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二章 二人の世界

18 高台の神社

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 目覚めた蒼正は、朝から胸を高鳴らせていた。それを母親に気付かれ無いようにしていたが、手元がおぼつか無いし声も上擦っているものだから、かなり心配させる結果に。
 もちろんイジメの心配をされたので、逆に落ち着く切っ掛けとなった。今から登校しなくてはならないのだから、こんな浮ついた気持ちだと狙われ易くなるからだ。

 母親の心配はいつもの不機嫌な感じで押し返し、家を出る蒼正。ややいつもより足取りは軽かったが、学校に入ってからはいつものように出来るだけ気配を消している。
 そうして席に座って休憩の度に、何が来ても対応出来るように聞き耳を立てていた。

「このメイク動画、すっごく分かり易いよ」
「アイツ、入院したんだって」
「わあ。かわいいね」
「夜中に電波障害あったらしい」
「今日、帰りどうする?」
「誰かさんが居ないと平和だな」

 女子のどうでもいい会話。男子の何やら不穏な会話。誰が居ないと平和なのか知りたいが、自分が居なくなれば平和になる可能性があるかも知れ無いので、蒼正は最大級の警戒をする。
 しかし、お昼休憩になっても五時間目になっても誰も近付いて来無かったので、蒼正は自分の事では無いのだと警戒を緩めた。

 時が過ぎ、ホームルームが終わったら逃げるように教室を出る蒼正。バスに乗り込み一息吐いた所で、今日の教室の雰囲気を思い出していた。

(そういえば五十嵐が居なかったような……気持ち、空気も良かったかも?)

 もしかしたら五十嵐海斗は嫌われているのでは無いか、入院したのも海斗だったらいいのにとか考えていたら、家のバス停の一個手前になったので蒼正は急いで降りる。
 バス停に立った蒼正は少し辺りを見回し、目指す方向に歩き出した。

 数分歩くと緩やかな坂道となり、踏み切りを越えると急勾配の坂へと変貌する。それと同時に木が多くなり、息を切らせて坂を登り切ると左手には灰色の鳥居が目に入る。
 蒼正は鳥居は潜らず直進し、左手にある本堂に軽く会釈した。そして境内を見渡すと誰も居なかったので、町が見渡せる右手にある石造りのベンチまで行って、そのまま座り込むのであった。


 時は戻り朝。純菜も目覚めてから胸が高鳴って変な行動ばかりしていたので、母親に心配されていた。
 こちらもイジメに触れられたからには、一気に表情が冷めた感じになる。受け答えが面倒ってのもあるが、今まで忘れていたから緊張してしまったのだ。

 そのまま無表情で家を出た純菜は足取り軽く学校に向かっていたが、早く着き過ぎると無駄なイジメを受けてしまうから速度を落とす。
 そうして教室に入ると気配を消し、いつものように聞き耳を立てつつ放課後を待っていた。

「この動画に嵌まってるんだ」
「アレ? 今日来て無いの??」
「変な夢見たわ~」
「入院したとかどうとか」
「あぁ。だりぃ~」
「ま、居なきゃ居ないで楽よね」

 男子のどうでもいい会話。女子の気になる会話。誰が居ないと楽なのかは純菜は分から無いが、自分の事を言われていると想定して最大級の警戒をしておく。
 しかし何も起こらずホームルームとなる。純菜は必要が無かったと思ったが、無駄な努力では無いと考え直し、逃げるように教室を後にした。

 急ぎ足で通学路を歩いていた純菜であったが、中程まで来たら道を逸れる。そうして道順を思い出しながら進んでいたら、なだらかな坂道が続く。
 しばらく歩くと高架が目に入ったのでそれを右手に道形に歩き、線路の下を抜けると階段を上る。

 この階段はこんなに長かったのかと思いながら上り、息が乱れて来た頃にようやく頂上にある赤い鳥居が見えた。
 ここで足が止まる純菜。しかし、ここまで来たのだからと、息を整えてから階段を上り切り鳥居を潜った。

 胸を押さえる純菜はまず右手を見ると荘厳な本堂。そこからゆっくりと視線を左に持って行くと、鉄製のベンチがひとつふたつと右に流れて行き、町並みの景色が広がる。
 ここで石造りのベンチに座る制服姿の男子に焦点が定まった。

 蒼正だ。純菜の知ってる名前で言うと、夢の中の友達、田中太朗が目の前に居るのだ。

 純菜は鼓動が早くなるのを抑えながら蒼正に近付いたが、蒼正が振り向いた瞬間に近くのベンチに座った。蒼正も驚いた表情をした後は、視線を町並みに戻した。

 どちらも町並みを眺め、声を掛けるタイミングを計っていたら、十分経過。

 さらに五分が過ぎると、蒼正はゆっくりと逆向きに座り直した。

 後はどちらかが声を出せばいいだけ。だが、中々声が出ない。お互い下を向いて小石を数える始末。賽銭を回収しに表に出た宮司も不思議そうに二人を見ている。

 二人が出会ってから、もう1時間以上経っている。

 さらに十数分経つと、蒼正が立ち上がったが、その足はあろう事か坂道に向かった。
 純菜は呆気に取られて五分程その場に居たが、こちらも立ち上がると階段に向かう。

 こうして純菜と蒼正は、お互い逆に歩き出してしまうのであった……
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