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1 冬のカツ丼定食
五 カツ丼
しおりを挟む窓がないから今何時かわからない。
午前九時。いい時間だ。何時チェックアウトだっけかな。
冬くんは半裸で俺を腕枕して寝てる。
美しい顔。まつげ長い。切れ長の目。涼しい顔して絶倫のギャップ。最高。目の保養だけど目に毒でもある。寝ていても眩しい。
つやっつやのくるんと巻いた黒髪、芸術作品みたい。
こんな近くで見ちゃっていいのかな。悪いことしてる気分。推しに抱かれて、推しのことを十センチの距離で眺めてる。
昨日待ち合わせして、初対面でセックスをいっぱいして、夜は少し寝て、早朝に起きてまたセックスしてた。シャワー浴びて寝てたらこんな時間。
この時間が永遠ならいいのに。
思い出すと体が疼く。激しかったぁ……。人生でもっとも幸せ……。推しとセックス。こんな幸福が我が身に訪れるなら今までのマイナスも全部吹っ飛ぶって。
若いって凄いな。体力あるし、復活早いし、精子多いし。
すんごいやられて、体がちがち。筋肉痛かも。
キスマークめっちゃつけられて、大量中出し。
ピストンうまくて腰砕けで、いろんな体位でされて、キスいっぱいしてくれて、可愛い可愛いって撫でられて、最っ高の甘々セックスだった。
入信に必要なものって何だろう。申込書……? あっ、印鑑だ。シャチハタならあるけど、実印は自宅にある……。
「ん……花火くん……」
「お、おはよ。ごめん」
「おはようございます……」
「まだねむそう」
「キスで起こしてほしいです……」
ぐへへ。そんなこと言われたら寝起きだけど舌も入れちゃいそう。というのは冗談で触れるだけ。
夢みたい。
「あ、そっか。そろそろチェックアウトですね」
「はいです」
「ねむ……」
どうやら低血圧気味で枕に突っ伏した冬くん。
俺は慌てて先に着替えた。着替えるのは早いんだ。他はどんくさいけど。
「さ、先に精算しとくね!」
「あ、お願いします」
俺は出入口にある精算機のボタンを押す。一万円を突っ込んでお釣りの小銭が出てきた。
ちょうどそのとき、俺の腹が盛大に音を立てた。
おなかすいたな。何か食べて帰ろう。ホテルの無料朝食、食べておけばよかった。そんな暇なかったけど。いや、冬くんとセックスするほうが優先だし、冬くんに抱かれて眠れて幸せで、朝メシなんて後回しだよ。
そうだ。待ち合わせ前に通った道に、丼ものの新しい店ができていた。生き馬の目を抜く競争合戦の街のド真ん中に飲食店を開業するんだから期待できそう。
「カツ丼……」
よし、カツ丼にしよう。
やっと着替え終えた冬くんがばたばたやってきて、精算機の現金を回収している俺の隣に並んだ。
そのとき、俺のとは別の腹の音がかなり盛大に鳴った。
俺は思わず冬くんを見上げる。
トレンチコートとスーツのよく似合うイケメン冬くんは、照れくさそうに目を伏せた。
頬を赤く染めて、俺を執拗にまさぐっていた大きな手で、自分の腹部を押さえている。
「カツ丼……!」
その呟くような幼い独り言に、きゅん。俺がおなかすいてるんだから、冬くんはもっとおなかすいてるに決まってるよね。俺よりもはるかに運動量多いもん。
新幹線の時間、大丈夫なのかな。今日はきっと休日だろうけど、帰りの時間は何時なんだろう……。
一緒に、お店行ってくれるかな。同伴……?
迷惑かな。迷惑だよな。俺の顔なんて見ながらメシなんて食べたくないのが普通だよね。職場の食堂でも一人メシだもの。遠巻きにされてるし。たまに笑われるし。
冬くんは俺に五千円を握らせた。
え。ホテル代っぽいけど、こんなの受け取れなくない? ホテル代は俺持ちで、さらに冬くんにいくらか渡すのが常識じゃない?
「カツ丼、行きたいです」
「あ、新しいお店ができてて、営業してるかわからないんだけど……行ってみる?」
「そ、それもいいけど……。あの、ほら、心斎橋に、花火くん行きつけのお店あるじゃないですか」
「え、あ、はい」
「あそこ連れていってもらいたいです!」
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