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36話 建国祭②

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ロレッタ視点

「ロレッタ、今日は誘ってくれてありがとう!」

 建国祭当日、私はクリフトを誘って街に出た。他国からも貴族や商人が訪れた事で想像以上に盛り上がっている。

「凄い人ね!」

「うん、そうだね。年に一度のお祭りだから気合いが入っているんだよ」

 クリフトはさりげなく私と手を繋ぐと、上手く人の間を抜けてエスコートしてくれた。

「ロレッタ! こっちだよ!」

 街には様々な屋台が建ち並び、美味しそうな匂いがする。その中にバーバラの屋台があった。まだお昼には少し早いけど、行列が出来ている。それだけ美味しいって事だよね?

 メニュー表にはサンドイッチとピザと特製スープと書いてある。列に並びながらどれにするか決めていると、自分たちの番が回ってきた。
 
「ロレッタ! 来てくれたのね、ありがとう!」

「うん! それにしても凄い行列だね。この特製スープってまだあるの?」

「もちろん。ライアン! 注文が入ったよ!」

 バーバラの元で働くライアンは、指示を受けてテキパキと動く。そして私に熱々のスープをくれた。

「お待たせしました。熱いのでお気をつけて下さい」

 以前のライアンは薬に劇薬を混ぜるような危ない人だったけど、バーバラの話によるとちゃんと反省したらしい。

「ライアン! 次のお客様が来てるでしょ? 早くして!」

「はっはい!」

 ライアンはバーバラに罵倒されながらも必死に働いていた。少しかわいそうな気もするけど、意外と満更でもなさそうにしている。変なのに目覚めちゃったのかな?

「ロレッタ、向こうで曲芸師たちのショーがやっているみたいだよ! 見に行かない?」

「えっ、面白そう! 行きたい!」

 私達はバーバラの屋台を後にすると、中央広場にある特別ステージに向かった。



* * *

ユーゴ視点

「やばい……緊張してきた……」

 俺は早めに待ち合わせ場所に着くと、気持ちを落ち着かせるために深く息をはいた。

 一緒に建国祭を見て回ろうとカトリーヌから誘われた日は、嬉しさのあまり一睡もできなかった。何度か食事に行ったことはあるけどデートはこれが初めてだ。まずはそうだなぁ……出会ったらなんて言えばいいんだ?

 「ユーゴ! お待たせ!」

 会話のスタートをどうするか考えていると、カトリーヌが小走りでやってきた。その動きに合わせてヘアゴムで止めたポニーテールがぴょんぴょんとはねる。やばい……可愛いすぎだろ……

「どうしたの? ユーゴ?」

「えっいや、なんでもない……その髪型、よく似合ってるぜ」

「えっ、あっ、ありがとう」

 カトリーヌは恥ずかしそうに自分の髪を手で弄りながら答える。その仕草も可愛らしい……

「とりあえず、どうする? 俺デートとかした事がないからこういうのに慣れてなくて……」

 下手に知ってるフリをしても仕方がない。仕方なく俺は素直に白状した。

「大丈夫。私も初めてだから同じだよ。えっと……デートと言えば……」

 カトリーヌはぽんっと手を叩くと、俺の手を握った。

「カップルってよくこうするでしょ?」

「おっおう、そうだな!」

 手を繋いだことで自然と距離が縮まって、カトリーヌの丸みを帯びた肩にふれる。周りにいた人々はそんな初々しい2人組を暖かい目で見守っていた。

「ねぇ、せっかくだからバーバラの屋台に行ってみない?」

「別にいいけど……」

 あいつの事だから絶対に俺たちをからかってくる。行列の出来た屋台に並び、自分たちの番が来ると、予想通りバーバラがニヤニヤとしながら俺たちを見比べた。

「あらあら? 手を繋いじゃって~ アツアツね!」

 カトリーヌは慌てて俺から手を離すと必死に言い訳をする。その様子をバーバラは楽しそうに聞いていた。

「ライアン、2人が来たわよ!」

「はっ、はい!」

 ライアンは作業を止めて俺たちの元に走ってくると、勢いよく頭を下げた。

「カトリーヌさん、そしてユーゴさん、劇薬事件に関しては……本当にご迷惑をおかけしました!」

 突然の謝罪に周りで見ていた人たちも何事かと驚く。俺は別にいいけど……

「次にカトリーヌとロレッタ姉さんに危害を加えようとしたら……分かっているよな?」

「はっ、はい! もちろんです!」

 念のため釘を刺しておくと、ライアンの額からスッーっと一筋の汗が流れた。

「ユーゴ、私は大丈夫だし、ロレッタも許したみたいだから……仲直りしましょ!」

「まぁ、カトリーヌがそう言うなら……」

 俺は手を差し出すと、ライアンと握手を交わした。そして思いっきり力を入れてやった。

「痛い、痛い! 痛い‼︎ 何するんですか⁉︎」

「これでおあいこにしてやるよ。もう責めたりしないから、お前も下手に引きずるなよ?」

「………あっ、ありがとうございます!」
 
 ライアンは痛そうに手を摩りながら感謝をする。

「よし、じゃあサンドイッチとピザをもらおうか?」

「分かりました! すぐに準備します!」

 ライアンは勢いよく厨房に戻ると、バゲットにサンドイッチとピザを詰めて戻ってきた。

「お金は僕が出しますの受け取って下さい!」

「おい、もう引きずるなって言っただろ?」

「いいえ、これはお2人の素敵なデートに対する僕からの些細な気持ちです!」

「………分かったよ。じゃあ、貰っておくよ」

 俺はバケットを受け取ると、カトリーヌと一緒に近くのベンチに向かった。

「どれも美味しそうね!」

 カトリーヌはピザを取り出すと、前髪を耳に掛けて頬張った。その仕草を見れただけでもお腹がいっぱいだ。

「どうしたのユーゴ? 私の口に何かついてる?」

「えっ、いや、なんでもない。美味しそうだな~ と思ってさ……」

「じゃあ一口食べる?」

 カトリーヌは俺の口元にピザを差し出す。これってあれか? いわゆる『あ~ん』ってやつだよな? いいのか? こんな事してもらって? 

「どうしたの? ユーゴ?」

「いや、なんでもない。じゃあ一口」

 俺はゴクリと唾を飲み、ピザを食べさせてもらった。やべぇ……最高に美味い! でも待てよ? これってカトリーヌの食べかけだから……要するに間接キスなんじゃ……

「どう? 美味しい?」

「おっおう! うまいぜ。こっちのサンドイッチもいけるな!」

「えっ、そうなの? 一口頂戴!」

 カトリーヌは俺が『いいよ』と言う前にパクッとかぶり付いてニコッと笑みを浮かべた。可愛いなぁ……

「ねぇ、向こうで曲芸師たちのショーがやってるみたいだよ! あとで見に行かない?」
 
「おう、いいぜ」

 ランチを食べ終えた俺たちは、席を立つと中央広場に向かった。
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