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第一章

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レイ達も苦戦しているようだ。

「よく持ちこたえたわね!ここはわたくしに任せて頂戴!」
「私達は周囲の魔物を狩ります!」
「お願いするわ」

これは…わたくしの加護や剣術でもそう簡単に倒せないだろう。

「ーーー彼の者に鉄槌を!ジャッジメント!」

ピカッと光った後、ドオォォォン…!と、空から雷が落ちてくる。三本の光の筋がそれぞれの首を焼き落とし、三首のドラゴンは消滅した。

今使ったのは、愛し子が使える中級加護の一つ。通常の三倍の霊力を消費する上、愛しの加護が最上級レベルでないと使うことが出来ない。

「…姫、こちらも倒しました」
「それにしても、姫さんがその加護を使っているのは久しぶりに見たよ……」

そう簡単に使うわけにはいかないからだろう。初めて使えるようになった時以来、使用していない。

「戻りましょう」
「御意」

戦いながら聞いていた。第一騎士団の団長がこのようなことになった理由を話していた。特に何かしたわけでもなく、討伐しようとして返り討ちにあっただけだと。鑑定していたが、嘘ではなかった。

「ドラゴンは無事に討伐したわ。団長」
「は!」
「この件は陛下に報告しておいて。わたくしからお咎めはしないように伝えておくわ。治癒したけれど、今日は安静にしておいて」
「御意。殿下、私達を救って頂き感謝致します」
「ええ。ではね」

さて、今度は別邸でわたくしのことを話さなければならない。面倒だが…明かしてしまった以上、仕方ないだろう。

「"転移"」

魔の泉は浄化しておいた。これでしばらくは落ち着くことだろう。次にユースゼルクに帰る時まで持てば充分だ。

「『伯父上、今回の件は無事に片付きましたことを報告致します』」
「『助かった』」
「『それと一つ……旦那様にわたくしが皇族だと言ってしまいましたわ……』」
「『これまた突然だな。何があった?』」
「『深魔の森に行く前に、レイ達に命令しているところを聞かれまして。これから詳しいことを話します』」
「『それは…迷惑かけたな、リリア。後日リリアの願いを一つ聞こう』」
「『分かりました…伯父上が嫌がるくらいのものを考えておきますわ』」

わたくしの注意不足でもあり、伯父上のせいでもある。何か考えておこう。

「『お手柔らかにな』」
「『考えておきますわ。では』」

まずはわたくしが使用している部屋に旦那様を呼んで貰う。その間に再び着替えておいた。今日は着替えが多い日だ。

コンコンコン…
「どうぞ」
「し、失礼する」

ガチャッとドアを開け、遠慮がちに入ってくる旦那様。顔が真っ青だが、どうかしたのだろうか。

「ここへ座って下さい。ルークも気配を消さなくていいから旦那様の隣に座って頂戴」
「は、はい」
「そう固くならなくても今まで通りで構わなくってよ、旦那様」



「そう固くならなくても今まで通りで構わなくってよ、旦那様」

扇をバサッと開き、入室した俺達に座るよう促して言う。やはりルークのことにも気が付いている。何故分かるのだろうか。

「それで、何から知りたいのです?」

もはや、取り繕うこともなくハッキリと言う。リリアの影達も姿を隠す気はないようだ。

「何から、か。リリア…殿下が話せることを全て」
「今まで通りで構わないと言いましたわ。旦那様にそのような態度を取られるのは違和感が凄いです」
「…分かった。では話してくれ」
「そうねぇ…何からが良いかしら?」

少し悩んでからリリアは話し始めた。マリデール侯爵家の当主についてや、自分の身分。
自国の民と他国の王族にしか話していない理由など。それから、自分の加護についてなども。

全て話してくれた。俺もルークもただただ驚くことしか出来なかった。

心底つまらなさそうに扇を開いたり閉じたりと弄びながら、それでも笑顔を保ちながら話すリリアに影達の顔は少しひきつっていた。

「…と、言うことよ。申し訳ないけれど口調も本来の方に戻させて頂くわ」
「あ、ああ」
「姫さん、公爵達が怯えてるよ。まあ俺としては全然構わないけどねぇ?むしろもっとやってほしいくらい」
「あら、わたくしとしたことが。申し訳ありません、旦那様?」
「い、いや。大丈夫だ」

彼女の皇族らしいオーラに俺もルークもたじろいでしまう。計り知れない所があったリリアの本質はこれなのか?

「姫様の本質はこんなものではありませんよ~?私達も見たことがないです~」

これでまだまだなのか?俺の心を読んだようなタイミングで言われた。

「今、姫の機嫌はあまりよくないようですが、普段はもっと明るい方ですので誤解なさらぬよう」
「あ、ああ。分かっている」

不意に今何時?とリリアが影に聞く。もう五時を回っていた。一時間以上話し込んでいたようだ。

「稽古の時間ね。今日も第二に行くわよ」
「御意」
「そうだわ。旦那様もわたくし直属の影の稽古、見に来られます?」
「良いのか?」
「ええ。ルークも一緒に良いわよ。ルークって旦那様の影のような役割を持っているでしょう?良い勉強になると思うわ」

そこまで見抜いていたとは…本当にリリアは何者かと聞きたくなる。いや、先程聞いたばかりなのだが。

「で、ではそうさせて貰います」
「ルークもいつも通りで構わないわ」
「…分かったよ」
「では行きましょうか。"転移"」

っ!?一瞬空間が歪んだ感じがした。咄嗟に目を瞑ったのだが、目を開けてみると皇都の入口に立っていた。これが転移の加護なのか。影達は慣れているようだが、ルークは不思議そうに手を握ったり開いたりしている。

「何故皇都なんだ?」
「ここは、我が大公家であるウィーウェン城と皇城の間にある、皇都を縮小して完全に再現した第二訓練場になります」
「姫。今日は確かシモン皇子と皇太子殿下もここにいるのでは?」
「そういえばそうだったわね。彼らにも旦那様のことお話ししておきましょ」

シ、シモン皇子ってリリアの弟では!?と言うことは皇族のはず。それに皇太子殿下って……

「ここは皇族直々に許可しないと入れない造りになっていますの。"リリア·ゼル·ユースゼルク=ヘウラ。皇族たる我が名において入場を許可する"。さあ行きましょう」

流れるように呪文のような言葉を言い、中に入っていく。俺達も後に着いていった。少し歩くようだ。

「シモン、シュナ」
「リリアか。……そこの彼はスミス公爵だったか?」
「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
「ああ、楽にしてくれ。私達は親戚になったのだから」

親戚になった、と言っているにも関わらず、彼からは殺気を感じる。

「姉上。伯父上から聞きました。彼がここにいると言うことは、伯父上が言っていたようにスミス公爵にバレてしまったのですね」
「そうね」
「だからバレないように頑張って下さいとお伝えしたのに、初日からバレてどうするのですか」
「どうするも何も知られてしまったのなら仕方ないでしょう?それより、アオ達とシュナの直属は?」

どうやら皇子殿下と皇太子殿下とはかなり親しいらしい。先程まで少し残っていた威圧感が完全に消えた。

「合同で手合わせさせています。レイ達はどうするのですか?」
「わたくしと一対六で戦って貰うわ。さあ、そろそろ始めるわよ」
「御意」

少し俺達の傍から離れて、かかってくるように命じる。一対六って、彼らはかなり強そうだがリリアは大丈夫なのだろうか?

「スミス公爵。話したいことがあるのだが、構わないか?」
「奇遇だな、シュナ。私もそう思っていた。公爵、構わないか?」
「は、はい」

ーーー
ご覧頂きありがとうございます。しばらくリリアside以外を増やします。そちらも楽しんで頂けたら嬉しいです。  山咲莉亜
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