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夢に咲く花
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しおりを挟む得意であれば孝宏を残して会議に参加したと言わんばかりの言い様に聞こえるが、もしも魔術が得意であったとしても、カウルは孝宏の付き添いをしただろう。
それも、先程の言い様も、ルイを信頼しているからこそだが、この双子ともにそう言われるのは照れくさいのか素直に頷いたためしがない。
兄弟とはそういうものだろうと想像はしても、孝宏の兄弟は歳が離れている上にまだ幼く、孝宏が彼らの関係を理解するのは難い。
孝宏の幼い妹と弟も大きくなれば、この二人の様に反発しながらも信頼し合う関係を築くのか。考えれば楽しみもあるが、同時に寂しさも感じる。
孝宏の脳裏に焼き付く弟妹は成長しない。
「もしかしてまだ苦しかったりするのか?それともどこか痛いか?」
孝宏は自分では意識していなかったが、悲し気な、少し苦し気な表情をしていた。
たどたどしくも会話を続けていた孝宏がいきなり黙るので、カウルが孝宏の顔を覗き込んだ。そんな彼もどこか憂いを帯びた表情をしている。
孝宏の体は重く、体中に違和感が残るが、むしろ目覚めた瞬間よりは幾分か楽になっていた。
孝宏は口角を上げ、目を細めわかりやすく笑顔を作った。にたっとした不気味な笑みになる。
「平気、ちょ……と眠いだけ」
孝宏は喉の擦れも痛みもあるが、意識がはっきりしてきた分、喋るのに支障はなくなってきている。その証拠に呂律がはっきりしてきた。
「そういえばルイからの伝言だ」
カウルは思いっきり顔を歪め、頭をやや傾け孝宏を見下ろした。
「肝心な時に役に立たない間抜けで悪かったね。それから守るからなんて寒い台詞、僕は言ってないし絶対言わない、だとさ」
いつもの腹から出る力強い喋りでなく、やや高めのはっきりとした物言いだ。双子だけあってルイの特徴を良く捉えている。
ルイがカウルに伝言を頼んだ時の情景がありありと目に浮かぶようだ。
「あいつ、瀕死……たって…………聞こえて、たのか」
あの時意識があったのかと、今度は孝宏が驚く番だった。
もうルイが死ぬと思っていろいろ言った気がする。全部思い出せないが、今言われたことも確かに言った気がする。
「あいつなんか……こう、凄い嫌そうな顔して言って来てさ。孝宏に守るって言ったのは俺だし、あいつは解ってて俺に伝言頼むんだからいい性格してるよ」
そう言うカウルは嫌そうにしながらも、言葉に愛おしさが籠っている。
「あ……いつ、俺に、お守りの……腕輪……くれた……のにな」
ルイが魔力を制限するためのと嘘を付いてまで、わざわざ作ってくれた腕輪は、落としてなければ今も孝宏の左腕にあるはずだ。
カウルが素直じゃない兄弟に笑みをこぼしたが、急に一転して真面目な声色と目で孝宏をじっと見つめた。
さっき程までの和やかな雰囲気が一変し、異様な、まるで通夜のようなという表現が当てはまる。
「こんなことになって本当に悪かったって思ってる。本当なら今すぐにでもここから逃げ出すべきなんだろうけどさ……」
孝宏が想像していた以上に、カウルは自身の言葉を重く受け止めていたのだと、孝宏は勝手に納得した。
多少楽観的に構えていたとはいえ、危険を承知で提案を承諾したのは他ならない孝宏自身だ。
自身の責任を他人に求め、カウルを責めるような真似はしたくない。それに孝宏はソコトラで腹を決めていた。
地球に帰る手段を探し、そして、それまでは出来る限り彼らの目的に協力すると。彼らが命を差し出せと言わない限り、孝宏はついていくつもりでいた。
それが孝宏なりの罪滅ぼしつもりだった。
今までは何となく気まずさから言えずにいただけなのだが、今のカウルの様子を見るに、むしろ言わないのが正解かもしれない。では何と声をかけるのが良いのか。
孝宏にとってカウルは命の恩人の一人でもあるが、口にこそ出さなくても友人だと思っている。
この年上の友人と対等でありたいという、本人が聞けば生意気と言いそうな願いを踏まえて、孝宏は慎重に口を開いた。
「気に、すんな。今から……でも遅くね……て。俺を、おう、じ様……みたくすっ……か?」
孝宏は今から逃げると言う意味でなく、これから守ってくれれば良いと言う意味を込めたが、実際の所カウルがどちらの意味にとってもかまわない。
孝宏が冗談めかして言うと、神妙な面持ちが多少崩れ、カウルは吐き出すように笑う。
カウルが瞳の奥で憂いを帯びたまま再度≪すまないな≫と零したが、彼の謝罪の真意を孝宏が知るのは後になってだった。
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