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第五章
【第五話】図書館に眠る魔女の遺産①(華・談)
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校内にある図書館近くのカフェで、カシュがコーヒーを飲みながら私が来るのを待っている丁度その頃。小テストの採点や生徒達の相談、部活などの仕事を一通りサクッとこなし、理事長の指示通りに私は館長の待つ図書館へとやって来た。
「お待ちしていましたよ」
そう言って、図書館館長である本多さんが和やかに微笑みを浮かべている。品のあるクラシカルなデザインのスーツを着こなし、綺麗な背筋は年齢を感じさせぬ程にシャンとしており、眼鏡をかけた端正な顔立ちはとてもじゃないがご高齢な男性とは思えぬ綺麗な肌艶だ。
ロマンスグレーといった表現がぴったりな本多さんを前にすると、いつもちょっと緊張してしまうのは、はっきり言って『独身ならば是非嫁候補として立候補させて頂きたい!』と思ってしまうくらいに素敵な紳士だからだろう。
「お待たせしてしまったでしょうか」
「いいえ、私も今来た所ですから。では行きましょうか」と、本を傷付けぬ為にしている白い手袋した手をスッと当然の様に差し出してくれる。
し、紳士だわ!
——と心の中で叫びながら、ちょっと頬を染め、素直に手を取る。カシュがこの場に居たら大騒ぎされているのだろうなとは思ったが、ロマンスグレーな本多さんのこの手を払える女性などこの世にいるのだろうか?答えは否だ!と力強く一人で即答する。
「こちらですよ。足元に気を付けて下さいね」
「は、はい」
照れ臭そうにしてしまう私の様子を見て、本多さんが穏やかに微笑みを浮かべている。
推定七十代か八十代であろう本多さんからしたら、私なんか孫でも見る様な気分なのだろうなと思うが、それでもレディー扱いをしてくれるこの紳士な行動にはどうしても心がクラッとしてしまった。
「えっと。理事長からは、部活に役立つ資料があると伺ったのですが…… 」
ダンスホールにでも進むみたいに手を引かれながら、エレベーターのある方へ共に向かう。スカートの裾をちょっと持ち上げてしまいたい気持ちになりながら話し掛けると、少しだけ私の方へと振り返り、また優しく微笑みを向けてくれた。
「随分と簡単な説明しかされなかったのですね、全く…… 」
ふぅと息を吐き、『やれやれ』と言いたげに眼鏡の奥に見える瞼が伏せられる。たったそれだけの事なのに妙な色気があり、カシュには悪いが、ご高齢な本多さんの方が大人な魅力がある分、彼よりもずっとインキュバス要素が強いなと思ってしまった。
「私は、貴女にこれから案内する部屋までエスコート出来る日を、この学園へ就職して下さった日からずっと心待ちにしていたんですよ」
エレベーターの入り口前で立ち止まり、こちらへ本多さんが振り返る。すると館長は、綺麗に腰を折って私の掌へそっと口付けをしてきた。
驚き、顔を真っ赤に染め「ひうっ!」と短く叫ぶ。背筋が軽く反れてしまったが、咄嗟にその手を引き抜く事が出来なかったのは、心も体も嬉しかったからだろう。
本多さんが、グレーで綺麗な髪がちょっとだけ外国風っぽい紳士だろうが、作法的には挨拶程度のモノだろうが、ここは日本だ。『いくらノリと勢いだったとして、ソレはやり過ぎですわぁぁ!』と言いたい気持ちを隠せない。でも、そんな私すらも『可愛いですね』とでも言いたげに笑みを浮かべ、「着きましたね、では乗りましょうか」と本多さんが声を掛けてくる。
み、密室だわ!
一緒に乗り込む相手がカシュでは無いのだから何も起きないと知りつつも、十人程度が平然と乗れそうな大きいエレベーター内を見た時、一瞬だけそう考えてしまった。
「お待ちしていましたよ」
そう言って、図書館館長である本多さんが和やかに微笑みを浮かべている。品のあるクラシカルなデザインのスーツを着こなし、綺麗な背筋は年齢を感じさせぬ程にシャンとしており、眼鏡をかけた端正な顔立ちはとてもじゃないがご高齢な男性とは思えぬ綺麗な肌艶だ。
ロマンスグレーといった表現がぴったりな本多さんを前にすると、いつもちょっと緊張してしまうのは、はっきり言って『独身ならば是非嫁候補として立候補させて頂きたい!』と思ってしまうくらいに素敵な紳士だからだろう。
「お待たせしてしまったでしょうか」
「いいえ、私も今来た所ですから。では行きましょうか」と、本を傷付けぬ為にしている白い手袋した手をスッと当然の様に差し出してくれる。
し、紳士だわ!
——と心の中で叫びながら、ちょっと頬を染め、素直に手を取る。カシュがこの場に居たら大騒ぎされているのだろうなとは思ったが、ロマンスグレーな本多さんのこの手を払える女性などこの世にいるのだろうか?答えは否だ!と力強く一人で即答する。
「こちらですよ。足元に気を付けて下さいね」
「は、はい」
照れ臭そうにしてしまう私の様子を見て、本多さんが穏やかに微笑みを浮かべている。
推定七十代か八十代であろう本多さんからしたら、私なんか孫でも見る様な気分なのだろうなと思うが、それでもレディー扱いをしてくれるこの紳士な行動にはどうしても心がクラッとしてしまった。
「えっと。理事長からは、部活に役立つ資料があると伺ったのですが…… 」
ダンスホールにでも進むみたいに手を引かれながら、エレベーターのある方へ共に向かう。スカートの裾をちょっと持ち上げてしまいたい気持ちになりながら話し掛けると、少しだけ私の方へと振り返り、また優しく微笑みを向けてくれた。
「随分と簡単な説明しかされなかったのですね、全く…… 」
ふぅと息を吐き、『やれやれ』と言いたげに眼鏡の奥に見える瞼が伏せられる。たったそれだけの事なのに妙な色気があり、カシュには悪いが、ご高齢な本多さんの方が大人な魅力がある分、彼よりもずっとインキュバス要素が強いなと思ってしまった。
「私は、貴女にこれから案内する部屋までエスコート出来る日を、この学園へ就職して下さった日からずっと心待ちにしていたんですよ」
エレベーターの入り口前で立ち止まり、こちらへ本多さんが振り返る。すると館長は、綺麗に腰を折って私の掌へそっと口付けをしてきた。
驚き、顔を真っ赤に染め「ひうっ!」と短く叫ぶ。背筋が軽く反れてしまったが、咄嗟にその手を引き抜く事が出来なかったのは、心も体も嬉しかったからだろう。
本多さんが、グレーで綺麗な髪がちょっとだけ外国風っぽい紳士だろうが、作法的には挨拶程度のモノだろうが、ここは日本だ。『いくらノリと勢いだったとして、ソレはやり過ぎですわぁぁ!』と言いたい気持ちを隠せない。でも、そんな私すらも『可愛いですね』とでも言いたげに笑みを浮かべ、「着きましたね、では乗りましょうか」と本多さんが声を掛けてくる。
み、密室だわ!
一緒に乗り込む相手がカシュでは無いのだから何も起きないと知りつつも、十人程度が平然と乗れそうな大きいエレベーター内を見た時、一瞬だけそう考えてしまった。
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