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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

273 村の視察 ケース1

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 視察団を編成した翌日、朝食会議を軽く行う。いつものメンバーに加え、便利屋ソウハが参加した。
 少し話を聞くと、狩りに関してはケンフよりソウハのほうがしっかりしていたので、任せる事にした。わしの街について来た理由は、無理矢理帝都に召集され、森から離れた場所で仕事をするには不便があったそうだ。
 ソウハとの話が終わると、建設担当代理のファリンには、即位式出席者の為の屋敷を中心に修理するように頼んで、会議を終了させる。


 その後、視察団メンバー、リータ、メイバイ、ケンフ、シェンメイ、ノエミ、ワンヂェン、マスコットのコリスを連れて内壁から出ると、飛行機で飛び立つ。マスコットは三匹も居るけど気にしない。
 席順はひと悶着あって、一番前を、わし、ワンヂェン、ノエミのちびっ子で占領。二列目にケンフとシェンメイ。三列目にリータとメイバイ。四列目は椅子を無くしてコリスだ。

 コリスは体長2メートル以上と、縦にも横にも大きいが、椅子を取り外して座ってもらえばなんとか入る事が出来た。出入りには土魔法を使わないといけないが、それぐらいなら問題ない。
 暴れるといけないので、リータとメイバイを近くに置いて世話をしてもらう。また世話を押し付けてしまったが、時々全身でモフッとしているから大丈夫だろう。
 ノエミはナビをしてくれるからかまわないが、ワンヂェンは「にゃ~にゃ~」うるさいから代わって欲しい。
 ケンフを指名したのに、乗り込んで「シャーシャー」引っ掻くものだから、折れたのが失敗だった。

 うるさいのはもう一人。筋肉猫こと、シェンメイだ。怖いのか、暴れるのでリータに押さえさせていたが、若干シェンメイのほうが力が強かったので、わしと二人がかりで意外と静かなコリスに抱かせた。
 モフモフ言って幸せそうだから、慣れるまでモフモフロックにあってもらおう。

 そのせいで墜落の危機となり、全員で怖い思いをする事になったが、わしの悲鳴が一番大きかったらしく、シェンメイのせいで墜落しかかったのに、わしが怒られた。
 納得のいかないわしは「ブーブー」……「にゃ~にゃ~」言いながら操縦する。

 そうこうしていると最南の村が見えて来て、ひとまず空から様子をうかがう。

 う~ん……建物はあるけど、あれが村なのか? 荒れ地に掘っ立て小屋が建っているだけじゃ。この村は口べらしの為に作られたと聞いていたけど、ここまでひどいのか。村人は……歩いている人がチラホラいるな。
 とりあえず時間短縮で、村の目の前に降りるか。

 わしは周辺を確認すると、飛行機をゆっくり真下に降ろす。皆、緊張しているのか黙り込むので、コリスの寝息とシェンメイのもがく声しか聞こえない。
 無事、着陸すると、ワンヂェンとノエミのポコポコを受ける。どうやら垂直降下が怖かったみたいだ。二人のポコポコは痛くも痒くもないので、無視して飛行機の扉を開く。


 村人は、初めて見た空からの飛来物に何事かと周りを取り囲んでいたが、扉が開くのに気付くと、恐る恐るその前に集まった。
 この視察団は、見た目がちょっとアレな者で構成されているので、人族のケンフとノエミから降ろしてみる。
 すると、ざわざわとしたあと村長らしき痩せ細って汚い老人が前に出て、ケンフに声を掛ける。

「あの~。これはいったい……」
「ああ。これは飛行機と言う乗り物だ。これから、この国の新しい王陛下が降りて来られる。失礼の無いようにしてくれ」
「お、王様……へ、へへ~~~」

 ケンフの言葉に、集まった村人は一人残らず地面に膝をつけ、手までつけて頭を下げる。

 わしはその姿をガラス越しに見ていた。

 ケンフの奴……なんて説明したんじゃ? 村人が全員土下座しておるぞ。まさか脅したのか? こんな所に出たくないのう。

「シラタマ殿。次は誰が出るニャー?」
「ああ。わしが出るにゃ。あとで呼ぶから、みんにゃ適当に出て来てくれにゃ」

 わしはメイバイの質問に答えると、テクテクと飛行機から降りて、村人に声を掛ける。

「村人のみにゃさん。頭を上げてくれにゃ」

 わしの言葉に、村人はゆっくりと顔を上げる。すると……

「「「「「猫!?」」」」」

 と、騒ぎ出した。それを見たケンフが……

「静かにしろ!」

 怒鳴って止める。

「ケンフ。大きな声を出すにゃ~。わしを見たら、誰でもビックリするにゃ」
「も、申し訳ありません」
「みにゃさんも、そんにゃ体勢だと膝が痛いにゃろ? 誰も怒ったりしにゃいから、楽にしてくれにゃ」

 わしの言葉に村人は顔を見合わせ、立っていいかもわからないのか、体育座りになった。

「それが楽にゃら、それでいいにゃ。これからちょっと変わった者達が出て来るけど、怖がらないでくれにゃ」

 わしはそれだけ言うと、皆に降りて来るように声を掛ける。最初に降りて来たのはリータ。皆の視線に恥ずかしそうに降りて、ノエミの隣に立つ。
 次に降りて来たのはメイバイ。村人は、猫耳族が降りて来るとは思わなかったのか、驚きの表情を見せるが、わしの時より驚きが少ない。
 三番目はワンヂェン。かなり驚いていた。わしの黒版だから、そりゃそうだ。村人は口を押さえて声には出さないが、目が黒猫と語っていた。
 皆が降りると飛行機の後部ハッチを開き、シェンメイとコリスを降ろす。村人は目が飛び出るほど驚いていた。同時に降ろしたから、筋肉猫に驚いたのか、巨大なリスに驚いたのかはわからなかった。

 全員を降ろし終わると、村長だと思われる老人に声を掛ける。

「えっと……あにゃたが村長さんかにゃ?」
「は、はい」
「さっそくだけど、この村についていろいろ質問してもいいかにゃ?」
「あの……もしよろしければ、私の質問に答えていただきたいのですが……」
「ああ。変にゃのばっかり降りて来たからにゃ。何個か先に質問していいにゃ」
「ありがとうございます。それで王様は、まだ降りて来られないのでしょうか?」
「にゃ! 自己紹介がまだだったにゃ~。わしがその王様のシラタマにゃ。以後、覚えておいてくれにゃ」
「え……猫が王様??」
「そうにゃ」
「「「「「ええぇぇ~~~!!」」」」」

 わしの自己紹介に、村人全員、悲鳴のような声をあげるのであったとさ。

 だって、王様に見えないんじゃもん。


 その後、落ち着かせる為に女性陣を使って説明させる。ケンフが怒鳴ると怖がるからの処置だ。わしとワンヂェンはそこに入るとこじれそうなので、コリスを撫でて機嫌をとる。
 長い説明と長い説得を続けると、ようやく落ち着いて来たので、前に出て話を再開する。

「それじゃあ、質問するにゃ。いいかにゃ?」
「は、はい!」
「まずは、食糧はどうなっているにゃ?」
「それは……不作でして……食べる物にも困っています。いまある物を持って行かれると、皆、飢えて死んでしまいます。どうか、ご勘弁してください!!」
「にゃ? 持って行ったりしないにゃ~。それじゃあ、食べながら話をしようにゃ」
「へ?」
「腹へってるにゃろ? 広場に村人全員集めてくれにゃ」
「は、はあ……」
「いや、ほうけてないで集めてくれにゃ~。……もういいにゃ。みんにゃ~、行くにゃ~」

 わしの言葉に村長は動く気配がなかったので、空から見た村の広場らしき場所に勝手に向かう。
 広場に着くと、かまどを五個とアミを土魔法で作り、肉を焼いていく。リータ達が調理して焼き肉の匂いが立ち込める中、わしはもう一度村長に、村人を集めて来いと強く言う。
 だが、言うまでもなく、匂いに誘われた村人は集まって来たので、村長には人数確認をさせる。そうしていると、肉が焼き上がっていくので、村人に並ぶように言って手渡していく。これぐらい、シェンメイにも出来るので任せる。
 村人はお腹がすいているのに、皿を持ってもなかなか食べないので、おかわりがあるからさっさと食べろと言うと、むさぼり食べ出した。


 わしは村長の近くに腰掛け、一皿目を食べ終わるのを待ってから、村の状況を聞く。

「それで食糧はどれぐらいあるにゃ? 何日ぐらい生き抜けるにゃ?」
「えっと……それを聞いてどうなさるのでしょうか?」
「少ないのにゃら、分け与えるつもりにゃ。でも、どこも食糧難だから、多くは分けられないにゃ」
「何故、そのような事を……」
「お前達は、わしの国民にゃ。腹をすかせていれば、出来るだけ助けたいにゃ」
「王様が私達を助ける?」
「当然の事にゃ。前の皇帝は、そんにゃ事はしてくれなかったみたいだにゃ。でも、わしはお前達の力になるつもりにゃ。……もう一皿持って来るから、その涙は拭いて、話を出来るようにしてくれにゃ」

 わしが村長の元を離れると、後方から嗚咽おえつする声が聞こえて来た。わしはジジイの泣き顔を見たくない……いや、村長の気持ちを汲んで、時間を空けて料理を持って行く。

「ほい。お待たせにゃ~」
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます……」
「いいから食えにゃ。それといい加減、ちゃんと話をしてくれにゃ。困っている村は、ここだけじゃないにゃ」
「も、申し訳ありません! す、すぐに!」

 また泣き出す村長に嫌気が差し、命令口調になってしまった。その甲斐あってか、村長は気持ちを落ち着かせ、会話が成立する。

 食糧は思ったより深刻で、明日食べる物にも困っていたようだ。命を繋いで、せいぜい一ヶ月。それも、一ヶ月で何人も死ぬだろう量だった。
 わしはギリギリ間に合ったと喜び、涙したかったが、グッとこらえる……事は出来たかどうかわからない。

 村人の食事が終わると、次は実地調査。この村は口べらしの為に作られたと聞いていたので、危険な森が近く、どう考えても村の存続が厳しい。畑も、先日の大雨があったにも関わらず、一部に種蒔きをしたとのこと。
 わしは苦渋の決断を村長に言い渡すしかなかった。

「この村は、一時閉鎖にゃ」
「そ、そんな……私どもは行くあてもないのですが……」
「わしの街に来ればいいにゃ。わしの街は人口が足りにゃいから、来てくれたら嬉しいにゃ~」
「いいのですか!?」
「その代わり、しっかり働いてくれにゃ? そうじゃにゃいと、わしの街でも食糧難になっちゃうにゃ~」
「もちろんです! 村の者が誰ひとり死なないでいられるのは、猫王様のおかげです!」
「そうと決まれば! ……ちょっと移住に関して相談して来るにゃ」


 わしはリータとメイバイのそばに寄って、スリスリとゴマをする。

「あの~?」
「どうしました?」
「今日の村訪問は、一件だけにしてくれにゃいかにゃ~?」
「え! ノルマは二件ニャー!!」
「それが、村人は全員、移住する事になりにゃして、ここからだと、わしの街まで歩かせると四日以上かかりますにゃ」
「皆さんの体力を考えると……厳しいですかね?」
「みんな痩せ細っているニャ……」
「にゃ~? わしが移動するしかないにゃ~」
「サボりたいわけではなさそうですね……」
「う~ん……仕方ないニャー」

 よし! これで夕方前には休める! じゃなく、街に辿り着けるな~。

「やっぱり……」
「無理にゃ~! この面子じゃ話が進まな過ぎて、次の村も本題になかなか入れないにゃ~」
「「たしかに……」」
「わしのだけのせいじゃないにゃ~!」
「そ、そんなこと思っていませんよ。ね?」
「そ、そうニャー。思ってないニャー」

 リータとメイバイがわしをジト目で見たから言い訳してみたが、どうやらわしのせいだと思っていたみたいだ。その後、ぷりぷりしながら連結用の車両を作っていたら、撫でて機嫌を取って来たから確実だ。


 村人を乗せる車両が完成すると、全員乗せて出発。ちなみにリータ達は二号車に乗って、わしとコリスは二号車の屋根だ。手すりを付けたので、落ちる事はない。

 村人の乗った車両は乗り心地が悪いので、街との距離が半分ぐらいになると休憩し、それが終わるとまた走る。あまりスピードは出せなかったが、予定通り日が暮れるかなり前に到着した。

 街に入ると村人には家を与え、三日間の食っちゃ寝生活を言い渡す。短い期間だが、それで体調を出来るだけ戻してもらう。わしが見張りをしたかったが、リータとメイバイの目が光っていたので、冗談でも言い出せなかった。


 こうして村の視察一件目は、街の住人が五十人ほど増えて終了となった。
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