竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

文字の大きさ
上 下
48 / 112
竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる

22.暖かい風

しおりを挟む
ルーフとシロは街の繁華街を抜けると、人気のない坂道に出た。崩れ掛けた石造りの塀が続く坂道を登って行けばドグライアスの白黒の街並みが一望でき、遠くには海が見える。

天気は悪いが吹き抜ける風は心地よい。

「ー…綺麗な場所ですね」

シロは景色に目を奪われながら呟いた。
前を歩いていたルーフが振り返り、シロが見ている景色を追うように視線を海の方へ移した。

ルーフはしばらく景色を眺めた後、「そうだな」と笑った。

その笑顔が少し寂しそうでシロは胸が苦しくなった。

ー…「何でそんなに悲しそうなんですか?」

そう聞きたかったが言葉は出なかった。

さっきジャスがルーフに言っていた「お前の大好きな魔王様はもういねぇぞ?」という言葉が蘇る。

(ルーフさんは特定の相手を作らないって聞いてたけど、『魔王様』は特別だったのかな…。ルーフさんにとって『魔王様』はどんな存在だったんだろう…)

シロは再び歩き出したルーフの後ろ姿をぼんやり見つめた。



「ふー、着いた。…うへぇー、あの時から全然変わってねぇや」

ルーフの後ろからシロも顔を出すと、坂を登り切った場所には広大な土地が広がり、ほとんど崩れているが立派な石造りの建物があった。
崩れた石のレンガには苔が生えていて、建物が崩壊してから長年放置されているようだった。

「ー…ここってお城だったんですか?」

「ああ、ドグライアス城の跡地だ。今じゃこんなに廃れてるけど、100年前は結構立派な建物だったんだぜ。魔王がいなくなって崩壊しちまったけどな。…魔王がいない理由は知ってるか?」

ルーフは石レンガに腰を掛けカバンから水の入ったボトルを2本取り出し、1本をシロに投げて渡した。

「あ、ありがとうございます。…歴史の授業で教わりました。100年戦争の終止符のため勇者が魔王を消した、って」

「へぇ、今じゃ歴史になってんのか。俺にとっちゃ、ついこの間の出来事に感じるんだけどな」

「…ルーフさんもその戦争に参加してたんですか?」

自分の事をあまり話さないルーフから話し出したので、シロは躊躇いつつも聞いてみた。

「参加してたっていうか、俺は当時の魔王様の下で働いてたんだ。子供の頃、瀕死だった俺を魔王様が助けてくれた縁でな。魔王様は…優しい人、いや優しすぎて弱い人だったよ。自分自身が持つ強大な闇魔力に怯えて『死にたい、殺して、消えたい』が口癖で、ずっとこの城に引きこもっていた。でも俺はそんな魔王様が好きだったし、俺が絶対守ってやる、って使命感もあったんだ」

ルーフは魔王の部屋があった城の頂上を見上げるように空を見た。

「そう…だったんですね」

シロは胸が抉られるように痛くなり、目の前がぐらりと歪んだ気がした。立っている事さえ辛くなり、しゃがみ込んだ。

「あ、好きって言っても尊敬とか敬愛の方な。恋愛対象として見ていたわけじゃねぇぞ。想像すんなよ、あり得ねぇから」

シロの反応を見て、ルーフは笑いながら訂正した。

「ー…でも大事な人だった。いつも苦しんでいたから、幸せになってもらいたいって心底思っていたよ。そしたら突然『勇者』って奴が現れて魔王様を攫って行こうとしたわけ。最初は俺も全力で魔王様を止めたよ。でもさ、勇者も魔王様もお互いに『一目惚れした!だから大丈夫!』とか言い出したんだぜ?正直、馬鹿じゃねぇの?って思って笑っちゃったよ」

ルーフは笑いながら話していたが、声と瞳には寂しさと悲しさが混ざっていた。シロは何も言わず、ただただ静かに聞いていた。

「だけど魔王様がすげぇ幸せそうな顔で勇者の手を取ったんだ。魔王様とは何十年も一緒に過ごしたけど、あんなに幸せそうな顔は初めて見たよ。その時、確信した。ああ、この人の居場所はドグライアスじゃない。もっと幸せに生きていける場所があるんだ、ってさ。で、2人はそのまま消えてハッピーエンド。きっと今もどこかで幸せに暮らしてるんじゃねぇかな」

ルーフが優しく笑って空を見上げると、まるで消えた魔王が笑顔で頷いたように暖かい風が吹き抜けた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

処理中です...