天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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 平片とは歳がひとつ違いで、何度も同じ歳の恵が羨ましかった。そんな自分の気持ちが許せなくて、好きな平片に対して態度が冷たい物になっていた。
 でも今は違う。平片が鈴を好きでいてくれる。鈴も好きだ。だから身体を重ねた。今日は二度目になる。鈴は頬を染めて、平片の広い胸に抱き付いた。

「恵、身体動けそう?」
 十和子が仏壇にご飯と水を添えながら、訊く。
「うん。そろそろリハビリ兼ねて歩くよ。布団はお父さんに返す」
「動けそうなら、たまには明日二人で進学の話でもしようか」
「え?」
 太一がたまにはと云う。
「美味しいお店を見付けたんだ。リハビリがてらたまには親子水入らずで、良いんじゃないか?」
「…俺は良いけど?」
「ずるいっぼくもいくぼくも!」
 十和子が太一の膝から、伊吹を抱き上げる。
「伊吹は鈴と愛のお兄ちゃんよね?」
「うっうん。でも…」
 伊吹は恵を振り帰る。
「なら、我侭云わない様にしなくちゃね? もう少しで年越し蕎麦出きるから、こっちへいらっしゃい。杏仁豆腐作ってあるわよ? 伊吹も食べる?」
「たべるっ」
 伊吹はころりと喜んで、キッチンへ駆けて行った。
「進学…かぁ。俺まだどこも…」
「いや。恵はもう決めてたよ」
 恵は睡眠薬の効果で、ぼんやりと太一の話を聞く。
「…何を?」
「調理師さ」
「ちょう、り…しぃ?」
「お母さんの喫茶店を守りたいから、資格を取った方が良いだろうって」
 恵はウトウトとして、太一を見る。半分夢の中だ。
「話は明日だな。おやすみ恵」
「…おや、すみ…」
 恵は太一の大きな掌で、頭を優しく撫でられた。

 鈴は布団から起きようとした時、ふと、平片の腕が横から腰を抱いているのに気付いた。平片は気持ち良さそうに、寝息を立てている。鈴はベッド脇の時計を見る。深夜三時を回っていた。
「裕太、ねぇ、起きてっ」
 鈴は身体を捻って裕太を揺すり起こす。
「う…ん。恵?」
 鈴は刹那、手を止めて平片の顔を凝視した。
「…裕太?」
 嫌な鼓動が耳に響く。平片は恵を心配しているだけ。
 ーーー恵の事、もしかしてまだ?
 鈴は平片の腕を、自分の腰から強引に引き離して、ベッドを下りる。
「っ」
 平片が付けたキスマークが、あちこちに散っている。泣きそうになって、鈴はバスルームへ走った。
「ん? あれ? 鈴…シャワーか」
 のそりと起きて、全裸のままバスルームのドアを開ける。 頭から熱いシャワーを浴びていた鈴の後姿に、平片はまた欲情したのか鈴を背後から抱き締めた。
「鈴。一緒に入ろう」
「っ裕太」
 腰に平片の物が押し付けられて、鈴は紅くなる。
「駄目。新年だよ? 神社に新年のお参りだって行きたいし。それに僕お腹空いたし…」
 鈴は零れた涙を、シャワーで流して駄々を捏ねる。
「そうか。もうそんな時間か。鈴、家に電話したか? 両親イギリスから帰ってんだろう?」
「え? あぁ…。恵の見舞いに行く前に。裕太と食事してから、そのままお参りに行くって、メールしておいたけど」
「鈴のお母さん、なんて云ってた?」
「う、ん。珍しいって。でもうち両親新婚当時と変わんないから。今頃盛り上がってるかも、お父さんの方は久しぶりの帰国だし」
「じゃあ。俺達も負けずに」
 キスをしようとしたので、鈴は平片の顔を両手で押し退けた。
「ム~ケチ」
 ーーー殴ったろか、この馬鹿。
 鈴は睨んで見上げた。不意に平片が鈴の目許を親指で撫でる。
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