88 / 112
竜人の子、旅立つ
15.選択
しおりを挟む
スノウは少し驚いた顔をした後、すぐにいつもの優しい微笑みになった。
「そっか。レイズ先生に比べれば僕の治療魔法なんてまだまだだよ。でもレイズ先生は騎士学校の先生でもあるから、きっと学べる事が沢山ある。すごく良い選択だと思うよ。…ルーフさんには話したの?」
病室を見上げていたシロの眉間に皺がよった。
「…まだです。ルーフは、アスディア以外なら一緒に暮らせるからって、俺の進学先について色々調べてくれてるんです。この爆発事故がなければ、夏休み後半はモンド王国の学校見学に行く約束もしてたんです。…はは、他人に無関心なあのルーフがですよ?俺のために…」
シロは俯き、両手で自分の顔を覆った。
シロの進学先について楽しそうに話していたルーフの姿を思い出す。
「本当はずっと悩んでいたんです。竜人で魔王の力を持つ俺だからこそ、学べる治療魔法があるんじゃないかって。聖剣の傷跡を治せる方法だって見つかるんじゃないかって。…だけど騎士学校に進学したらルーフとは暮らせない。元々ルーフは住む場所なんか決めずに自由気ままに生きている人でした。だけど俺の世話をするためにミール王国に5年も留まってくれた。しかも、俺が、何度もルーフに『離れたくない、そばにいたい』って言ってたんです。そうしたら、これからも俺と暮らせるように進学先の場所も考えてくれて…」
シロは話しながら涙が出そうになった。
そうだー…。
ルーフがこれからも一緒に暮らせる場所で進学先を探してくれたのは、自分が「離れたくない」と言ったからだ。それなのにー…。
「…それなのに、俺のわがままで騎士学校に行きたいなんて…、ずっと言えなくて…」
言葉に詰まるシロの背中を、スノウは優しく撫でた。
「…シロ君、それはわがままじゃないよ。シロ君自身の将来を決める選択だ。きっとルーフさんも理解してくれる。むしろ君が本当にやりたい事を言わずに我慢している方が、ルーフさんは怒ると思うよ。5年間、ずっとルーフさんと暮らしてきた君の方が分かってるんじゃない?」
スノウの穏やかな問いかけに、ふと、出会った時のルーフに言われた言葉を思い出す。
『ー…自分の意思があるなら最初からそう言え』
ー…ああ、そうだった。
ルーフは自分の意思を言わないと怒る人だった。
ローハン家では「呪われた竜」と罵られ、自分の気持ちを発言する事さえ許されなかった子供時代。
自分の気持ちを心の奥底に閉じ込めてしまう事が当たり前になっていたシロに、ルーフは何度も「自分がどうしたいのかをちゃんと伝えろ」と教えてくれた。
そして、シロが自分の気持ちを伝えると、少し偉そうな態度で口元を緩ませ、「やれば出来るじゃねぇか」と頭をガシガシと撫でてくれた。
ー…俺の気持ち、伝えないと…。
シロは深く息を吸い、顔を上げた。
さっきまでは不安そうなシロの表情は消えていた。
「ありがとうございます、スノウさん。確かにルーフはそういう性格でした。俺、ルーフに自分の気持ちをちゃんと伝えます」
「そっか。レイズ先生に比べれば僕の治療魔法なんてまだまだだよ。でもレイズ先生は騎士学校の先生でもあるから、きっと学べる事が沢山ある。すごく良い選択だと思うよ。…ルーフさんには話したの?」
病室を見上げていたシロの眉間に皺がよった。
「…まだです。ルーフは、アスディア以外なら一緒に暮らせるからって、俺の進学先について色々調べてくれてるんです。この爆発事故がなければ、夏休み後半はモンド王国の学校見学に行く約束もしてたんです。…はは、他人に無関心なあのルーフがですよ?俺のために…」
シロは俯き、両手で自分の顔を覆った。
シロの進学先について楽しそうに話していたルーフの姿を思い出す。
「本当はずっと悩んでいたんです。竜人で魔王の力を持つ俺だからこそ、学べる治療魔法があるんじゃないかって。聖剣の傷跡を治せる方法だって見つかるんじゃないかって。…だけど騎士学校に進学したらルーフとは暮らせない。元々ルーフは住む場所なんか決めずに自由気ままに生きている人でした。だけど俺の世話をするためにミール王国に5年も留まってくれた。しかも、俺が、何度もルーフに『離れたくない、そばにいたい』って言ってたんです。そうしたら、これからも俺と暮らせるように進学先の場所も考えてくれて…」
シロは話しながら涙が出そうになった。
そうだー…。
ルーフがこれからも一緒に暮らせる場所で進学先を探してくれたのは、自分が「離れたくない」と言ったからだ。それなのにー…。
「…それなのに、俺のわがままで騎士学校に行きたいなんて…、ずっと言えなくて…」
言葉に詰まるシロの背中を、スノウは優しく撫でた。
「…シロ君、それはわがままじゃないよ。シロ君自身の将来を決める選択だ。きっとルーフさんも理解してくれる。むしろ君が本当にやりたい事を言わずに我慢している方が、ルーフさんは怒ると思うよ。5年間、ずっとルーフさんと暮らしてきた君の方が分かってるんじゃない?」
スノウの穏やかな問いかけに、ふと、出会った時のルーフに言われた言葉を思い出す。
『ー…自分の意思があるなら最初からそう言え』
ー…ああ、そうだった。
ルーフは自分の意思を言わないと怒る人だった。
ローハン家では「呪われた竜」と罵られ、自分の気持ちを発言する事さえ許されなかった子供時代。
自分の気持ちを心の奥底に閉じ込めてしまう事が当たり前になっていたシロに、ルーフは何度も「自分がどうしたいのかをちゃんと伝えろ」と教えてくれた。
そして、シロが自分の気持ちを伝えると、少し偉そうな態度で口元を緩ませ、「やれば出来るじゃねぇか」と頭をガシガシと撫でてくれた。
ー…俺の気持ち、伝えないと…。
シロは深く息を吸い、顔を上げた。
さっきまでは不安そうなシロの表情は消えていた。
「ありがとうございます、スノウさん。確かにルーフはそういう性格でした。俺、ルーフに自分の気持ちをちゃんと伝えます」
1
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる