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九章 物語が終わるまで夜遊び
206 ダンジョンでの戦闘
しおりを挟むフィリップとアン=ブリットの戦闘は、体育館での焼き直し。アン=ブリットのクナイ二刀流と体術をフィリップが避け続けて、たまに近付いて来るモンスターはどちらかの蹴りで吹き飛ばしている。
「チョコマカと……避けるだけは上手いみたいだな」
「わ~い。褒められた~」
「褒めてない!」
「あぶっ!?」
フィリップがふざけた言い方をした直後、アン=ブリットがクナイを左、右と2回振ったあとに、遅れて右の斬撃と似たような軌道で風の刃が飛んで来た。
まさかの3撃目にフィリップは虚を突かれて変な避け方。ブリッジしてしまった。
「ふんっ!」
そのガラ空きの腹に、アン=ブリットのかかと落とし。
「なんの!」
辛くもフィリップは体を捻って、コロコロ転がりながら脱出した。
「あんなふざけた体勢からも避けるのか……」
「いや~。危なかったな~」
距離が開くと、アン=ブリットは睨み付け、フィリップはニヤニヤしながら立ち上がってホコリをポンポンと叩き落とす。
「武器はいいのか?」
「あっ! チャ~ンス!!」
「はぁ~……持っているように見えないんだがな……」
フィリップが身嗜みしか気にしていないので、アン=ブリットもあるまじき助言。いま気付いたのかと、ため息が出てしまった。
「チャラララ、ラ~ン♪」
それなのにフィリップは、マジックショーでよく使われる曲を口ずさみ、両手を後ろに隠した。
「さあ、何が出るでしょう?」
「暗機かナイフが関の山だろう」
「ブブー。正解はこれでした~」
フィリップが両手を前に出すと、そこには真っ赤な篭手のような物が装備されていた。
「どこから出した?」
「ヒミツ~」
もちろんアイテムボックスから。フィリップは指輪を一回ずつ付け替えて、アイテムボックスの中で装備しながら取り出したのだ。
「ま、コレの名前だけ教えてあげる。ドラゴングローブだよ」
「ドラゴン? 第一皇子から貰ったのか……」
「それもハズレ~。僕が単独制覇したら、宝箱から出て来たんだよ」
「フッ……仰々しい名前を付けただけのまがい物か。貴様がそんなことできるワケがあるまい」
「アハッ。信じてないみたいだね~。んじゃ、体に教えてあげるよ」
「ッ!?」
ここで初めてフィリップの攻め。一気に間合いを詰めてボディに右アッパー。アン=ブリットは驚きながらもバックステップでかわしたが、次の瞬間にはフィリップが距離を詰めていたので、トントンと後ろに跳んだ。
「フィリップパーンチ!!」
壁に追い詰めたら、ふざけたな名前のパンチが炸裂。しかし横に跳んだアン=ブリットに避けられてしまった。
「なるほど……偽物でもそこそこの攻撃力があるようだな」
壁は蜘蛛の巣状にヒビが入る事態。アン=ブリットが壁際まで逃げたのは、攻撃力を確認するためらしい。
「だから偽物じゃないのにな~」
「次は私だ!!」
フィリップがプクーッと頬を膨らませていても、待ったなし。アン=ブリットはクナイ二刀流で斬り掛かった。その時、ガッキーッンと金属音と火花が飛び散った。
「当然、こう使うよね~?」
フィリップがドラゴングローブを嵌めた両手で2本のクナイを防御したからだ。
「ああ。腹がガラ空きだがな!」
「どこがかな~?」
これはアン=ブリットの予想通り。蹴りを放つが、フィリップも予想していたので足で払った。
そこからは、接近戦の応酬。アン=ブリットはクナイ二刀流とキック。フィリップも負けじとパンチとキック。互角の戦闘を繰り広げる。
そんな中、アン=ブリットがしゃがんで下からの斬り付け。フィリップのガードが下がった。
「やられた!」
その瞬間、フィリップの首元目掛けての風の刃。下に目が行ってしまったのでフィリップも反応が遅れ、仰け反って避けてしまった。
ここでまたブリッジしてしまうと変な体勢になってしまうので、フィリップは強引に後ろに跳んだが……
「土遁の術!」
「ギャフン!」
アン=ブリットは待ってましたと狙い撃ち。フィリップの真下から土の柱を素早く生やして天井まで伸ばす。
「わっ! わわわわ……」
天井が迫るなか、フィリップはあわあわ。アン=ブリットはほくそ笑み、次の瞬間には天井と柱は一体化してしまうのであった……
「フッ……そこそこできても、ただの子供か」
アン=ブリットはフィリップの強さを認め、その場を立ち去ろうとしたが、変な声が聞こえて来た。
「フィ~リ~ップ~~」
フィリップだ。なんか自分の名前を言ってるな。
「まだ生きていたのか!?」
「波ぁぁ~~~!!」
あと、波を撃つな。
「なんだと!?」
フィリップ波は、土の柱を溶かして貫通。その高熱のビームを、アン=ブリットは間一髪横に跳んでかわした。
「ニヒヒ~。いまの凄かったでしょ?」
フィリップはニヤニヤしながら自慢。ちなみに天井に挟まれそうになったのは、後転してギリギリ脱出したんだって。
「氷魔法の使い手じゃなかったのか?」
「誰がそんなこと言ったの?」
「使ってたから……」
「そりゃそうか。ま、大サービスで教えてあげるよ。さっきのはこのドラゴングローブのスキル。こうやって両手を合わせて口みたいにしたら、フィリップ波~!!ってね」
竜の顎から飛び出すビーム。本当は大量の炎が吐き出されるのだが、フィリップは実験の末、炎を集約することに成功した。それでも人間の胴体ぐらいの太さのビームで、ダンジョンの壁だって貫通する威力はある。
「わ~お。ゴブリンを狙ったのに、蒸発しちゃった~。これも人に使っちゃダメなヤツだな」
わざわざ発射したのは、モンスターを倒すため。オーバーキルすぎたので、フィリップも引いてる。
「だ、だからなんだ! 当たらないと意味はないぞ!!」
アン=ブリットもけっこう引いてるな。焦りが見える。
「ゴメンゴメン。もう使わないから怖がらないで。僕は部下には優しいからね」
「いつの間に部下になってるんだ!」
「……最初から? 勝負は見えてるもん」
「ナメやがって……」
フィリップの言葉が煽りに聞こえたアン=ブリットは、怒りの猛攻を仕掛けるのであった……
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