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幼少期の章

学力なんてクソゲー

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「お前についてだが、この1ヶ月間とりあえずジュタの抜けた穴を埋める感じでいいだろ。女だからジュタみたいに護衛とかはしなくていいとして。
とりあえず俺と一緒に勉強して、時には第1王子からの視線から俺を守れ」
「そんなキメ顔で俺を守れなんて言われたくなかった」
「とりあえず、学力テストだな。流石に俺とジュタ用よりもレベルは落としてるけどお前なら大丈夫だろ」
「あー、はいまあ。分かりました。これは実際に見てもらった方がわかりやすいと思うんで……はい。言っておきますが、テストは本気で受けさせて頂きますので」
「期待しとくわ」
俺はニッコリ笑った。



王城に辿り着いて直ぐにキーン様とそんな会話をしたのが昨日のこと。
朝。
高い天井に違和感を覚えながら起きると、いつものメイドたちが朝の支度を手伝ってくれた。
「おはよう」
「「おはようございますQ様」」
ありがとう。
さて、ちょっと急ごうか。
解答を見たキーン様が恐らく部屋に突撃して来ることだろうから。

俺が与えれた部屋はシンプルながらも豪華というか品性を感じられる部屋で、クローゼットの中には新作の型やら新色のドレスが入っていた。
どうやら交渉の時に言ったドレスがやっとここで貰えるらしい。
薄紫のドレスが多いのは俺の瞳の色からかそれとも今年のトレンドカラーだからなのか。
どのドレスも良いものだと分かるし、どれも俺に似合うのは当然なのでとりあえず一番端のものを着た。
俺が可愛いからどのドレスでも可愛いけどやっぱり流行のドレスは可愛いな。
「Q様、メイクも流行のものにしますよ」
「流石Q様ラメが映えますね~」
「ありがとうありがとう」
なにこれキラキラで可愛い。
こういうメイクとかって魔法でパッとする訳じゃないんだな。と口に出したら『顔周りはデリケートなんですよ……』と言われた。
なんだかよく分からないけどそういうもんなんだろう。

完成した俺はいつも可愛いけどいつもより可愛いかった。
あー気分がいい。俺可愛い。俺超可愛いな。
鏡の前でくるくると回ってみたらドレスがふんわりして、わあ俺これめちゃくちゃ可愛いじゃん。
俺の可愛さに拍手が上がる。
パチパチパチパチパチパチ……
バァンッ
「おいゴラお前どういう事だ!」
おいでなすった。声デカ。顔コワ。


そこから移動してキーン様と兄上が普段使っているという部屋に通される。
そして激おこで椅子にふんぞりかえるキーン様がテーブルの上に広げたのは俺のテスト結果だった。
「説明しろ」
「説明も何も。私は本気で受けると申し上げたはずです」
「本気の人間が出す結果じゃねぇから言ってんだよ」
なんてこと言うんだこの第2王子は。忘れてるかもしれないけど俺は子供だぞ?10歳だぞ?
兄上みたいな天才を基準にしないで貰いたい。
「そうだな? 確かに無意識に俺やジュタの基準に合わせていたのかもしれねぇな。お前から子供らしさを感じられねぇってのもある」
「なんてことを仰るのでしょう」
こっちは転生してるんだからそりゃそうだけど。死んだと思ったら生まれてた訳だからねこっちは。
「だからって、これはねぇだろ」
目の前に出されたのはほぼ空欄の解答用紙。
……うん。
俺は確かに転生してるから言動が子供らしくない。
だからと言って、知らないことは知らない。習っていないことは分からない。
「……確かにこうも分からねぇところが多いと嫌になるのは分かるが、ちゃんと空欄には0を書けよ」
「なんですかそのルール」
「は? 常識だろ。空欄には必ず0、つまり答えが無いのを示す記号を書くって……まさか」
「知りませんでしたね」
「…………テストでも書類でも空欄には0を書くんだ……」
キーンが頭を抱えた。
エスコートのされ方は教わったけどそんな常識知らなかったなぁ。

兄上とうちの使用人たちが教えてくれたのは簡単な読み書きなど。
あとはみんなが考える最高の淑女に俺を仕立て上げるための教育くらいだ。
そして、俺は頭が良い訳では無い。前世から勉強が好きな方ではなかった。
つまり他の異世界転生者なら本を読みまくったり勉強したりするところを、社会に出る予定がキーンと出会うまでなかった俺は特になにもしてこなかったのだ。
読む本は全て大衆向けの小説だし。

「さて、このテスト結果が私の全力ということは分かっていただけましたか?」
「分かった……3日待て」
「はい?」
「専属教師を用意する」
「えっ」
ギロりとひと睨みして俺を黙らせると、早速使用人に指示を出し始めた。
そんな俺のためにしなくてもいいのに。キーンの勉強中は本読んだりしてるから気にしないで。
そう言ったら「お前もどうせあの学校入るんだろ!? こんな学力で入れると思ったら大間違いだからな」と怒鳴られた。
いや俺学校行けるわけないじゃん。え、通わせる気?この人俺に女装して学校入らせるつもりなの?
流石に無理だろ。正気か?

「さえずるな、さえずるな。うるせぇ。教師が来るまでお前暇だろ。悪いと思うんならせめてアレどうにかしてこい」
「別に暇でも良いのですが……アレとは?」
「窓の外見てみろ」
はて。窓の外?
ぴかぴかに磨かれた窓の外を見るとパッチリと金色と目が合った。

「うわ……」
こちらを見ている黒髪。
明らかにルエリア様じゃん。
「もしかして、朝から?」
「……ああ」
さっきとは別の意味で頭を抱えるキーンからは10歳とは思えない哀愁が漂っていた。
「どうにか出来るとは思えませんが、行って参ります」
「俺の視界から消してくれるだけでいいんだ……よろしくな3日間」
「3日間!?」
「よろしくな」
な、なんという王族オーラでゴリ押ししてくるんだこの人。
普段王族らしい扱いしたら怒るくせに本人めちゃくちゃ王族じゃん。


✱✱✱✱✱

「ルエリア様、おはようございます」
「? そなたは何故ここに……いや、おはよう」
という訳で。
ルエリア様の所に到着した俺はまず、この場から移動しませんかと提案してみたところ快く承諾してもらえた。
でも何処に行くかなんて咄嗟に決められなかったので困ってしまった俺を暫くたっぷり見つめてからルエリア様が口を開いた。
「…………ツツジ園」
「えっ、ここにはツツジ園があるのですか?」
ツツジはこの世界では見たことがないし、前世でもあんまり見た記憶はない。
「…………見に行こう……」
「えっ、ありがとうございます!」
心なしかルエリア様の口角がやんわりと上がった気がした。
なんだそれ可愛い。
いや落ち着け俺の方が可愛い。ああ、でもルエリア様可愛い。俺より可愛い? いや俺の方が……
違う。違う違う。
可愛いは競うものでは無いな。どっちも可愛い。俺もルエリア様も可愛い。
いやルエリア様は……可愛い、のか?
違うなきっとルエリア様は魔性だ。
きっとたぶんそういう事だ。

「…………ところでそなたは何故……」
なんて言えばいいのか。
「お父様とお母様とお兄様が避暑地に行っておりまして。屋敷のものに暇を出しております故、私の生活を気にしてくださったキーン様のご好意で一月ほど滞在させて頂くことになりました」
「…………そなたは?」
えっ?
そなたは?
は?え?なん?
なんでこの人そうやって地雷を踏んでくるの?そういう所だぞ、そういう所がキーンから嫌われるんだぞ。知らんけど。
キーンは絶対言わないからなそういう事。そういう踏み込んじゃいけないところは絶対踏み込まないからな?

え?わざと?と思ってぱちぱち瞬きをしてから見ると、小首を傾げているルエリア様と目が合った。なんだそれかわいいな。そして何も考えてないな。
気になったから質問しちゃっただけなんだな。そういう所だぞほんと。

「……たまたまですよ」
ふにゃりと笑って誤魔化した。
上手く誤魔化せることを祈るしかない。

家族3人水入らずのところにどうして私が入っていけるのでしょうね、なんて言えないから。
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