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1章
第24話
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《FRside》
俺の精一杯の駆け落ち宣言を聞いた父様は、少しして小さな溜息をついた。険しい表情から、我が子を見守るような親の顔に変わった父様は口角を上げて優しく微笑んだ。
「私がフィルティノールを愛したように、おまえはその男を愛しているのだな…。愛するおまえには、私のようにもフィルティノールのようにもなって欲しくない」
父様の切実な願い。俺がライド様を愛し続け殺されてしまったように、誰にも間違いというものはある。だけど、その間違いをもう二度と起こさないのが本当に大事なことなんだ。その本質を父様は身をもって知っていることだろう。
「よい。結婚を認めよう」
その言葉に俺の心は一気に舞い上がる。ずっと手を握ってくれていた隣のアルにその喜びを表すかのように、思いっきり抱き着いた。アルは俺を抱きとめ、優しく背中を叩いてくれた。俺たちの様子に、父様は戸惑いながらも微笑んでいる。俺はアルから少し離れた。俺と同じように、アルも心底嬉しそうな顔をしている。その頬に優しく手を添えて見つめ合っていると、父様の咳払いが聞こえハッと我に返った。
「駆け落ちは許さぬぞ。相手がエウデラード家の次期当主ならば身分違いではないが…そちらの家とも話し合って正式に嫁ぐように」
父様はそう言って、アルを睨み付け牽制した。アルはフッと小さく笑みを溢し、俺から離れる。そして父様がいる祭壇まで向かい膝を着いた。《終焉》と恐れられる暗殺者のアルが一国の王に跪いた。その事実に俺も父様も驚愕する。
「暗殺一族エウデラード家長男にして次期当主。アルトリウス・ディル・エウデラードと申します。第七王子フィリアラール殿下との結婚をお許しいただき心から感謝申し上げます」
アルの思いかげない行動に、俺は思わず泣きそうになってしまった。父様の許可は得た。あとは、エウデラード家当主、アルのお父様を説得するだけ。それが一番難しいということは分かっているけれど、ここまで来たならもう絶対引き返さない。一人闘争心に燃えていると、アルは懐から一枚の漆黒に染められた手紙を取り出した。
「エウデラード家当主からの手紙です」
父様は怪訝そうな顔をしながらも、その手紙を受け取り読み始めた。見る見るうちに父様の表情が変わって行き、驚きに包まれる。
「既に我が当主、父からも俺とフィリアラール殿下の婚姻について許可をいただいています。嫁ぐ準備が整い次第、すぐにエウデラード家に住まうように、と」
俺は思わず、絶句した。さっきアルのお父様を説得しなければと意気込んだばかりなのに、まさかもう許可を貰ったなんて。一体アルはどんな手を使ったのだろうか。そんなに簡単に、あのエウデラード家当主が大事な一人息子の結婚を認めてくれるものなの?
驚いて何も言えない俺の元へ、アルは駆け寄って来る。そして手紙を読んで驚きっ放しの父様の目の前でアルは再び跪いた。
「今度こそ、おまえに高価な物を」
アルはそう言って、ポケットから小さな小さな箱を取り出した。スっと開けるとそこには、美しい黄金の輝きが。星々の輝きよりも月の輝きよりも、ずっとずっと美しい。俺の髪と同じ色、もしくはそれ以上に明るい光を放った宝石を携えた指輪は堂々とその場に鎮座していた。
「フィリアと出会えたこと、そして結婚できることを心から嬉しく思う。一生、おまえだけを愛し、おまえだけに愛されることを誓う。フィリア、どうか結婚してくれ」
どこからか舞い込んだそよ風が漆黒の髪を揺らす。宝石が埋め込まれたかのような青紫の瞳は、熱を孕みながら俺を一心に見つめている。こんなに幸せでいいのか。こんなに、嬉しく思ってもいいのか。目から溢れる涙は止まらない。今日は、人生で最高の日だ。
「はい、!」
思いっきり返事をして微笑むと、アルは俺の左手の薬指に指輪を嵌めた。そして、手を握り締め合いお互いにジッと見つめ合う。
たくさんの障害があって辛い過去がある俺たちだけれど、それさえも乗り越えて結ばれるんだよ。これから何があってもこの手は絶対に離さない。愛するアルの隣で静かに慎ましく生きる。その夢が叶う、第一歩だ。
いつの間にか月明かりが差し込んでいる大広間の中心。祭壇と放心状態の父様の目の前で、俺たちはキスをしたのだった。
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俺の精一杯の駆け落ち宣言を聞いた父様は、少しして小さな溜息をついた。険しい表情から、我が子を見守るような親の顔に変わった父様は口角を上げて優しく微笑んだ。
「私がフィルティノールを愛したように、おまえはその男を愛しているのだな…。愛するおまえには、私のようにもフィルティノールのようにもなって欲しくない」
父様の切実な願い。俺がライド様を愛し続け殺されてしまったように、誰にも間違いというものはある。だけど、その間違いをもう二度と起こさないのが本当に大事なことなんだ。その本質を父様は身をもって知っていることだろう。
「よい。結婚を認めよう」
その言葉に俺の心は一気に舞い上がる。ずっと手を握ってくれていた隣のアルにその喜びを表すかのように、思いっきり抱き着いた。アルは俺を抱きとめ、優しく背中を叩いてくれた。俺たちの様子に、父様は戸惑いながらも微笑んでいる。俺はアルから少し離れた。俺と同じように、アルも心底嬉しそうな顔をしている。その頬に優しく手を添えて見つめ合っていると、父様の咳払いが聞こえハッと我に返った。
「駆け落ちは許さぬぞ。相手がエウデラード家の次期当主ならば身分違いではないが…そちらの家とも話し合って正式に嫁ぐように」
父様はそう言って、アルを睨み付け牽制した。アルはフッと小さく笑みを溢し、俺から離れる。そして父様がいる祭壇まで向かい膝を着いた。《終焉》と恐れられる暗殺者のアルが一国の王に跪いた。その事実に俺も父様も驚愕する。
「暗殺一族エウデラード家長男にして次期当主。アルトリウス・ディル・エウデラードと申します。第七王子フィリアラール殿下との結婚をお許しいただき心から感謝申し上げます」
アルの思いかげない行動に、俺は思わず泣きそうになってしまった。父様の許可は得た。あとは、エウデラード家当主、アルのお父様を説得するだけ。それが一番難しいということは分かっているけれど、ここまで来たならもう絶対引き返さない。一人闘争心に燃えていると、アルは懐から一枚の漆黒に染められた手紙を取り出した。
「エウデラード家当主からの手紙です」
父様は怪訝そうな顔をしながらも、その手紙を受け取り読み始めた。見る見るうちに父様の表情が変わって行き、驚きに包まれる。
「既に我が当主、父からも俺とフィリアラール殿下の婚姻について許可をいただいています。嫁ぐ準備が整い次第、すぐにエウデラード家に住まうように、と」
俺は思わず、絶句した。さっきアルのお父様を説得しなければと意気込んだばかりなのに、まさかもう許可を貰ったなんて。一体アルはどんな手を使ったのだろうか。そんなに簡単に、あのエウデラード家当主が大事な一人息子の結婚を認めてくれるものなの?
驚いて何も言えない俺の元へ、アルは駆け寄って来る。そして手紙を読んで驚きっ放しの父様の目の前でアルは再び跪いた。
「今度こそ、おまえに高価な物を」
アルはそう言って、ポケットから小さな小さな箱を取り出した。スっと開けるとそこには、美しい黄金の輝きが。星々の輝きよりも月の輝きよりも、ずっとずっと美しい。俺の髪と同じ色、もしくはそれ以上に明るい光を放った宝石を携えた指輪は堂々とその場に鎮座していた。
「フィリアと出会えたこと、そして結婚できることを心から嬉しく思う。一生、おまえだけを愛し、おまえだけに愛されることを誓う。フィリア、どうか結婚してくれ」
どこからか舞い込んだそよ風が漆黒の髪を揺らす。宝石が埋め込まれたかのような青紫の瞳は、熱を孕みながら俺を一心に見つめている。こんなに幸せでいいのか。こんなに、嬉しく思ってもいいのか。目から溢れる涙は止まらない。今日は、人生で最高の日だ。
「はい、!」
思いっきり返事をして微笑むと、アルは俺の左手の薬指に指輪を嵌めた。そして、手を握り締め合いお互いにジッと見つめ合う。
たくさんの障害があって辛い過去がある俺たちだけれど、それさえも乗り越えて結ばれるんだよ。これから何があってもこの手は絶対に離さない。愛するアルの隣で静かに慎ましく生きる。その夢が叶う、第一歩だ。
いつの間にか月明かりが差し込んでいる大広間の中心。祭壇と放心状態の父様の目の前で、俺たちはキスをしたのだった。
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