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竜人の子、旅立つ

15.選択

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スノウは少し驚いた顔をした後、すぐにいつもの優しい微笑みになった。

「そっか。レイズ先生に比べれば僕の治療魔法なんてまだまだだよ。でもレイズ先生は騎士学校の先生でもあるから、きっと学べる事が沢山ある。すごく良い選択だと思うよ。…ルーフさんには話したの?」

病室を見上げていたシロの眉間に皺がよった。

「…まだです。ルーフは、アスディア以外なら一緒に暮らせるからって、俺の進学先について色々調べてくれてるんです。この爆発事故がなければ、夏休み後半はモンド王国の学校見学に行く約束もしてたんです。…はは、他人に無関心なあのルーフがですよ?俺のために…」

シロは俯き、両手で自分の顔を覆った。
シロの進学先について楽しそうに話していたルーフの姿を思い出す。

「本当はずっと悩んでいたんです。竜人で魔王の力を持つ俺だからこそ、学べる治療魔法があるんじゃないかって。聖剣の傷跡を治せる方法だって見つかるんじゃないかって。…だけど騎士学校に進学したらルーフとは暮らせない。元々ルーフは住む場所なんか決めずに自由気ままに生きている人でした。だけど俺の世話をするためにミール王国に5年も留まってくれた。しかも、俺が、何度もルーフに『離れたくない、そばにいたい』って言ってたんです。そうしたら、これからも俺と暮らせるように進学先の場所も考えてくれて…」

シロは話しながら涙が出そうになった。

そうだー…。
ルーフがこれからも一緒に暮らせる場所で進学先を探してくれたのは、自分が「離れたくない」と言ったからだ。それなのにー…。

「…それなのに、俺のわがままで騎士学校に行きたいなんて…、ずっと言えなくて…」

言葉に詰まるシロの背中を、スノウは優しく撫でた。

「…シロ君、それはわがままじゃないよ。シロ君自身の将来を決める選択だ。きっとルーフさんも理解してくれる。むしろ君が本当にやりたい事を言わずに我慢している方が、ルーフさんは怒ると思うよ。5年間、ずっとルーフさんと暮らしてきた君の方が分かってるんじゃない?」

スノウの穏やかな問いかけに、ふと、出会った時のルーフに言われた言葉を思い出す。

『ー…自分の意思があるなら最初からそう言え』

ー…ああ、そうだった。
ルーフは自分の意思を言わないと怒る人だった。

ローハン家では「呪われた竜」と罵られ、自分の気持ちを発言する事さえ許されなかった子供時代。
自分の気持ちを心の奥底に閉じ込めてしまう事が当たり前になっていたシロに、ルーフは何度も「自分がどうしたいのかをちゃんと伝えろ」と教えてくれた。
そして、シロが自分の気持ちを伝えると、少し偉そうな態度で口元を緩ませ、「やれば出来るじゃねぇか」と頭をガシガシと撫でてくれた。

ー…俺の気持ち、伝えないと…。

シロは深く息を吸い、顔を上げた。
さっきまでは不安そうなシロの表情は消えていた。

「ありがとうございます、スノウさん。確かにルーフはそういう性格でした。俺、ルーフに自分の気持ちをちゃんと伝えます」
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