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竜人の子、旅立つ
16.モフモフは正義…
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翌日、ベッドに横たわるルーフは、体を丸めながら自分の尻尾をいじっていた。
「シロー…、見ろよ。俺の毛皮」
「んー?ふわふわだね。ていうか、いつもよりツヤツヤしてるよね」
りんごの皮を剥き終わったシロは、ルーフの前にうさぎカットにしたりんごを置いた。
「そうなんだよ!この国に来てから俺の毛皮はツヤツヤなんだ!」
「えー、良かったじゃん。お酒もずっと飲んでないし、健康的になったんじゃないかな」
「全っ然良くない!俺の毛皮は、ふわふわでガサガサの方がワイルドで格好いいんだよ!こんな…、こんな室内飼いの犬みてぇな毛質じゃ嫌なんだ…!それに見ろっ!この爪!!」
ルーフは両手を広げて爪を見せた。
オオカミ姿の時は尖って鋭くなる爪が、丸くカットされピカピカに磨かれている。
「ああ、ルーフが暴れるから看護師さんにカットされちゃったんだっけ?」
「そうだよっ!アイツら俺の自慢の爪まで可愛くしやがって!!俺の事ポメラニアンみたいだって貶しやがったんだ!」
「別に貶してる訳じゃないと思うけど…」
アスディアに暮らす魔族もいるのだが、ルーフのようなオオカミ魔族は珍しいらしく、竜人看護師の中でルーフは密かに人気があるらしい。
ルーフが寝ている隙に、看護師達はこっそりブラッシングをしに来たり、爪を研いであげたり、中にはルーフの毛をもしゃもしゃと堪能しに来る輩もいるらしい。
シロにとっても許し難い行為だったので、看護師達に注意したが「モフモフは正義…、いや、検査の一環です」と言われてしまった。
「そんなに嫌なら人型になればいいんじゃない?ルーフの毛皮が魅力的すぎるんだよ」
ルーフのツヤツヤになった後頭部の毛並みを撫でながら、シロは文句を言った。
「あのなぁ、シロ。俺の人型は、人間の国だったら背も高いし適度な筋肉も付いていて格好いいが、この国の竜人達は、女でも俺以上にデカくて筋肉ムキムキだろ?俺がひょろっこく見えるから嫌なんだ」
「ふーん」
(だからずっと本来の姿でいるのか…。でも、その姿の方が、竜人達に可愛いと思われちゃうんだけどな)
そんな事をルーフに言ったら、さらに機嫌を損ねてしまいそうなのでシロは心の中で呟いた。
そして、シロに背を向けて布団の中で丸くなったルーフに問いかけた。
「…ルーフ、やっぱりアスディアでは暮らせない?」
「当たり前だろ。ここに来てから頭痛もするし目眩もする。なにより酒が飲めないし、気分はずっと最悪だ」
背を向けたまま答えたルーフの言葉は、シロが予想していたものだった。
ルーフの訴える頭痛と目眩は、アスディアに来た時から出ている症状だ。心配したシロが検査を頼むと、結果は過度なストレスからきているものだった。ルーフにとって、アスディアの環境はそれほど合わないものなのだろう。
「…そっか」
「…何でそんな事を聞くんだ?」
ルーフが起き上がり、シロを見た。
金色の瞳は、シロの本心を見定めるように真っ直ぐに見つめている。
騎士学校に進学したいと言ったら、ルーフはどんな反応をするだろうかー…。
好きにしろ、と興味なさそうに言われるのだろうか。
一緒に暮らそうと言った約束も消えてなくなってしまうのだろうか。
でも自分の意思を伝えるんだー…。
シロは、決心して口を開いた。
「…俺さ、」
シロが言葉を発したと同時に、病室のドアをノックする音がした。
「あ、はい!どうぞ」
シロはドアに方に声を掛けた。
しかしルーフはドアには目を向けず、シロを見つめたままだ。
病室に入ってきたのは、看護師を連れたレイズだった。
「今、話せるか」
分厚いレンズのメガネを掛けたレイズは、ルーフとシロの妙な雰囲気を察したのか、紫色の目をギョロッとさせて聞いてきた。
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」
ルーフはまだシロの方を見ていたが、シロは気にせずレイズを案内した。
「最後の検査結果が出たからその報告をしにきた。結果は良好だ。ルーフ、明日は退院できるぞ」
レイズの言葉に、ルーフの表情は一気に明るくなり目を輝かせた。
「まじかよ!?やったー!!聞いたか、シロ!よし、酒買って帰るぞ!」
ルーフはまとめていた荷物を持ってベッドから抜け出そうとした。その肩をレイズの筋肉質な太い腕が抑えた。そしてもう片方の手には注射が握られている。
「退院するのは明日だと言っただろうが。さあ、これが最後の注射だ」
ルーフの顔がサァーと青くなり、毛が逆立った。
「や、やめろ!」
「恐れることはない。赤子も打つ可愛い注射だ」
逃げ出そうとするルーフをレイズが簡単に取り押さえる。
「注射に可愛いもあるかっ!やめろ!離せ!あっ、あっ…!」
そして今日もルーフの叫び声が病院内に響き渡った。
「シロー…、見ろよ。俺の毛皮」
「んー?ふわふわだね。ていうか、いつもよりツヤツヤしてるよね」
りんごの皮を剥き終わったシロは、ルーフの前にうさぎカットにしたりんごを置いた。
「そうなんだよ!この国に来てから俺の毛皮はツヤツヤなんだ!」
「えー、良かったじゃん。お酒もずっと飲んでないし、健康的になったんじゃないかな」
「全っ然良くない!俺の毛皮は、ふわふわでガサガサの方がワイルドで格好いいんだよ!こんな…、こんな室内飼いの犬みてぇな毛質じゃ嫌なんだ…!それに見ろっ!この爪!!」
ルーフは両手を広げて爪を見せた。
オオカミ姿の時は尖って鋭くなる爪が、丸くカットされピカピカに磨かれている。
「ああ、ルーフが暴れるから看護師さんにカットされちゃったんだっけ?」
「そうだよっ!アイツら俺の自慢の爪まで可愛くしやがって!!俺の事ポメラニアンみたいだって貶しやがったんだ!」
「別に貶してる訳じゃないと思うけど…」
アスディアに暮らす魔族もいるのだが、ルーフのようなオオカミ魔族は珍しいらしく、竜人看護師の中でルーフは密かに人気があるらしい。
ルーフが寝ている隙に、看護師達はこっそりブラッシングをしに来たり、爪を研いであげたり、中にはルーフの毛をもしゃもしゃと堪能しに来る輩もいるらしい。
シロにとっても許し難い行為だったので、看護師達に注意したが「モフモフは正義…、いや、検査の一環です」と言われてしまった。
「そんなに嫌なら人型になればいいんじゃない?ルーフの毛皮が魅力的すぎるんだよ」
ルーフのツヤツヤになった後頭部の毛並みを撫でながら、シロは文句を言った。
「あのなぁ、シロ。俺の人型は、人間の国だったら背も高いし適度な筋肉も付いていて格好いいが、この国の竜人達は、女でも俺以上にデカくて筋肉ムキムキだろ?俺がひょろっこく見えるから嫌なんだ」
「ふーん」
(だからずっと本来の姿でいるのか…。でも、その姿の方が、竜人達に可愛いと思われちゃうんだけどな)
そんな事をルーフに言ったら、さらに機嫌を損ねてしまいそうなのでシロは心の中で呟いた。
そして、シロに背を向けて布団の中で丸くなったルーフに問いかけた。
「…ルーフ、やっぱりアスディアでは暮らせない?」
「当たり前だろ。ここに来てから頭痛もするし目眩もする。なにより酒が飲めないし、気分はずっと最悪だ」
背を向けたまま答えたルーフの言葉は、シロが予想していたものだった。
ルーフの訴える頭痛と目眩は、アスディアに来た時から出ている症状だ。心配したシロが検査を頼むと、結果は過度なストレスからきているものだった。ルーフにとって、アスディアの環境はそれほど合わないものなのだろう。
「…そっか」
「…何でそんな事を聞くんだ?」
ルーフが起き上がり、シロを見た。
金色の瞳は、シロの本心を見定めるように真っ直ぐに見つめている。
騎士学校に進学したいと言ったら、ルーフはどんな反応をするだろうかー…。
好きにしろ、と興味なさそうに言われるのだろうか。
一緒に暮らそうと言った約束も消えてなくなってしまうのだろうか。
でも自分の意思を伝えるんだー…。
シロは、決心して口を開いた。
「…俺さ、」
シロが言葉を発したと同時に、病室のドアをノックする音がした。
「あ、はい!どうぞ」
シロはドアに方に声を掛けた。
しかしルーフはドアには目を向けず、シロを見つめたままだ。
病室に入ってきたのは、看護師を連れたレイズだった。
「今、話せるか」
分厚いレンズのメガネを掛けたレイズは、ルーフとシロの妙な雰囲気を察したのか、紫色の目をギョロッとさせて聞いてきた。
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」
ルーフはまだシロの方を見ていたが、シロは気にせずレイズを案内した。
「最後の検査結果が出たからその報告をしにきた。結果は良好だ。ルーフ、明日は退院できるぞ」
レイズの言葉に、ルーフの表情は一気に明るくなり目を輝かせた。
「まじかよ!?やったー!!聞いたか、シロ!よし、酒買って帰るぞ!」
ルーフはまとめていた荷物を持ってベッドから抜け出そうとした。その肩をレイズの筋肉質な太い腕が抑えた。そしてもう片方の手には注射が握られている。
「退院するのは明日だと言っただろうが。さあ、これが最後の注射だ」
ルーフの顔がサァーと青くなり、毛が逆立った。
「や、やめろ!」
「恐れることはない。赤子も打つ可愛い注射だ」
逃げ出そうとするルーフをレイズが簡単に取り押さえる。
「注射に可愛いもあるかっ!やめろ!離せ!あっ、あっ…!」
そして今日もルーフの叫び声が病院内に響き渡った。
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