夏花

八花月

文字の大きさ
上 下
24 / 96
7.令和

001

しおりを挟む
「……うめえな、これ」
「うん」

 峻と冬絹は、斧馬の道の駅で念願の〝令和ラーメン〟を食べていた。

 峻は可能なら個人の店のようなところで食べたかったのだが、そういう店は遠かったり、ごちゃごちゃしたところにあってわかりにくかったりで、結局手軽に行ける道の駅になったのである。

「正直、味には全然期待してなかったんだけど」
「僕もだよ~」

 二人はほぼ冷やかし気分で、話のタネにするために食べに来たのだ。

「なんかこう……汁がうめえな。出汁っつうのかな」
「独特のスープだね~」

「おお、わかる?」

 厨房の中から年配の料理人が声をかけてくる。

「海のもんと山のもんが両方入っとるけんなあ。ええ出汁になるんよ」

「海って……この辺、海無いですよね?」

「いや、海近いで。一つ山越したら浜よ」

「へえ……」

 見渡す限り田んぼと山しかないので、冬絹にはピンとこなかった。

「ああ、あの風車が建ってる山」

 峻が思い出したように言うと、料理人は〝そうそう〟と相好を崩す。

「あれ越えたら浜に出る」

 食堂には二人の他に客はいなかった。新しく入ってくる様子もないことを確認し、料理人の男は調理場から出てくる。

「なあ、それうまいやろ?」

「え、ええ」
「おいしいですよ」

「でもなかなか売れんのよなあ……なんでやと思う? 兄ちゃんら」

 暇なのでとにかく何でもいいから喋りたいのかと二人は一瞬思ったが、男は真剣な様子であった。

「いや、名前ですよ」

 峻は即答する。

「名前……! 名前かあ……ちょうど年号が変わった時に開発したし、めでたい感じでええかと思うたんやがなあ……」

「みんなそう思うんですよ。だからこう……ここ独自の感じってないじゃないですか。この地方ならでは、みたいな」

「わざわざ遠くに旅行に来て〝令和ラーメン〟って名前の料理食べようと思わないよね。普通」

 冬絹は完全に自分たちのことを棚に上げていた。

「そうかあ……独自性……」

「旅行に行った時って、その地方独特の料理を食べる、っていう楽しみもあるじゃないですか」

「〝令和ラーメン〟って名前メニューで見たら、なんか高速道路のサービスエリアでカレーを食べる、みたいな味気無い感じになっちゃいますよ~」

 ううん、と唸りながら、料理人の男は真面目に二人の意見を聞いている。

「いや、うん参考んなったわ。ありがとう。今度市長に言うてみるかな……」

「えっ? おじさん役所の人かなんかなんですか?」

「いや。ただ、わし地域おこしの料理メニュー考えるメンバーやけん」

「あっ、そういう集まりで考えてるんですね」

「ああ、でもこういう麺料理は昔からこの辺にあるのはあるんやで。ただそれをもうちょっとアレンジした感じ。豚肉をイノシシ牧場の猪肉に変えたりとか……」

「なるほど。道理で野趣溢れる風情が」

「ちなみに、名前はどういう風に決まったんですか?」

「わしが提案して。満場一致で」

 二人は思わず顔を見合わせた。さっきわりと遠慮なく言ってしまったので気にしているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~
ファンタジー
何処にでもいそう………でいない女子高校生「公塚 蓮」《きみづか れん》 家族を亡くし、唯一の肉親のお爺ちゃんに育てられた私は、ある日突然剣と魔法が支配する異世界 【エルシェーダ】に飛ばされる。 そこで出会った少女に何とプロポーズされ!? しかもレベル?ステータス?………だけど私はレベル・ステータスALLゼロ《システムエラー》!? 前途多難な旅立ちの私に、濃いめのキャラをした女の子達が集まって……… 小説家になろうで先行連載中です https://ncode.syosetu.com/n1658gu/

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

結婚を前提に!〜結婚したけりゃ神になれ〜

変わる子ちゃん
ファンタジー
『イケメンなだけで幸せ』 『イケメンなだけで女遊びし放題』 『イケメンなだけで苦労しない』 『イケメンなだけで〜……』 うるせーー!!! だったらなんで、俺に彼女が居ないんだ! だったらなんで、女に苦労してるんだ!! 雑誌の表紙に居ても違和感ねぇってどれだけ言われたと思ってんだよ! 学校で「雑誌の中のモデルより、会えるリアル」の言葉流行らせたの俺だぞ!? 充分イケメンなハズなのに! 「…なのになんでだ!爆ぜろリア充ーーっ!!」 あ。 ごめん。 俺、この後リア充になりました。 でも結婚までの道のりがやべーから許して!

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...