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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~

471 ヤマタノオロチの刺客にゃ~

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『グギャァァーーー!!』

 うお!? 叫んだ!!

 死闘を繰り広げていたヤマタノオロチが突然叫んだものだから、わしは驚きと同時に両前脚で耳を塞ぐ。

 うっさいのう……まさか声を出すとは想定外じゃわい。アンコウに声帯なんて無いはずなのに、どうやって声を出してるんじゃろう?
 まぁそのことはいいや。叫んだって事は、玉藻とご老公が体内で暴れておるんじゃろう。ようやくじゃ。思ったより遅かったのう。

 わしはヤマタノオロチの攻撃を、大魔法【四獣】や【吸収魔法・甲冑】を使って捌きながら注視する。

 ちょっと精度と威力が落ちたかな? さすがは日ノ本最強の二人。わしの【風猫】なんて、家猫と変わらんのう。前回より、確実にダメージになっておる。これも、わしの作戦のおかげじゃ。うんうん。


 プランBの概要は、なんの事はない。白い巨象で使った戦法の焼き直しだ。
 巨象の時は、頭から尻に掛けて穴を開け、【風猫】を放り込んだのだが、あまりダメージになっていなかった。おそらく威力が弱かったか、重要器官を外していたのだと推測する。
 なので、今回は生身の獣を送り込んだのだ。

 ただし、家康はあまり呪術が得意そうでは無かったので、ドーピング。多種多様の魔道具を貸したので、倍近くの攻撃力を発揮しているはずだ。玉藻にも同じ魔道具を貸したから、わしに近い攻撃力を発揮していると思われる。
 そんな二人が体内で最大攻撃を繰り返せば、どんなに強い敵でもひとたまりもない。ひとたまりもないは言い過ぎかもしれないが、倒れるのは時間の問題だ。

 わしの仕事は、ヤマタノオロチの見張り。自分は死なず、逃がさない……これが一番難しいから、他には任せられなかった。おそらく二人なら協力しても、十分も持たずに殺されていただろう。
 チートな魔法を数々所有するわしの為せる業だ。


 お! ヤマタノオロチの下腹部から、なんか飛び出た。どっちかの呪術かな? 遅れて上からも出たのう。
 そうそう。穴だらけにして削ってやれ。さすれば、どんだけデカくとも、いつか重要器官が損傷するじゃろう。
 いや……魚って痛覚が無いんじゃった。まさか、骨だけになっても動いたりしないじゃろうな? そんな姿は見たくないぞ~……いまの無し! フラグが立ったらたまらん。わしも外から削ろっと。

「にゃ~~~ご~~~!!」

 わしはヤマタノオロチの尾ヒレをダッシュで避けると、【御雷みかずち】で反撃。尾ヒレの付け根にぶつける。最初の【御雷】より百分の一も威力は無いが、わしの最強魔法だ。多少はダメージが入るはず。
 そこにすかさず、【風爆弾】からのダッシュ。わしは凄まじい速度でヤマタノオロチに迫る。

 必殺……【レールキャット】じゃ!!

 これも、前に使った事のある技。防御力最強クラスの野人を一撃でほふった技だ。
 おそらく雷の通り道に入ったから、レールガンのように速度が出たのだと思っての名付け。両前脚に気功のおまけ付きなので、喰らったら、野人に使った時の非じゃないくらい、威力が上がっているはずだ。

『グギャーーー!!』

 くう~……両刃の剣じゃったか。しかも、狙いがずらされた。

 【レールキャット】のおかげで、ヤマタノオロチの体にクレーターが出来て悲鳴を出させてやれたが、素早く動かれて尾ヒレの付け根を外れてしまった。
 その凄まじい威力に、わしの両前脚もズタボロ。後ろ脚で飛ぶと同時に【突風】に乗って戦線離脱し、回復魔法で治す。

 あの動きは!? ……マズイのかな??

 ヤマタノオロチは海の方向に顔を向けて尾ヒレを高々と上げただけだから、いまいちわからないが対策を講じる。

「【玄武落とし】にゃ~!」

 とりあえず、【四獣】を全て【玄武】に統一。それも、魔力をけちる事なく、体の全てを魔力で作って、ヤマタノオロチの上空から落としてやった。
 ガンガンガンッと四つの【玄武】が重なるように落ちると、積み重なったままヤマタノオロチの背で待機させる。

 その直後、ヤマタノオロチは尾ヒレで地面を叩いて浮き上がった。

 お! やっぱり逃げる気じゃったか。こうはしておられん!!

 わしの予想は大的中。逃げようとしたヤマタノオロチは【玄武】の重みで思うように進めず、地に落ちた。
 そこをわしは文字通り飛ぶように移動。空を駆け、【玄武】の最上段に下り立った。

 【重力マックス】! 行かせるか~~~!!

 さらに、全ての【玄武】に重力魔法。わしの作った魔法生物なので、動いていなければ体重を増やせる。それも、一体が20メートルもある亀が、五百倍もの重力を受けて重くなるのだ。
 普通なら、圧死してもおかしくない。しかし、ヤマタノオロチは化け物なので、この重みでも潰れない。尾ヒレで地面を何度も叩いて飛ぼうとしている。

 ふふん。無理無理。何トンあると思っておるんじゃ。おそらく、海底の水圧よりも重いはず。いや、遠く及ばない重さじゃろう。わしもさっぱりわからんけどな。あとは死に行くのを待つだけじゃ。

 玉藻、ご老公……頼んだぞ~~~!!


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その少し前、玉藻と家康は、ヤマタノオロチの体に何個もの風穴を開けていた。

 二人とも肉の壁目掛けて【咆哮ほうこう】を放つが、一度ではヤマタノオロチの分厚い肉の壁は貫通できない。
 玉藻は【咆哮】を三度使い、家康は四度使って穴を開ける。その都度、ヤマタノオロチの体内から、エネルギー波が肉の壁を突き破り、空に消えて行く。
 しかし、撃っても撃ってもヤマタノオロチの心臓の鼓動は止まらない。その事もあって、家康は下で穴を開けていた玉藻と合流した。

「そっちはどうじゃ?」
「なんとも言えん……そちもか?」
「ああ。らちが明かないし、狙いを定めたほうがよいと思うんじゃが……」
「たしかにのう。しかし、ここでは狙うべき場所がわからん」

 ここはヤマタノオロチの体内。上下左右はわかるだろうが、どこを狙えばヤマタノオロチの重要器官があるのか、わかりにくい場所だ。

「それなんじゃが、横穴に入ったら、心音の違いがあったんじゃ」
「まことか!?」
「間違いない。音を辿れば、心の臓を潰せるじゃろう」
「ならば、善は急げじゃ!」

 これより二人は、家康を先頭に横穴に入る。そこで家康は音に集中して微調整。玉藻に打つべき方向を指差し、【咆哮】を使わせる。
 これは、家康よりも玉藻のほうが呪力の余裕があるからの適材適所。音に関しては家康のほうが優れていたので、玉藻も納得して協力していた。

 そうして幾度かの微調整を行っていると、大きな震動が起こる。

「音が変わった……当たったぞ!!」
「そうか! このまま突っ込むぞ!!」
「おお!!」

 二人は意気揚々と犬かきで先を急ぐが、そうは上手くいかないようだ。

「後方から何か来ておる!」

 家康の耳に、凄いスピードで水を切り裂く音が聞こえた。なので、二人は振り返って音の正体を確認する。

「魚が二匹……」
「アンコウか!?」

 そう。玉藻の言う通り、接近する者の正体は白いアンコウ。それも、二人と同じ大きさはある雄のアンコウだ。
 この二匹は、ヤマタノオロチに寄生していた雄のアンコウ。そもそもチョウチンアンコウの生態は、大きな雌に雄が噛み付き、一体化する特性がある。栄養は血管を通して送ってもらい、生殖機能だけを残して一生を添い遂げる。
 ヤマタノオロチは普通のアンコウの姿をしているが、どうやらチョウチンアンコウのような生態も保有しているので、【御雷】の熱に耐えた唯一の二匹を切り離し、体内で暴れている玉藻と家康の刺客として送り込んだのだ。


「この程度なら儂がやる! 玉藻は先を急げ!!」
「わかった! すぐに息の根を止めてやるからな!!」

 家康が臨戦態勢を整えると、玉藻は犬かきで奥へと向かう。その少しあとに、家康の戦闘が始まった。

 といっても、それほど大きな横穴ではない。二人が余裕を持って動ける程度の穴だったので、家康の攻撃は単純。穴と同じ大きさの【咆哮】で、一気に仕留めに掛かる。

「ポーーーン!!」

 もちろん避けようのない穴の中では、二匹の白アンコウに直撃。

「なんじゃと!?」

 しかし白アンコウ二匹は体に傷を負いながら、エネルギー波を突っ切って家康に迫る。

「ぐっ……」

 さらには噛み付き。水中で思うように動けない家康は、前脚と後ろ脚を噛まれてしまった。

「舐めるなよ……こんな傷で、この家康の首を取れると思うになかれ! わしの首が欲しければ、万の兵を用意しろ!!」

 名文句を言った家康は、白アンコウの噛み付きを振り払い、二匹を睨む。一匹の白アンコウは、ダメージの少なさを考慮してひとまず無視。もう一匹に集中する。
 さすがは武将徳川家康。人間以外にも侍の勘を当て嵌め、動き出しを確実に捉えた。後の先を征した家康は、白アンコウのエラに前脚を突っ込み、爪で切り裂く。そして尻尾で拘束しつつ、首元に噛み付いてガブガブ食いちぎった。

 その間、もう一匹の白アンコウは家康の腹に噛み付いていたが、モフモフの毛皮と分厚い脂肪のおかげで致命傷には至っていない。
 なので家康は、息の根を止めた白アンコウを、首を振って遠くに投げ、自身を噛んでいた白アンコウを両前脚で挟む。だけでなく、両目に前脚を突っ込んだ。

「ふん! 終わりじゃ!!」

 そして顔面を食い破り、そこに【咆哮】をゼロ距離から放って貫通させたのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その少し前、玉藻は心臓に近付いていた。

「ぐう~~~……」

 ヤマタノオロチの鼓動は大きく重低音で、玉藻の鼓膜を破る。それでも、玉藻はジリジリと近付き、ついに巨大な心臓の目の前に辿り着いた。

「その鼓動、永劫えいごうには続かぬ! 喰らえ~~~!!」

 まずは手始めに【咆哮】。簡単に穴が開くかと思えたが、思ったより硬く、へこんだ程度に見える。なので、もう一発。

「がはっ……い、息が……」

 しかし口を大きく開けた瞬間、何かが首に巻き付いて、玉藻は苦しむ。

「ぐぅぅ……【風神の術】!!」

 何がなんだかわからない玉藻であったが、九本の尻尾から【風の刃】を放ち、自身の首元を狙う。何発かは自分に当たってしまったが、その甲斐あって、首の拘束は解けた。

「はぁはぁ……」

 わけもわからず心臓から距離を取った玉藻は、息を整えながら周りを見渡す。

「寄生虫か……」

 そう。玉藻が言う通り、肉の壁から白くて長い生き物……サナダムシがうにょうにょ出て来ており、ヤマタノオロチの心臓を守るようにトグロを巻くのであった。
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