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そのなな
そのなな-3
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『何があったのっ!?みのりさんっ!?大丈夫なのっ!?誰かにひどい事されたりしてるのっ!?』
尊の、もの凄く、焦った声。
何?何をそんなに、心配しとる?
「……大丈夫だよ。今、新宿のホテルにいる」
『ホテル?』
「原稿上がるまで、集中しないと今回、マジでヤバいから」
『原稿、出来てないの?』
「うん。このままじゃ、落ちるから。ホテルで集中して書く」
『……良かった…』
何がじゃ。
『カンヅメとか言うから、誰かにさらわれて、ドラム缶でコンクリ詰めにされたりしてんじゃないかと思った……』
ど。どんな勘違いじゃ!!
『マジで、心配した…みのりさんが無事で良かった…』
あー。
言葉が足りんかったですね。
「……ごめん」
『…ふふ』
なんか、おかしいですか?
『みのりさんにGPS、つけとけば良かった、て思った』
「あたし、犯罪に巻き込まれる様な事、してないから」
『そんな事、わかんないよ!みのりさん、可愛いからさらわれてどっかに売られたりしたら、どうするのっ!?』
いや、ねぇし、そんな事。
「……とにかく、原稿あがるまで、帰れんし、電話とか出来んから」
『うん……わかった。みのりさんに触ったり、声聞いたり出来ないの寂しいけど…我慢する』
ごめんね、尊。
二日会わなかったら、死んじゃうのにね。
『……ホテルって、どこ?』
尊に、ホテルの名前教えた。
『みのりさん?』
「なに?」
『無理しないでね』
その無理、をする為に、監禁されてんやけどね。
「…わかった。ありがと」
『じゃあ、頑張ってね』
心配してくれて、ありがとうね、尊。
頑張って、早く仕事終わらすからね。
大人しく、待っててね。
………あたしって、まだまだ、甘いよな。
その時は、気がつかんかったけどね。
あたしは遅筆だ。
それは、自分でよくわかってる。
でも、今までみたいに。
風呂入って、ジャージに着替えんと、書けない。
とか、呑気に言ってる場合じゃなくて。
ノーパソ持ち込んで、尊ん家で仕事するのも、限界なって。
尊ん家行かない日も増えてきてた。
尊は。
「みのりさんの、仕事終わるまで待ってるから。頑張ってね」
て、言って、無理に呼び出したりはしない。
あの、尊が。
電話や、メッセージだけで我慢してる。
なのに、監禁状態になってるのは、自分のせいだ。
書けない。
書きたいのに、書けない。
プロとして、今まで発表した作品がある。
ありがたいことに。
それなりの評価はされてる。
投稿時代に、時代物を何本か書いた事あるけど、プロとして書くのは初めて。
それが、あたしを書けなくさせてる。
自分が今まで評価された、作品の世界観や文体、表現力をどう活かすか。
無理に書こうとすれば、人真似の文章になってしまう。
簡単に言えば、壁にぶち当たってる。
だから、原稿が進まない。
「……進みませんね」
松本氏が、あたしの後ろで言う。
窓の外は、今のあたしの心境を表すかの様に、曇天。
だって。
監禁されても、出来んもんは出来ん。
頭ん中にイメージはあるけど、文章にすると、なんか違うんだもん。
松本氏は毎日様子を見に、やなくて、監視に来る。
原稿の進み具合を見ては、はーっ、と、ため息をつく。
止めてよね。そのため息。
ただでさえ、怖いんやから。
「……休憩、しましょう」
松本氏は、備え付けのポットに水を入れて、セットした。
テーブルの上には、塩豆大福。
松本氏の差し入れ。
食事は、ほぼ、ルームサービスやけど。
松本氏は何故か、毎日スウィーツを持ってやって来る。
「……降りそうですね」
松本氏は窓の外を見て、呟いた。
「あ…」
あ、て、何?
あたし、なんか怒られるん!?
「……光った」
ひかっ!?
ガラガラガラッ!!!
「ひっひゃあああああっ!!」
雷!!!!
椅子から転げ落ちる。
かっ、かみなりなんて、きっ、嫌いだああああ!!
「……天海さん」
床に座りこむあたしの前に、松本氏がしゃがみ込んだ。
「はいっ!?」
「雷怖いんですか?…子供みたいですね」
松本氏が、あたしの顔を見て。
笑った。
こ。この人、笑えんのか…。
ゴロゴロゴロ
「うひゃあっ!!」
気が付くとあたしは、松本氏のシャツの、胸の辺りにしがみついていて。
松本氏は。
背中を、撫でてくれた。
「……天海さん。気負うから、駄目なんですよ」
いつもより、優しい話し方だった。
「上手く書こうとか、上手に見せ様とか、考えるから書けなくなる」
黙って、しがみついたまま、松本氏を見た。
「貴女の持ち味は、素直な表現力です。上手く文章を装飾する必要は、無いと思います」
いつもより少し、優しい顔で、言った。
上手く見せようなんて。
過去に発表した作品たち。
あたしの、文章。
ふ、っと。
軽くなった様な、気がした。
「……はい」
書けそうな気がした。
「……それにしても、二宮さん」
何故か、本名で呼ばれた。
「相変わらず、自覚、無いですね」
意味、わかりません。
「お湯、沸きましたね。お茶入れましょう」
松本氏は、そう言って、立ち上がった。
雷は、もう、おさまって雨が降りだしていた。
尊の、もの凄く、焦った声。
何?何をそんなに、心配しとる?
「……大丈夫だよ。今、新宿のホテルにいる」
『ホテル?』
「原稿上がるまで、集中しないと今回、マジでヤバいから」
『原稿、出来てないの?』
「うん。このままじゃ、落ちるから。ホテルで集中して書く」
『……良かった…』
何がじゃ。
『カンヅメとか言うから、誰かにさらわれて、ドラム缶でコンクリ詰めにされたりしてんじゃないかと思った……』
ど。どんな勘違いじゃ!!
『マジで、心配した…みのりさんが無事で良かった…』
あー。
言葉が足りんかったですね。
「……ごめん」
『…ふふ』
なんか、おかしいですか?
『みのりさんにGPS、つけとけば良かった、て思った』
「あたし、犯罪に巻き込まれる様な事、してないから」
『そんな事、わかんないよ!みのりさん、可愛いからさらわれてどっかに売られたりしたら、どうするのっ!?』
いや、ねぇし、そんな事。
「……とにかく、原稿あがるまで、帰れんし、電話とか出来んから」
『うん……わかった。みのりさんに触ったり、声聞いたり出来ないの寂しいけど…我慢する』
ごめんね、尊。
二日会わなかったら、死んじゃうのにね。
『……ホテルって、どこ?』
尊に、ホテルの名前教えた。
『みのりさん?』
「なに?」
『無理しないでね』
その無理、をする為に、監禁されてんやけどね。
「…わかった。ありがと」
『じゃあ、頑張ってね』
心配してくれて、ありがとうね、尊。
頑張って、早く仕事終わらすからね。
大人しく、待っててね。
………あたしって、まだまだ、甘いよな。
その時は、気がつかんかったけどね。
あたしは遅筆だ。
それは、自分でよくわかってる。
でも、今までみたいに。
風呂入って、ジャージに着替えんと、書けない。
とか、呑気に言ってる場合じゃなくて。
ノーパソ持ち込んで、尊ん家で仕事するのも、限界なって。
尊ん家行かない日も増えてきてた。
尊は。
「みのりさんの、仕事終わるまで待ってるから。頑張ってね」
て、言って、無理に呼び出したりはしない。
あの、尊が。
電話や、メッセージだけで我慢してる。
なのに、監禁状態になってるのは、自分のせいだ。
書けない。
書きたいのに、書けない。
プロとして、今まで発表した作品がある。
ありがたいことに。
それなりの評価はされてる。
投稿時代に、時代物を何本か書いた事あるけど、プロとして書くのは初めて。
それが、あたしを書けなくさせてる。
自分が今まで評価された、作品の世界観や文体、表現力をどう活かすか。
無理に書こうとすれば、人真似の文章になってしまう。
簡単に言えば、壁にぶち当たってる。
だから、原稿が進まない。
「……進みませんね」
松本氏が、あたしの後ろで言う。
窓の外は、今のあたしの心境を表すかの様に、曇天。
だって。
監禁されても、出来んもんは出来ん。
頭ん中にイメージはあるけど、文章にすると、なんか違うんだもん。
松本氏は毎日様子を見に、やなくて、監視に来る。
原稿の進み具合を見ては、はーっ、と、ため息をつく。
止めてよね。そのため息。
ただでさえ、怖いんやから。
「……休憩、しましょう」
松本氏は、備え付けのポットに水を入れて、セットした。
テーブルの上には、塩豆大福。
松本氏の差し入れ。
食事は、ほぼ、ルームサービスやけど。
松本氏は何故か、毎日スウィーツを持ってやって来る。
「……降りそうですね」
松本氏は窓の外を見て、呟いた。
「あ…」
あ、て、何?
あたし、なんか怒られるん!?
「……光った」
ひかっ!?
ガラガラガラッ!!!
「ひっひゃあああああっ!!」
雷!!!!
椅子から転げ落ちる。
かっ、かみなりなんて、きっ、嫌いだああああ!!
「……天海さん」
床に座りこむあたしの前に、松本氏がしゃがみ込んだ。
「はいっ!?」
「雷怖いんですか?…子供みたいですね」
松本氏が、あたしの顔を見て。
笑った。
こ。この人、笑えんのか…。
ゴロゴロゴロ
「うひゃあっ!!」
気が付くとあたしは、松本氏のシャツの、胸の辺りにしがみついていて。
松本氏は。
背中を、撫でてくれた。
「……天海さん。気負うから、駄目なんですよ」
いつもより、優しい話し方だった。
「上手く書こうとか、上手に見せ様とか、考えるから書けなくなる」
黙って、しがみついたまま、松本氏を見た。
「貴女の持ち味は、素直な表現力です。上手く文章を装飾する必要は、無いと思います」
いつもより少し、優しい顔で、言った。
上手く見せようなんて。
過去に発表した作品たち。
あたしの、文章。
ふ、っと。
軽くなった様な、気がした。
「……はい」
書けそうな気がした。
「……それにしても、二宮さん」
何故か、本名で呼ばれた。
「相変わらず、自覚、無いですね」
意味、わかりません。
「お湯、沸きましたね。お茶入れましょう」
松本氏は、そう言って、立ち上がった。
雷は、もう、おさまって雨が降りだしていた。
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