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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~

472 記念撮影にゃ~

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 ううむ……あの二人はまだか? そろそろ飽きて来たんじゃけど~?

 わしはヤマタノオロチの上に積んだ四つの【玄武】の上でお座りして、事切れるのを待っていた。

 何かトラブルでもあったのかな? わしも体内に入りたいところじゃが、逃がすわけにもいかんし……ヤマタノオロチはいまも暴れてるもん。
 尾ヒレを地面に叩き付けるわ、胸ヒレをかさかさ動かしているわ、八本の提灯から【水鉄砲】を撃つわ……
 【水鉄砲】だけが厄介なんじゃよな~。玄武が削られてしまう。軽くなると逃げられそうで怖いから、対応しないとならん。
 いっそ、提灯を切り落としてやるか?

 わしは【水鉄砲】には【大水玉】を当てて方向を変えたり威力を弱めていたが、それにも飽きて来たので【大鎌】を放ってみる。

 やっぱり硬いか~。距離もあるから、いまいちダメージになってないかも? もうちょっと試してダメだったら、他の暇潰しも考えよう。


 こうしてわしは【大鎌】を何度も放ち、ヤマタノオロチと死闘を繰り広げ、玉藻と家康の帰りを心配して待つのであった。

 ……もう、ぜんぜん死闘に見えないが……


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 ヤマタノオロチの体内に侵入した玉藻は心臓を目指し、目的の心臓まで辿り着いたのだが、そうは問屋が卸さない。
 ヤマタノオロチの心臓を守るように、肉の壁から白サナダムシが出て来てトグロを巻く。

「あれで全部じゃなさそうじゃな。いったいどれだけ長いんじゃ」

 そう。白サナダムシの全体はいまだ見えていない。首に巻き付いて玉藻に切られた部分だけで10メートルはありそうだが、目の前のトグロは優に100メートルを超えている。
 さらには肉の壁からまだまだ出て来ているので、その倍は固いと玉藻は感じ取っているようだ。

「まぁわらわには関係の無い話じゃがな!」

 玉藻はそう呟きながら、九本の尻尾を扇状に広げて口を開ける。

「最大火力……【十二単じゅうにひとえ】!!」

 九本の尻尾、そこに口を足して、十個の五芒星ごぼうせいから【咆哮ほうこう】が一ヶ所に集約される。その威力足るや、一瞬で白サナダムシを吹き飛ばし、心臓にも風穴を開けた。
 それでもヤマタノオロチの心臓は巨大なので鼓動を止めず、血を吹き出しながら動き続ける。白サナダムシもまだ体は残っているからか、肉の壁から出続けている。

「頑丈な奴じゃな……ならば何度でもお見舞いしてやろうじゃないか! ゴーーーン!!」

 そこからはめちゃくちゃ。九本の尻尾と口から【咆哮】が乱れ飛び、心臓、サナダムシ、肉壁……至るところにエネルギー波が突き刺さるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 玉藻が最大火力で暴れ始めて三分……

 なんか変な感じがする……

 わしは【玄武】の異変に気付いた。大きな振動があったかと思うと小刻みに揺れたりし、ヤマタノオロチが暴れているのかと思ったが、ちょっと違う。

「にゃ~~~!!」

 わしが座っていた場所からエネルギー波が吹き上がり、巻き込まれ掛けたのだ。

 な、なんじゃ? ヤマタノオロチか?? ……どわっ!!

 わしが恐る恐る【玄武】に開いた穴に近付こうとしたら、足下が盛り上がり、慌てて逃げる。すると別の場所からもエネルギー波が次々出て来るので、わしは【玄武】の上を駆け回る事となった。

 まさか……玉藻か?? さすがはわしと肩を並べる化け物と褒めてやりたいとこじゃが、素直に褒められん。真上には打つなと言っておいたのに、無茶苦茶するな。
 でも、ヤマタノオロチの動きは鈍って来たかも? なんか提灯からの【水鉄砲】も【玄武】を外して明後日の方向に撃っておるし……

 しかし、【玄武】に穴を開けられるのは困る。この際じゃし、逃げられないように手を打っておくか。


 わしは【玄武】から飛び降りると、ヤマタノオロチの後方に向かって駆ける。そうして目的の場所付近になると大ジャンプ。
 エネルギー波が飛び交う中、わしは【御雷みかずち】と気功の合わせ技、【レールキャット】を使う。
 この攻撃で、ヤマタノオロチの尾ヒレの付け根は陥没。わしの前脚もダメージを受けたが、すぐさま治して、引っ掻き引っ掻き引っ掻き。斬撃気功を乗せて引っ掻き引っ掻き引っ掻き。
 わしの爪は頑丈な鱗を削り、剥ぎ取り、肉を切り刻み、骨まで届く。その骨までもカリカリカリカリ引っ掻いて穴だらけにしていたら、ヤマタノオロチが尾ヒレを動かした瞬間、ポッキリと折れてしまった。


 よっしゃ! これで飛べまい。あとは移動できないように、胸ヒレも潰してやるか。

 これよりわしは、二度の【レールキャット】を使って、胸ヒレもカリカリカリカリ引っ掻くのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 一方、ヤマタノオロチ体内……

「ほれほれほれほれ~~~!!」

 ヤマタノオロチよりヤマタノオロチっぽい攻撃をする玉藻は、九本の尻尾と口からエネルギー波を乱発していた。

「うおっ! 何をしておるんじゃ!?」

 そこに家康の登場。玉藻のエネルギー波が当たり掛けて驚いている。

「なんじゃ。そちも来たのか」

 ここでようやく、玉藻は攻撃の手を休める。

「来ないわけがなかろう。しかし、とんでもなく暴れたのう」
「こっちにも変な奴がおってのう。そいつに手を出させないように、致し方なかったのじゃ」
「変な奴? どこにおるんじゃ?」
「ううむ……」

 玉藻は肉の壁に目を向けるが、白サナダムシの姿は見当たらない。事実は、とっくの昔に倒していたのだ。
 白サナダムシは、肉壁から出ても出ても玉藻のエネルギー波に掻き消され、残り僅かになった頃に、穴に直撃して完全に姿を消した。それと気付かず、玉藻は【咆哮】を乱発し続けていたのだ。

「たぶん……もういなくなった?」
「だったら、さっさと心臓を止めよ!!」
「面目ない……」

 家康にツッコまれて、調子に乗っていたと気付いた玉藻はペコリと頭を下げるのであった。


「さあ……ヤマタノオロチ劇場の幕を下ろしてやろうぞ!!」
「我等の民の怨み……わし達で晴らしてやる!!」
「「行くぞ~~~!!」」

 気を取り直した玉藻と家康は、声を合わせて心臓に飛び込む。そして呪術に噛み付きに引っ掻き、ありとあらゆる攻撃で、ヤマタノオロチの心臓の中で暴れ続けるのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 ふう~……こんなもんかな? 胸ヒレも骨までボロボロじゃから、動けんじゃろう。いや、まだ動こうとしておる。
 あ! 腹ヒレ……アンコウって足みたいなのが腹に付いておったな。これはひっくり返さん事には潰せん。さすがのわしでも無理じゃ。
 もう、わしが出来るのはここまでか。玉藻達は……そう言えば、エネルギー波が飛び出て来なくなったな。ヤマタノオロチも、最初の頃より遥かに動きが鈍くなっておるし、もう少しってところか……
 じゃが、わしは一切、気を抜かんぞ~! とりあえず喉が渇いたし、お茶でも飲もっと。【玄武】に重力魔法さえ掛けておけばいいから楽チンじゃ~。

 わしは人型に戻ると、砂浜に戻ってテーブルセット、アイスコーヒーと大福を出して優雅にティータイム。虫の息のヤマタノオロチをしっかり見張りながら、いつでも動けるようにモグモグするのであった。


 それから十数分……

 戦い始めて二時間弱……

 苦しそうにもがいていたヤマタノオロチの動きが止まる。

 空気が抜けたように体はしぼみ、超重量の【玄武】が沈む。

 ついに、ヤマタノオロチの命が尽きたのだ。


 わしはその光景を見て立ち上がる。

 おお! 二人がやりおったか。これで天叢雲剣あめのむらくものつるぎが手に入るぞ!! ……さっき尾ヒレを潰した時に、そんなの見当たらなかったな。でも、出て来たら、わしの取り分として要求してやろう。
 て、アホな事を考えていてもしょうがない。とりあえず、重力魔法は解除しておくか。【玄武】は念のため残しておこう。

 さて、これでよし。二人が戻るまで、くつろぐとするかのう。ズズー。

 わしは椅子に座り直し、ヤマタノオロチを見ながらダラケきるのであった。


 それから十分ほどウトウトとしていたら、ヤマタノオロチの横腹からふたつの物体が飛び出した。わしは目を擦りながらその物体を見ていると、わしの方向に近付いて来た。

「「シラタマ~~~!!」」

 物体の正体は、5メートルのキツネとタヌキ。玉藻と家康だ。嬉しそうに駆け寄り、わしに念話を届ける。でも、血塗れでちょっと引く。
 しかし、二人はおかまいなし。わしの目の前で「はぁはぁ」言いながらお座りした。

「ヤマタノオロチに、この妾がトドメを刺したんじゃぞ!」
「いいや、何を言っておる。この儂がヤマタノオロチのトドメを刺したんじゃ!」
「いやいや、どう見ても妾じゃろう!」
「いやいや、儂が心の臓を噛み切ったんじゃ!」
「「なんじゃと~~~!!」」

 テンションの高い玉藻と家康は、どちらがトドメを刺したかと言い争い、次第に喧嘩に発展する。なので、わしは二人に【大水玉】をぶつけて、頭を冷やさせる。

「「何をするんじゃ!!」」

 二人は仲良くわしを怒鳴るので、笑いながら答える。

「にゃはは。誰がトドメを刺そうとも、二人の勝利にゃ。二人の頑張りでトドメを刺したんにゃ。いまは、その勝利を噛み締めようにゃ~。にゃはははは」

 わしが笑ってみせると、玉藻と家康は顔を見合わせ、次にヤマタノオロチに視線を向ける。そうしてまたわしに顔を向けると、バツの悪そうな顔に変わった。

「シラタマ抜きで、言い争う事ではなかったな。すまぬ」
「そうじゃった。ヤマタノオロチをここに留めていた立役者を忘れておった。すまなかった」
「いいにゃいいにゃ。わしはトドメを刺してにゃいんだから、二人の手柄にゃ~」
「「むう……」」

 わしが手柄を興味無さそうに言うと、今度は納得いかない顔に変わった。

「疲れたにゃろ? しばらくその姿でいるのかにゃ? それにゃら、食べやすいようにするにゃ~」

 その顔を見ながら、わしは大きなレジャーシートを広げ、そこに水の入った容器と料理を置いて、好きにするように言い聞かす。
 リータ達に通信魔道具で連絡を入れながら二人を見ていたら、巨大なヤマタノオロチとの戦闘で疲れていたのか、言われるままに水をがぶ飲みし、料理を口に入れていた。


「シラタマさ~ん!」
「シラタマ殿~!」

 そうしてわしも適当にムシャムシャしていたら、リータとメイバイの声が聞こえて来た。なので、わし達の輪に加えて、ここでランチ。ヤマタノオロチを見ながら、楽しく食事をする。

「おっきいですね~」
「巨象の比じゃないニャー」
「たしかににゃ~。それより、浜松に被害は出なかったにゃ?」
「はい! コリスちゃんとオニヒメちゃんが頑張ってくれたから、一切ありません!!」
「じゃあ、ごはんを食べたら、ヤマタノオロチの驚異は去ったと伝えに走ってくれにゃ」
「シラタマ殿はどうするニャー?」
「もう少し休憩したら、解体するにゃ。そうにゃ! 今晩は美味しい物を出すとも言っておいてにゃ~」

 美味しい物と聞いて、頬袋にエサを詰めている最中のコリスが反応する。

「おいしいの!? わたしもたべる!!」
「にゃはは。もちろん、コリスもいっぱい食べるんにゃ~」
「うん!」
「でも、その前に……」


 ランチを終えると、玉藻と家康も人型に変化へんげし、ヤマタノオロチの前に整列する。出来れば顔側に移動したかったが、どうせいまからやる事には意味がないだろう。

「それじゃあ撮るにゃよ~? 笑って笑って~……はい、チーズにゃ~」

 パシャリ……

 あとで現像した写真を見ると背景は真っ白だったが、ヤマタノオロチを倒した記念撮影は、全員が笑顔の写真となっていた……
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