28 / 180
冬に咲く花
26
しおりを挟む「おい、お前、タカヒロと言ったか?勘違いで怪我させて悪かったな」
ユーが元の小さな小人に戻っていた。始めの時のように青いマントを羽織り、フードを目深にかぶっている。
横たわったままのヨーの周りに、小人が集まっていた。
藍色の小人が、懸命にヨーに回復の魔術をかけていた。表情を見る限り、最悪の事態は免れたらしい。
「ヨーは鳥の力を無理に取り込んだから、少し中を焼かれただけ。あれは、私たちが操れるものではないから。取り込めば、当然こうなる」
「俺のせい…………だよな。ごめん」
「まあ……そう、だね。でも原因を作ったのは、私たちだから。あなたが気に病む必要はない。私たちこそ、あなたに謝らなければいけない。ごめんなさい」
「いいよ、そんなの」
「そうだ!忘れるところだった!」
ユーが両手を天にかざすと、彼女の頭上で、雨がくるくると球体を作り始めた。見る間に水量は増え、30秒ほどで、孝宏の掌に乗る程度の水球になった。
「この雨雲はコレを運ぶために、私たちが持ってきたもの。コレは鳥と対になっていて、一緒に封印されていたモノだ。鳥と一緒になくてはならないものだから、あなたに渡そう」
孝宏は水球に手を伸ばした。
表面はツルッとしたガラスによく似ており、中は水が漂い渦巻き、海流を思わせる流れがあった。実に不思議な玉だ。
カウルも初めて見る物で、それが何か見当もつかなかった。
その後、小人たちは用事は済んだと、一言二言言葉を交わすと、あっさりと変えると言い出した。
ヨー以外の四人の小人が呪文を唱えると、白い強い光を放ち、一匹の大きな龍に変身した。
「なるほど、これは大きい……ははっ」
自慢するだけはある。孝宏が笑った。
黒く大きな龍が、蛇のような長い体をくねらせ天へと上り、雨雲の中に消えていった。
やがて、雨雲は北へ流れ、雲の切れ間に日差しが差し込んだ。一つ目の太陽が沈みかけており、東の空は夕焼けに染まっていた。
「もう、夕方なのか。全然気がつかなかった」
この世界は地球と違って、二つある太陽が西から上り東に沈む。一日が終わる時、夕日も二回沈む。
「タカヒロ、俺すぐにでも村に戻ろうと思ってる。化物がウロウロしている場所に、カダンを一人で行かせちゃ、ダメだった」
夕日を背に立つカウルの表情は逆光でよく見えない。赤い髪が夕焼けに溶け込んだようだ。鼻声だが泣いてはいない。
しかし孝宏には彼がまだ震えて見えた。その震えがなんの為かはわからないが、彼の思い決意が声の端々から見て取れる。
「もしも、この騒動に凶鳥の鳥が関係あるなら、タカヒロにも俺たちの復讐に付き合ってほしい。本当、悪いとは思うけどさ、俺たちと一緒に旅に出てくれ」
「俺は役に立たない自信がある。それにこれが凶鳥の兆しなら、むしろいない方が良いんじゃないか?きっと悪い事が起きるぞ」
「逆だ。それが兆しであるなら、カダンが言っていた通り、これから色々起き始めるんだろう?あんな馬鹿な事をしでかした、張本人を見つけられるかもしれない。孝宏は俺たちと一緒にいてくれるだけでいい。俺が………危ない目には合わせないから。だから……」
カウルは得体のしれない化物を、村に仕掛けた奴がいると言っているのだ。兆しがそれを示していたのなら、もしくは不幸を呼び込むのというのなら、むしろ好都合だと、そう思っているのだ。
「僅かにでも、敵を取れる可能性があるなら、不幸でも凶鳥でも、何だって乗り切ってみせる。だから力を貸してくれ」
孝宏に断る理由はいくらでもあるが、残念な事に引き受ける理由もいくつか存在した。加えてこの時の彼は興奮状態にあり、普段より承諾しやすくなっていたように思える。
(二人を止めろって、カダンは言ってたんだけどな)
つい先刻の出来事なのにこんなにもあっさりと破って良いものか。孝宏は心の中で苦笑する。
「あーあぁ、俺も一緒に怒られてやるよ」
今はこう言っても、いくらか時間が経って、もしくは現実を見ればきっと冷静に戻るだろう。
けれども今だけ。今だけなら、少しぐらいカウルに付き合っても良い。孝宏の中にはそんな考えもあった。
(ここは異世界だからな)
「ああ、ありがとう」
あっさり承諾する孝宏を見て、カウルも先刻の出来事を思い出していた。
孝宏の人の良さは、カウルに罪悪感を抱かせる。
今思い返せば、何の関係もない孝宏を攻め立てたのだから、あれはただの八つ当たりだ。
カウルは謝って済むだろうかと思いながら、帰路に着いた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法使いと皇の剣
1111
ファンタジー
かつて世界は一つだった。
神々が大陸を切り離し閉ざされた世界で
魔法使いのミエラは父の復讐と神の目的を知る為
呪われた大陸【アルベスト】を目指す。
同じく閉ざされた世界で〔皇の剣〕と呼ばれるジンは
任務と大事な家族の為、呪われた大陸を目指していた。
旅の中で、彼らは「神々の力の本質」について直面する。神とは絶対的な存在か、それとも恐れるべき暴君か。人間とは、ただ従うべき存在なのか、それとも神を超える可能性を秘めたものなのか。
ミエラに秘められた恐るべき秘密が、二人を究極の選択へと導いていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる