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しおりを挟むあの日からアルフレッド様は更にテレシア様と近くなった気がする。
これには本格的にまずいと感じたのだが対応策は全く浮かばなかった。
私は溜め息を吐きながら学院の中庭に咲く草花に水をやる。すると微かに声が聞こえてきたのだ。しかも溜め息の元である人達の声が。
私は盗み聞きしているようで悪いと思い、立ち去ろうとしたが、いつの間にか来ていたエドガー様に止められてしまう。
「どうせだから、いつも何を話しているのか聞いてみたらどうかな」
「でも……」
「君は聞くべきだよ。今後の君の為にもなるかもしれないからね」
エドガー様はそう言ってくるので私は確かにと納得し、アルフレッド様に見つからない様に聞き耳を立てた。
「ねぇ、ジラール様ぁ、セーラ様って凄く冷たいですよねぇ。本当にあなたの婚約者なんですかねぇ?」
「あ、ああ、最近セーラの商会から資金援助が止まってしまったしどういう……いや、それよりドナール男爵家とヌース商会って仲良いみたいだね。今度、僕を紹介してくれないか?」
「えーー、今はそんな事どうでも良いじゃないですかぁ」
「ど、どうでもって……」
「ねぇ、ベント様ぁ、アイリス様って本当、酷いですよねぇ。私、最近、アイリス様が怖そうな男性達と一緒に話してるの見ちゃったんですよ」
「な、なんだと、人に不貞行為だとか言ってあいつこそ酷い……いや、それよりもダスティンという男を知ってるかい?」
「知りませんよぉ。あっ、私が浮気してると思ってるんですかぁ⁉︎ 酷いわぁ‼︎」
「ち、違うんだよ!」
「アルフレッド様ぁ! 皆が私を虐めるんです。きっとフリージア様の差し金ですわ! 早くどうにかして下さいよぉ‼︎」
「フリージアはそんな事……」
「この前、アルフレッド様の事を悪く言ってましたよ。役に立たない人だって! 酷くないですか⁉︎」
「なっ、そんな事を……。私がどれだけ辛い思いで頑張っているのか知らないくせに……」
「そうですよぉ。アルフレッド様は頑張ってますよぉ。あんな悪女にアルフレッド様は似合いませんよぉ!」
「……確かにそうだな」
「だからぁ、アルフレッド様の事を誰よりも見ている私が沢山慰めてあげますよぉ」
「テレシア、君は私の事を良くわかっているな。フリージアとは大違いだ……。最近は君が気になってしょうがない。それで……」
私は我慢できなくなりアルフレッド様達の前に飛び出した。そして驚く四人に私は必死に怒りを抑え込みながら言った。
「そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……」
私が踵を返すと、いつの間にかセーラ様とアイリス様もおり、四人を睨んだ後に私の後を付いてきた。
そんな私達を婚約者達は何も言わずに追いかけてくることもなかった。
私達はエドガー様に連れられ学院の空き部屋を借り休んでいた。
「今、飲み物を頼んだからすぐ来るよ」
エドガー様はそう言うと少し離れた椅子に座る。そして再び口を開いた。
「一応、君達の婚約者を庇うわけじゃないけどドナール男爵令嬢とは浮ついた関係じゃないのは確かだよ」
エドガー様がそう言うとセーラ様が信じられないとばかりにエドガー様を見る。
「あんなふざけた会話をしていてですか?」
「あれはドナール男爵令嬢が一方的にしている事だよ」
エドガー様が答えると、アイリス様が納得した表情になる。
「私達もあの会話は聞いていましたが、ベント様達はテレシア様の何かを探っているのですね」
「ああ、騎士団に探りを入れさせている。サマーリア伯爵令嬢はわかってしまったか」
「ええ、けれどあのやり方は駄目ですわよ……」
アイリス様はそう言って私を見てきたので頷く。
「きっと、三人だけでやろうとしてるのね……。でも、どうして……」
「俺が色々と探りを入れた結果わかった事だが、ドナール男爵家は悪徳と言われるヌース商会と違法取引をしている事がわかった。君達の婚約者はその証拠を手に入れて、現在、貴族連中の取り締まりを任されている第一王子が職務怠慢をしていると糾弾して失脚を狙ってるらしい」
私達はエドガー様の話を聞き驚く。まさか、王家の争い事をしているとは思わなかったから。
「ちなみに最初はドナール男爵令嬢の不貞行為を暴くだけだったらしい。だが、欲が出たんだろうな。自分達の手柄にしようとして今じゃドナール男爵令嬢という毒蜘蛛に半分絡め取られている状態だよ」
私はエドガー様の話を聞きアルフレッド様の行動が腑に落ちてしまう。
「……そうだったのね」
「それで、知ってしまった君達はどうする?」
私は黙ってしまう。しかしセーラ様がすぐに答えてきた。
「私は婚約解消をします。今までの件に、テレシア様へのプレゼントの明細書をお見せすれば、向こうは拒否できないでしょう」
「……セーラ様は良いの?」
「信頼と信用がない人を身内にはしたくありませんからね」
「……そう」
私はセーラ様のその言葉を聞きアルフレッド様の言葉を思い出す。嘘を吐いてまでテレシア様から情報を聞き出そうとしているアルフレッド様を今後も信用できるだろうか?いや、そもそもあの時、言ったことは本心なのではないかと……
私がそう思っていると、アイリス様が次に答えた。
「私はじっくりとベント様とお話ししてみますわ。まあ、まともな話をする前に今まで散々、私に言ってきた事の言い訳を聞いてからですが」
アイリス様は凍りつくような表情でそう言うが、もはや婚約は解消されるであろうことが私にはわかってしまう。
すると、三人の視線が私に集まってきた。あなたはどうするの?と。しかし、私の答えは決まっている。
「私はアルフレッド様を支えます」
だって、この婚約は王命だからだ。それにアルフレッド様は不貞行為をしたわけじゃない。
今、傷つく事を言われたので婚約解消をしたいと願い出ても、せいぜい言葉のあやがあったと有耶無耶にされてしまうだろう。
むしろ、その後にローグライト公爵家が報復されてしまう可能性もある。だからこそ、こちらからおいそれと婚約解消をしたいなんて言う事はできないのだ。
私が我慢すれば良い……。それで良いのよ。
私の言葉に三人は黙ってしまい、その後、お茶どころではなくなりお開きになった。私は申し訳ない気持ちと一人になりたかったのもあり、あの後、一人で廊下を歩いているとアルフレッド様に出くわしてしまった。
「フリージア……」
「……安心して下さい。もう二度とあなた方の邪魔は致しませんので」
私は足早にアルフレッド様の横を通ると、手首を強く掴まれてしまう。
「待ってくれ!」
「痛いです。手を離して下さい」
「君はいつだってそうだ! 私がどれだけ苦労してるのか知らないだろ!」
「だから、相談なり手伝わせて欲しいと言いましたわ。全て私の所為にしないで下さい!」
私がそう言って睨むとアルフレッド様はたじろく。しかし、すぐに私を睨み手を振り上げた。
思わず、私は顔を背けたが、いつまで経っても痛みがこないので顔を上げる。そして心底ホッとしてしまった。
「エドガー様……」
アルフレッド様の手を掴んだエドガー様がいたのだ。
「すまない、怖い思いをさせてしまったね。第二王子、女性に暴力とは見過ごせませんよ」
「わ、私はただ……」
「その掴んでいる手も離して下さい。おそらく痣になっているでしょうね」
「はっ!」
アルフレッド様は言われて気づき掴んでいた私の手を離す。そんな私の手をエドガー様はすぐに優しく触れると、顔を歪ませる。
「酷いな。手の形になってしまっている。すぐに医務室に行った方がいい」
エドガー様は私を医務室に連れて行こうとしたが、私は首を振る。
「一人で大丈夫です。私と一緒に行くとあらぬ疑いをかけられますから」
私が微笑むと、エドガー様は苦笑して頭をかく。
「……はは、君は根っからの貴族の御令嬢だね」
「それは私にとっては褒め言葉ですわ。では、どなたかが私を追って来ないようにお願いしますね」
私は片手で淑女の礼をすると医務室に向かった。
しかし、私はエドガー様に送ってもらわなかったことをすぐに後悔してしまうのだ。それは階段付近でテレシア様に捕まってしまったからだった。
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