そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき

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 気持ちがこれ以上、揺らがないようにしたかったので。
 もう彼とは深く関わることはないだろうし、この先、私には一生、愛なんて存在しない生活が待っているのだから。

 それも、アルフレッド様と……

 そう考えながらも家が見えてくるなり、私は一旦そんな辛い感情は隅に置いておくことにしたが。
 
「おお、我が愛しき娘よ! 私に少しばかりその顔を見せてはくれないか?」

 帰宅するなり父、ルーカスがそう言ってきたので。いつも通りにと、私は苦笑する。

「ふふ、お父様は相変わらずね」

 そう言いながら。
 もちろん元気もくれたことに感謝もして。

「良いではないか。最近は触れさせてくれないんだ。会話だけでも楽しみたいんだよ。あっ、もちろん領地改革とか堅苦しい話ではなくてね……」

 だから、父がそう言って窓の方にチラチラと視線を向けたので、私は要求通りの案を出してあげることにしたが。

「じゃあ、次の休みにお母様も誘って三人でピクニックに行きましょうか。その時に劇や音楽の話でも」

 そして、ほら、これで良いんでしょうと両手を腰に当てて。内心では仕事以外は本当に子供なんだからと思いながら。

「それは良い! 草原に咲く花々と両手には更に美しい二輪の花! うん、実に良いね」

 そんな言葉を聞いたらなおさらと、要求が上手くいって神様に感謝している様子の父に私は再び苦笑する。
 そして、すぐにそんな父からそっと離れも。

「何が実に良いですか……」

 そう言って私達の間に母、マリアーナが入ってきたので。父を人睨みしながらと、母はこちらに来るなり私を抱きしめてくる。

「お帰りなさい。さあ、疲れたでしょう。気が利かない人でごめんなさいね」

 それから父を追加でもう人睨みして。

「さあ、突っ立てないでやることがあるでしょう?」

 つまりはエスコートしなさいと。
 私達を……と、父は真っ青になりながら私達を応接室へと案内してくれる。

「これで、さっきのは帳消しという事で……」

 更には手揉みしながらそんな言葉も。恐る恐ると、もちろん私は頷いたが。何しろ、私も母も怒ってはいないので。

 まあ、ちょっとだけ呆れているけれど。

 そう思いながらも、執事が持ってきてくれた紅茶とケーキに私の表情はすぐに父と同じ満面の笑顔に変わっていく。
 それから、しばらく紅茶を飲みながら談笑も。次の休みの日にはピクニックの約束もして。
 まあ、これは父が無理矢理、話を入れ込んできたのだけれど……と、私は苦笑し、それから両親の様子に徐々に頬が緩んでいく。なんだかんだで家族で過ごせるこの時間に幸せを感じたので。
 ただし……

「最近、第二王子様が遊んでるらしいわね」

 そう母が思いだしたかのように手を打ち、眉間に皺を寄せながらそんなことを言ってくるまでだったが。

 しかも、サラッととんでもないことを……

 学園に関わっていない母が……と、私は思わず質問してしまう。

「……どこで聞いたのですか?」
「サロンよ」

 そう即答してくる母に、きっと生徒の母親がお茶会でアルフレッド様達のことを茶菓子程度に話してしまったのだろう、そう理解も。これで学園の件が有力な貴族の間で既に周知されてしまったと肝も冷やしながら。
 何しろ、母は貴族でも上の方達専門のお茶会をサロンで取り仕切る側なので。
 しかも、問題の処理や対処を全ての貴族に裏で教える側でも。

 すなわち、そのうち全ての貴族、そして近いうちに学校で噂になると……

 私は冷や汗を流しながらそう考えていると、再びお母様が口を開く。

「大丈夫なのかしらね。将来、我がローグライト公爵家を一緒に切り盛りしていく予定なのに」

 そして、おろおろとしだす父を横目に紅茶を一口飲むと黙ってしまって。
 いや、一瞬だけ私に視線を向けてくる。
 それこそ、何かを考えている表情で。
 なので、私は「大丈夫ですよ」
 そう答えることができずにいたが。きっと、母は私の行動も知っているはずなので。

 それこそアルフレッド様と上手くいっていないことも。

 私はそう判断して唇を軽く噛む。
 この婚約は王命なのにアルフレッド様、それとジラール様にベント様はなぜ、あのような愚かな行動をするのだろう? 疑問を抱いて。
 ただ、すぐに婚約者である私が泣き言など言わずにアルフレッド様が間違えた行動をするたびに意見を述べ続けなければならない、そうも考えてしまったが。
 王家の信頼、それと周りに将来の公爵家を切り盛りできる存在だとアピールするためにも。

 つまりは今までのやり方が駄目なら他のやり方でやるしかないと……

 だから、週末のアルフレッド様とのお茶会の日に私はある案を提案したのだが。

「アルフレッド様、もし何かなされているのであれば、私にも相談なり手伝わせて頂けませんか?」

 今度は意見ではなく寄り添う方向に切り替えて。
 するとアルフレッド様は持ち上げていたスコーンをゆっくりと下ろし、小さく息を吐く。

「ふう、まだテレシアの事を気にしているのかい? 彼女とは本当に何でもないんだ」
「いえ、それはわかっています。ただ、もし私がお力添えができればと……」
「それは私達では何もできないということなのかな?」
「えっ……」

 私は思わず驚いてしまうとアルフレッド様はゆっくりと椅子から立ち上がる。

「悪いけど今日は気分が悪くなったから帰らせてもらうよ」

 そして私の返事も待たずにさっさと帰ってしまって。呆然としてしまう私を置き去り。
 いや、すぐに私は唇を噛んでしまったが。自分の不甲斐なさとアルフレッド様の聞き分けのなさに苛立ちを感じて。
 つまりはもうどうして良いかわからず頭を抱えてしまう状態に。
 しかも、それは私だけではなく……
 ある日、私とセーラ様、アイリス様が食堂でお昼を摂っていると、アルフレッド様がジラール様、ベント様、テレシア様を連れてやってきたので。
 既に噂が広まっているはずなのに。

 それも学園全体に……

 そう思っていると案の定、周りの生徒がすぐに奇異の目を向ける。
 ただ、四人は気にする様子も見せずに私の前まで来てしまうが。しかも、アルフレッド様なんかはなぜか破れた教科書を私の前に出してきて「これはなんだかわかる?」かと質問も。

「母国語の教科書ですね。なぜ、こんな風に破られているのですか?」

 そう尋ね返すなり「テレシアが君にやられたと言っているんだ」と。
 まるで断罪劇のようにと、私は首を横に振る。

「……私はそんな事はしていません」
「それは間違いないんだね?」

 再び、そう質問されても我慢しながら頷いて。

「……ええ」

 ただし、爪が手に食い込むぐらいに手を握ってしまったが。アルフレッド様のこの行為が信じられないし侮辱行為でしかなかったから。
 そして、側にいた友人達に対しても。
 そう思っていると隣にいたアイリス様が勢いよく立ち上がるなり、語尾を強めながら抗議しだす。

「失礼ながら、なぜ、この場所でこの様な事をお聞きになるのですか? これではフリージア様だけでなく我々を辱める行為にしかなりませんわよ」

 更にはそう言い終わった後、冷たい目でアルフレッド様を睨んで。
 ただ、アルフレッド様はその抗議に対しての答えよりも怯えたふりをしているテレシア様の方を優先したけれど。

「今、アイリス様が私の事を睨みました! 怖いわぁ!」

 つまり大勢の前で大事なのはどちらであるか宣言を。
 そして、ベント様まで……と、彼はおどおどした口調でアイリス様に質問してくる。

「ア、アイリス、君がテレシアに水をかけたと言っていたが本当かい?」
「……それ、本気で言ってますか?」
「いや、ただ、テレシアの服が濡れていた事が……」
「私はやっていません」

 アイリス様は屈辱を受けているという表情を隠さず答える。更に今度は周りが凍りつく程、冷たい目でベント様を睨みも。
 きっと、食堂にいる四人以外の全ての生徒が思っているだろう、これ以上は醜態を晒すなという気持ちを込めて。

「おいおい、これ以上はまずいんじゃないか。あの四人……」

 まあ、何人かはつい口に出してしまっていたけれど。
 そして、ベント様は顔を真っ青にさせ黙ってしまいも。

 ただし、彼の場合はアイリス様の怒気に当てられただけだと思うけれど。

 そう思っていると、アルフレッド様が慌ててベント様を隠す様に立ち、私の方に向かって口を開いてくる。

「わ、私はただ、本当かどうか聞きたかっただけなんだ。もし、不快に思わせてしまったなら謝るよ」
「結構です、アルフレッド様。それより、私達はまだ食事中なのですが……」

 私はそう言って食事席の方に顔を向けると、アルフレッド様は慌てて三人を連れ、食堂を出ていく。悪い空気だけを残して。
 ただ、静かに事の成り行きを見ていたセーラ様が「悪者……あっ、四人が退散しましたよ」
 そう言ってきたことで一瞬にして場は和んだが。
 それと、「ジラール様は静かだったわね」と、言ってくるアイリス様の言葉で疑問も。

「確かにずっと下を向いてましたし……」
「うーーん、体調が悪かったのですかね? セーラ様はご存知ですか?」

 アイリス様がそう質問をすると悪戯が成功したような表情を浮かべ、セーラ様が頷いてくる。

「今、ブランド伯爵家がうち名義で物を購入する事をできなくしているんです。しかも、うちの父から自分達でなぜ止められているのかお考え下さいって手紙も。だから、今はテレシア様どころじゃないでしょうね」
「あら、素敵じゃないの! セーラ様」

 アイリス様は手を合わせてセーラ様を見つめる。
 もちろん私も。先ほどの嫌なことが吹き飛んでしまうほどすっきりとした気持ちで。

「やあ、なんだか騒がしい事があったみたいだけど大丈夫だった?」

 それは私達の前にエドガーが微笑みながらやってきたことで倍増にも。
 そう感じながら私は頷く。

「はい、素敵なお二人のおかげで」
「なるほど。素晴らしい友人達だね。彼らと違って……」

 そう言ってエドガーはアルフレッド様が去っていった方向を見つめる。

「一応、俺からも注意して見ておくよ。ちなみにドナール男爵令嬢にはあまり関わらないようにね」

 更にそう言うなり、颯爽と食堂を出ていってしまって。まるで、仕事をしている時に見せる威厳のある父のように。
 いいえ、母かしら……そう思っているとアイリス様とセーラ様の会話が聞こえてくる。

「エドガー様はまだ婚約者がいらっしゃらないとか。誰か好きな方がおられるのかしらね?」
「確か幼馴染のある方をずっとお慕いしているそうですよ」

 そして、私をチラ見してきて。
 おかげで私は恥ずかしくなり……とはならずに咳払いすると口を開いたが。

「エドガー様にはきっと素敵な方が現れますわよ……」

 私と違って……と、心の中で言葉を付け足しながら。
 ただ、そうは言っても彼が去った方をつい見つめてしまうのだけど。胸をチクリとさせながら。
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