天使は甘いキスが好き

吉良龍美

文字の大きさ
上 下
70 / 98

天使は甘いキスが好き

しおりを挟む
 平片の掴む鈴の腕に力が入る。
「嫌、痛いっ」
「あ、ごめん鈴」
 思わず手を放した鈴の腕を、上村が擦ってやる。
「大丈夫か? 平片は相変わらず乱暴だなぁ」
 ムッとした平片が、鈴を横から抱き締めた。他の客や、店員が好奇の眼で見て来る。
「触らないで下さい、上村先輩っ」
 鈴は真っ赤になって、恥ずかしさに平片の腕から逃れた。
「裕太っ、何どうしたの?」
「平片君、細川に迷惑を掛けたら駄目じゃないか」
「上村、僕迷惑だなんて思ってない! 本当に今急いでるから。ごめんね?」
 鈴はレジに向かって会計を済ませる。平片が上村を見、上村はそっぽを向いた。
 ーーーこの上村野郎っわざとだな。
「上村先輩。俺達幼馴染だけど、それ以上に俺の大事な人なんです。鈴に近付かないで下さい」
 平片は上村に歩み寄ると静かに告げた。
「…開き直りかよ。云っとくけど、鈴はあの通り成績優秀スポーツ万能。でも不思議ちゃんだから、男女問わずにファンが多いんだ。告白されるのなんて毎日」
「…やっぱり」
 上村が笑う。
「…俺も狙ってるから」
「それは宣戦布告ですか?」
「そういう事」
 平片は口角を上げる。
「それは諦めた方が良いですよ? 俺、この間のイブに鈴を貰いましたから」
 刹那、上村はカッと紅くなる。
「お前っ!?」
「そういう事なんで」
「祐太会計終わったよ? 本屋行くだろ?」
「おう」
 平片は勝ち誇った様に鈴の許へ行き、一緒にコンビニを出て行く。女性客の三人が、キャーと頬を染めて騒いだ。
「煩いっ」
「何よ、振られたからって」
 そそくさと、女性客が逃げて行く。上村が苛々と立ち去った。店員はハラハラとしながら、見守るしかなかった。


 鈴は平片の嬉しそうな顔を横から見上げて、首を傾げる。
「どうしたの?」
「別に~」
 気分が良い。スキッリした。スッキリついでに平片の眼にラブホテルの看板が眼に付く。
「鈴、今直ぐお前が欲しい」
 鈴は平片の見る方へ目線を向け固まった。派手な看板がキラキラと光る。
「こんな時間に…それに本屋は?」
「本屋は明日でも良いだろ? それに…こんな時間だから」
「だって…一度しかしてないし…」
 ーーー好きだけど、恥ずかしい格好もさせられて…。
「優しくする。イブの時は俺初めてだったけどじっくり本で勉強したからな」
 鼓動が鳴る。平片とはまだ一度しかしていない。
「僕の為に?」
 鈴は潤んだ眼で見上げ、平片はごくりと唾を呑む。何処で同じ学校の生徒が居るか解らないが、今の二人にその考えが浮かばなかった。
「当たり前だろ? 惚れた恋人に感じて欲しいじゃんか」
 鈴は平片の裾を掴んで、小さな声で云った。
「僕も…裕太が欲しい…」
 平片は鼻息も荒く鈴の手を掴むなり、ホテルの暖簾を潜った。


 いくつかの空いている部屋の写真を選んで、タッチパネルのボタンを押すと、アナウンスで先を促す。鈴は違和感を強くする。
「…ねぇ? 裕太…慣れてない?」
 鈴が不安になって訊く。
「本で読んだり、兄貴からも訊いたの」
 ーーーそういう事かよっ。
「っ! 裕太のスケベっもう裕太のお兄さんの顔、見れないじゃんか」
「ハハ。それだけ鈴の事しか頭に無いの」
 エレベーターが開き、二人は乗り込む。いじける鈴の手を握る平片に、鈴は額を平片の肩に押し当てた。チンとエレベーターが止まり、扉が開く。番号を探して部屋を見付けた。
 防音効果がしっかりしてるのだろう。通路を通っても静かだ。
「…鈴」
 ドアの前で平片が手を差し伸べる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異形の君へ~バケモノが視えるようになった男のお話~

ten
BL
■合コンで知り合った女性と肉体関係を持った主人公アヤトは、その日から化け物が視えるようになってしまった。 子供の頃からオバケの類が嫌いなアヤトは、大学にも行かずひきこもりになる。 そんな中、田舎からやってきたのは、幼馴染のシュウマだった。 ■幼馴染無表情な攻め×見た目は儚げの生意気受けです。 *設定上、冒頭でモブ女性と受けが関係を持ちます。ご容赦ください *タイトルに『*』が付いてるところは、攻めと受けの濡れ場です

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...