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1章

第25話

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《FRside》

 アリーシャリア王国国王である父と、エウデラード家当主でありアルのお父様に無事に結婚を認めてもらった。何年かかっても、と思っていたけどまさかこんなにすぐに認めてもらえるとは思っていなかった。何はともあれ、俺フィリアラール・シャルダ・アリーシャリアは、エウデラード家次期当主の妻としてフィリアラール・ディル・エウデラードを名乗ることを許された。アルによると、他国の王族から嫁ぐのは何と俺が初めてらしい。結婚はできないだろうと思っていたらしいけど、お父様から突如結婚承認の手紙を渡されたようだ。
 アリーシャリア王国の王族が嫁ぐときや、伴侶を迎えるときは盛大に祝うらしいが、相手があのエウデラード家であるため今回は特例として面倒な儀式やらは全て省くことが認められた。すぐに嫁ぎたいと思っている俺からしたら有難いけどね。

「フェリアラール、おめでとう」

 ついに、生まれ育った故郷を離れるときが来た。父様とラティアス兄様、更には他の兄弟たち、唯一の弟であるグレンも見送ってくれるらしい。ご丁寧に花嫁衣裳まで着せられているが肝心の旦那様は馬車の中だ。俺の家族とは言えアルは暗殺者だ。そう簡単に顔を見せるわけにはいかない。

「次の男は兄に見せろと言ったはずだがな」
「ふふ、ごめんなさい、ラティアス兄様」
「おまえが幸せになれるならいい。おめでとう」

 そう言ってラティアス兄様は俺の頭を優しく撫でてくれた。次々と兄弟たちが俺に祝福の言葉を投げかけてくれる中、グレンだけは静かに俺のことを見つめていた。空色の瞳は鋭められ、今にも獲物を殺そうとしているような目だ。だが、会うのはこれで最後かもしれない。帰ってこれるなら何回かは帰って来るつもりだが、グレンもいつまでもここにいるわけではないだろうから。
 俺は、グレンに近寄り手を差し出す。

「ラティアス兄様のこと、よろしくね」

 グレンは俺の差し出した手をじっと見つめた後、再び俺の顔へと視線を戻した。鋭かった瞳は、悲し気に揺れている。今にもその瞳から涙が溢れそうなほどに。初めて見るグレンの人間らしい表情に俺は息を呑む。

「一つ、答えてください。あなたは望んでそこにいるのですか」

 愚問だ。そんなこと聞かなくても分かるだろう。俺は何も言わずただただグレンの目を真っ直ぐに見つめながら頷いた。驚くグレン。俺が政略結婚でアルの元に嫁ぐとでも思っているのか。そんなわけがないのに。

「必ず…」

 グレンはそう呟いて俺の手を振り払い、背を向けてどこかへ行ってしまった。風に吹かれて舞う赤髪が酷く印象的だった。腹違いとは言えたった一人の弟なのに。最後に見る光景が後ろ姿なんて嫌だな…。

「第八王子殿下はショックなんですね」
「リグ…」
「殿下。言いましたよね?男は本気で好いた方に対しては素直になれない生き物だと」

 アルに出会う前、リグに言われた言葉を思い出した。グレンが俺を本気で好きだということ?腹違いだけど、父親は同じだ。正真正銘半分は血が繋がっているのに…。いいや、そんなわけない。さっきの態度もそうだが、嫌いな相手をあんな怖い目で見ないだろう。これ以上考えるのは止めよう。グレンは生涯俺の弟だし、もう会うこともないだろうから。
 リグは考え込む俺の前で跪いた。

「殿下、この度は御結婚誠におめでとうございます。殿下の幸せをこのリグレット・レ・グリテッタは心より願っております」
「グリテッタ卿。今日までお勤めご苦労様でした」

 俺はそう言ってリグに微笑みかけた。リグも同時に笑ってくれた。
 何だかんだ言って、リグとは仲が良かったな。次会ったときは、綺麗な女性を隣に連れていますように。俺はそう願いを込めて今度こそ、馬車へと乗り込む。涙ぐんでいる父様の顔が見えて、大きく手を振った。馬車が出発し、家族の姿が小さくなっていく。
 お父様、これまで育てくれてありがとうございました。次に会うときは必ず孫の顔を…。

「フィリア」

 目の前に座って居たアルに名を呼ばれる。花嫁衣装に身を包む俺とは違って、いつものように真っ黒の服を着ているアル。アルは、俺の左手を取り優しく薬指にキスをする。プロポーズされたときから一時も外していない指輪。よく見るとアルの左手の薬指にも同じ指輪がはまっていた。

「俺と結婚してくれてありがとう」
「それは俺のセリフだよ」
「その…後悔、してねえか?」

 アルの真剣な瞳。深く美しい青紫の目が不安で揺れている。
 アルに出会って、いろんなことを知った。人を愛することの尊さをこの身を持って感じた。アルが、俺の全てだ。
 いつの間にか流れ出した涙。それを見てアルはギョッと驚く。俺の顔に手を伸ばして、流れ落ちる涙を優しく拭ってくれた。

「おまえみてえな、心も体も全部綺麗な人間をこっちの世界に連れてきてもいいのかって、今でも思ってんだ…」
「どの世界でも、アルと一緒ならそれでいい。あなたの元で、静かに生きたい」

 俺が泣きながらそう言うと、アルはホッとしたように胸を撫で下ろした。繋いだままの手を強く握り返す。
 異名を持つほどの暗殺者。だけどいつ死ぬか分からない…。どうか、神様。おれとアルが幸せにいつまでも暮らせますように。
 俺はアルに思いっきり抱き着いた。





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ここまで読んでいただいてありがとうございます!
とりあえずここで完結となります。次回からは、二人の結婚生活を描く2章に突入です!2章はR18シーンありますのでご自衛ください。
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