飛竜誤誕顛末記

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第三章 将軍様はご乱心!

第31話 報い

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**ヴァルグィ視点**
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刑場に足を運べば例の連中が跪き首を垂れたまま、四方を馬軍兵達に囲まれ揃いも揃って情けなく震えていた。

「それではさっさと終えてしまいましょう」
「うむ」
イヴァンの引いた椅子に腰を下ろし、罪人達を見下ろす。
ここに居るのは、先日の件で罪が確定した者達だ。
ケイタを売った者、ケイタを買った者、ケイタを買おうとした者だ。
本来であれば、刑の言い渡しや執行などは直接私がすることではないが、今回はケイタが関わっている故、直々に引導を渡してやる事にした。

「では、まずは違法と知っていながら隠し印の奴隷売買に入札を行なった者達から」
イヴァンが言えば、数人の男達が兵達に引き摺り出され私の前に跪いた。
「罪状は奴隷の違法売買、落札には至らず入札のみとなりますが、入札した時点で罪は同じです。いかが致しますか将軍」
「奴隷の違法売買を行なった場合の刑罰は?」
「鞭打ち30回から最大で50回の上、財産没収となります。この者達は入札のみで売買契約までには至らなかったので、鞭打ち刑のみが妥当かと」
「では鞭打ち50回だ。もっとも硬い鞭で打て」
私の宣告に、全員が細く悲鳴をあげた。
たとえ購入に至らずとも、こいつらはケイタに触れたのだから、この程度で済んだ事を感謝すべきだ。
私が刑を言い渡せば、次の者達が引き摺り出される。

「次は奴隷売買を行なった、奴隷商人達です」
奴隷商の主と従者達だ。
厳しい取り調べを受けたのだろう、全員憔悴しきった様子で大人しく膝をついている。
殴られた跡も見られるが、大方賄賂でも渡そうとして兵の怒りを買ったのだろう。
愚かな者達だ。
「罪状は奴隷の違法売買ですが、帳簿などを調べましたところ過去にも同じような違法の奴隷売買を行なった記録がありました」
陛下のお膝元である王都で、そのように堂々と法を犯すとは許し難い。
「では、鞭打ち50回の上、財産没収を」
私の言葉を聞いて、奴隷商の主がガックリと首を落としている。
「・・・・全員同じ罰でよろしいですか」
イヴァンが少し意外そうな顔をした。
もっと重い刑を言い渡すと思ったのだろう。
だが、法で定められている以上、それ以上の罰は与えられない。
しかし。
だからと言って、勿論それだけで終わらせる気はない。
「もちろん、犯した罪分の罰は受けてもらう。鞭打ち50回は違法売買1件につきの罰だ」
言い渡してやれば、途端に全員の表情が絶望に彩られた。
「奴隷商の主人と執事は主犯格とし、違法売買1件ごとに鞭打ち50回の上、財産没収とする。従業員に関しては、鞭打ちは50回のみ、同じく財産没収とする」
主人と執事は悲鳴も出ない様な顔で、唇を震わせた。
「あぁ、イヴァン。鞭打ち刑は必ず最後まで受けさせろ。全ての罰を受けるまで決して死なせるな。体力が保たないようであれば、数日に分けて罰を受けさせればいい」
「ひっ・・・お、お許しを・・・お許しを・・・」
「違法と分かっていて罪を犯した以上、もちろん罰を受ける覚悟はできていたであろう?」
見苦しく命乞いする主人と執事が、他の従業員と共に容赦なく兵達に引きずられていく。
この期に及んで命乞いなど、全く反省の色が無い。
呆れたものだ。

「次は、隠し印と分かっていて奴隷の落札をした者です」
酷くボロボロになった男が1人、私の目の前に放り出され跪く。
今までの連中にも腹が立っていたが、この男は特に許しがたい。
ケイタに過剰な夜香を仕込み、玩具にした男だ。
「罪状としては、奴隷の違法売買と強姦罪です」
男を見下ろすイヴァンの目も冷めきっている。
「違法奴隷の購入も今回が初めてではありません」
イヴァンに渡された報告書に軽く目を通す。
これは既に一回読んでいるから、内容は分かっている。
余罪が無いか調べれば調べるほどに、胸の悪くなる行いが明るみに出た。
この男は本当に腐っている。
国内有数の豪商であり、数多くの貴族達とも繋がりがある様で。
表向きは人当たりの良い人格者の面を被っていたようだが、裏ではケイタのような年端もいかない少年や少女を甚振り辱めるのが趣味の品性下劣な人間だ。
力のない子供を大勢で凌辱したり、信じ難い事だが魔物と無理矢理番わせるなど人とは思えない所業をしていたらしい。
そうして玩具が壊れれば、また奴隷を購入し同じことを繰り返す。
「汚らわしい」
報告書をイヴァンに返し、男を見下ろす。
取り調べ中も、繋がりのある貴族の名前を出し権力に物を言わせようとしたり、賄賂で懐柔しようとしたりと、中々に見苦しい抵抗をしていたらしい。
馬軍兵相手にそのような振る舞いをするとは、愚か極まりない。
勿論、兵の怒りを買っただけで何の効果も無いし、そのせいでかなりキツく締め上げられた様だ。
相当に殴られたのだろう、もはや抵抗する気配もなくグッタリとしている。
「違法売買については、先程の奴隷商人と同じだ。財産は全て没収、鞭打ちは過去に行なった違法売買の数分だけ受けさせろ」
先程の奴隷商達はこの時点で真っ青になっていたが、この男は憔悴しきっているのか静かに刑の言い渡しを受けている。
反省していると言うよりも、もう諦めているのだろう。
だが、これで済ますつもりは無い。
「強姦罪については・・・イヴァン、こいつは去勢させろ」
去勢は強姦罪の最大刑罰だ。
ケイタに対する行い、今までに苦しめた子供達への行い。
最大刑罰を下すに値する蛮行だ。
「ひっ・・」
男の身体がびくりと揺れ、恐怖に固まった顔で此方を見上げてきた。
「あ・・・嫌だ・・・それだけは・・・お許しを・・将軍様、どうか・・」
他の罪人達も一様に青ざめている。
「将軍に直接口をきくとは、無礼者めっ」
イヴァンが厳しく叱咤すれば、側に立っていた兵が男の頭を地面へと押さえつけた。
「まぁ良い、イヴァン」
その程度の無礼など今更どうでも良い。
「去勢につきましては、睾丸を落としますか、陰茎を落しますか」
「全てだ。全部切り落とせ。あの様な事をせねば役に立たないモノなど、不要であろう?」
「嫌です!嫌だぁっ!絶対に嫌だぁ!」
まるで駄々をこねる子供の様だ。
「お前は今までにもっと残酷な事をしてきたのだろう?それに比べれば些細な事ではないか。何、一瞬で終わる。精々死なないよう体力をしっかりとつけておくが良い」
無様に泣き喚き暴れる男が、先に刑を言い渡された者達もいる刑場の端へと引きずられていく。
何と醜悪な。
何と往生際の悪い。
平気で人を傷つけるくせに、自分が傷つく覚悟は何もない。
罪深き無責任さだ。

「さて、最後ですね」
泣きながら引き摺られていく男を呆れた様に見ていたイヴァンだが、最後に残った者達を見て眦を吊り上げた。
ケイタに手を出し、私の印を侮辱し、最後まで逃げた男達。
「罪状は、誘拐罪、強姦罪、奴隷の違法売買。そして奴隷の違法売買に関しては、将軍の印と知った上での犯行であり、将軍への不敬罪となります」
救いようが無いですねとイヴァンが軽蔑の眼差しを向ける。
「今回は未遂ではありましたが、強姦罪については取り調べで過去の犯行も発覚しています。常習的に犯罪を繰り返しており大変に悪質です」
「ふむ、では、違法売買に関しては他の者と同じく、鞭打ち50回と財産没収だ」
「はっ」
「さて、誘拐罪についてはどうするか」
「誘拐罪は、最も重い窃盗罪の一つとなります。窃盗罪の最大刑は斬手です」
淡々としたイヴァンの説明に、罪人達が震える。
「そして今回最も大きな罪は将軍に対する不敬罪となりますね。将軍の印持ちと分かっていてそれを隠し奴隷商に売ったのです。言い逃れは出来ません」
上位階級への不敬は厳しく罰せられる。
不敬を働いた相手の階級によって罰は変わるが、最上位階級である将軍への不敬は極刑だ。
「死罪は確定しています」
イヴァンの容赦ない言葉に、罪人達が一様に肩を落とした。
「死罪ではありますが、他の罪についての罰も受けさせますか」
「当然だ」
例え極刑であろうとも、他の罪が許される訳では無い。
犯した罪分は罰を受けてもらう。
「誘拐罪も強姦罪も最大刑を言い渡す」
先程の男とは違い、全員覚悟していたのか青褪め震えてはいたが無様に泣き喚くような事はしなかった。
いや、二人ほど失神しているか。

刑場を後にし、イヴァンと共に執務室へと戻ってきた。
今頃、刑場では鞭打ちの刑が執行されているだろう。
だが、わざわざそれを見届ける程私も暇ではない。
仕事はいくらでも湧いてくるのだから。
「はぁ、ようやく一段落ですね」
イヴァンが疲れたように肩を回している。
「あぁ。これでケイタを安心して外に出してやれる」
やっとケイタを苦しめた者達に報いを受けさせた。
これでこの件は終いだ。
「それで・・・その後、ケイタはどうですか?元気にしていますか」
「そうだな。元気だし普段通りの様子で大丈夫そうにしてはいる。表面上はな。困った子だ」
残った問題はケイタの心だ。
何故、あんなに気丈に振る舞うのか。
もっと私を信頼して、頼って欲しいのだが・・。
「ケイタの“大丈夫”はなんとも厄介ですねぇ」
イヴァンも苦笑している。
「まぁ、あの癖は少しずつ治していくしかあるまいな」
無理に心をこじ開けてはいけない。
今はケイタが心穏やかに過ごせるように気を配ってやらねば。
いつか、心の底から私を信頼できる日が来たのならば、その時はどうか弱っている姿も全て曝け出してほしい。
私が全て受け止め、守ってやるから。

「そうだ、イヴァン。私は今後1週間おきに休みを取ることにする」
「それは!素晴らしい!」
日程の調整の為、休日の希望を伝えればイヴァンが妙に嬉しそうに声を上げた。
「・・・何故そんなに喜ぶ」
「将軍、貴方が休んでくれなければ部下である私も休めないのですよ。部下が上司よりも多く休むなんて出来ないでしょう。あぁ、嬉しい」
最後の台詞は妙に嫌味が混ざっている気がするが、私の配慮が足りていなかったようだ。
「すまぬな・・・」
「まぁ、全く働かないよりはマシですがね。それにしても、まさか貴方から休みを増やすと言うとは思いませんでした。・・・ケイタですか?」
「うむ・・・・ケイタだ」
「それは、今度きちんと礼を伝えねば」
余程、自分の休みも増えるのが嬉しいらしい。
まぁ、確かに昨日のような楽しい時間を経験してしまうと、休みを楽しみにする気持ちも理解できる。
実際、私は既に次の休みが待ち遠しくて仕方が無いのだから。
次の休みも家でゆっくりするか、それとももう外に出しても安心なのだからケイタと共に2人っきりでどこかに出掛けるか。
実に、楽しみだ。
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