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番外編5 こぼれ話

2 クリスティナとマリアンヌのただの会話

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 午後八時。

「おねーちゃん、アルバム見ーせて」

 パジャマ姿のマリアンヌにせがまれて、クリスティナは本棚の下の方に置いてあるアルバムの列を眺める。
 マリアンヌが泊まりに来るときには、クリスティナの部屋で一緒のベッドで眠って、眠る間際には、本を読んだり昔のアルバムを眺めたりしている。

「どのアルバムにしようかなー?」
「まだ見てないのがいいな」
「えー……あ、これとか」

 背表紙の日付を確かめながら、分厚い一冊、二冊を取り出す。クリスティナは表紙を開いた。
 マリアンヌはクリスティナの手元を覗き込む。

「マリーは、写ってる?」
「これ、たぶんマリーいないな。別のにしようか?」
「あ、パパとお父さんだ」
「うん。パパとお父さんが結婚する前だよ。あたしの、九歳の誕生日パーティーかな。四年くらい前」

 ふたりでベッドに転がって肩を並べて、アルバムをめくっていく。
 マリアンヌはレンを見つけた。

「お父さん、髪の毛が違うね。かっこよくしてる」
「ちゃんとセットしてるよね。レン兄、かっこよくてかわいいね」
「ね。パパはいつもこんなのだけど」

 久しぶりに見たアルバムに、クリスティナはつい笑ってしまった。
 懐かしい。

「レン兄もルイスも若ーい」

 少し早いクリスマスツリーの前で、親族で集合して撮影した写真。プールの前で遊んだり、甲板でパーティーをしたり、食事をしたり、それぞれの客室でチェスをしたり、ダーツやピンボール、ビリヤード。
 みんなで遊んでいる。
 楽しくて楽しくて大はしゃぎした思い出が蘇ってくる。

「このとき、おじいさまがまだ反対してたんだよね。あ、南もいる」
「ふうん。マリーいないね」
「まだマリーが来てないときだもん。パパとお父さんは途中で下船したから、ここ以降は写ってないな。マリー、こっちのアルバムはマリーいるよ。パパと、お父さんもいるし、陸パパとも写ってるよ」

 とクリスティナは、もう一冊のアルバムにしようかと水を向ける。

「ううん。あとで見る。あ、見て。ガーティ。キャシーでしょ。アンソニーでしょ。ウォルト。エマおばちゃんもいる」
「ママ。みーんな若いね。あはは。四年も前なんだもんねー。マリーも、もうすぐ一年生だもんねえ」
「お姉ちゃん小さいね。マリーみたい」
「マリーより少しお姉さんだよ。九歳。ほら、このドレスかわいいでしょ。オートクチュールなの」
「かわいい」
「衣装部屋にあるから、もう少し大きくなったらマリーも着てみる?」
「うん!」

 別のアルバムを開いて、あれこれと話したあと、もう寝ようかと言って、クリスティナは部屋の明かりを落とした。

「マリー。パパとお父さんといなくて平気?」
「だいじょうぶ。お父さんが、何かあったら、すぐにエマおばちゃんとクリスお姉ちゃんにいうようにねって言ってた。はぐれないようにねって」
「明日、遊園地だからねー。楽しみだね!」
「うん! あ、お父さんもパパとお出かけするんだって」
「相変わらず仲良しだね」
「ラブラブなんだって」

 クリスティナはしみじみ言った。

「……なんだかんだ、仲良くしてるなあ、あの二人……」
「でもこないだ、ケンカしてたんだよ」
「え。そうなんだ。マリーの前で喧嘩するとか、駄目な大人だねー」
「いつもパパが、早口でわーって言って、お父さんが黙って怒ってるの。パパはすぐ反省してゴメンゴメンだけど、お父さんはだんまり。もー、ケンカなんかしなかったらいいのに」
「マリーのほうが大人だね。パパは短気で、お父さんは頑固だよね」
「うん。それでねえ、マリーが二人ともケンカしちゃだめって怒ったら、ちゅーして仲直りしてるの」
「そっかあ」

 クリスティナはくすくす笑いながら、マリアンヌの上掛けを引っ張ってかぶせた。小さい頃からそうするように、とんとんと背を撫でる。

「おやすみ、マリー。また明日」
「うん。おやすみい。お姉ちゃん」

 マリアンヌは、明日の遊園地を楽しみにしつつ、うとうとしながら答えた。




 <クリスティナとマリアンヌのただの会話 終わり>
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