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青春日記04 「奴隷と俺」

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煙草を吸っていた誠二さんは

奴隷の背中に焼き付けた。



『…ジリジリ』


誠二さんの高笑いが聞こえる。




体を震わせながら声を潜めて

苦しんでいる奴隷を見て

俺は誠二さんに心底腹がたった。

ちっぽけな正義感だった。

そんな1円にもならない感情を

押し殺していた。

慎也さんも無言だった。

俺と同じ思いなのかと勝手に思っていた。


あまりの辛さからか、涙を流す奴隷。



こんな目にあって、普通にいられるはずがない。

それでも耐えていた。

叫べば言いのに。

助けを呼べばいいのに。

自ら命を断とうと考えた事だって

一度や二度ではないだろう。

誠二さんに何をしたらここまでヒドイ扱いを

受けるのだろうか。きっかけは何だ?

人が人をここまで仕打ちをする理由は

なんだろうか。

誠二さんはこの状況を本当に楽しんでしているのか。

頭の中でぐるぐる考えていた。


もう、奴隷のあまりの悲壮感に

俺は見てられずに目を背いてしまった。


誠二
『泣いてる?泣いてんじゃん!』

悪意に満ちた笑顔だった。

『ティッシュやるから拭けよ、ほら』


その瞬間 俺は自分の目を疑った。


誠二さんはボックスティッシュを渡す振りをして

そのまま奴隷の頭をボックスティッシュで

殴打したのだ。


プラスチック専用ケースはバラバラに割れ

鈍い音がした奴隷は


その場で手で頭を押さえて疼くまった。

頭部を押さえた手の甲から血が垂れていた。

俺は思わず荒げた声で叫んでしまった。

『おい!お前…』

俺の声をかき消すかのように慎也さんは

俺の名前を叫んだ。

俺は怒りに満ちた目を慎也さんに向けた。



その瞬間、頭が真っ白になった。




俺をなぜか、睨んでいた



なぜ俺を睨んでいるのか

俺は、大きな勘違いをしていた。

誠二さんと一緒に笑う訳でもなく
あの時に俺を睨んだ理由は
無言を貫き通した理由は

慎也さんは心が傷んでるからではなかった。




余計な事をするな。

そんな圧力の目を俺に向けてきたんだ。



堪らず俺も睨み返した。


その瞬間に全部がわかったんだ。


誠二さんがいつも以上に奴隷を暴行する訳

慎也さんが俺を止めた訳



コイツ等はお互いの強さを誇示する為に

奴隷を暴行して今この場所にこの瞬間に

俺は連れて来られたんだと。



誠二の見せたい自分像は
俺はこんな事できるんだせ?残酷だろ?


ヤバい?俺ってよー。

恐いだろ?強いんだせ?



反対に慎也さんは

俺という存在が素行の悪い不良で

その上に立つ先輩が俺だよ。

誠二見ろよ。

俺はこんな気合いの入った奴の先輩だぜ?

俺がいかに悪いか分かるだろ?



こんな所だろう。


二人の見せたい自分像を誇示する為に

ヒドイ目に合わされる奴隷。


俺が誠二さんに楯突こうとした時に

割って入った慎也さん。


そんな最低な男達の仲間の一人が


俺だ。
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