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3章
第6話
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《ARside》
アリーシャリア王国第七王子であり、異次元の能力を持ったフィリアラールと結婚してから、既に数ヶ月という月日が経っていた。フィリアはとても可愛い。本当に可愛い。そして美しい。優しい心に女神のような美貌。暗殺一族の跡取りである俺が、まさか心から愛する人に出会えるとは思ってもいなかった。子供も嫌いだったが、フィリアとの子なら可愛がることができるくらいに…。それほどに、俺はフィリアを愛している。
先日、有力分家のアーディ・エウデラード家次期当主エルダの小さな危機を救ったことにより、フィリアからとある頼み事をされた。
「なるほどな…。そういうことか」
「はい」
父さんの執務室にて。正面に座る父さんは、俺の話を聞くなりすぐに手元の資料に視線を落とした。
やっぱり、そんなに上手くは認めて貰えねぇか。
俺はあからさまに肩を落とす。
「一月後、小国を一つ滅ぼす依頼が入っている」
「小国を…?それは最早暗殺じゃ…」
「まぁな。これ見てみろ」
父さんは、俺に資料を見せる。
任務の内容は、南の小国を滅ぼすこと。つまり、一人残らず抹殺しろということだ。どうやらその小国は、その近くの大国を拠点にしているという殺しから麻薬まで何でもやる裏組織の中でも最高にタチの悪い組織と手を組んでいるのだとか。小国を滅ぼして裏組織を弱体化させろということだろう。だが俺は一つの難点に気がつく。
「裏組織に目をつけられそうですね」
「エウデラードとして手を出してくるバカ共じゃなければいいが…恐らくそうはいかない」
「俺たちが危険に晒されるだけでは?」
そう意見を言うと、父さんは首を縦に振った。だが、口角が上がっている。何か良からぬことを考えている証拠だ。粗方想像はつくがな。
エウデラード一族の専門は暗殺だ。騎士団でも勇者共の集いでもねぇ。国一つを滅ぼすというのは、最早暗殺という域を超える気もする。この任務を受けるなら、小国の規模にもよるが少なくとも五人程度は駆り出す必要がある。しかも、その裏組織とやらもその国に潜んでいるかもしれねぇ。危険は増す。
「こんな任務普通なら受けないが…。ちょうどいい。作戦をエルダに立てさせよう」
「っ………エルダに?アーディ・エウデラードの当主ではなく?」
「力量を確かめるには十二分な任務だろ?任務が成功した暁には、分家の分家共も認めんだろうが」
父さんは簡単に言ってのけてしまった。すぐに側近を呼びつけて指示を出している。俺が何と言おうとこの危険な任務を受けるつもりらしい。面倒な裏組織に絡まれることになるかもしれねぇのに、お気楽なことだな。まぁ、そんなことが万が一あったとしても、裏組織も潰せばいい話なんだが…。俺としてはフィリアに心配をかけることと、フィリアを危険に晒すことはしたくねぇ。
「どうする?やんのか?やらねぇのか?」
「俺に拒否権はありませんよ」
俺がそう言うと、父さんは嬉しそうに笑った。しかし何かを思い出したかのか、すぐに真顔へと戻った。すると、身を乗り出して手招きをしてくる。恐る恐る近づくと、父さんは小声で話し始めた。
「おまえの頼みを聞いてやるのに、一つ条件がある」
「………何ですか?」
「孫の顔を見せてくれ」
「……………………は?」
「何だおまえ。まだ若ぇのにもう耳が遠くなったのか?」
「いや…。もう一回言ってもらっても?」
「孫の顔が見たいんだよ」
聞き間違いではなかったらしい。父さんはニタニタと人の悪い笑みを浮かべていた。
孫の顔が見たい。つまり、フィリアと俺の子供が見たいということだろう。既にフィリアとはそういう関係にあったとは言えど、子供を意識したことはあまりねぇからな…。いざそのためにセックスをするとなると、何だか照れくせぇ…。
「そろそろいいだろうが、アルトリウス」
「………………」
「俺もアンナも孫を楽しみにしてんだよ。俺たちにはおまえしか子供がいないからな。頼むから、いっぱい励んでくれよ」
見る見るうちに顔が赤くなっていくのを感じる。俺の真っ赤な顔を見て、父さんは「初々しいな」などと言って他人事のように笑っている。
母さんは元々子供が出来にくい体質だったが故、二人の間に子供は俺しかいねぇ。兄弟が一人もいねぇことが、寂しく感じることももちろんあった。家族が多いのだとしたら、毎日楽しいんだろうか。フィリアとの子なら、いくらでも欲しい。男も、女も。あいつに似たのなら、どんな子でも可愛いんだろうな。
そう思った俺は、一大決心をして父さんの顔を見つめた。
「分かりました」
「おっ、最低五人は欲しいな」
「ご、五人…」
祖父の立場になるというくせに、図々しい言葉だ。
例えば、五人産んだとしても、全員が全員優秀だったらいい。そうでなくとも、処分は絶対にさせねぇ。
エウデラード一族の子は皆、黒髪に青紫の瞳が特徴的だが、フィリアのプラチナブロンドの髪色の子も、エメラルドグリーンの瞳の子も欲しい。
妄想に胸躍らせていると、父さんが「乗り気か?」と声をかけてくる。コホン、と一つ咳払いをして「乗り気です」と答えておいた。
フィリアにどう打ち明けるかが難しいところだが、またそれは今度考えればいい。とりあえず今は、フィリアの願いを叶えられることに感謝しよう…。
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アリーシャリア王国第七王子であり、異次元の能力を持ったフィリアラールと結婚してから、既に数ヶ月という月日が経っていた。フィリアはとても可愛い。本当に可愛い。そして美しい。優しい心に女神のような美貌。暗殺一族の跡取りである俺が、まさか心から愛する人に出会えるとは思ってもいなかった。子供も嫌いだったが、フィリアとの子なら可愛がることができるくらいに…。それほどに、俺はフィリアを愛している。
先日、有力分家のアーディ・エウデラード家次期当主エルダの小さな危機を救ったことにより、フィリアからとある頼み事をされた。
「なるほどな…。そういうことか」
「はい」
父さんの執務室にて。正面に座る父さんは、俺の話を聞くなりすぐに手元の資料に視線を落とした。
やっぱり、そんなに上手くは認めて貰えねぇか。
俺はあからさまに肩を落とす。
「一月後、小国を一つ滅ぼす依頼が入っている」
「小国を…?それは最早暗殺じゃ…」
「まぁな。これ見てみろ」
父さんは、俺に資料を見せる。
任務の内容は、南の小国を滅ぼすこと。つまり、一人残らず抹殺しろということだ。どうやらその小国は、その近くの大国を拠点にしているという殺しから麻薬まで何でもやる裏組織の中でも最高にタチの悪い組織と手を組んでいるのだとか。小国を滅ぼして裏組織を弱体化させろということだろう。だが俺は一つの難点に気がつく。
「裏組織に目をつけられそうですね」
「エウデラードとして手を出してくるバカ共じゃなければいいが…恐らくそうはいかない」
「俺たちが危険に晒されるだけでは?」
そう意見を言うと、父さんは首を縦に振った。だが、口角が上がっている。何か良からぬことを考えている証拠だ。粗方想像はつくがな。
エウデラード一族の専門は暗殺だ。騎士団でも勇者共の集いでもねぇ。国一つを滅ぼすというのは、最早暗殺という域を超える気もする。この任務を受けるなら、小国の規模にもよるが少なくとも五人程度は駆り出す必要がある。しかも、その裏組織とやらもその国に潜んでいるかもしれねぇ。危険は増す。
「こんな任務普通なら受けないが…。ちょうどいい。作戦をエルダに立てさせよう」
「っ………エルダに?アーディ・エウデラードの当主ではなく?」
「力量を確かめるには十二分な任務だろ?任務が成功した暁には、分家の分家共も認めんだろうが」
父さんは簡単に言ってのけてしまった。すぐに側近を呼びつけて指示を出している。俺が何と言おうとこの危険な任務を受けるつもりらしい。面倒な裏組織に絡まれることになるかもしれねぇのに、お気楽なことだな。まぁ、そんなことが万が一あったとしても、裏組織も潰せばいい話なんだが…。俺としてはフィリアに心配をかけることと、フィリアを危険に晒すことはしたくねぇ。
「どうする?やんのか?やらねぇのか?」
「俺に拒否権はありませんよ」
俺がそう言うと、父さんは嬉しそうに笑った。しかし何かを思い出したかのか、すぐに真顔へと戻った。すると、身を乗り出して手招きをしてくる。恐る恐る近づくと、父さんは小声で話し始めた。
「おまえの頼みを聞いてやるのに、一つ条件がある」
「………何ですか?」
「孫の顔を見せてくれ」
「……………………は?」
「何だおまえ。まだ若ぇのにもう耳が遠くなったのか?」
「いや…。もう一回言ってもらっても?」
「孫の顔が見たいんだよ」
聞き間違いではなかったらしい。父さんはニタニタと人の悪い笑みを浮かべていた。
孫の顔が見たい。つまり、フィリアと俺の子供が見たいということだろう。既にフィリアとはそういう関係にあったとは言えど、子供を意識したことはあまりねぇからな…。いざそのためにセックスをするとなると、何だか照れくせぇ…。
「そろそろいいだろうが、アルトリウス」
「………………」
「俺もアンナも孫を楽しみにしてんだよ。俺たちにはおまえしか子供がいないからな。頼むから、いっぱい励んでくれよ」
見る見るうちに顔が赤くなっていくのを感じる。俺の真っ赤な顔を見て、父さんは「初々しいな」などと言って他人事のように笑っている。
母さんは元々子供が出来にくい体質だったが故、二人の間に子供は俺しかいねぇ。兄弟が一人もいねぇことが、寂しく感じることももちろんあった。家族が多いのだとしたら、毎日楽しいんだろうか。フィリアとの子なら、いくらでも欲しい。男も、女も。あいつに似たのなら、どんな子でも可愛いんだろうな。
そう思った俺は、一大決心をして父さんの顔を見つめた。
「分かりました」
「おっ、最低五人は欲しいな」
「ご、五人…」
祖父の立場になるというくせに、図々しい言葉だ。
例えば、五人産んだとしても、全員が全員優秀だったらいい。そうでなくとも、処分は絶対にさせねぇ。
エウデラード一族の子は皆、黒髪に青紫の瞳が特徴的だが、フィリアのプラチナブロンドの髪色の子も、エメラルドグリーンの瞳の子も欲しい。
妄想に胸躍らせていると、父さんが「乗り気か?」と声をかけてくる。コホン、と一つ咳払いをして「乗り気です」と答えておいた。
フィリアにどう打ち明けるかが難しいところだが、またそれは今度考えればいい。とりあえず今は、フィリアの願いを叶えられることに感謝しよう…。
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