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第十章 王様編其の一 猫の王様誕生
272 視察団の編成にゃ~
しおりを挟むコリスにもたれて寝ていると、地響きが聞こえて来て、わし達は飛び起きる事となった。
「モフモフ~。あさ~?」
いい気持ちで寝ておったのに、うるさいのう。コリスの言う通り朝焼けか? いや、太陽は山に落ちて行っているから夕焼けじゃ。寝過ぎた~!
「シラタマさん! この音は……」
「シラタマ殿に、さっそく仕事ニャー!」
「まったく……起きるとするにゃ。よっこいにゃ」
リータとメイバイの声に応え、わしは立ち上がって背伸びをしてから探知魔法を使う。だが、使うまでもなく、白くて大きな塊がわし達に向かって来ているのが目に入る。
シユウが走っておるのか? その前に誰かが走っておるな。いまにも追い付かれそうじゃし助けに行くか。
わしはリータ達に行って来ると告げると、肉体強化魔法を使って飛ぶように移動する。そして、シユウの目の前に立つと手を広げ、念話で制止を促す。
「止まれ!!」
わしがいきなり目の前に現れたので、シユウは急ブレーキを掛けるが、止まりきれず、頭を前に体当たりをする。
わしは両手を前に構え、シユウの頭突きを受け止めると、土魔法で作った足場で耐える。するとシユウはピタリと止まる事となった。
「シラタマ王! 大丈夫!?」
「にゃ? シェンメイ??」
わしが振り向くと、シェンメイが斧を構えて走って来た。
「あ~。シェンメイ。矛を収めてくれにゃ」
「でも!!」
「この牛はわしの街の仲間にゃ。危険はないから大丈夫にゃ」
「うそ……」
わしの発言に、シェンメイは今まで気を張っていたのか、へなへなと座り込んだ。シェンメイも心配だが、シユウもかなりの衝撃で止まったので、先に無事を確認する。
「シユウ! 大丈夫か?」
「あ、ああ。これぐらいなんともない」
「ホッ。それはよかった。でも、なんで人間を追いかけていたんじゃ?」
「壁を飛び越えて来たから、悪い者が入り込んだのかと追っていたんだ」
「おお! それはありがとうな。でも今度から人間は、攻撃して来ない限り追わなくていいぞ」
「そうなのか? まぁお前が言うなら従おう。それじゃあ、俺は巣に帰るな」
「あ! ちょい待ち。口を開けろ」
わしは振り返って大口を開けるシユウの口に、ドーナツ五個を投げ込む。
「うまい!」
「あはは。お駄賃じゃ。ありがとな~」
わしが礼を言って手を振って見送ると、シユウは満足した顔で帰って行った。その姿を見送ってから、座っているシェンメイに手を差し出して起き上がらせる。
「シェンメイも大丈夫にゃ?」
「え、ええ。でも、あんな化け物を飼っているなら、先に言って欲しかったわ」
「あ……そうだにゃ。みんにゃが来る前に、一度連絡を入れておくにゃ。さて、用件は街で聞くから、シェンメイもついて来るにゃ」
「わかったわ」
と言って、二人でリータ達の元へ走る。シェンメイも足が速いので、すぐに辿り着いた。すると……
「うわ! 今度は厄災リスがいる!!」
シェンメイはコリスを見ると、また驚いた声をあげる。
「それは母親のほうにゃ。この子はコリスと言って、わしが預かっているにゃ」
「もう何がなんだか……」
シェンメイは、混乱してへたりこんでしまった。街には少し離れているので、二号車を取り出して皆を乗り込ませる。
ちなみにコリスは大きいので、屋根に乗ってもらった。一匹では寂しがるかと思ったが、初めて乗るので、楽しそうに「ホロッホロッ」と言っている。
車をノロノロと走らせていると、シェンメイが聞いてもいないのに、驚いていた理由を話して来る。
どうやら、巨大な壁とお堀を見て驚き、壁に登ったら畑に驚き、街に入ると巨大な白い牛に驚き、現在も驚き中らしい。
興奮してうるさいので、ひとまずリータとメイバイに説明を頼んでみる。
「ですから、諦めてください」
「シラタマ殿のやる事に、考えちゃダメって言ったニャー」
説明は軽くして、あとは諦めさせようとしていた。まぁ諦めたほうが、早く楽になれるからいいや。
街に入るとここでも車をノロノロ走らし、シェルターに向かう。わしの街では車は周知されているので騒がれる事はない。白と黒の猫やリスや牛よりも、ショックが少ないのだろう。
シェルターに到着すると、夕食会議に参加する。皆にシェンメイの紹介をし、報告を聞きながら肉を頬張る。そうして報告を聞き終えたら、シェンメイが何やら尋ねて来た。
「あなたって王様よね?」
「いまさらなんにゃ?」
「なんで住人と同じように、外で同じ物を食べているの?」
「にゃ? 変かにゃ?」
「変よ……え? あたしが変なの?」
シェンメイが不思議そうな顔で質問するので、わしは他の者に話を振って納得させようとする。
「ヨキは変だと思わないにゃ~?」
「そう言えば、すっごく変です! 普通、王様はこんな所で食べないと思います!」
「ほらね」
「ケンフは変だと思わないにゃ~?」
「えっと……ワフン!」
「にゃんて言ったにゃ~!」
「変だって」
「ノエミが、にゃんでわかるにゃ~!」
「だって私も変だと思うもん。王様と食事なんて、普通できないわよ」
誰もわしの味方をしてくれない中、シェンメイは勝ち誇った顔でわしを見る。
「ほら~。みんな変って言ってるわよ」
「そ、そんにゃ事ないにゃ! 猫が立って歩いて喋っているより変じゃないにゃ~!!」
「「「「「たしかに……」」」」」
「全員、すぐ納得しにゃいで~~~!」
わしの発言で、皆、わしが猫である事を思い出し、王の食卓はどうでもよくなったみたいだ。
「自分でも変だと思っていたのね……」
「リータ~、メイバ~イ。ノエミがイジメるにゃ~」
「そんな事を言うからですよ」
「自業自得ニャー」
「そんにゃ~~~」
リータとメイバイに見捨てられたわしは、拗ねながら肉を頬張る。その姿を見た二人は、苦笑いで撫でてくる。いちおうは慰めてくれているようなので、ゴロゴロ言っておく。
そうして二人に撫でられていると、大事な話があった事を思い出したので、皆に話を切り出す。
「さてと、今日は大事な発表があるにゃ」
わしの発言に、皆、食べながらだが、注目してくれる。
「街の発展にわしが力を使うのは、ここまでにゃ」
「「「「「え……」」」」」
この発言には、さすがに皆、食事の手が止まった。
「ヨキ。まだわしの力が必要にゃ?」
「えっと……はい」
「そうかにゃ? ヨキはよくやってくれているから、次のジャガイモの収穫も、上手くいくんじゃないかにゃ?」
「収穫は問題無いけど……」
「にゃ~? ヨキなら大丈夫にゃ。もちろん全てをヨキ一人でやらせないにゃ。会議の時に議題をあげてくれたら、にゃんらかの対策を考えるから安心してにゃ」
「……それなら」
農業担当のヨキは自信が無さそうだが、わしの発言を肯定してくれた。
「ケンフも、壁とシユウが居るから、街は安全だと思うにゃろ?」
「そうですね……シユウ殿クラスが来ない限り、安全だと思います」
「そんにゃのめったに居ないにゃ。もしもの場合は連絡をくれたらすぐに助けに行くにゃ。ほら、わしの力はいらないにゃ」
防衛担当のケンフもあっさり肯定するが、ワンヂェンが待ったを掛ける。
「水はどうするにゃ?」
「この街にはお堀が三重もあるにゃ。その水を使えば、しばらく持つにゃろ? それにワンヂェンが、雨水をいっぱい集めてくれたから飲み水も大丈夫にゃ」
「本当にシラタマの力は必要にゃいかも……」
「どうしようもにゃい事があれば、わしが手を貸すにゃ。これからは自分達で考え、頑張って、それでも出来ない事にしか手を貸したくないにゃ。そうしにゃいと、街の者が自立できないからにゃ」
わしの言葉に、皆、黙って考え込む。その沈黙の中、リータとメイバイが口を開く。
「シラタマさんは、これから村の救済を早急に行うから、皆さんを頼っているのです」
「街だけなら、シラタマ殿でも手が回るニャ。でも、国全土を潤すには、手が足りないニャー」
「だから、皆さんの力を、シラタマ王に貸してください!」
「皆さん。シラタマ王を支えてくださいニャー!」
二人はそう言うと、立ち上がってお辞儀をする。すると皆も立ち上がり、賛成するが如く、拍手を送る。
わしはと言うと、肉をムシャムシャしながら青ざめていた。
救済を早急に行うじゃと? 国全土を潤すじゃと? えっと……これって、いまより忙しくなるのでは? 村を回りながらのんびりしようと思っていたんじゃけど……
各街には各々頑張ってもらって、わしは隠居生活を満喫しようと思っていたんじゃけど……。ひとまず拍手は恥ずかしいから、座ってもらうか。
わしは全員に座るように促し、この話もうやむやにする。そして再燃する前に、別の話を切り出す。
「それでシェンメイは、にゃんでここに来たにゃ?」
「あ、そうだったわね。即位式で忙しいだろうから、セイボク様から手伝うように派遣されたの」
「いや。質素にやるつもりだから特には忙しくないにゃ。それにシェンメイって、にゃにが出来るにゃ?」
「えっ……戦う事が出来るわ!」
あんのジジイ! 即位式と関係ない奴を派遣してどうするんじゃ! まったく、耄碌しやがって……
「そうだにゃ~……シェンメイには村の視察に付き合ってもらおうかにゃ? リータとメイバイだけじゃ、わしが王様と言っても信じてもらえないだろうしにゃ」
「「「「「………」」」」」
そんな生温い目で見なくても、わかっているわ! 猫じゃもん。王様に見えるか!!
「ゴホン! ケンフにもついて来て欲しいんにゃけど、行けそうかにゃ?」
「はっ!」
「いや、質問しているんにゃ。中の警備をジンリーに任せるとして、外の狩り組はどうするにゃ?」
「それも問題ありません。便利屋をしていた者が居ますので、彼に任せれば危険なく、人員を使ってくれるでしょう」
「便利屋にゃ?」
わしが質問すると、メイバイが答えてくれる。
「狩りや雑用で生計を立てる、東の国のハンターギルドみたいなものニャ」
「ああ。メイバイがそんにゃこと言ってたにゃ。それって、まだ機能しているのかにゃ?」
「私はわからないニャー」
「ケンフ?」
「戦争の際に、全て兵として集められたので、便利屋は散り散りになっているでしょうね」
「にゃるほど……その人も食事会議に入れようにゃ。あとで声を掛けてくれにゃ。ケンフが抜けていいかは、話を聞いてから考えるにゃ」
「はっ!」
「あとは、ついて来たい人は居るかにゃ?」
わしの質問に手を上げたのは、ワンヂェンとノエミとコリス。どうやら仕事をサボれると思って手を上げたみたいだ。
自分の仕事は他の者に押し付けるから大丈夫と言われても拒否する。だが、目を潤ませて抱きついて来たので、一度連れて行く事となった。
コリスはノリで手を上げただけだったけど、目を離すと何をやらかすかわからないので連れて行くしかない。
こうして視察団も編成され、今日もゴロゴロ言わされて眠るわしであった。
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