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7.令和
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「……うめえな、これ」
「うん」
峻と冬絹は、斧馬の道の駅で念願の〝令和ラーメン〟を食べていた。
峻は可能なら個人の店のようなところで食べたかったのだが、そういう店は遠かったり、ごちゃごちゃしたところにあってわかりにくかったりで、結局手軽に行ける道の駅になったのである。
「正直、味には全然期待してなかったんだけど」
「僕もだよ~」
二人はほぼ冷やかし気分で、話のタネにするために食べに来たのだ。
「なんかこう……汁がうめえな。出汁っつうのかな」
「独特のスープだね~」
「おお、わかる?」
厨房の中から年配の料理人が声をかけてくる。
「海のもんと山のもんが両方入っとるけんなあ。ええ出汁になるんよ」
「海って……この辺、海無いですよね?」
「いや、海近いで。一つ山越したら浜よ」
「へえ……」
見渡す限り田んぼと山しかないので、冬絹にはピンとこなかった。
「ああ、あの風車が建ってる山」
峻が思い出したように言うと、料理人は〝そうそう〟と相好を崩す。
「あれ越えたら浜に出る」
食堂には二人の他に客はいなかった。新しく入ってくる様子もないことを確認し、料理人の男は調理場から出てくる。
「なあ、それうまいやろ?」
「え、ええ」
「おいしいですよ」
「でもなかなか売れんのよなあ……なんでやと思う? 兄ちゃんら」
暇なのでとにかく何でもいいから喋りたいのかと二人は一瞬思ったが、男は真剣な様子であった。
「いや、名前ですよ」
峻は即答する。
「名前……! 名前かあ……ちょうど年号が変わった時に開発したし、めでたい感じでええかと思うたんやがなあ……」
「みんなそう思うんですよ。だからこう……ここ独自の感じってないじゃないですか。この地方ならでは、みたいな」
「わざわざ遠くに旅行に来て〝令和ラーメン〟って名前の料理食べようと思わないよね。普通」
冬絹は完全に自分たちのことを棚に上げていた。
「そうかあ……独自性……」
「旅行に行った時って、その地方独特の料理を食べる、っていう楽しみもあるじゃないですか」
「〝令和ラーメン〟って名前メニューで見たら、なんか高速道路のサービスエリアでカレーを食べる、みたいな味気無い感じになっちゃいますよ~」
ううん、と唸りながら、料理人の男は真面目に二人の意見を聞いている。
「いや、うん参考んなったわ。ありがとう。今度市長に言うてみるかな……」
「えっ? おじさん役所の人かなんかなんですか?」
「いや。ただ、わし地域おこしの料理メニュー考えるメンバーやけん」
「あっ、そういう集まりで考えてるんですね」
「ああ、でもこういう麺料理は昔からこの辺にあるのはあるんやで。ただそれをもうちょっとアレンジした感じ。豚肉をイノシシ牧場の猪肉に変えたりとか……」
「なるほど。道理で野趣溢れる風情が」
「ちなみに、名前はどういう風に決まったんですか?」
「わしが提案して。満場一致で」
二人は思わず顔を見合わせた。さっきわりと遠慮なく言ってしまったので気にしているのだ。
「うん」
峻と冬絹は、斧馬の道の駅で念願の〝令和ラーメン〟を食べていた。
峻は可能なら個人の店のようなところで食べたかったのだが、そういう店は遠かったり、ごちゃごちゃしたところにあってわかりにくかったりで、結局手軽に行ける道の駅になったのである。
「正直、味には全然期待してなかったんだけど」
「僕もだよ~」
二人はほぼ冷やかし気分で、話のタネにするために食べに来たのだ。
「なんかこう……汁がうめえな。出汁っつうのかな」
「独特のスープだね~」
「おお、わかる?」
厨房の中から年配の料理人が声をかけてくる。
「海のもんと山のもんが両方入っとるけんなあ。ええ出汁になるんよ」
「海って……この辺、海無いですよね?」
「いや、海近いで。一つ山越したら浜よ」
「へえ……」
見渡す限り田んぼと山しかないので、冬絹にはピンとこなかった。
「ああ、あの風車が建ってる山」
峻が思い出したように言うと、料理人は〝そうそう〟と相好を崩す。
「あれ越えたら浜に出る」
食堂には二人の他に客はいなかった。新しく入ってくる様子もないことを確認し、料理人の男は調理場から出てくる。
「なあ、それうまいやろ?」
「え、ええ」
「おいしいですよ」
「でもなかなか売れんのよなあ……なんでやと思う? 兄ちゃんら」
暇なのでとにかく何でもいいから喋りたいのかと二人は一瞬思ったが、男は真剣な様子であった。
「いや、名前ですよ」
峻は即答する。
「名前……! 名前かあ……ちょうど年号が変わった時に開発したし、めでたい感じでええかと思うたんやがなあ……」
「みんなそう思うんですよ。だからこう……ここ独自の感じってないじゃないですか。この地方ならでは、みたいな」
「わざわざ遠くに旅行に来て〝令和ラーメン〟って名前の料理食べようと思わないよね。普通」
冬絹は完全に自分たちのことを棚に上げていた。
「そうかあ……独自性……」
「旅行に行った時って、その地方独特の料理を食べる、っていう楽しみもあるじゃないですか」
「〝令和ラーメン〟って名前メニューで見たら、なんか高速道路のサービスエリアでカレーを食べる、みたいな味気無い感じになっちゃいますよ~」
ううん、と唸りながら、料理人の男は真面目に二人の意見を聞いている。
「いや、うん参考んなったわ。ありがとう。今度市長に言うてみるかな……」
「えっ? おじさん役所の人かなんかなんですか?」
「いや。ただ、わし地域おこしの料理メニュー考えるメンバーやけん」
「あっ、そういう集まりで考えてるんですね」
「ああ、でもこういう麺料理は昔からこの辺にあるのはあるんやで。ただそれをもうちょっとアレンジした感じ。豚肉をイノシシ牧場の猪肉に変えたりとか……」
「なるほど。道理で野趣溢れる風情が」
「ちなみに、名前はどういう風に決まったんですか?」
「わしが提案して。満場一致で」
二人は思わず顔を見合わせた。さっきわりと遠慮なく言ってしまったので気にしているのだ。
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