竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を拾う。

17.死にたがりの魔王様

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ー…ドグライアス城の最上階。

日の光が入らない王室で、魔王は静かに本を読んでいる。

「何読んでるんですか?魔王様。」

まだ少年の面影が残るルーフが話しかけると魔王はゆっくり顔を上げ、読んでいた本の表紙をルーフに見せた。

「勇者の冒険譚。異世界からやって来て、悪い魔王を倒して平和な世界を手に入れるんだ。」

「つまらなそうな話ですね。」

「面白いよ。それに希望が持てる。」

「希望?」

「うん。悪は必ず滅びる。きっと僕の元にも勇者が訪れて僕を殺してくれる。」

魔王はうっとりとした声で本を抱きしめた。

「…魔王様は悪じゃないですよ。死にそうだった俺を助けてくれたじゃないですか。心優しい貴方が勇者に殺される理由がない。」

「悪だよ、極悪。僕が闇魔法をコントロール出来ないせいで戦争が始まったんだ。僕が原因なんだから僕がさっさと死ねば世界は平和になるんだ。」

「相変わらず死にたがりですね。」

ルーフはため息をついた。

魔王は生まれつき強力な魔力を作り出す体質だった。そのうえ魔力を求める魔族には、魔王の意思とは関係なく魔力を供給してしまう性質がある。
そのせいで争いや破壊を好み力を欲する魔族たちには、より多くの魔力を供給してしまうのだ。
結果、力を得た一部の魔族たちは暴徒化し、人間や竜人を襲い続け、ついに魔族と竜人の戦争が始まってしまったのだ。

平和主義で心優しい魔王は責任を感じ、いつもこうして自分が消えれば解決するから、と言って死にたがる。

「俺は…魔王様に死んでほしくない。それでも死にたいって言うなら俺も一緒に死にますよ。」

「ありがとう。でも僕のために死んじゃだめ。ルーフの命は、本当に守りたい人ができるまで大事に取っておいて。」

魔王は本を閉じて立ち上がった。魔王の体はどんどん薄くなって消えていく。

「待ってくれ!俺は貴方を守りたいっ。俺の命は貴方のものだ。貴方のために死ねるなら本望だ。だから1人で消えないでくれ!!」

ルーフは必死で魔王に訴え、手を伸ばす。

「大丈夫。きっとルーフには、愛情を持って大切にしたい人が現れる…。その子もルーフを深く愛してくれるはずだよ。だからしっかり生きて…。」

そう言って魔王は消えた。

嫌だ、行かないでくれー…。
俺を1人にしないでくれー…。

ルーフは孤独と絶望に押しつぶされそうになり、膝から崩れ落ちた。真っ暗な闇に包まれ、頭を抱える。

ー…ああ、これは夢だ。何度も俺が見た夢だ。


実際の魔王との別れは呆気ないものだった。

ある日、異世界から本当にやってきた勇者が「魔王に一目惚れした。」とほざいて自分の世界に攫っていったのだ。
ルーフは必死に止めようとしたが、すごく幸せそうな顔で勇者の手を取る魔王の姿を見て、動けなくなった。

ー…魔王様この人が幸せなら、それでいいじゃないか。この人に俺は必要ないんだから。


魔王を掴めなかった手が力無く落ちていく時、誰かがルーフの手を取った。



「ー…さん!ルーフさん!」

ルーフは重い瞼をゆっくり開けた。

「ルーフさん!ううっ、大丈夫ですか!?目、覚めました!?」

目の前には涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったシロが、ルーフの手を握って必死に名前を呼んでいた。

(うわ…。なんつーか、すげぇブサイクな顔してんな…。)

ルーフは小さく笑ってシロの頭を撫でた。

「…泣くの禁止って言っただろ。」

「うわあーんっ!良かったぁ!ルーフさんが全然目を覚さないから心配したんですからぁー!!ううっ…。良かったよぉーっ。」

シロは泣きながらルーフに抱きついた。

握られたシロの手は温かく、ルーフは冷え切っていた心もじんわり温まっていくような気がした。
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