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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる
22.暖かい風
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ルーフとシロは街の繁華街を抜けると、人気のない坂道に出た。崩れ掛けた石造りの塀が続く坂道を登って行けばドグライアスの白黒の街並みが一望でき、遠くには海が見える。
天気は悪いが吹き抜ける風は心地よい。
「ー…綺麗な場所ですね」
シロは景色に目を奪われながら呟いた。
前を歩いていたルーフが振り返り、シロが見ている景色を追うように視線を海の方へ移した。
ルーフはしばらく景色を眺めた後、「そうだな」と笑った。
その笑顔が少し寂しそうでシロは胸が苦しくなった。
ー…「何でそんなに悲しそうなんですか?」
そう聞きたかったが言葉は出なかった。
さっきジャスがルーフに言っていた「お前の大好きな魔王様はもういねぇぞ?」という言葉が蘇る。
(ルーフさんは特定の相手を作らないって聞いてたけど、『魔王様』は特別だったのかな…。ルーフさんにとって『魔王様』はどんな存在だったんだろう…)
シロは再び歩き出したルーフの後ろ姿をぼんやり見つめた。
「ふー、着いた。…うへぇー、あの時から全然変わってねぇや」
ルーフの後ろからシロも顔を出すと、坂を登り切った場所には広大な土地が広がり、ほとんど崩れているが立派な石造りの建物があった。
崩れた石のレンガには苔が生えていて、建物が崩壊してから長年放置されているようだった。
「ー…ここってお城だったんですか?」
「ああ、ドグライアス城の跡地だ。今じゃこんなに廃れてるけど、100年前は結構立派な建物だったんだぜ。魔王がいなくなって崩壊しちまったけどな。…魔王がいない理由は知ってるか?」
ルーフは石レンガに腰を掛けカバンから水の入ったボトルを2本取り出し、1本をシロに投げて渡した。
「あ、ありがとうございます。…歴史の授業で教わりました。100年戦争の終止符のため勇者が魔王を消した、って」
「へぇ、今じゃ歴史になってんのか。俺にとっちゃ、ついこの間の出来事に感じるんだけどな」
「…ルーフさんもその戦争に参加してたんですか?」
自分の事をあまり話さないルーフから話し出したので、シロは躊躇いつつも聞いてみた。
「参加してたっていうか、俺は当時の魔王様の下で働いてたんだ。子供の頃、瀕死だった俺を魔王様が助けてくれた縁でな。魔王様は…優しい人、いや優しすぎて弱い人だったよ。自分自身が持つ強大な闇魔力に怯えて『死にたい、殺して、消えたい』が口癖で、ずっとこの城に引きこもっていた。でも俺はそんな魔王様が好きだったし、俺が絶対守ってやる、って使命感もあったんだ」
ルーフは魔王の部屋があった城の頂上を見上げるように空を見た。
「そう…だったんですね」
シロは胸が抉られるように痛くなり、目の前がぐらりと歪んだ気がした。立っている事さえ辛くなり、しゃがみ込んだ。
「あ、好きって言っても尊敬とか敬愛の方な。恋愛対象として見ていたわけじゃねぇぞ。想像すんなよ、あり得ねぇから」
シロの反応を見て、ルーフは笑いながら訂正した。
「ー…でも大事な人だった。いつも苦しんでいたから、幸せになってもらいたいって心底思っていたよ。そしたら突然『勇者』って奴が現れて魔王様を攫って行こうとしたわけ。最初は俺も全力で魔王様を止めたよ。でもさ、勇者も魔王様もお互いに『一目惚れした!だから大丈夫!』とか言い出したんだぜ?正直、馬鹿じゃねぇの?って思って笑っちゃったよ」
ルーフは笑いながら話していたが、声と瞳には寂しさと悲しさが混ざっていた。シロは何も言わず、ただただ静かに聞いていた。
「だけど魔王様がすげぇ幸せそうな顔で勇者の手を取ったんだ。魔王様とは何十年も一緒に過ごしたけど、あんなに幸せそうな顔は初めて見たよ。その時、確信した。ああ、この人の居場所はドグライアスじゃない。もっと幸せに生きていける場所があるんだ、ってさ。で、2人はそのまま消えてハッピーエンド。きっと今もどこかで幸せに暮らしてるんじゃねぇかな」
ルーフが優しく笑って空を見上げると、まるで消えた魔王が笑顔で頷いたように暖かい風が吹き抜けた。
天気は悪いが吹き抜ける風は心地よい。
「ー…綺麗な場所ですね」
シロは景色に目を奪われながら呟いた。
前を歩いていたルーフが振り返り、シロが見ている景色を追うように視線を海の方へ移した。
ルーフはしばらく景色を眺めた後、「そうだな」と笑った。
その笑顔が少し寂しそうでシロは胸が苦しくなった。
ー…「何でそんなに悲しそうなんですか?」
そう聞きたかったが言葉は出なかった。
さっきジャスがルーフに言っていた「お前の大好きな魔王様はもういねぇぞ?」という言葉が蘇る。
(ルーフさんは特定の相手を作らないって聞いてたけど、『魔王様』は特別だったのかな…。ルーフさんにとって『魔王様』はどんな存在だったんだろう…)
シロは再び歩き出したルーフの後ろ姿をぼんやり見つめた。
「ふー、着いた。…うへぇー、あの時から全然変わってねぇや」
ルーフの後ろからシロも顔を出すと、坂を登り切った場所には広大な土地が広がり、ほとんど崩れているが立派な石造りの建物があった。
崩れた石のレンガには苔が生えていて、建物が崩壊してから長年放置されているようだった。
「ー…ここってお城だったんですか?」
「ああ、ドグライアス城の跡地だ。今じゃこんなに廃れてるけど、100年前は結構立派な建物だったんだぜ。魔王がいなくなって崩壊しちまったけどな。…魔王がいない理由は知ってるか?」
ルーフは石レンガに腰を掛けカバンから水の入ったボトルを2本取り出し、1本をシロに投げて渡した。
「あ、ありがとうございます。…歴史の授業で教わりました。100年戦争の終止符のため勇者が魔王を消した、って」
「へぇ、今じゃ歴史になってんのか。俺にとっちゃ、ついこの間の出来事に感じるんだけどな」
「…ルーフさんもその戦争に参加してたんですか?」
自分の事をあまり話さないルーフから話し出したので、シロは躊躇いつつも聞いてみた。
「参加してたっていうか、俺は当時の魔王様の下で働いてたんだ。子供の頃、瀕死だった俺を魔王様が助けてくれた縁でな。魔王様は…優しい人、いや優しすぎて弱い人だったよ。自分自身が持つ強大な闇魔力に怯えて『死にたい、殺して、消えたい』が口癖で、ずっとこの城に引きこもっていた。でも俺はそんな魔王様が好きだったし、俺が絶対守ってやる、って使命感もあったんだ」
ルーフは魔王の部屋があった城の頂上を見上げるように空を見た。
「そう…だったんですね」
シロは胸が抉られるように痛くなり、目の前がぐらりと歪んだ気がした。立っている事さえ辛くなり、しゃがみ込んだ。
「あ、好きって言っても尊敬とか敬愛の方な。恋愛対象として見ていたわけじゃねぇぞ。想像すんなよ、あり得ねぇから」
シロの反応を見て、ルーフは笑いながら訂正した。
「ー…でも大事な人だった。いつも苦しんでいたから、幸せになってもらいたいって心底思っていたよ。そしたら突然『勇者』って奴が現れて魔王様を攫って行こうとしたわけ。最初は俺も全力で魔王様を止めたよ。でもさ、勇者も魔王様もお互いに『一目惚れした!だから大丈夫!』とか言い出したんだぜ?正直、馬鹿じゃねぇの?って思って笑っちゃったよ」
ルーフは笑いながら話していたが、声と瞳には寂しさと悲しさが混ざっていた。シロは何も言わず、ただただ静かに聞いていた。
「だけど魔王様がすげぇ幸せそうな顔で勇者の手を取ったんだ。魔王様とは何十年も一緒に過ごしたけど、あんなに幸せそうな顔は初めて見たよ。その時、確信した。ああ、この人の居場所はドグライアスじゃない。もっと幸せに生きていける場所があるんだ、ってさ。で、2人はそのまま消えてハッピーエンド。きっと今もどこかで幸せに暮らしてるんじゃねぇかな」
ルーフが優しく笑って空を見上げると、まるで消えた魔王が笑顔で頷いたように暖かい風が吹き抜けた。
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