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天使は甘いキスが好き
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「何?」
「…いや。泣いてたのかと思ってさ」
鈴はぎくりとした。
「止めてって云ったのに、お前が何度もするからっ!」
「ああそうか。そういや好い声で啼いてたもんな?」
鈴は真っ赤になって顔を上げた。
「!」
唇が重ねられて鈴は双眸を閉じる。鈴の腕が平片の後頭部を引き寄せ、平片はタイルで脚が滑らない様に、鈴の腰を抱き寄せた。
「恵、もう歩けるんだな」
朝。太一が起きてきて、恵がリビングに居るのにホッとする。
「うん」
「母さんと伊吹は?」
「裏庭かな。玲と愛も一緒だよ」
時計を見れば十時を過ぎている。
「じゃあ。約束通り出掛けるか。歩いて行こう。奢ってやるから」
「うん。直ぐ支度する」
恵はゆっくりと歩きながら、二階の自室へ向かった。太一は裏庭へ行くと、十和子に出掛けると伝えた。毎年の元旦は曇りが多いのだが、今年は晴天に恵まれている。
降った雪は端っこの日陰にちょこんと残っているだけだ。
「お父さん、ギブス取れるまで袖なしだけど、ジャンバーで大丈夫だよね?」
「ああ。夕方までには帰るから」
「うん。昨日鈴に勉強教えて貰う約束したから。今日の夕方には来るかな。メール送っておく」
恵は携帯をジャンバーのポケットに突っ込んだ。太一はコートと財布を手に、玄関へ向かう。
二人はルミネに向かって歩き出した。綺麗に着飾った着物姿の女性が、楽しそうにカップルで歩く姿や、友人同士の会話に弾む女性が目立つ。駆けて来た二歳ぐらいの女の子が、恵を通り越して豪快に転んだ。母親が慌てて助け起こす姿に、恵はかおるを思い出していた。
「お腹空いたろう?」
「あんまり。でも甘い物は食べたい」
伊吹の前ではお兄ちゃんだからと、多少なりとも我慢している。この歳でパフェなんて恥ずかしい。と云ったものだが、今日は特別と恵は久しぶりの我侭を云う。
「じゃ、そこの喫茶店な?」
「うん。混んでなさそうだから、直ぐ座れそうだね」
中に入ると、エプロン姿のアルバイトが出迎える。
「おタバコはお吸いになりますか?」
「いや。あぁ。あそこの窓辺が空いているから、そこにするよ」
「畏まりました」
二人は窓辺に腰を下ろして、向かい合わせでメニュー表を開く。そこへ太一が胸ポケットの携帯を取り出した。
「あぁ、恵すまない、電話だ。ちょっと出て来るから、先に選んで食べてなさい」
「は~い」
恵はメニュー表の、美味しそうなデザートを選ぶのに夢中だ。太一は微笑んで、店の外へ出る。
「もしもし…あぁ。すみませんね。突然、お忙しい所。恵? あぁ。元気ですよ。店の場所を云いますから、えぇ。本当に、頼れるのは、多分あなただけでしょうから。うちの母の事は、気にしないで下さい。えぇ。それじゃ…場所は…」
太一は携帯を切ると、エスカレーターを降りて行った。
恵はデザートを決めてから、龍之介から届いている新年の挨拶に返事を打つと、今度は鈴と平片にも新年の挨拶をした。
『鈴へ。夕方勉強教えてね?』
恵はウエイトレスの持って来たパフェを見て驚く。
「こんなに大きいんだ…」
ちょっと恥ずかしいかも。と、恵は固まる。どう見ても二人分はありそうだ。
「見て見てあそこの子、可愛い、パフェ食べるんだぁ」
「やだマジ? 女の子みたい。可愛い」
女子大生らしい二人が云う。そこへひとりの女性が恵の許へ寄って来た。
「…あんた。まさかまた遭うなんてね」
「?」
恵は見知らぬ女性を見上げた。
「…あの?」
「あんたのせいで龍君可笑しくなったのよ。この恥知らず!」
恵は頬をカッと紅く染めて立ち上がった。
「ちょっとなんですか? あなたは!? 人違いでしょう? 失礼でしょう?」
店内がざわめき出す。
ーーーお父さん遅い、どうしたんだろう!? この人誰!?
「美加!?」
「…いや。泣いてたのかと思ってさ」
鈴はぎくりとした。
「止めてって云ったのに、お前が何度もするからっ!」
「ああそうか。そういや好い声で啼いてたもんな?」
鈴は真っ赤になって顔を上げた。
「!」
唇が重ねられて鈴は双眸を閉じる。鈴の腕が平片の後頭部を引き寄せ、平片はタイルで脚が滑らない様に、鈴の腰を抱き寄せた。
「恵、もう歩けるんだな」
朝。太一が起きてきて、恵がリビングに居るのにホッとする。
「うん」
「母さんと伊吹は?」
「裏庭かな。玲と愛も一緒だよ」
時計を見れば十時を過ぎている。
「じゃあ。約束通り出掛けるか。歩いて行こう。奢ってやるから」
「うん。直ぐ支度する」
恵はゆっくりと歩きながら、二階の自室へ向かった。太一は裏庭へ行くと、十和子に出掛けると伝えた。毎年の元旦は曇りが多いのだが、今年は晴天に恵まれている。
降った雪は端っこの日陰にちょこんと残っているだけだ。
「お父さん、ギブス取れるまで袖なしだけど、ジャンバーで大丈夫だよね?」
「ああ。夕方までには帰るから」
「うん。昨日鈴に勉強教えて貰う約束したから。今日の夕方には来るかな。メール送っておく」
恵は携帯をジャンバーのポケットに突っ込んだ。太一はコートと財布を手に、玄関へ向かう。
二人はルミネに向かって歩き出した。綺麗に着飾った着物姿の女性が、楽しそうにカップルで歩く姿や、友人同士の会話に弾む女性が目立つ。駆けて来た二歳ぐらいの女の子が、恵を通り越して豪快に転んだ。母親が慌てて助け起こす姿に、恵はかおるを思い出していた。
「お腹空いたろう?」
「あんまり。でも甘い物は食べたい」
伊吹の前ではお兄ちゃんだからと、多少なりとも我慢している。この歳でパフェなんて恥ずかしい。と云ったものだが、今日は特別と恵は久しぶりの我侭を云う。
「じゃ、そこの喫茶店な?」
「うん。混んでなさそうだから、直ぐ座れそうだね」
中に入ると、エプロン姿のアルバイトが出迎える。
「おタバコはお吸いになりますか?」
「いや。あぁ。あそこの窓辺が空いているから、そこにするよ」
「畏まりました」
二人は窓辺に腰を下ろして、向かい合わせでメニュー表を開く。そこへ太一が胸ポケットの携帯を取り出した。
「あぁ、恵すまない、電話だ。ちょっと出て来るから、先に選んで食べてなさい」
「は~い」
恵はメニュー表の、美味しそうなデザートを選ぶのに夢中だ。太一は微笑んで、店の外へ出る。
「もしもし…あぁ。すみませんね。突然、お忙しい所。恵? あぁ。元気ですよ。店の場所を云いますから、えぇ。本当に、頼れるのは、多分あなただけでしょうから。うちの母の事は、気にしないで下さい。えぇ。それじゃ…場所は…」
太一は携帯を切ると、エスカレーターを降りて行った。
恵はデザートを決めてから、龍之介から届いている新年の挨拶に返事を打つと、今度は鈴と平片にも新年の挨拶をした。
『鈴へ。夕方勉強教えてね?』
恵はウエイトレスの持って来たパフェを見て驚く。
「こんなに大きいんだ…」
ちょっと恥ずかしいかも。と、恵は固まる。どう見ても二人分はありそうだ。
「見て見てあそこの子、可愛い、パフェ食べるんだぁ」
「やだマジ? 女の子みたい。可愛い」
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「…あんた。まさかまた遭うなんてね」
「?」
恵は見知らぬ女性を見上げた。
「…あの?」
「あんたのせいで龍君可笑しくなったのよ。この恥知らず!」
恵は頬をカッと紅く染めて立ち上がった。
「ちょっとなんですか? あなたは!? 人違いでしょう? 失礼でしょう?」
店内がざわめき出す。
ーーーお父さん遅い、どうしたんだろう!? この人誰!?
「美加!?」
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