103 / 112
竜人の子、旅立つ
30.カメリアさん
しおりを挟む
スノウが降りた先は、騎士学校から少し離れた小さな宿泊施設だった。隣にはアイビーで覆われた煉瓦造りの大きな建物がある。
「こっちの小さな建物が今日泊まる場所だよ。ちなみにあっちの大きな建物が騎士学校の寮。騎士学校は全寮制だから、シロ君も入学したらあの寮で生活するんだよ」
「立派な建物ですね」
建物を見上げてシロが答えると、スノウは「僕も昔ここで寮生活をしていたけど、住み心地は悪くなかったよ」と笑った。
綺麗な花で彩られたアプローチを抜けて宿泊施設に入ると、受付に年老いた女性の竜人が座って新聞を読んでいる。スノウはその女性に挨拶をした。
「カメリアさん、こんにちは。ご無沙汰しております」
スノウの声にカメリアと呼ばれた竜人がゆっくりと顔を上げた。丸眼鏡の奥にある薄紫の瞳を細め、スノウの顔をじっと見つめる。そしてふっと優しい顔で微笑んだ。
「あらら、スノウじゃないか。久しぶりねぇ。変わりはないかしら?」
カメリアの少ししわがれた声は、優しく包み込んでくれるような安心感がある。
「はい、おかげさまで。カメリアさんもお変わりありませんか?相変わらず花が綺麗ですね」
スノウは視線を歩いてきたアプローチの方へ向けた。
「ふふふ、ありがとう。気付いてもらえて嬉しいわ。学生達は試験や実習で忙しがっていて、花には目もくれないのよ。それに明日は入学試験だから、いつも以上に慌ただしいのよ」
「僕も今日は受験生のお供でここまで来たんです。紹介しますね。シロ君、おいで」
スノウの後ろにいたシロは、前に出てカメリアに軽く頭を下げた。
「カメリアさん、この子がシロ君、今年の受験生です。普段はミール王国で暮らしているので、今日はここに泊まらせてもらいますね。シロ君、この方はカメリアさん。寮とこの施設の管理人さんだよ。困った事があればカメリアさんに相談すればいい。優しくてセレイスナで一番頼りになるお母さん的存在だよ」
「あらあら、私なんてあなた達のひいおばあちゃんぐらいの歳よ。でも困った事があれば何でも言ってちょうだい。可愛い学生さん」
「初めまして、シロです。えっと…、よろしくお願いします」
シロはそう言って深々と頭を下げた。
「ええ、よろしくね」
カメリアと少し話した後、スノウは「じゃあ僕はこれで帰るね。また明後日、試験が終わったら迎えに来るよ」と言った。
「スノウさん、色々ありがとうございます」
シロがお礼を言うと、スノウはいつもの優しい笑顔でガッツポーズをした。
「うん。シロ君なら絶対受かると思うから特待生目指して頑張って!」
「はい!頑張ります」
シロもガッツポーズをして返事をした。
スノウを見送った後、カメリアはシロに施設を案内してくれた。風呂は屋上、トイレは共有スペースにあり、娯楽室や小さな図書館も併設されている。シロが泊まる個室は、清潔感はあるもののベッドと机しかない狭くて小さな部屋だ。
「今日明日はこの部屋を好きに使っていいからね。明日の朝、寮長があなた達を迎えに来て試験会場まで連れてってくれるわ。私は受付にいるから何かあったら声を掛けてね」
そう言って去っていくカメリアにお礼を言った後、部屋に1人残ったシロは荷物を床に置きベッドの上に座った。
時間はすでに夕暮れで、窓からは夕日とセレイスナの街が見える。
綺麗に整備された街をキラキラと照らすオレンジの光は美しい。
美しいはずなのに、ルーフがいないこの国の景色は何故か心から美しいと感じられない。
シロは何となく部屋を見回した。
ルーフと暮らす部屋よりはるかに狭いはずなのに、ルーフがいないこの部屋を広く感じてしまう。
たった2日、ルーフと離れるだけなのに泣きたくなるような寂しさに襲われる。
しかしシロは自分の両頬を手で叩いた。
「頑張れ、俺っ!絶対特待生になって3年で卒業してやるんだ!!」
シロは自分を鼓舞して、試験勉強を始めた。
「こっちの小さな建物が今日泊まる場所だよ。ちなみにあっちの大きな建物が騎士学校の寮。騎士学校は全寮制だから、シロ君も入学したらあの寮で生活するんだよ」
「立派な建物ですね」
建物を見上げてシロが答えると、スノウは「僕も昔ここで寮生活をしていたけど、住み心地は悪くなかったよ」と笑った。
綺麗な花で彩られたアプローチを抜けて宿泊施設に入ると、受付に年老いた女性の竜人が座って新聞を読んでいる。スノウはその女性に挨拶をした。
「カメリアさん、こんにちは。ご無沙汰しております」
スノウの声にカメリアと呼ばれた竜人がゆっくりと顔を上げた。丸眼鏡の奥にある薄紫の瞳を細め、スノウの顔をじっと見つめる。そしてふっと優しい顔で微笑んだ。
「あらら、スノウじゃないか。久しぶりねぇ。変わりはないかしら?」
カメリアの少ししわがれた声は、優しく包み込んでくれるような安心感がある。
「はい、おかげさまで。カメリアさんもお変わりありませんか?相変わらず花が綺麗ですね」
スノウは視線を歩いてきたアプローチの方へ向けた。
「ふふふ、ありがとう。気付いてもらえて嬉しいわ。学生達は試験や実習で忙しがっていて、花には目もくれないのよ。それに明日は入学試験だから、いつも以上に慌ただしいのよ」
「僕も今日は受験生のお供でここまで来たんです。紹介しますね。シロ君、おいで」
スノウの後ろにいたシロは、前に出てカメリアに軽く頭を下げた。
「カメリアさん、この子がシロ君、今年の受験生です。普段はミール王国で暮らしているので、今日はここに泊まらせてもらいますね。シロ君、この方はカメリアさん。寮とこの施設の管理人さんだよ。困った事があればカメリアさんに相談すればいい。優しくてセレイスナで一番頼りになるお母さん的存在だよ」
「あらあら、私なんてあなた達のひいおばあちゃんぐらいの歳よ。でも困った事があれば何でも言ってちょうだい。可愛い学生さん」
「初めまして、シロです。えっと…、よろしくお願いします」
シロはそう言って深々と頭を下げた。
「ええ、よろしくね」
カメリアと少し話した後、スノウは「じゃあ僕はこれで帰るね。また明後日、試験が終わったら迎えに来るよ」と言った。
「スノウさん、色々ありがとうございます」
シロがお礼を言うと、スノウはいつもの優しい笑顔でガッツポーズをした。
「うん。シロ君なら絶対受かると思うから特待生目指して頑張って!」
「はい!頑張ります」
シロもガッツポーズをして返事をした。
スノウを見送った後、カメリアはシロに施設を案内してくれた。風呂は屋上、トイレは共有スペースにあり、娯楽室や小さな図書館も併設されている。シロが泊まる個室は、清潔感はあるもののベッドと机しかない狭くて小さな部屋だ。
「今日明日はこの部屋を好きに使っていいからね。明日の朝、寮長があなた達を迎えに来て試験会場まで連れてってくれるわ。私は受付にいるから何かあったら声を掛けてね」
そう言って去っていくカメリアにお礼を言った後、部屋に1人残ったシロは荷物を床に置きベッドの上に座った。
時間はすでに夕暮れで、窓からは夕日とセレイスナの街が見える。
綺麗に整備された街をキラキラと照らすオレンジの光は美しい。
美しいはずなのに、ルーフがいないこの国の景色は何故か心から美しいと感じられない。
シロは何となく部屋を見回した。
ルーフと暮らす部屋よりはるかに狭いはずなのに、ルーフがいないこの部屋を広く感じてしまう。
たった2日、ルーフと離れるだけなのに泣きたくなるような寂しさに襲われる。
しかしシロは自分の両頬を手で叩いた。
「頑張れ、俺っ!絶対特待生になって3年で卒業してやるんだ!!」
シロは自分を鼓舞して、試験勉強を始めた。
62
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる