上 下
205 / 336
九章 物語が終わるまで夜遊び

205 体育館屋根の戦闘

しおりを挟む

「避けられた……」

 フィリップに襲い掛かったアン=ブリットは、クナイに感触がない上に距離を取られたからには驚きを隠せないらしい。

「第二皇子が戦えるなんて聞いてない」
「だろうね~。不甲斐ない姿しか演じてないもん」
「演技……それでも勝つのは私!」

 アン=ブリットは喋り終えた瞬間にひとっ飛び。左右のクナイを振って斬り付けた。だが、フィリップは片方を軽く避けてもう一方ほ大きく飛んでかわした。

「ちょっと~。武器ぐらい装備させてよ~」
「暗殺者相手に手ぶらで近付いたのが悪い!」

 そこからは、アン=ブリットの猛攻。素早く動き、クナイを振り続ける。フィリップは少し大きく避けながらステップ。時には蹴りが来るので、アン=ブリットのレオタードの先端を凝視しながら避けている。

「やべっ」

 体育館の屋根は真ん中の縦に伸びた梁以外は傾いている作りのせいで、フィリップもついに足を滑らせて体勢が崩れた。

「もらった!」

 そのミスを見逃さないアン=ブリット。靴の爪先に仕込んでいたナイフを伸ばし、蹴りを繰り出す。

「よっ。パーンッと」
「クッ!?」

 その蹴りを、フィリップは空中側転で回避。逆さの体勢で指鉄砲を発射してアン=ブリットが避けた隙に、宙に出した氷の塊を蹴って逆回転で元の位置に戻った。

「なんだいまのは!?」
「さあ? その謎解きも、戦いの醍醐味でしょ。それより場所変えない? こうも足場が悪いと本気出せないよ~」
「私には足場など関係ない! その隙を突かせてもらう!!」

 アン=ブリットは驚いたのも一瞬で、フィリップが弱点を言ったのも一瞬だけ驚いて、四方八方から攻撃。フィリップを足場の悪い場所に押し出そうとする。

「あ、そこ危ないよ?」
「なにが……あっ……」

 その攻撃を足捌きでかわしていたフィリップが指差して注意したら、アン=ブリットは屋根の傾斜に滑ってツルツル落ちてった。

「だから言ったじゃ~ん」

 フィリップはツーっと滑り下りながら、屋根のヘリに掴まっているアン=ブリットの手前で急停止。

「これは……氷??」
「大丈夫? 手、貸そうか??」
「これぐらい!」
「この辺り一帯凍ってるから、飛び乗るのはやめておいたほうがいいよ~??」

 アン=ブリットが体を揺らして登ろうとしたので、注意したけどやっちゃった。
 案の定、屋根に飛び乗ったアン=ブリットは足を滑らせて、こけた瞬間にクナイを突き刺してなんとか耐えた。
 ちなみに昔はこんなに広範囲を凍らせることはできなかったのだが、レベル99となったフィリップならば、手も触れずに屋根一面どころか体育館ぐらい凍らせることができるのだ。

「それで~? どのへんが関係ないのかな~? プププ」

 そこにニヤニヤして滑りながら近付くフィリップ。氷魔法の使い手なんだから、氷の上はフィリップの独壇場だ。
 いまだに立てないアン=ブリットは、フィリップの言い方に怒りを覚えて真っ赤な顔を上げた。

「こ、この程度!」
「わかったわかった。関係ないんでしょ? 僕はやりにくいから移動しない? ダンジョンなら、派手にやってもバレないよ~??」

 現時点の体勢は、フィリップが立っていて、アン=ブリットが寝転んでいる。どちらが攻撃をしやすいか明白だ。

「いいだろう。私も第二皇子に興味が湧いた」
「やった! ありがと~う。いま氷消すけど逃げないでね~??」

 なのでアン=ブリットは強がりながら了承。ただ、フィリップがこんなチャンスを逃さないと思って反撃の準備はしていたけど、普通に手をかざして氷を集めて消しただけなので、「こいつ馬鹿なのか?」と心の中でディスったのであった。


 ダンジョンへの移動は、アン=ブリットが先頭。フィリップが追う形でついて行く。ここでもアン=ブリットは後ろから攻撃されることを警戒していたけど、何もして来ないのでトラップを張る。

「おっと。早く行こうよ~」
「チッ……」

 けど、アン=ブリットが怪しい動きをしたから、フィリップは氷のブロックを踏んでトラップを回避。普通の人なら足を挟まれて怪我しただろうが、こうも大きいと想定外みたい。
 そんな返しをされると、トラップがもったいないだけ。アン=ブリットは舌打ちして、フィリップを振り切るつもりでダンジョンに急いだ。

「ちょっと待ってね。いま開けるからね~?」
「チッ……」

 でも、普通について来たので再び舌打ち。フィリップがアン=ブリットを見失わないようにニヤニヤ見ながらカギを開ける様を、アン=ブリットは睨みながら待つ。

「お先にどうぞ。レディーファースト~」
「チッ……チッチッチッ」
「ノリノリだね~」
「チッ!!」

 フィリップが紳士的な態度でお辞儀をするからアン=ブリットは腹が立って仕方ないのに、まったく舌打ちが通じないので、最後の一回は怒りの表情で。
 その後、あとから入ったフィリップが広い所まで口で説明して、モンスターは2人で蹴り飛ばしながら進む。


「ここなら広さは充分っしょ。たまにモンスターは出るけど、ザコだからいいよね?」

 直系20メートル近くある部屋で、フィリップは最終確認。

「フンッ……モンスターなんて居ても居なくても一緒だ」
「よし! 第2ラウンド、いっきま~す」
「死ね~~~!!」
「次は僕の番なのでは??」

 フィリップが始めるようなことを言ったらアン=ブリットは早くもダッシュ。フィリップに手番を譲れないぐらいストレス溜まってたみたい。
 そして急接近したアン=ブリットはクナイで斬り付ける。足場もよくなったので、さっきより速そうだ。

「ちょっと~。武器ぐらい装備させてよ~」
「今まで充分時間はあったはず。二度目だぞ? 馬鹿なのか??」
「ご、ごもっともで……」

 第2ラウンドは、アン=ブリットの猛攻と説教から始まるのであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...