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第一章
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「改めまして、長旅お疲れ様でした。旦那様」
「ああ。この国に来るのは二、三度目になるが相変わらず綺麗な国だ。国民が皆幸せそうだった」
「それは良かったです。そう言って頂けるのなら、きっと皇族の皆様も喜ばれますわ」
やはり、わたくしに取って自慢のこの国を褒めて貰えるのはとても嬉しい。
「それにしても、リリアはユースゼルク皇族の方と親しいのか?」
「そうですね…昔から交流はありますわ」
「そうか。今度行われるらしい、夜会のことだが…」
「その夜会のことでしたら、申し訳ございませんが私は旦那様と別行動になります。私も参加しますが、私の姿を見付けられることはないかと」
「何故だ?」
「それは話せませんわ。夜会は明日と明後日の二日に分けて行われます」
通常の夜会とは違うため、詳しい話をしなければならない。
「一日目はユースゼルク大帝国では、七大公侯爵と言われる方のみの参加になります」
「七大公侯爵?」
「ええ。皇弟が継ぐ大公家、皇家を後ろから支える公爵家、創造神ヘウラ様の愛し子が継ぐ公爵家、各国境で貿易を行う四つの侯爵家」
「つまり、この国のトップに君臨する重鎮達と言うことか」
「そうです」
皇家主催なので、当然皇族も参加するが。
「そして二日目は大帝国の貴族全員が集まります。かなりの大規模になるかと」
つまりわたくしの場合、一日目は一人三役、二日目は一人四役となる。さすがに毎回着替えたりせず、同一人物として参加することになるが。
「それから、夜会の流れになりますがーーー」
「…分かった」
「話は以上です。私は部屋に戻りますので旦那様もごゆっくりなさって下さい」
「ああ」
まだ時間は昼だ。特にすることもない。読書でもしていようか…?
「『リリア!今少しいいか?』」
「『伯父上。どうなさいました?』」
「『今日、魔物を討伐しに行っていた第一騎士団がやられた。近くの神殿に怪我人をあつめられているが、全員もれなく重症だ。深魔の森だ。治癒に向かってくれないだろうか?』」
「『承知致しました。今すぐ向かいます』」
「『ああ。すまない。何度もトラブルを起こしてしまって』」
「『構いませんわ。では』」
トラブルと言っても、前回の訓練場が崩れたのも今回のことも、不慮の事故だ。どちらも誰かの手引きによって引き起こされたものではないことは確認した。
「ルイ。動きやすい服装に着替えるわ。恐らくまだ魔物は倒せていないはず。また霊力が尽きてはいけないから、今回は加護なしで戦うわ。着替え、手伝って頂戴」
「御意」
「レイ、メイ、セイ、ライ、アイ」
ルイに着替えさせて貰いながら、彼らを呼ぶ。
「深魔の森にてトラブル発生。わたくしは騎士団の治癒から行うわ。第一騎士団は一番強いはず。それなのに全員やられたそうよ。出来れば討伐を、難しかったらわたくしが行くまで食い止めておいて」
「「「御意」」」
動きやすいブラウスとズボンに着替えて、髪を一つにまとめた。アクセサリー類や髪飾りも外した。
「ありがとう、ルイ。わたくしは旦那様に少し離れることを伝えてくるから剣の準備を」
「御意」
ドアを開け、廊下に出ようとすると……旦那様にぶつかった。
「だ、旦那様っ!今の会話、聞いておられましたか!?」
「いや、あまり聞こえなかったが、魔物を討伐しないといけないのだろう?そこだけは聞こえた。リリアは危険だ。俺が行く」
「いえ。私が行かなくてはならないのです。恐らく旦那様でも倒せません。私は過去に何度もクレイス王国の剣術大会で優勝しているのです。私は大丈夫ですから旦那様はここにいてください」
「俺もリリア様では危険だと思うよ」
ルークまで。こんな話をしている暇はない。今すぐ向かわなくてはならないのに。
「…姫。恐れながら、もう明かすしかないかと」
「…………分かったわ。…旦那様、それとルーク」
「なんだ?」
「何ですか?」
結局、初日からバレることとなってしまった。だがいずれバレる可能性を考えると早いうちに伝えておいた方がやりやすいか………
「…わたくし、リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラの名において命じます。わたくしの言う通り、ここで待っていなさい。わたくしは皇女として、皇族として、一人でも多くの民を守り、救う義務があるのです」
加護を使って威圧しながら言う。二人とも目をこれでもかと言うほどに見開いている。
「リリアが……皇女…?」
「そうです。この王帝印に誓ってわたくしが皇女であることは間違いありません」
「……」
「詳しいことは後程お話しします。今は急いでおりますので。レイ達も行くわよ」
「御意」
必要最低限だけ告げ、影達を連れて転移する。ここからは時間との勝負だ。全員重症らしい。一刻も早く治癒しなければーー!
◇
俺は、皇女殿下に影だと伝えられた彼らを伴って姿を消した、リリアのいた場所を呆然と見つめていた。
「リリアが……リリア·マリデール元侯爵令嬢はユースゼルク大帝国の皇女だった……?」
「嘘…でしょ…」
確かにリリアはどこか計り知れない所を持っている人物だった。ルークに調べさせた彼女の情報。不自然なくらいに普通だった。
「どれだけ調べてもリリア様の情報が一部しか出てこなかったのは、誰かが秘匿していたから?」
「その可能性は高い。…本人から聞いたわけではないのから余計なことを考えるのはやめよう。一つ分かるのはリリアがユースゼルク大帝国の皇女だったということだ。あの王帝印の指輪は偽物ではないだろう」
「リリア様は皇女殿下の影だと言われた人達に命令していたし」
とにかく、今はリリアが戻ってくるのを待つしかないか…
………思えば俺は、世界有数の大国が集まる大陸の序列一位、つまり世界一といえる国の皇女に対してすごく無礼なことをしていなかったか?
クレイス王国の国王陛下や王族の全員がリリアだけでなくリリアの家族全員に対して、接するときに緊張した様子を見せていたのはリリア達が皇族だからではないか?
さすがに国王陛下がこのことを知らないとは思えない。しかも、そのリリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ殿下は帝位継承権第二位ではなかったか?
……ん?リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ?…って創造神ヘウラ様の愛し子に付く名前では…?
駄目だ。考えれば考えるほど自己嫌悪してしまう。…全て聞いた後に誠心誠意謝ろう…
◇
「皆様!ご無事ですか!」
「皇女殿下にご挨拶…」
「今は良いわ。取り敢えず治癒します」
「お願い致します」
第一騎士団は半分の人数くらいしか討伐に出ていなかったのだろうか。三十人程しかいない。
「"治癒"·全体発動」
やはり、前回に比べて消費する霊力の量が減っている。加護の質も落ちていない。レベルが上がったようだ。
「アイ。あとは任せるわ。わたくしは魔物の討伐に向かうから『何があったか聞いておいて。わたくしは一応鑑定しながら聞くわ』」
「御意」
この場をアイに任せたのは、アイの武器が毒で、魔物相手には効きにくいからだ。
魔物というのは、魔の泉を浄化しない限り増え続ける。浄化してもしばらくすると元に戻ってしまう。だから定期的に討伐しないといけないのだ。
「"千里眼"」
千里を見通す加護だ。愛し子の優れた五感もあり、大抵のものは見えるようになる。だが、出来る限り見たい範囲を絞らないと目が焼ける。
(三首のドラゴン!)
かなり厄介な魔物だ。魔物の中では上位種になる。これなら第一騎士団が負けたのも分かる。
三首のドラゴンというのは、文字通り首が三つあるドラゴンだ。全ての首を同時に切らなければならない。それに加えてどうやら周囲には中位種の魔物が集まっているようだ。
「ああ。この国に来るのは二、三度目になるが相変わらず綺麗な国だ。国民が皆幸せそうだった」
「それは良かったです。そう言って頂けるのなら、きっと皇族の皆様も喜ばれますわ」
やはり、わたくしに取って自慢のこの国を褒めて貰えるのはとても嬉しい。
「それにしても、リリアはユースゼルク皇族の方と親しいのか?」
「そうですね…昔から交流はありますわ」
「そうか。今度行われるらしい、夜会のことだが…」
「その夜会のことでしたら、申し訳ございませんが私は旦那様と別行動になります。私も参加しますが、私の姿を見付けられることはないかと」
「何故だ?」
「それは話せませんわ。夜会は明日と明後日の二日に分けて行われます」
通常の夜会とは違うため、詳しい話をしなければならない。
「一日目はユースゼルク大帝国では、七大公侯爵と言われる方のみの参加になります」
「七大公侯爵?」
「ええ。皇弟が継ぐ大公家、皇家を後ろから支える公爵家、創造神ヘウラ様の愛し子が継ぐ公爵家、各国境で貿易を行う四つの侯爵家」
「つまり、この国のトップに君臨する重鎮達と言うことか」
「そうです」
皇家主催なので、当然皇族も参加するが。
「そして二日目は大帝国の貴族全員が集まります。かなりの大規模になるかと」
つまりわたくしの場合、一日目は一人三役、二日目は一人四役となる。さすがに毎回着替えたりせず、同一人物として参加することになるが。
「それから、夜会の流れになりますがーーー」
「…分かった」
「話は以上です。私は部屋に戻りますので旦那様もごゆっくりなさって下さい」
「ああ」
まだ時間は昼だ。特にすることもない。読書でもしていようか…?
「『リリア!今少しいいか?』」
「『伯父上。どうなさいました?』」
「『今日、魔物を討伐しに行っていた第一騎士団がやられた。近くの神殿に怪我人をあつめられているが、全員もれなく重症だ。深魔の森だ。治癒に向かってくれないだろうか?』」
「『承知致しました。今すぐ向かいます』」
「『ああ。すまない。何度もトラブルを起こしてしまって』」
「『構いませんわ。では』」
トラブルと言っても、前回の訓練場が崩れたのも今回のことも、不慮の事故だ。どちらも誰かの手引きによって引き起こされたものではないことは確認した。
「ルイ。動きやすい服装に着替えるわ。恐らくまだ魔物は倒せていないはず。また霊力が尽きてはいけないから、今回は加護なしで戦うわ。着替え、手伝って頂戴」
「御意」
「レイ、メイ、セイ、ライ、アイ」
ルイに着替えさせて貰いながら、彼らを呼ぶ。
「深魔の森にてトラブル発生。わたくしは騎士団の治癒から行うわ。第一騎士団は一番強いはず。それなのに全員やられたそうよ。出来れば討伐を、難しかったらわたくしが行くまで食い止めておいて」
「「「御意」」」
動きやすいブラウスとズボンに着替えて、髪を一つにまとめた。アクセサリー類や髪飾りも外した。
「ありがとう、ルイ。わたくしは旦那様に少し離れることを伝えてくるから剣の準備を」
「御意」
ドアを開け、廊下に出ようとすると……旦那様にぶつかった。
「だ、旦那様っ!今の会話、聞いておられましたか!?」
「いや、あまり聞こえなかったが、魔物を討伐しないといけないのだろう?そこだけは聞こえた。リリアは危険だ。俺が行く」
「いえ。私が行かなくてはならないのです。恐らく旦那様でも倒せません。私は過去に何度もクレイス王国の剣術大会で優勝しているのです。私は大丈夫ですから旦那様はここにいてください」
「俺もリリア様では危険だと思うよ」
ルークまで。こんな話をしている暇はない。今すぐ向かわなくてはならないのに。
「…姫。恐れながら、もう明かすしかないかと」
「…………分かったわ。…旦那様、それとルーク」
「なんだ?」
「何ですか?」
結局、初日からバレることとなってしまった。だがいずれバレる可能性を考えると早いうちに伝えておいた方がやりやすいか………
「…わたくし、リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラの名において命じます。わたくしの言う通り、ここで待っていなさい。わたくしは皇女として、皇族として、一人でも多くの民を守り、救う義務があるのです」
加護を使って威圧しながら言う。二人とも目をこれでもかと言うほどに見開いている。
「リリアが……皇女…?」
「そうです。この王帝印に誓ってわたくしが皇女であることは間違いありません」
「……」
「詳しいことは後程お話しします。今は急いでおりますので。レイ達も行くわよ」
「御意」
必要最低限だけ告げ、影達を連れて転移する。ここからは時間との勝負だ。全員重症らしい。一刻も早く治癒しなければーー!
◇
俺は、皇女殿下に影だと伝えられた彼らを伴って姿を消した、リリアのいた場所を呆然と見つめていた。
「リリアが……リリア·マリデール元侯爵令嬢はユースゼルク大帝国の皇女だった……?」
「嘘…でしょ…」
確かにリリアはどこか計り知れない所を持っている人物だった。ルークに調べさせた彼女の情報。不自然なくらいに普通だった。
「どれだけ調べてもリリア様の情報が一部しか出てこなかったのは、誰かが秘匿していたから?」
「その可能性は高い。…本人から聞いたわけではないのから余計なことを考えるのはやめよう。一つ分かるのはリリアがユースゼルク大帝国の皇女だったということだ。あの王帝印の指輪は偽物ではないだろう」
「リリア様は皇女殿下の影だと言われた人達に命令していたし」
とにかく、今はリリアが戻ってくるのを待つしかないか…
………思えば俺は、世界有数の大国が集まる大陸の序列一位、つまり世界一といえる国の皇女に対してすごく無礼なことをしていなかったか?
クレイス王国の国王陛下や王族の全員がリリアだけでなくリリアの家族全員に対して、接するときに緊張した様子を見せていたのはリリア達が皇族だからではないか?
さすがに国王陛下がこのことを知らないとは思えない。しかも、そのリリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ殿下は帝位継承権第二位ではなかったか?
……ん?リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ?…って創造神ヘウラ様の愛し子に付く名前では…?
駄目だ。考えれば考えるほど自己嫌悪してしまう。…全て聞いた後に誠心誠意謝ろう…
◇
「皆様!ご無事ですか!」
「皇女殿下にご挨拶…」
「今は良いわ。取り敢えず治癒します」
「お願い致します」
第一騎士団は半分の人数くらいしか討伐に出ていなかったのだろうか。三十人程しかいない。
「"治癒"·全体発動」
やはり、前回に比べて消費する霊力の量が減っている。加護の質も落ちていない。レベルが上がったようだ。
「アイ。あとは任せるわ。わたくしは魔物の討伐に向かうから『何があったか聞いておいて。わたくしは一応鑑定しながら聞くわ』」
「御意」
この場をアイに任せたのは、アイの武器が毒で、魔物相手には効きにくいからだ。
魔物というのは、魔の泉を浄化しない限り増え続ける。浄化してもしばらくすると元に戻ってしまう。だから定期的に討伐しないといけないのだ。
「"千里眼"」
千里を見通す加護だ。愛し子の優れた五感もあり、大抵のものは見えるようになる。だが、出来る限り見たい範囲を絞らないと目が焼ける。
(三首のドラゴン!)
かなり厄介な魔物だ。魔物の中では上位種になる。これなら第一騎士団が負けたのも分かる。
三首のドラゴンというのは、文字通り首が三つあるドラゴンだ。全ての首を同時に切らなければならない。それに加えてどうやら周囲には中位種の魔物が集まっているようだ。
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