こうして、世界は再び色を持つ

月咲やまな

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【第11話】

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 案内されたのは大和の私室だ。和室の部屋で、そこにはもう先に部屋の主が到着済みだった。
 彼に促され、二人が部屋の中央に置かれた座布団に腰を下ろす。那緒は黙ったまま軽く頭を下げると、空気を読んでその場を去る。最初、『お茶でも出しましょうか?』と彼女は言おうとしたが、大和の表情が険しかったのでそれさえも訊けなかった。

「…… 随分早く結論を出せたみたいですね。あれからせいぜい一時間程しか経っていないというのに…… ここまで早く来るとは、完全に予想外でした。警察を呼ばれていたらどうしようだとかは、考えなかったのですか?」
 よく使い込んだ座布団に正座で座り、目の前に座る二人を睨むような目付きで大和が言った。

(彼らをこの家に長居はさせたくない)

 葵と同じ屋根の下に彼らが居る事が気に入らず、直様本題に入る。そんな大和を、二人が真っ直ぐ見詰めた。
「葵…… さんと、話をさせてはもらえませんか?」と、涼よりも先に匡が口を開いた。
「無理ですね。一人にして欲しいと言われましたから」
 そう言って、大和が頭を横に振る。
「お願いです、僕達は葵さんの傍に居たいんだ…… 」
 匡に続き、涼も必死に言葉を重ねる。苦痛に満ちた表情で訴える言葉を、大和は黙ったまま聞く。
「酷い事をしたのはわかります。傷付けてしまったという事も」
「もっと近づきたい想いが強過ぎて、あぁしてしまった事をきちんと本人に伝えたい。たとえ葵さんに嫌われていても、自分達は『好きだ』と伝えたいんです」
 二人が土下座するみたい、畳に両手をつく。

「好きなら何をしてもいい訳ではありません。貴方達の想い人は、心を持った存在なのですから」

 二人を見据え、息をつきながら大和が言った。
「今ならわかります…… 」
「「最初は、正直そこまで考えていませんでしたが」」
 匡と涼の二人が項垂れながらそう言った。
「何故、葵さんだったんですか?何故葵さんに?女性なら、他にもいっぱいいるじゃないですか」

(僕達が…… 愛し合うために必要だったんだ)

 一瞬そんな言葉が出そうになり、匡と涼が一度開けた口を閉じた。

 そう。二人は互いが好きで、その為にも、自分達に似た容姿の子を探していた。それは、二人だけではどうしても、何か言い表せない違和感があったからだ。でも、居るはずがないって諦めていた。それでも探していた。どうしても愛し合いたかったから、自分達とよく似た容姿の子を通せば、こんな自分達でも愛し合えるんじゃないだろうかって…… 。そんな馬鹿な事を、真剣に考えていた。
 そんな中。彼らが見付けた少女は、彼らとは違って孤独の中に居た。とても寂しい世界に一人で生きていて、初めて心から他人の傍に居てあげたいと思ったんだ。

(ああ…… 。ごめんね、涼。僕はもう、葵しか愛せそうにないよ)
(ああ…… 。ごめんね、匡。僕はもう、葵しか愛せそうにないよ)


「——黙っていてはわかりませんよ」
 長く続く沈黙を破り、大和が二人に言った。
「似た容姿だったので興味があったんです、最初は」
 慎重に言葉を選び、匡が言う。もし本音を一言一句完全に言ったって、自分達の発想はあまりに歪過ぎて誰にも理解出来ないとわかっているからだ。
「でも、今は本当に、彼女の傍に居てあげたくて仕方がないんです」
 匡に続き、涼が言葉を補足する。

「…… たとえこの先、全てを拒絶されても、一生かけてでも、償うほどの気持ちを持ってはいますか?」
 そう訊かれ、「「好きですから出来ます。もう、葵しか見えない」」と、二人が同時に言った。

「本当でしょうか…… 。貴方達が、互いに対する感情を早々に捨てられるとは、僕にはとても思えません」
 不安そうな声でそう言い、大和が額に手を当てて深く溜め息をつく。
 彼の言葉を聞き、二人の肩がビクッと振るえた。そうであるとわかる言葉を発した覚えはないが、何故わかったのかと気持ちが焦る。

「好きなのでしょう?お互いが。——そう不思議そうな顔をしないで下さい、見ていれば嫌でもわかります」

 二人が黙ったまま顔を見合わせた後、大和に対し無言で二人が頷く。
「その感情は相当深いと察しているのですが、違いますか?」
「…… いえ。確かに、そうでした」
「でも今は、葵の傍に居られるなら、僕らは彼女を選びます」
 匡が素直に認め、涼は今の気持ちをそのまま告げた。 

「葵は一人しか居ないというのに、…… 我侭な二人ですねぇ」と、大和が呟く。

 下唇を噛み、匡と涼の二人が大和を見詰める。
「二人の気持ちはわかりましたが、葵には既に、気になる相手がいるそうです。諦めた方が懸命だと、僕は思いますよ」

「「え…… 」」
 二人の表情が苦痛に満ちたものになった。自分達を拒否される事は覚悟していたが、別の人を好きである可能性は全く考えていなかったからだ。
「相当分は悪いでしょうね。貴方達は二人を同等に、均等に愛してもらいたいのでしょう?僕ならそんな面倒な事は出来ない。必ずどちらかに愛情が偏るでしょうからね」

 彼の言う通りだ。一人の人間が愛せる数なんてたかが知れている。同時に二人を、同じくらいの深さで恋愛感情として愛せるものなんだろうか?鏡に写る自分を愛するように、互いしか見ないで生きてきた彼らには不特定多数に対して同時に愛情を注ぐという感覚は理解出来ない。なのに、それを彼女には望むのか?しかも、他に好きな人がいるというのに。

(僕達の方だけを、見て欲しいだなんて——)

 深い後悔の念が心に湧き、増殖して、押しつぶされそうなくらいに広がってきた。愛してしまった事を後悔しているんじゃない。どうして傷付けてしまったんだろう。どうして、あんな事をしてしまったのだろう、と。
 あんな事をしていなければ、まだ愛してもらえる可能性はあったかもしれないというのに愛したいという衝動に駆られ、おこなってしまった行為を今更後悔しても変える事は出来ず、心に重い枷をつける。だが、後悔の念が深くなればなる程、彼らの葵への渇望は強くなっていった。

 触れたい、傍に居たい、アイシアイタイ。

 触れてはいけない、傍には居られない。
 アイシテハモラエナイ——


 黙ったまま俯き、二人は真っ青な顔をしていて一言も喋らない。しばらくの間、大和は黙ってその二人を見続けていたが、段々彼等を不憫に感じてきている自分に苛立ちを募らせていた。

(葵さんを蔑ろにした彼らに同情する僕には、心というものは無いのでしょうか…… 。だけど、好きな人に愛してもらえない。もうそれだけで、彼らには充分過ぎる程の償いになるのでは?)

 そう思ってしまう自分が、大和は許せなかった。
 何度か誰のものともわからぬ深い溜め息がもれるも、三人は黙ったままだ。夕闇の蒼が漆黒へと移り変わる部屋の中、微動だにしないまま、時間だけが経過していった。
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