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番外編④
しおりを挟む宣言通り、兄は実家を出て行った。
顔を見せなくなり、ほとんど連絡を寄越さない兄を母は心配し、父は相変わらず放っておけと突き放していた。
いや、口では突き放しておきながら、内心心配で堪らなかったんじゃないかと思う。
私は私で病んだままの兄を気に掛けていたものの、自分の事で精一杯だった。
兄が実家を出て大分経った頃
突然、兄が婚約者を連れて来るという。
テンパり気味の母からの連絡を受け、野次馬しに実家を訪れた。
「は、初めまして、羽鳥 凪と申します!」
見るからに緊張でガチガチになっている兄の婚約者だという女性。
可愛らしい雰囲気ではあるけど、はっきり言って極々普通。
その辺にゴロゴロいるような、量産型な感じ。
ちょっと前までの野暮ったい兄にならお似合いだ。
だけど、今のイケメン化した兄の相手としては、少々不満が残る。
もっと良い女性がいただろうに。
こんな無難な女性じゃなくて、モデルや女子アナみたいな華やかな美女とか。
「あっはは、凪ちゃん、緊張し過ぎ」
「や、だって…」
「緊張するような相手じゃないって」
婚約者に優しく笑い掛ける兄を見て、家族一同目が点になった。
「あ……」
あの兄が朗らかに笑ってる………なんて。
「あの………御手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか?」
兄の婚約者が席を外した途端、両親と私からの尋問が始まる。
「ちょっ……遼、アンタいつの間に…」
「そうだよ、兄ちゃん。しかも結婚って急だし…」
「いや、結婚の前に………お前、仕事の方はどうなってんだ?カタギの職なんだろうな?養ってやれる程の給料貰ってるのか?!」
矢継ぎ早に浴びせられる質問に、兄は面倒臭そうに答える。
「………ちゃんとやってる。最初は非正規だったけど、今は正規社員として働いてる。給料もそれなり。で、彼女は今働いてる会社の副社長の娘さん」
「なっ……?!」
簡潔に纏められた兄の言葉に、私と両親は絶句。
「ふっ、副社長の娘?!」
「そんな大層な家のお嬢さんに手を出したのか、お前はっ!!」
兄の勤める会社の規模は分からないけど、副社長の娘という肩書きからして、両親的には大それた事だったらしい。
両親の慌てぶりに反して、兄は至って冷静で。
「一応、向こうの親御さんから結婚の了承は得てる」
「一応?!一応って何だ!」
テンパりつつある父の姿が新鮮で笑える。
「向こうのお父さん、結構クセが強くて。娘ラブの度合いも病的で説得するの苦労したんだよね」
「兄ちゃん、クセが強いって……千鳥のノブかよ」
「貴様とか言われちゃうし」
「貴様………ねぇ…」
どんな父親なのか若干興味を抱きながら、そっと右手の親指と人差し指で輪を作る。
「副社長の娘を選んだって事は………兄ちゃん、もしかして……これ目当て?」
掲げたお金サインを見た兄は、表情を無にする。
そして、嫌悪感たっぷりに吐き捨てる。
「…………遥、テメェ……一度死んどくか?」
「………や、遠慮しとく…」
やべぇ………兄を怒らせた。
「そんなちんけなもんの為に、神経擦り減らしてあの厄介なハゲ親父の相手してねーっての」
少なくとも、兄はお金目当てで凪さんを選んだ訳ではないようだ。
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