18 / 112
竜人嫌いの魔族、竜人の子供を拾う。
17.死にたがりの魔王様
しおりを挟むー…ドグライアス城の最上階。
日の光が入らない王室で、魔王は静かに本を読んでいる。
「何読んでるんですか?魔王様。」
まだ少年の面影が残るルーフが話しかけると魔王はゆっくり顔を上げ、読んでいた本の表紙をルーフに見せた。
「勇者の冒険譚。異世界からやって来て、悪い魔王を倒して平和な世界を手に入れるんだ。」
「つまらなそうな話ですね。」
「面白いよ。それに希望が持てる。」
「希望?」
「うん。悪は必ず滅びる。きっと僕の元にも勇者が訪れて僕を殺してくれる。」
魔王はうっとりとした声で本を抱きしめた。
「…魔王様は悪じゃないですよ。死にそうだった俺を助けてくれたじゃないですか。心優しい貴方が勇者に殺される理由がない。」
「悪だよ、極悪。僕が闇魔法をコントロール出来ないせいで戦争が始まったんだ。僕が原因なんだから僕がさっさと死ねば世界は平和になるんだ。」
「相変わらず死にたがりですね。」
ルーフはため息をついた。
魔王は生まれつき強力な魔力を作り出す体質だった。そのうえ魔力を求める魔族には、魔王の意思とは関係なく魔力を供給してしまう性質がある。
そのせいで争いや破壊を好み力を欲する魔族たちには、より多くの魔力を供給してしまうのだ。
結果、力を得た一部の魔族たちは暴徒化し、人間や竜人を襲い続け、ついに魔族と竜人の戦争が始まってしまったのだ。
平和主義で心優しい魔王は責任を感じ、いつもこうして自分が消えれば解決するから、と言って死にたがる。
「俺は…魔王様に死んでほしくない。それでも死にたいって言うなら俺も一緒に死にますよ。」
「ありがとう。でも僕のために死んじゃだめ。ルーフの命は、本当に守りたい人ができるまで大事に取っておいて。」
魔王は本を閉じて立ち上がった。魔王の体はどんどん薄くなって消えていく。
「待ってくれ!俺は貴方を守りたいっ。俺の命は貴方のものだ。貴方のために死ねるなら本望だ。だから1人で消えないでくれ!!」
ルーフは必死で魔王に訴え、手を伸ばす。
「大丈夫。きっとルーフには、愛情を持って大切にしたい人が現れる…。その子もルーフを深く愛してくれるはずだよ。だからしっかり生きて…。」
そう言って魔王は消えた。
嫌だ、行かないでくれー…。
俺を1人にしないでくれー…。
ルーフは孤独と絶望に押しつぶされそうになり、膝から崩れ落ちた。真っ暗な闇に包まれ、頭を抱える。
ー…ああ、これは夢だ。何度も俺が見た夢だ。
実際の魔王との別れは呆気ないものだった。
ある日、異世界から本当にやってきた勇者が「魔王に一目惚れした。」とほざいて自分の世界に攫っていったのだ。
ルーフは必死に止めようとしたが、すごく幸せそうな顔で勇者の手を取る魔王の姿を見て、動けなくなった。
ー…魔王様が幸せなら、それでいいじゃないか。この人に俺は必要ないんだから。
魔王を掴めなかった手が力無く落ちていく時、誰かがルーフの手を取った。
「ー…さん!ルーフさん!」
ルーフは重い瞼をゆっくり開けた。
「ルーフさん!ううっ、大丈夫ですか!?目、覚めました!?」
目の前には涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったシロが、ルーフの手を握って必死に名前を呼んでいた。
(うわ…。なんつーか、すげぇブサイクな顔してんな…。)
ルーフは小さく笑ってシロの頭を撫でた。
「…泣くの禁止って言っただろ。」
「うわあーんっ!良かったぁ!ルーフさんが全然目を覚さないから心配したんですからぁー!!ううっ…。良かったよぉーっ。」
シロは泣きながらルーフに抱きついた。
握られたシロの手は温かく、ルーフは冷え切っていた心もじんわり温まっていくような気がした。
4
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる