

同じ日に。

同じ時間に。

同じケーキ持って。

なに?この状況!?

「みのりさん!」

尊が後ろから、あたしの肩を、がしっ、と掴んだ。

い、痛いな。

「二宮、何、そいつ」

「あ、あたしの彼氏」

そう言ったら、肩を掴む手がなくなって、代わりに肩抱いてきた。

「あ、そ。彼氏ね」

冬馬くんは、尊を見た。

尊も、冬馬くんを見た。

「みのりさん、何、この人」

「え?俺の事知らねぇ?テレビとか映画、見ない人?」

「顔、知ってるけど。なんでここにいるの?みのりさん」

「尊、冬馬くんは、友達!」

尊は、あたしの肩を抱いたまま、冬馬くんから眼を離さない。

「そっ。トモダチぃ。今んとこ」

尊が、ピクリ、と反応した。

今んとこ、て。

なんだよ!

かつらぎいいいいいい!!! 

「トモダチだから、トモダチに差し入れ持って来たの。なんか、オカシイ?」

冬馬くんは、口笛でも吹きそうなくらい、軽い口調で言った。

「……別に。オカシクないけど」

尊は、あたしの肩じゃなくて、背中からあたしを抱き締めて、言った。

「だろ?俺、普通の事してるだけ」

「…………」

なんだ?

この修羅場!?

「まぁ、これ食って。仕事頑張れよ、二宮」

冬馬くんは、テーブルに箱を置いた。

同じ箱が二つ。

「みのりさん?俺が買ってきたの、食べてね」

尊が、あたしのほっぺたにキスする。

「二宮ぁ、俺、スケジュール調整して並んだんだからな。ありがたく、食えよ」

な、並んだの!?

冬馬くんが!?

この、俺様が!?

「ふうん。わざわざ並んだんだ。俺、コネあるからすぐ買えたけど」

はあ?

並んだんじゃないの!?

あたしの感動を返せっ!!

……いや、嬉しい。

嬉しいんだよ?

二人とも、そんなにしてくれて。

「みのりさん」

「二宮」

けどね?

だけどもね?

締め切りまで、2時間。

「「俺のケーキ」」

原稿が、待っている。

「食べてね?」

「食えよ?」

ぶっつん。

「……………で」

「「で?」」

「出てけえええ!!!オマエらああああ!!!」

「天海さん!?どうしたんですか!?」

松本氏が、2時間並ばないと買えないロールケーキを持って、やって来た。

……………………結局。

二人は、松本氏につまみ出され。

あたしは、原稿を書き上げた。

「この次は、携帯没収します」

松本氏は、はーっ、とため息をついた。

そして。

あたしの仕事が終わって、尊が、完オフにした、日曜日。

あたしは。

一日中、尊のベッドから、解放されなかった……。
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