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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生

274 村の視察 ケース2

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 村の視察一件目を終えると、夜の食事で住人が増えたと紹介し、街での暮らし方を教えて欲しいと皆に伝える。
 わしの街は、元々、他の街の不遇な者達の寄せ集めなので、村人達は快く迎えられた。

 その後、食事会議を夜と朝に出席し、軽く指示を出すと、次の村に飛んで向かう。


 視察団メンバーは一回目と同じく、リータ、メイバイ、ケンフ、シェンメイ、ノエミ、ワンヂェン、コリス。
 マスコットが多過ぎるので、ワンヂェンには居残りを指示したが、「シャーシャー」引っ掻くので固定メンバーになってしまった。
 席順も前回と同じだったが、違う点は、ワンヂェンとシェンメイが飛行機に乗っても静かだった点だ。二度目だったので、少しは落ち着いてくれたみたいだ。
 ただし、飛行機の後部座席に集まって、とある議題で盛り上がっている。

「どうしたら、シラタマさんが王様だとすんなり受け入れてくれるのでしょう?」

 リータが議長になって、猫対策の話し合いを開始する。それに対し、真っ先に口を開いたのはワンヂェンだ。

「シラタマは猫だからにゃ~」
「「「「「………」」」」」
「にゃ……」

 ワンヂェンは、皆の「お前も猫だろう」という視線に負けて、すごすごと逃げ帰り、わしの隣にちょこんと座る。慰めて欲しいのかわからないけど、スリ寄らないで欲しい。
 次に口を開いたのはノエミだ。

「どうやっても無理よ」

 ノエミはド直球で切り捨てるので、傷付いたわしは、ワンヂェンにスリスリ。

「そこをなんとかしないと、毎回時間が取られるニャー」
「一日二件回る予定なんですから、迅速に認めさせないといけません」

 リータとメイバイは、わしがワンヂェンとスキンシップを取っているからか、解決を急ごうとする。そこをシェンメイが手を上げる。

「力でねじ伏せるか?」

 筋肉猫は、頭の中まで筋肉だったらしい。

「「「「却下 (です)!」」」」

 シェンメイも即刻切り捨てられ、コリスに抱きついていた。どうやら前日、コリスに抱かれていたので、モフモフ病にかかったみたいだ。
 その後、話がおかしな方向に行くが、わしは口を挟まない。どうせわしが入っても解決しないからだ。


 そうこうしていたらニ件目の村が見えて来て、前回同様廃れた村だったので、荒れ地に着陸する。

 村の住人が集まって来ると扉を開き、ケンフ、シェンメイ、メイバイ、ノエミ、リータの順で飛行機から素早く降り、二列に道を作ってひざまずく。
 村人は何事かとざわざわする中、皆の準備が整うと、ワンヂェンが声を張り上げなから飛行機を降りる。

「「「「「黒猫!?」」」」」
「みにゃの者、頭が高いにゃ~! こちらにおられにゃすは、彼の帝国を打ち破った猫王様。シラタマ王にゃ~!!」

 ワンヂェンの紹介に、ぶかぶかの王冠を被ったわしは、待ってましたと言わんばかりに堂々と……とは出来ず、恥ずかしそうに王冠とマントを握って飛行機から降りる。
 そして、皆が作った台本の台詞を口走る。

「み、みにゃの者。面を上げるにゃ~~~」

 パニックじゃ……ワンヂェンのくだりから、誰も話なんて聞いておらんかった。猫、猫騒いで、誰も土下座なんてしておらんのに、面を上げろもへったくれもない。

「うそ……完璧な作戦だったのに……」

 リータさん? どこがですか?

「昨日よりひどいニャ……やっぱりシラタマ殿じゃ……」

 メイバイさん? わしは台本通りやりましたよ?

「シラタマ君が、もっと堂々と降りないからよ」
「ノエミ……わしのせいにするにゃ~!」
「「「「「………」」」」」
「にゃ!? みんにゃもわしのせいにしてるにゃ! ひどいにゃ~~~」

 わしは皆の視線を受けて、泣きながら飛行機に乗り込む。そして、コリスベッドに飛び込んで「にゃ~にゃ~」泣いた。わしが王様だと言うのに……

 その後、パニックは収まったからと、リータとメイバイが謝って来たので、コリスと一緒に降りる。村人の騒ぎを抑える為に、皆、骨を折ったらしいが、どうも怪しい。
 だって荒れ地に亀裂が入っているんじゃもん……。大斧をたずさえたシェンメイをジッと見たら、慌てて目を逸らしたんじゃもん!

 理由を問い詰めたいが、静かになっている今がチャンス。村長に話し掛ける。

「えっと……腹へってるにゃ?」
「は、はい!」

 村長はわしを震えて見ていたので、本題の前に炊き出しを行う。皆がなんと説明したかはわからないが、シェンメイの案に乗って、力でねじ伏せたと思う。だって、リータとメイバイに聞いても無視するんじゃもん。


 無償で腹いっぱい食べる事が出来た村人達は緊張が解け、わしの質問に答えてくれるようになった。
 この村も口べらしを兼ねた開拓地だったので、わしの街への移住を勧める。わしの説明を聞いた村長は、ふたつ返事で移住を決断した。
 この村に残っていても、一ヶ月も経たず、飢え死にするから当然だ。無償で食べ物をくれた怪しい猫について行ったほうが、生き残る可能性があるのだろう。

 村人を全て移動用の車両に乗せると、街に向けて発車。ここも馬車で四日ほど離れているので、移動時間とパニック時間のせいで、街に着いたら日が落ちかけていた。

 夕食会議を開くと、今日の反省会だ。

 わしが悪い? どの口が言うんじゃ? わしのせいにする前に、何が悪かったか考えて! 王冠のせいじゃない!!


 結局、わしのせいにされて翌日……三件目の村に飛ぶ。今日も後部座席では何やら盛り上がっているので、今日はわしも口を出す。昨日、恥ずかしい思いをさせられたからな!

 その甲斐あって、初日より早く、王と説明できた。やり方は簡単だ。マスコット三匹は、飛行機で待機。人族、猫耳族の連合軍で村長達を説き伏せると、マスコットが登場する。
 どんな説明をしたかわからないが、村の子供達にわし達マスコットは抱きつかれたから、ろくな説明じゃない事はわかった。

 昨日の恐怖政策から、融和政策に出たのだろうが、やり過ぎじゃ!

 だが、これでやりやすくなったのは事実。炊き出しを食べながら、村長と今後について話を詰める。

「食糧は、どれぐらいあるにゃ?」
「あの……村の者で三ヵ月食べる物しか残っていないので、持って行かれると我々の生活が……」
「あ、そんにゃに残っているんにゃ。じゃあ、しばらくはにゃんとかなるかにゃ」
「へ?」
「税金も一年間は取る気がにゃいから、それまでに村を立て直してくれにゃ」
「へ?」
「それと、ここの人数を把握しておきたいにゃ。出来たら、わしの街に何人かもらいたいにゃ」
「えっと……若い女も少ないので、猫王様のお眼鏡に叶うかどうか……」
「若い女にゃんていらないにゃ。そんにゃの取ったら、村が困るにゃろ?」
「へ?」

 村長とは話は出来るのだが、どうも空返事が多いので、わしは気になって質問を変える。

「さっきから『へ?』ばっかり言ってるけど、にゃんでにゃ?」
「えっと……帝国の兵隊様なら、食糧を根こそぎ取るし、女も寄越せと言って来たので……」
「そうにゃんだ……苦労したんだにゃ。もう安心していいにゃ。帝国は滅びたし、ここはわしの国にゃ。国民を飢えさせないように、頑張るにゃ~」
「……う、うぅぅぅ」

 わしの優しい言葉が嬉しかったのか、村長は涙を流す。なので、ハンカチを村長に渡して拭くように促す。

「まだ泣くのは早いにゃ。わしも頑張るけど、わし一人じゃ、国のみんにゃを腹いっぱいに出来ないにゃ。村長も国の為に頑張ってくれにゃ?」
「うぅぅ。……はい!」
「ここはラサに近いから、食糧に困ったらラサに行ってにゃ。街の代表には話を通しておくから、無償で受け取れるようにするにゃ。ただし、嘘はやめてにゃ? 本当に困っている所に行き渡らなくなるからにゃ。それと、嘘がないか確める者も派遣するからにゃ?」
「はい! 猫王様の為、村を発展させる事を誓います!!」
「よし! 益々の発展を期待しているにゃ~」


 この村は森から離れていたので、念の為の硬い避難所と、干し肉と生肉の詰まった便利な氷室、水の多く入った溜め池をプレゼントして、飛行機に乗り込む。
 今回は昼には終わったので、もう一件の村に飛行機の進路を向ける。機内では、村人へ、わしの説明をどうしたのかを、リータを問い詰めてみる。

「上手くいったから、いいじゃないですか?」
「でもにゃ~。気になるにゃ~。ワンヂェンも気になるにゃろ?」
「うんにゃ! にゃんて説明したにゃ~?」
「べ、別に普通ですよ」
「普通にゃら、教えてくれてもいいにゃ~」
「「にゃあにゃあ~?」」

 猫のぬいぐるみのシンクロ攻撃。口調も息もピッタリだ。それを喰らったリータは……

「メイバイさん……」
「任せるニャー!」
「「モフモフ攻撃~!!」」
「「いにゃ~ん。ゴロゴロ~」」

 メイバイに助けを求め、こちらもシンクロ攻撃をして来た。わし達は撫で回されゴロゴロ言うが、そのせいでまた墜落し掛けて、話はうやむやにされてしまった。


 その後、四件目の村に着いたら先程と同じく説得と、プレゼントをする。ここでも子供達に抱きつかれたので、子供を問い詰めてみた。

 どうやらリータ達は、わし達を子供には「かわいい猫さんとリスさんだから遊んでくれるよ」。大人には「王様は猫だけど、騒がなければ食べ物をいっぱいくれるよ」と説明していたみたいだ。
 もちろんわしは意義を申し立てた。子供に説明する必要は無いはずだ、と。だが、信じさせるには、子供の心を掴むのが手っ取り早いと反論された。
 納得がいかないからワンヂェンと「にゃあにゃあ」文句を言っていたら、撫でられて意見をねじ伏せられてしまった。

 そうしてゴロゴロと言いながら、炊き出しが終わるのを待っていると、ケンフが村人と話をしている姿があったので、わしもその輪に入る。

「ケンフ。にゃにか問題かにゃ?」
「いえ。久し振りに会いましたので、近況を報告していました」
「久し振りにゃ? ひょっとして、ここってケンフの村だったにゃ?」
「あ、紹介が遅れました。これが親父の……」

 ケンフは家族をわしに紹介する。父、母、妹の四人家族だったみたいだ。わしも挨拶をし、ケンフが役に立っている事を伝えると、「このバカ息子が?」「このバカ兄貴が?」と、疑われていた。家族からバカと呼ばれていたみたいだ。
 ケンフは褒められたと照れていたが、わしと家族は苦笑いだ。けなされていた事に気付かないほどの馬鹿だったとは……

 この村でも勧誘を行ったら、ケンフの家族だけ来るようだ。ここからわしの街までは離れているので、護衛無しには移動できない。なので、時間が取れたら他の村の移住者と一緒に迎えに来ると約束する。


 炊き出しの片付けも終わると用が済んだので、飛行機で帰るが、乗り込む時に犬の遠吠えが聞こえてずっこけた。ケンフの家族ではないと信じて、街へと離陸するのであった。
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