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○番外編・2○ 先生のお気に入り【八島莉緒エピソード】
家庭科教師だって恋をしたい④(八島莉央・談)
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「——送信っと」
寝室のベットに寝転がり、この間ゲットしたままメッセージを一度も送れていなかった狸小路さん相手に、今日作ったケーキの写真を送りつけた。
『飾りのスワンは華先生の手作りです。市販品じゃ無いんですよ、ちょっとすごくないですか?』と、コメントも付け加え、敢えての驚く顔をした狸キャラのスタンプをぺんっと送る。
これで無反応でも、未読スルーでも、反応が返ってくるまで毎日送り続けてやろうと心に決めた。なんたってこちとら約十年越しの想いを抱えているのだ。相手が極度に太っていようが好きになれたのだ、実は正体が狸だろうともこの際そんな事はどうでもいい。
当面の問題は、私の事を彼が好きか否かだけだ。
いっその事こと『バラされたくなかったら私と交際しろ!』とでも言ってみる?この先も彼に触れる事が出来るなら、ソレもアリかも、と…… 拗らせ気味な脳が提案してくるが、それには流石に蓋をした。
ジッと彼の画面を開いたままでいたら、既読マークが私の送ったコメントの下に入った。その事が嬉しくって、ついスマホを両手で持ち、ベットの上で正座をしてしまう。
「よ、読んでくれたぁ!拒否されてなかったぁぁ!」
壁の薄いアパートだっていうのに、私は喜びのあまり大声で叫んだ。
『メッセージを読んでくれた』
その事実だけでまた何年かは、狸小路さん不足のままでも恋という強敵と戦える。そんな気さえした。
「おっし!気持ちを切り替えて、お風呂入ろう」
ぽいっとスマホをベットに投げるように置き、着替えを持って風呂場へと行く。風呂に入ると口にはしたが、実際には今日もシャワーを浴びるだけで済ませるつもりだ。ウチの風呂場は正方形に近くって正直すごく狭い。小柄な私ですら体育座りでなければ入る事も出来ない。ビジネスホテルの様にトイレと風呂場が一体になっているタイプでは無いだけマシだと言えなくもないが、狭ければどっちであろうと変わりが無い。
頂いている給与的にはもっと広くって新しい場所へ引っ越しも出来るのだが、何せ施設育ちの貧乏性なせいか、なかかな引っ越しを決意出来ぬまま、十代の頃から今の今までずっと六畳一間のボロアパート暮らしをしている。ココは勤め先である学校からもかなり近いし、商店街も目と鼻の先だ。やたらにお金のかかる引っ越しを先送りしてしまったまま何年も経っていようが、利便性を考えると仕方の無いことと言えよう。
お風呂を済ませ、ベットに腰掛けた。狭い部屋なのでベットは完全にソファー代わりでもある。壁側にずらりと並べられているクッションに寄り掛かかり、先程置きっぱなしにしてあったスマホを手に取った。期待もせぬまま画面を開くと、SNSのアイコンにメッセージありのマークが。
「…… 狸小路さん、だったり?なんて、まさかねー」
カラ笑いをしながらアイコンをタップする。すると、“タヌ吉”と名前のある欄にメッセージありとなっているとか…… こりゃまた夢かな?と思うほど、我が目を疑った。
ドキドキしながらメッセージを確認する。『もう送ってくるな』とか『トーク相手がいません』表示をされてもいいように、心に盾を構える。
何を言われても、好きではいさせて欲しい。今までの様に、遠くから見るだけで迷惑はかけませんから。あ、でも事務局にお菓子くらいは届けさせて欲しいなぁ…… 。練習で作った品を全て食べるのは無理っす。
そんな事を考えているうちに、渋柿でも食べたのかって顔になってしまったが、一人きりなので取り繕う必要も無い。そのままの表情でメッセージに視線を落としたのだが——パァァァと顔色が明るいものへと変化していった。
「あ、『逢ってちゃんと話がしたいです。今から家に行っても構いませんか?』ぁぁぁぁ?いやいや、私お風呂上がりだよ?軽装だよ?マズイでしょぉ、時間ももう遅いし!」とか言いながら、即座に『OKです』のスタンプを返信しちゃう辺り、発言と行動が全く一致していないが、人間なんてこんなもんだろ。
スマホを再びベットに投げ、慌ててパジャマから普段着に着替え直す。
髪をドライヤーでしっかり乾かし、これからデートにでも行くのか?とつっこまれそうなくらいきちんと髪型も整えると、私はソワソワしながら部屋に敷いてある絨毯を、コロコロと転がして使う粘着式のカーペットクリーナーで掃除し始めた。
連絡先を交換した時点で住所も教えてあるし、大丈夫と伝えた時点できっともう出発してるよね?何分くらいで着くんだろうか。普段から部屋の片付けをしてあるタイプで良かったー!
それでも少しでも綺麗な部屋にしておきたくって、必死に細かいゴミをかき集めて捨てる。ベットの上やカーテンも整え、入り口付近に立って全体的に汚くないかのチェックもし終えた辺りで、部屋のチャイムが鳴る音が聞こえた。
「は、はい!」と答えながら、一応ドアスコープを覗くと、待ち人来たり!狸小路さんが玄関前に立っていた。
チェーンロックを外し、鍵を解除してドアを開ける。隙間から巨漢の彼を見上げると、ここ最近で見慣れてしまった、気不味そうな瞳と目が合った。
「夜分遅くに、すみません…… 」
小声で、項垂れる狸小路さんの姿に心が痛む。彼をこんなにしたのは絶対に私のせいなんだと思うと、申し訳ない気持ちに。
「部屋にあがってください。ここでこのまま立ち話って訳にもいきませんから」
「え?あ、や、でも…… 女性の一人暮らしの部屋に、こんな時間から入る訳には…… 」
イヤイヤ、そんな時間に来ておいて何を言う、と思うが口にはしない。そんな本心を言えばまた、全力で逃げられそうだ。
「でも、こんな時間にここで立ち話はご近所迷惑ですよ?公園とかだと、この時間はまだ少し寒いですし。ね?」
小首を傾げて頼んでみる。似合って無いとわかってはいるが、ダメ元で。
「…… くっ。わ、わかりました。すぐに帰りますんで、玄関先にでもお邪魔させて頂きます」
「いやいや。玄関すぐはトイレとかの前になっちゃうんで、中へどうぞ」
そう言って、私は彼の太い腕をしっかりと両手で掴み、部屋の中へと半ば強引に引き入れたのだった。
寝室のベットに寝転がり、この間ゲットしたままメッセージを一度も送れていなかった狸小路さん相手に、今日作ったケーキの写真を送りつけた。
『飾りのスワンは華先生の手作りです。市販品じゃ無いんですよ、ちょっとすごくないですか?』と、コメントも付け加え、敢えての驚く顔をした狸キャラのスタンプをぺんっと送る。
これで無反応でも、未読スルーでも、反応が返ってくるまで毎日送り続けてやろうと心に決めた。なんたってこちとら約十年越しの想いを抱えているのだ。相手が極度に太っていようが好きになれたのだ、実は正体が狸だろうともこの際そんな事はどうでもいい。
当面の問題は、私の事を彼が好きか否かだけだ。
いっその事こと『バラされたくなかったら私と交際しろ!』とでも言ってみる?この先も彼に触れる事が出来るなら、ソレもアリかも、と…… 拗らせ気味な脳が提案してくるが、それには流石に蓋をした。
ジッと彼の画面を開いたままでいたら、既読マークが私の送ったコメントの下に入った。その事が嬉しくって、ついスマホを両手で持ち、ベットの上で正座をしてしまう。
「よ、読んでくれたぁ!拒否されてなかったぁぁ!」
壁の薄いアパートだっていうのに、私は喜びのあまり大声で叫んだ。
『メッセージを読んでくれた』
その事実だけでまた何年かは、狸小路さん不足のままでも恋という強敵と戦える。そんな気さえした。
「おっし!気持ちを切り替えて、お風呂入ろう」
ぽいっとスマホをベットに投げるように置き、着替えを持って風呂場へと行く。風呂に入ると口にはしたが、実際には今日もシャワーを浴びるだけで済ませるつもりだ。ウチの風呂場は正方形に近くって正直すごく狭い。小柄な私ですら体育座りでなければ入る事も出来ない。ビジネスホテルの様にトイレと風呂場が一体になっているタイプでは無いだけマシだと言えなくもないが、狭ければどっちであろうと変わりが無い。
頂いている給与的にはもっと広くって新しい場所へ引っ越しも出来るのだが、何せ施設育ちの貧乏性なせいか、なかかな引っ越しを決意出来ぬまま、十代の頃から今の今までずっと六畳一間のボロアパート暮らしをしている。ココは勤め先である学校からもかなり近いし、商店街も目と鼻の先だ。やたらにお金のかかる引っ越しを先送りしてしまったまま何年も経っていようが、利便性を考えると仕方の無いことと言えよう。
お風呂を済ませ、ベットに腰掛けた。狭い部屋なのでベットは完全にソファー代わりでもある。壁側にずらりと並べられているクッションに寄り掛かかり、先程置きっぱなしにしてあったスマホを手に取った。期待もせぬまま画面を開くと、SNSのアイコンにメッセージありのマークが。
「…… 狸小路さん、だったり?なんて、まさかねー」
カラ笑いをしながらアイコンをタップする。すると、“タヌ吉”と名前のある欄にメッセージありとなっているとか…… こりゃまた夢かな?と思うほど、我が目を疑った。
ドキドキしながらメッセージを確認する。『もう送ってくるな』とか『トーク相手がいません』表示をされてもいいように、心に盾を構える。
何を言われても、好きではいさせて欲しい。今までの様に、遠くから見るだけで迷惑はかけませんから。あ、でも事務局にお菓子くらいは届けさせて欲しいなぁ…… 。練習で作った品を全て食べるのは無理っす。
そんな事を考えているうちに、渋柿でも食べたのかって顔になってしまったが、一人きりなので取り繕う必要も無い。そのままの表情でメッセージに視線を落としたのだが——パァァァと顔色が明るいものへと変化していった。
「あ、『逢ってちゃんと話がしたいです。今から家に行っても構いませんか?』ぁぁぁぁ?いやいや、私お風呂上がりだよ?軽装だよ?マズイでしょぉ、時間ももう遅いし!」とか言いながら、即座に『OKです』のスタンプを返信しちゃう辺り、発言と行動が全く一致していないが、人間なんてこんなもんだろ。
スマホを再びベットに投げ、慌ててパジャマから普段着に着替え直す。
髪をドライヤーでしっかり乾かし、これからデートにでも行くのか?とつっこまれそうなくらいきちんと髪型も整えると、私はソワソワしながら部屋に敷いてある絨毯を、コロコロと転がして使う粘着式のカーペットクリーナーで掃除し始めた。
連絡先を交換した時点で住所も教えてあるし、大丈夫と伝えた時点できっともう出発してるよね?何分くらいで着くんだろうか。普段から部屋の片付けをしてあるタイプで良かったー!
それでも少しでも綺麗な部屋にしておきたくって、必死に細かいゴミをかき集めて捨てる。ベットの上やカーテンも整え、入り口付近に立って全体的に汚くないかのチェックもし終えた辺りで、部屋のチャイムが鳴る音が聞こえた。
「は、はい!」と答えながら、一応ドアスコープを覗くと、待ち人来たり!狸小路さんが玄関前に立っていた。
チェーンロックを外し、鍵を解除してドアを開ける。隙間から巨漢の彼を見上げると、ここ最近で見慣れてしまった、気不味そうな瞳と目が合った。
「夜分遅くに、すみません…… 」
小声で、項垂れる狸小路さんの姿に心が痛む。彼をこんなにしたのは絶対に私のせいなんだと思うと、申し訳ない気持ちに。
「部屋にあがってください。ここでこのまま立ち話って訳にもいきませんから」
「え?あ、や、でも…… 女性の一人暮らしの部屋に、こんな時間から入る訳には…… 」
イヤイヤ、そんな時間に来ておいて何を言う、と思うが口にはしない。そんな本心を言えばまた、全力で逃げられそうだ。
「でも、こんな時間にここで立ち話はご近所迷惑ですよ?公園とかだと、この時間はまだ少し寒いですし。ね?」
小首を傾げて頼んでみる。似合って無いとわかってはいるが、ダメ元で。
「…… くっ。わ、わかりました。すぐに帰りますんで、玄関先にでもお邪魔させて頂きます」
「いやいや。玄関すぐはトイレとかの前になっちゃうんで、中へどうぞ」
そう言って、私は彼の太い腕をしっかりと両手で掴み、部屋の中へと半ば強引に引き入れたのだった。
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