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番外編5 こぼれ話

3 ルイスとレンの日常生活①

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 六月上旬。午前九時。
 レンがマリアンヌを幼稚園に送っていって、買い物をして自宅のマンションに戻ってくると、朝早くに出掛けたはずのルイスが帰ってきていた。革靴がある。ルイスは、レンの帰宅に気づいて洗面所から顔を出す。

「おかえりレン。ただいま」

 レンは訊ねる。

「ただいま。おかえり、ジェイミー。お仕事は?」
「打ち合わせがあったんだけど、先方の都合で延期になってね。あとはオンライン会議だから、自宅でしようと思って」

 戻ってきたばかりのルイスは手を洗い、ネクタイをゆるめて、スーツの上着を脱ぐ。シトラスの香りが漂う。
 ルイスは、廊下にあがってスリッパを履くレンに軽く抱擁をする。

「書斎で仕事をしていてもいい? マリーは僕が迎えに行くよ。三時でいいね」
「うん、三時。ありがとう。ホットコーヒーでいい?」
「うん」

 書斎に消えていったルイスを見送った後、レンはキッチンに立ってコーヒーを淹れる。自分の分も淹れて、マグカップのひとつを書斎に持っていった。
 レンがしばらく家事をしていると、午前十一時半頃に、ルイスが書斎から出てくる。
 掃除機をかけると邪魔だろうと思い、それ以外の掃除をしていたところだった。マリアンヌのボールプールのボールをひとつひとつ拭いたり消毒していた作業の手を止める。

「お昼はどうする? 何か作ろうか。外に出る?」

 レンが訊ねると、ルイスは「作ってほしい」と言い、小さく答える。

「マッケンチーズがいいな」

 レンは笑った。

「わかりました」

 ルイスは書斎に戻り、レンはキッチンで材料を確認する。マカロニ、チェダーチーズ、生クリーム、バター。全部ある。あわせてサラダとスープを作る。
 午後0時。レンが呼ぶ前にルイスは書斎を出てきた。においに嬉しそうな顔をする。
 レンは訊ねる。

「一段落した?」
「うん。いただいてもいい?」
「野菜も食べるんだよ」
「はい」

 ダイニングテーブルにランチョンマットを敷いて、皿を並べていく。ルイスはアメリカ料理が好きで、レンが作ると嬉しそうに食べる。
 メニューは、マカロニ・アンド・チーズ、コブサラダ、バゲット、チキンスープ。
 向かい合って食べ始める。

「いただきます」
「いただきます」
「ジェイミー。マリー、幼稚園楽しそうにしてるね」

 三歳になった次の四月に入園して、早二ヶ月。
 最初のうちは朝にぐずっていたが、最近は自分から準備するようになった。普段はルイスが朝に送っているので、レンは様子を聞くだけだったが、今朝、本当に楽しそうに教室に入っていく姿を見て安心した。

「うん。だいぶ慣れてるよ。もう大丈夫」
「よかった」
「心配いらないよ」
「ジェイミーも心配してたよね。最初のうち」
「そうだっけ。あ、レンのごはん、美味しいね。洋食」
「そうだね。自信はあるんだけど」
「毎日でもいいよ。今度はポテトサラダがいいな」

 マカロニチーズにポテトサラダの付け合わせは、レンにとって看過できない。

「もしかしてポテトは野菜だからヘルシーって思ってる?」
「それはアメリカ人の自虐ネタだけど、少なくとも僕はそう思っているね」

 レンは絶句した。真実らしい。

「本当だったんだ……」
「実際、野菜でしょう?」
「カテゴリとしては」
「では野菜だよ。間違いないな」
「ヘルシーかな?」

 ヘルシーとは、健康的という意味である。

「揚げるよりはね」

 気づけば、ルイスの皿はすでに空っぽになっていた。

「レン。おかわりはある?」
「あるよ。でもジェイミー、食べるの早い。よく噛んで、ゆっくり食べてね。マリーが真似するし。あと、野菜から食べようね。太るよ」

 食事に関して、レンは口うるさい。
 だが健康を気遣われているので、ルイスは、はいしか言えない。
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