25 / 96
7.令和
002
しおりを挟む
「ああいやいや、気にせんと……。そういや兄ちゃんらって。どこに泊まるの? 日帰り?」
かえって向こうが気を使い、話題を変えてくれた。
「いえ、松良っていう旅館に泊めてもらってるんですけど……」
「ほーお、松良屋かあ」
料理人の男は、素っ頓狂な声を上げる。
「ええとこに泊っとるな。兄ちゃんら金持ちなの?」
「違うんですよ。たまたま僕の親戚がやってる旅館なんで、格安で泊めてもらってるんです」
「格安じゃなかったらあんな高そうなところ無理ですよ~。何日かこっちにいるつもりなので」
二人は、初めて松良屋の門の前に立った時、〝当宿に宿泊された著名人〟が記された大きい看板を見て気後れしていたところを、宿の人間に招き入れられた、という経緯がある。
「何日か斧馬におるの? へぇー。ほらもの好きな」
男は、地域おこしのメンバーとは思えない発言をした。
「なんか用事でもあるんかな?」
「ええまぁ……ちょっと野暮用で。しばらくこの辺を見て回ろうと思ってるんです」
「取りあえずちょっとこの辺うろうろして、月曜日にかささぎ峠ってとこに行ってみようと思ってるんですよ~」
「えっ? なんて?」
「かささぎ峠ですよ。なんか頂上に古墳があるんですよね?」
冬絹は、市の公式ホームページのかささぎ峠古墳の紹介欄を料理人に見せる。
眉間に皺を寄せながらスマホの画面を覗きこんだ男は〝あー……あ~……〟と頼りない声を上げた。
「いやこれ……大学の先生が電波探査で調べて、多分これは古墳やろう、ゆう話になっただけで……まだようわからんやつやで。整備もなんもしとらんし」
「あ~、整備とかは別にしてなくてもいいんですよ~」
「うん。いにしえの雰囲気っていうか、寂寞とした古人の俤を偲びたいんです。吟行も兼ねていますので」
「ぎんこう? ああなんや、兄ちゃん俳句やるんか」
男は二人の言を聞き、何か考えているようである。
「俳句なあ……まぁそんならあっこ行ってもええかもしれんな。上まで行ったら向こう側の海も見えるし、斧馬盆地も見えて綺麗かもしらん……よっしゃ」
何事か、料理人の男は決意したようだ。
「月曜日ゆうたら、うん。明後日やな。よし、その日峠の麓までわしが車で連れてってやろうわい」
「ええっ?」
「い、いや結構ですよ。お気持ちはありがたいですが」
「いや、かんまんかんまん。どうせ月曜はわし休みやしな。暇やけん」
「でも……」
「言うとくけどあんなとこ、土地の人間やないと行けるとこやないで。別に看板なり案内板なり立っとるわけでもなし」
「で、でも市の公式ページの観光案内に載ってますけど……」
「どうせあんなとこ行くやつおらんと思うたんやろ。取りあえず山道が始まる麓まで連れていくわい。多分迷わんかったら、三十分くらいで頂上まで着くやろ。兄ちゃんら若いしな」
「ええーと、いやしかし」
「わし、あの近くの知り合いの家で兄ちゃんら帰ってくるまで暇潰しよるけん。終わったら連絡ちょうだいや。あ、じゃあ今の内に連絡先交換しとくか」
峻と冬絹がまごまごしている内に、料理人の男はどんどん話を進めていく。
「……では、ご厚意に甘えさせていただきます……」
「おう。じゃあ、松良屋やな? 月曜日、午前の内には迎えにいっちゃるけんな。来んかったら電話してくれ。忘れとるかもしれんけん」
あれよあれよという内に話がまとまってしまう。
峻は
『旅先での親切な土地の人とのふれあい……うん、アリだな』
などと、のん気なことを考えていた。
かえって向こうが気を使い、話題を変えてくれた。
「いえ、松良っていう旅館に泊めてもらってるんですけど……」
「ほーお、松良屋かあ」
料理人の男は、素っ頓狂な声を上げる。
「ええとこに泊っとるな。兄ちゃんら金持ちなの?」
「違うんですよ。たまたま僕の親戚がやってる旅館なんで、格安で泊めてもらってるんです」
「格安じゃなかったらあんな高そうなところ無理ですよ~。何日かこっちにいるつもりなので」
二人は、初めて松良屋の門の前に立った時、〝当宿に宿泊された著名人〟が記された大きい看板を見て気後れしていたところを、宿の人間に招き入れられた、という経緯がある。
「何日か斧馬におるの? へぇー。ほらもの好きな」
男は、地域おこしのメンバーとは思えない発言をした。
「なんか用事でもあるんかな?」
「ええまぁ……ちょっと野暮用で。しばらくこの辺を見て回ろうと思ってるんです」
「取りあえずちょっとこの辺うろうろして、月曜日にかささぎ峠ってとこに行ってみようと思ってるんですよ~」
「えっ? なんて?」
「かささぎ峠ですよ。なんか頂上に古墳があるんですよね?」
冬絹は、市の公式ホームページのかささぎ峠古墳の紹介欄を料理人に見せる。
眉間に皺を寄せながらスマホの画面を覗きこんだ男は〝あー……あ~……〟と頼りない声を上げた。
「いやこれ……大学の先生が電波探査で調べて、多分これは古墳やろう、ゆう話になっただけで……まだようわからんやつやで。整備もなんもしとらんし」
「あ~、整備とかは別にしてなくてもいいんですよ~」
「うん。いにしえの雰囲気っていうか、寂寞とした古人の俤を偲びたいんです。吟行も兼ねていますので」
「ぎんこう? ああなんや、兄ちゃん俳句やるんか」
男は二人の言を聞き、何か考えているようである。
「俳句なあ……まぁそんならあっこ行ってもええかもしれんな。上まで行ったら向こう側の海も見えるし、斧馬盆地も見えて綺麗かもしらん……よっしゃ」
何事か、料理人の男は決意したようだ。
「月曜日ゆうたら、うん。明後日やな。よし、その日峠の麓までわしが車で連れてってやろうわい」
「ええっ?」
「い、いや結構ですよ。お気持ちはありがたいですが」
「いや、かんまんかんまん。どうせ月曜はわし休みやしな。暇やけん」
「でも……」
「言うとくけどあんなとこ、土地の人間やないと行けるとこやないで。別に看板なり案内板なり立っとるわけでもなし」
「で、でも市の公式ページの観光案内に載ってますけど……」
「どうせあんなとこ行くやつおらんと思うたんやろ。取りあえず山道が始まる麓まで連れていくわい。多分迷わんかったら、三十分くらいで頂上まで着くやろ。兄ちゃんら若いしな」
「ええーと、いやしかし」
「わし、あの近くの知り合いの家で兄ちゃんら帰ってくるまで暇潰しよるけん。終わったら連絡ちょうだいや。あ、じゃあ今の内に連絡先交換しとくか」
峻と冬絹がまごまごしている内に、料理人の男はどんどん話を進めていく。
「……では、ご厚意に甘えさせていただきます……」
「おう。じゃあ、松良屋やな? 月曜日、午前の内には迎えにいっちゃるけんな。来んかったら電話してくれ。忘れとるかもしれんけん」
あれよあれよという内に話がまとまってしまう。
峻は
『旅先での親切な土地の人とのふれあい……うん、アリだな』
などと、のん気なことを考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる