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第五章
【第六話】図書館に眠る魔女の遺産②(華・談)
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広いエレベーターにちょっと緊張しながら乗り込むと、本多さんが胸ポケットから一枚のカードキーを取り出し、私の方へとそれを差し出してきた。
「こちらをどうぞ。貴女専用のカードキーです。無くしてしまうと少し面倒な事になるので、大事にして下さいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
礼を言い、カードキーを受け取る。名刺サイズのそれには、いかにもこれは“魔法陣”だなとしか思えない絵が描かれており、発光物質でも含まれているのか、全ての線が不思議とうっすら光っていた。
「こちらのパネルに、そのカードを当ててみてもらえますか?」と言って、本多さんが階数や開閉の指示をする為のボタンの並ぶ位置にある、一番下のタッチパネルみたいなスペースを指さした。
「ここにですか?」
「はい」
このエレベーターは随分と最新式なのね、と思いながら指示通りにカードキーを当ててみる。すると、まだボタンを押して階数を指定してもいないのにエレベーターが勝手に動き出した。体感的に下へ向かっているみたいだが、階数の表示されるべき箇所にはエラーの文字が書かれていて本当に下へ向かいっているのか確信が持てない。
「あの…… 下の階なんですか?」
そういえば、下層へ行くのはこれが初めてだ。各所に貼ってある館内図も一階から三階までしか描かれていないので、他の階は職員専用なのだろう。
「えぇそうですよ。かなり下まで行くので、少しかかるかもしれません」
「…… え。この図書館って一体下は何階まであるんですか?」
現時点ですら体育館並みに巨大なウチの図書館は常に増築工事を続けており、終わりが見えない。上や横には土地的にも限界があるが、下ならばと更に拡張をしていると噂には聞いてはいたが、どうやらただの与太話ではなかったみたいだ。
「…… 秘密ですよ、ふふっ」
白い手袋をした指先を口元に当て、本多さんが片目を軽く閉じる。可愛らしい悪戯っ子みたいな顔をされてしまってはもう、これ以上何も訊けなかった。
エレベーターは一分間にだいたい三十から六十メートル進むと言われている。…… そしてもう、かれこれ五分から七分は経過している気がするんだけど、気のせいかしら。本当に大丈夫、なの?
「あ、あの…… 一体、どこまで降りて行くのでしょう?」
隣で私の手を取ったままでいてくれている本多さんにおそるおそる訊くが、「さぁ?私も初めて行くのでね」とまたまた可愛らしく微笑まれてしまった。
あり得ないけど、『このままではマントルまで降りて行くのでは⁉︎』とまで思ってしまったその時、ポンッと間の抜けた音が鳴り、エレベーターがやっと止まった。チラリと階層の表示を見上げたが、やっぱりエラーのままでどこまで降りて来てしまったのかはわからないままだ。
エレベーターの重い扉がゆっくりと開くと、その先は廊下などではなく、直接大きな部屋につながっていた。蝋燭の入った数多のランタンには火が灯り、柱の各所に設置されている。そんな薄暗い室内には、梯子を使わないといけないくらいに背の高い本棚やガラス製の古風な実験器具などが綺麗に整頓されて並べられており、今すぐにでもこの部屋で様々な作業が出来そうな状態になっている。“黒魔術研究会”の資料になると聞いていたのだが、この部屋の印象は魔術というよりも、錬金術といった印象の方が強かった。
「…… すごい部屋」
「そうですね。私は好きですよ、こういった雰囲気」
「私もよ、非現実的な空間ってテンションが上がるわね!…… あ、す、すみません…… 私ったら、つい…… 」
素で喜んでしまい、サッと顔が青ざめる。年配のロマンスグレーに気安い言葉を使ってしまうなんて失礼過ぎたわ。
「いいのですよ、そんな貴女も可愛らしいですね」と和かに微笑んでくれるものだから、心臓がまた騒ついてしまう。こうやって年下のファンをからかって遊ぶのは控えて欲しいものだ。
室内へ二人で進んでいくと、カツンカツンと靴音がやけに響く。上を見上げると思っていたよりも天井が高く、天球儀や巨大な恐竜の骨などが吊るした状態で飾られていて、より一層心が躍る。プラネタリウムの中に博物館と研究室を持ち込んできたみたいな空間へ一歩一歩ゆっくり進んで行きながら私は『カシュも好きそうね、今度連れて来てあげようかしら』と思った。
「ところで、この部屋は?部活の資料になるだろうと聞いて来たのですが、生徒達を案内してもいいのでしょうか」
「いいえ。この部屋は貴女だけの物なので、他の者は立ち入れさせないで下さい。でもまぁ、私や、私の父は管理者なので入れますが、他の者は権利が無いのでそもそも降りても来られない仕様となっていますけどね」
隅で見付けた古いソファーに対面で座り、本多さんと共に一息つく。素晴らしい部屋なのに、他の者を連れて来られないと知り、心底がっかりした。
「さて、お茶でも出して差し上げられれば良かったのですが、そういった設備は流石に無さそうですね」と、周囲をぐるりと見渡して本多さんが言う。色々な物が詰まった部屋ではあるが、置かれた物はどれを見ても何百年も前の品をその時の状態のまま持って来たみたいで、ちょっと一服しましょうかといった感じの物はこのソファーくらいなものだった。
「仕方がありませんね。ではサクッと使用法や要点の説明にでも入りましょうか」
「は、はい」と答え、背を正す。パッと見だけでも貴重な物ばかりの空間の様なので、色々制約がとっても多そうだ。
「この部屋はですね、貴女のご先祖様の一人である、“ハンナ・アダムス”という女性の遺産なのです」
“アダムス”と聞き、私の心臓がバクンッと跳ねた。他人の口から先にその響きを聞いたのは何年ぶりだろうか。それと同時に、『やっぱり私のルーツは海外にあったのね』と納得する。こんな苗字なのだからそうだろうと予想は出来ていた。だが、ウチの親戚だって誰も知らない事だったのに、何故本多さんが知っているのだろうか。
「い、遺産…… ですか」
気になる事は多々あれど、一番気になった言葉に食いついてみた。
「はい。彼女と私の父は懇意にしていた時期があり、ハンナさんの死後『いつか誰かが必要になる事があるだろうから』と全ての家財の管理を引き受けたらしいですよ」
「そうだったのですか。アンティークな品の収集家とかだったのですか?その…… ハンナさんは」
「いいえ、違います。彼女は“魔女”です。しかもハンナさんは、しつこさにブチ切れて、カシュ君達の様な存在に呪いをかけた張本人ですよ」
「………… 」
えっと、これは本多さんなりの冗談、なのかしら?
本多さんの話す“ハンナ・アダムス”が件の魔女だとするのなら、中世辺りの時代を生きていたはずの彼女と本多さんのお父さんとが知り合いなワケがない。
じゃあ、お二人がお知り合いというのが嘘ではないとするなら、同姓同名の別人の遺品を引き受けた事になるから、これらの品々はアンティーク品だという事になる。それにそれに——と、色々辻褄が合わないせいで、どう反応すべきなのか答えが出ない。
「おや、信じていませんね?まぁ…… 急に聞かされては当然でしょうけども」
「正直に言いますと、はい。…… すみません」
「いえいえ、いいのですよ。でも可笑しいですね、淫魔の存在は受け入れたのに、私達の事は疑うなんて」
本多さんが長い脚を優雅な所作で組み、手袋をした手で口元を押さえてクスクスと笑う。いつもならこんな貴重なワンシーンを見られた事に歓喜する所なのだが、それよりも今はカシュの正体を何故彼が知っているのかの方が気になってしまった。
「そもそも私はね、本の精霊と人間のハーフなのですよ。この学校へ住み着いている人外の一人です。この図書館に居を構え、管理し、細々と消えゆく運命にある紙媒体の本達の収集と保管を延々におこなっています」
「…… えっと、え?本多さんが、人外?」
鏡が無いのでなんとも言えないが、私は今絶対にカシュの存在を知った時以上にひどい顔をしている気がする。突然そんな話をされても、すぐには納得出来なかった。
「はい、所詮は半分だけなのでもうそろそろ死にますけどね。でも父は死という概念をあまり持たない古参の精霊なので、中世時期辺りを暗躍していた魔女達とも当然面識があり、懇意にも出来たというワケです。これで納得出来そうですか?」
ニコッと笑われても、『はい』と返事が出てこない。カシュの時の様に角や尻尾といった誤魔化しようの無い証拠を見せられたわけでは無いからだろうか。
「証拠が欲しいといった顔ですね。んーでも困りました。私は父の様に色々出来る訳では無いですからねぇ。多少は魔法も使えますが、そのくらいで許して頂けますか?」
「あ、いえ!結構です、そんな…… えっと、その、疑ってしまいすみません。ずっと前から面識のあった方が人外と言われても急には、受け止め切れなくって。あ、その…… もしかして、理事長もそうなのでは⁉︎」
人間だと言っていたかもしれないが、インキュバスなカシュ以上に魅惑的な容姿をした理事長の方が、よっぽど私からしたら一般人から色々と外れているので、つい思った事を口に出してしまった。
「残念ながら、彼は本物の人間ですよ。あぁ、でも図書館の隣にあるカフェの店長は私達の仲間です。流石に正体までは他言出来ませんけどね」と言って、口元に指を立てる。この仕草は二度目だが、素敵なおじい様がやって下さるとやっぱりちょっと可愛い。
「案外多いのですか?ウチの学校に、人外さんって」
「多いですよ、他にはもう誰がとは言いませんけども。『優秀な人材は何でも使え』というのが、理事長のお母様のご実家である、椿家の方針らしいのでね」
「なるほど」
「さて話が逸れてしまいましたね。えっと…… そうそう、この部屋の事ですよね。この部屋は、貴女への遺産として残された物なので、全てお好きに使用して下さって問題ありません。あ、でも他に持ち出しての転売ですとかは、勘弁して下さいね」
「もちろんです。パッと見ただけでもわかるほど貴重な品ばかりですから、大事にさせて頂きますが…… 本当に私が引き継いでも?」
「むしろ、ハンナさんの御子孫の中で最も潜在能力の高い貴女でなければ意味が無い物ばかりですから。色々な機材だけではなく、研究書なども数多く残されているらしいので、多分貴女が知りたい事が、ここには全て眠っていると思いますよ」
ニコリと微笑みを向けられ、カシュにかけられている“魔女の呪い”の件が頭に浮かぶ。
そうか、この部屋には彼を助けてあげられるヒントが眠っているのかもしれないのか。——と、本多さんのおかげで気が付く事が出来た。
顔をあげ、周囲を見渡す。それなりに広い室内には数多くの物や書籍が詰まっていて、この中から答えを探し出すのは多大なる時間を必要としそうだ。
そのせいか、少し遠い目をしてしまう。だけどせっかく私を慕ってくれている子の事だ、自分に出来る事があるのならばどうにかしてあげたいと心底思った。
「ちなみにこの部屋は何と、入って五分で時間が止まります。何時間、何日、何ヶ月篭ろうが、外の時間は五分しか経過していません。でも外へ出たら自分の時間だけは経過していて、いずれは老婆に…… という恐怖の仕様にもなっていないのでご安心を。なので好きなだけ、この部屋を調べる事が出来ますよ」
早速、問題の一つが解消出来た様だ。
「こちらをどうぞ。貴女専用のカードキーです。無くしてしまうと少し面倒な事になるので、大事にして下さいね」
「あ、はい。ありがとうございます」
礼を言い、カードキーを受け取る。名刺サイズのそれには、いかにもこれは“魔法陣”だなとしか思えない絵が描かれており、発光物質でも含まれているのか、全ての線が不思議とうっすら光っていた。
「こちらのパネルに、そのカードを当ててみてもらえますか?」と言って、本多さんが階数や開閉の指示をする為のボタンの並ぶ位置にある、一番下のタッチパネルみたいなスペースを指さした。
「ここにですか?」
「はい」
このエレベーターは随分と最新式なのね、と思いながら指示通りにカードキーを当ててみる。すると、まだボタンを押して階数を指定してもいないのにエレベーターが勝手に動き出した。体感的に下へ向かっているみたいだが、階数の表示されるべき箇所にはエラーの文字が書かれていて本当に下へ向かいっているのか確信が持てない。
「あの…… 下の階なんですか?」
そういえば、下層へ行くのはこれが初めてだ。各所に貼ってある館内図も一階から三階までしか描かれていないので、他の階は職員専用なのだろう。
「えぇそうですよ。かなり下まで行くので、少しかかるかもしれません」
「…… え。この図書館って一体下は何階まであるんですか?」
現時点ですら体育館並みに巨大なウチの図書館は常に増築工事を続けており、終わりが見えない。上や横には土地的にも限界があるが、下ならばと更に拡張をしていると噂には聞いてはいたが、どうやらただの与太話ではなかったみたいだ。
「…… 秘密ですよ、ふふっ」
白い手袋をした指先を口元に当て、本多さんが片目を軽く閉じる。可愛らしい悪戯っ子みたいな顔をされてしまってはもう、これ以上何も訊けなかった。
エレベーターは一分間にだいたい三十から六十メートル進むと言われている。…… そしてもう、かれこれ五分から七分は経過している気がするんだけど、気のせいかしら。本当に大丈夫、なの?
「あ、あの…… 一体、どこまで降りて行くのでしょう?」
隣で私の手を取ったままでいてくれている本多さんにおそるおそる訊くが、「さぁ?私も初めて行くのでね」とまたまた可愛らしく微笑まれてしまった。
あり得ないけど、『このままではマントルまで降りて行くのでは⁉︎』とまで思ってしまったその時、ポンッと間の抜けた音が鳴り、エレベーターがやっと止まった。チラリと階層の表示を見上げたが、やっぱりエラーのままでどこまで降りて来てしまったのかはわからないままだ。
エレベーターの重い扉がゆっくりと開くと、その先は廊下などではなく、直接大きな部屋につながっていた。蝋燭の入った数多のランタンには火が灯り、柱の各所に設置されている。そんな薄暗い室内には、梯子を使わないといけないくらいに背の高い本棚やガラス製の古風な実験器具などが綺麗に整頓されて並べられており、今すぐにでもこの部屋で様々な作業が出来そうな状態になっている。“黒魔術研究会”の資料になると聞いていたのだが、この部屋の印象は魔術というよりも、錬金術といった印象の方が強かった。
「…… すごい部屋」
「そうですね。私は好きですよ、こういった雰囲気」
「私もよ、非現実的な空間ってテンションが上がるわね!…… あ、す、すみません…… 私ったら、つい…… 」
素で喜んでしまい、サッと顔が青ざめる。年配のロマンスグレーに気安い言葉を使ってしまうなんて失礼過ぎたわ。
「いいのですよ、そんな貴女も可愛らしいですね」と和かに微笑んでくれるものだから、心臓がまた騒ついてしまう。こうやって年下のファンをからかって遊ぶのは控えて欲しいものだ。
室内へ二人で進んでいくと、カツンカツンと靴音がやけに響く。上を見上げると思っていたよりも天井が高く、天球儀や巨大な恐竜の骨などが吊るした状態で飾られていて、より一層心が躍る。プラネタリウムの中に博物館と研究室を持ち込んできたみたいな空間へ一歩一歩ゆっくり進んで行きながら私は『カシュも好きそうね、今度連れて来てあげようかしら』と思った。
「ところで、この部屋は?部活の資料になるだろうと聞いて来たのですが、生徒達を案内してもいいのでしょうか」
「いいえ。この部屋は貴女だけの物なので、他の者は立ち入れさせないで下さい。でもまぁ、私や、私の父は管理者なので入れますが、他の者は権利が無いのでそもそも降りても来られない仕様となっていますけどね」
隅で見付けた古いソファーに対面で座り、本多さんと共に一息つく。素晴らしい部屋なのに、他の者を連れて来られないと知り、心底がっかりした。
「さて、お茶でも出して差し上げられれば良かったのですが、そういった設備は流石に無さそうですね」と、周囲をぐるりと見渡して本多さんが言う。色々な物が詰まった部屋ではあるが、置かれた物はどれを見ても何百年も前の品をその時の状態のまま持って来たみたいで、ちょっと一服しましょうかといった感じの物はこのソファーくらいなものだった。
「仕方がありませんね。ではサクッと使用法や要点の説明にでも入りましょうか」
「は、はい」と答え、背を正す。パッと見だけでも貴重な物ばかりの空間の様なので、色々制約がとっても多そうだ。
「この部屋はですね、貴女のご先祖様の一人である、“ハンナ・アダムス”という女性の遺産なのです」
“アダムス”と聞き、私の心臓がバクンッと跳ねた。他人の口から先にその響きを聞いたのは何年ぶりだろうか。それと同時に、『やっぱり私のルーツは海外にあったのね』と納得する。こんな苗字なのだからそうだろうと予想は出来ていた。だが、ウチの親戚だって誰も知らない事だったのに、何故本多さんが知っているのだろうか。
「い、遺産…… ですか」
気になる事は多々あれど、一番気になった言葉に食いついてみた。
「はい。彼女と私の父は懇意にしていた時期があり、ハンナさんの死後『いつか誰かが必要になる事があるだろうから』と全ての家財の管理を引き受けたらしいですよ」
「そうだったのですか。アンティークな品の収集家とかだったのですか?その…… ハンナさんは」
「いいえ、違います。彼女は“魔女”です。しかもハンナさんは、しつこさにブチ切れて、カシュ君達の様な存在に呪いをかけた張本人ですよ」
「………… 」
えっと、これは本多さんなりの冗談、なのかしら?
本多さんの話す“ハンナ・アダムス”が件の魔女だとするのなら、中世辺りの時代を生きていたはずの彼女と本多さんのお父さんとが知り合いなワケがない。
じゃあ、お二人がお知り合いというのが嘘ではないとするなら、同姓同名の別人の遺品を引き受けた事になるから、これらの品々はアンティーク品だという事になる。それにそれに——と、色々辻褄が合わないせいで、どう反応すべきなのか答えが出ない。
「おや、信じていませんね?まぁ…… 急に聞かされては当然でしょうけども」
「正直に言いますと、はい。…… すみません」
「いえいえ、いいのですよ。でも可笑しいですね、淫魔の存在は受け入れたのに、私達の事は疑うなんて」
本多さんが長い脚を優雅な所作で組み、手袋をした手で口元を押さえてクスクスと笑う。いつもならこんな貴重なワンシーンを見られた事に歓喜する所なのだが、それよりも今はカシュの正体を何故彼が知っているのかの方が気になってしまった。
「そもそも私はね、本の精霊と人間のハーフなのですよ。この学校へ住み着いている人外の一人です。この図書館に居を構え、管理し、細々と消えゆく運命にある紙媒体の本達の収集と保管を延々におこなっています」
「…… えっと、え?本多さんが、人外?」
鏡が無いのでなんとも言えないが、私は今絶対にカシュの存在を知った時以上にひどい顔をしている気がする。突然そんな話をされても、すぐには納得出来なかった。
「はい、所詮は半分だけなのでもうそろそろ死にますけどね。でも父は死という概念をあまり持たない古参の精霊なので、中世時期辺りを暗躍していた魔女達とも当然面識があり、懇意にも出来たというワケです。これで納得出来そうですか?」
ニコッと笑われても、『はい』と返事が出てこない。カシュの時の様に角や尻尾といった誤魔化しようの無い証拠を見せられたわけでは無いからだろうか。
「証拠が欲しいといった顔ですね。んーでも困りました。私は父の様に色々出来る訳では無いですからねぇ。多少は魔法も使えますが、そのくらいで許して頂けますか?」
「あ、いえ!結構です、そんな…… えっと、その、疑ってしまいすみません。ずっと前から面識のあった方が人外と言われても急には、受け止め切れなくって。あ、その…… もしかして、理事長もそうなのでは⁉︎」
人間だと言っていたかもしれないが、インキュバスなカシュ以上に魅惑的な容姿をした理事長の方が、よっぽど私からしたら一般人から色々と外れているので、つい思った事を口に出してしまった。
「残念ながら、彼は本物の人間ですよ。あぁ、でも図書館の隣にあるカフェの店長は私達の仲間です。流石に正体までは他言出来ませんけどね」と言って、口元に指を立てる。この仕草は二度目だが、素敵なおじい様がやって下さるとやっぱりちょっと可愛い。
「案外多いのですか?ウチの学校に、人外さんって」
「多いですよ、他にはもう誰がとは言いませんけども。『優秀な人材は何でも使え』というのが、理事長のお母様のご実家である、椿家の方針らしいのでね」
「なるほど」
「さて話が逸れてしまいましたね。えっと…… そうそう、この部屋の事ですよね。この部屋は、貴女への遺産として残された物なので、全てお好きに使用して下さって問題ありません。あ、でも他に持ち出しての転売ですとかは、勘弁して下さいね」
「もちろんです。パッと見ただけでもわかるほど貴重な品ばかりですから、大事にさせて頂きますが…… 本当に私が引き継いでも?」
「むしろ、ハンナさんの御子孫の中で最も潜在能力の高い貴女でなければ意味が無い物ばかりですから。色々な機材だけではなく、研究書なども数多く残されているらしいので、多分貴女が知りたい事が、ここには全て眠っていると思いますよ」
ニコリと微笑みを向けられ、カシュにかけられている“魔女の呪い”の件が頭に浮かぶ。
そうか、この部屋には彼を助けてあげられるヒントが眠っているのかもしれないのか。——と、本多さんのおかげで気が付く事が出来た。
顔をあげ、周囲を見渡す。それなりに広い室内には数多くの物や書籍が詰まっていて、この中から答えを探し出すのは多大なる時間を必要としそうだ。
そのせいか、少し遠い目をしてしまう。だけどせっかく私を慕ってくれている子の事だ、自分に出来る事があるのならばどうにかしてあげたいと心底思った。
「ちなみにこの部屋は何と、入って五分で時間が止まります。何時間、何日、何ヶ月篭ろうが、外の時間は五分しか経過していません。でも外へ出たら自分の時間だけは経過していて、いずれは老婆に…… という恐怖の仕様にもなっていないのでご安心を。なので好きなだけ、この部屋を調べる事が出来ますよ」
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