「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟

文字の大きさ
38 / 44
連載

甘い新婚生活②

しおりを挟む


 それから瞬く間に数日が経ち、



「……妃殿下、そのご格好は?」

「アキレス様を連れて、しばらく実家に戻ります」



 既に平民服に着替えたメアリはきっぱりとした口調で言った。当然、実家とはレイ王国の王宮ではなく、精霊たちのいる魔の森のことだ。本来、人間は立ち入り禁止なのだが、アキレスは既にメアリの夫であるし、今は人の姿をしていないため、精霊たちに立ち入りを許可してもらったのだ。



「これ以上、この部屋にアキレス様を閉じ込めておくわけにもいきませんし」

「確かに、以前よりも大きくなられましたね」



 言いながらノエは、メアリの隣にちょこんと座る獅子の子ども――アキレスを見た。



「さすがは殿下、成長速度がずいぶんとお早いですね」

「シャーっ」

「上から見下ろすなっ、って怒っておられるわよ」



 後ろで控えているアルガの通訳に「それは失礼」とノエは笑いながらしゃがみこむ。



「それにしても、かつて戦場の獅子と呼ばれた殿下が、本当に獅子になられるとは――ッつ、なぜ引っ掻くんですか」



「シャーっ」

「絶対に面白がっているだろ、お前、とおっしゃっているわ」



「ひどいことを。これほど殿下に尽くしているというのに。見てください、私の腕を。殿下のせいで引っかき傷だらけですよ」



「シャーっ」

「微妙に嬉しそうな顔をするな気持ち悪い、だそうよ」 



 二人のやりとりを微笑ましく思いながらメアリは「それに」と口を挟む。



「この件が陛下のお耳に入る前に身を隠したほうがいいかと思いまして」

「それもそうですね」



 ノエは立ち上がると、「あとのことはお任せ下さい」と笑みを浮かべる。



「とりあえず、お二人は新婚旅行に行かれたことにしましょう。皇太子殿下にも休暇は必要ですから」



 時期的にタイミングが良かったのか、ノエは快く送り出してくれた。呪いが解け次第すぐに戻ると約束し、精霊たちの魔法で瞬時に魔の森へと転移する。



 森に着いた途端、駆け出したアキレスを追って、メアリも小走りに走り出した。



「見て、アルガ。アキレス様ったらあんなにはしゃいで、走り回っておられるわ」



 これまでずっと、目立たないよう、部屋でじっとしていたのだ。無理もない。しかし森にいる精霊たちはやや警戒した様子で、アキレスを遠巻きに眺めている。



「メアリ、何度も言うようだけど……」

「わかっているわ、アルガ。アキレス様がここにいられるのは獣の姿をしている間だけ」

「呪いが解けて殿下が人間の姿に戻ったら、仲間たちは容赦なく彼を攻撃するわ」



 そうなる前に自分が彼をここから連れ出すと、メアリは再度約束した。



「それにしても、このイモ……妖精まで連れてくるなんて」



 ずしりと重みのある剣を指さされて、



「あら、この子は必要よ。呪いを解く手がかりになるもの」

「だといいわね」



 呆れたように言いつつ、アルガは精霊の姿に戻ると、メアリの周りを飛び回る。



『当の本人は、いつどこで呪われたのか、全く覚えていないし』

「それも呪いに含まれている可能性は?」

『……ありうるわね』



 ひとしきり走ると、見慣れた小屋が現れて、ほっと息をつく。



「ひとまずお茶でも飲んで、ゆっくりしましょう」



 扉を開けたままアキレスを呼ぶと、彼は飛ぶようにやってきた。

 メアリの足元にすり寄り、ごろごろと喉を鳴らす。



「まあ、ずいぶんとご機嫌ですね」

『ここに来られてとても喜んでおられるわ。メアリとずっと一緒にいられるって』



 それを聞いたメアリは感激のあまり涙ぐみ、そっと彼を抱き上げる。



「私も同じ気持ちです」



 答えて抱き寄せると、ざらりとした舌でぺろりと頬を舐められた。胸がキュンと高鳴り、あまりの可愛らしさにぎゅうぎゅう抱きしめると、「ぐぅ……」という妙な鳴き声が聞こえて、慌てて力を抜く。



「ごめんなさい、苦しかったですか?」



『違う意味で胸が苦しいそうよ』

『ああ、メアリ、察してあげなよ』

『見た目は子ども、中身は大人』

『羊の皮をかぶった狼』

『正確には獅子の皮をかぶった人間でしょ』

『……それってどういう意味?』

『さあ? どういう意味だろ』



 そんな精霊たちを横目に、メアリはそっとアキレスを地面に下ろすと、外から水を汲んできて、お湯を沸かす。お茶の準備をしている間もアキレスが足元にまとわりついて離れないので、たまらず笑い出してしまった。



「アキレス様ったら、お願いですから少し離れてください」

「……みゃ」

「怒ったのではありませんわ。うっかりおみ足を踏んでしまいそうで、怖いんです」

「みゃ」



 そういうわけならと、少し離れた場所でちょこんと座る。そんなアキレスを盗み見ながら悶えているメアリを見、精霊たちはこそこそと話し出す。



『おい、通訳なしで会話が成り立ってるぞ』

『森のおかげかな?』

『女王陛下の魔力がそこかしこに充満しているからじゃない?』

『……二人きりにしてあげようか?』

『そうだね、何せ二人は夫婦だし?』

『ハネムーン中だし』



 いつの間にか、精霊たちが姿を消していることにも気づかず、メアリは申し訳なさそうにアキレスに話しかけていた。



「できればすぐにでも呪いを解いて差し上げたいのですが、まだ方法がわからなくて」

「みゃ」

「急ぐ必要はない? ですが……」

「みゃ?」

「そうですね、人間の姿に戻ればここにはいられません」

「みゃ、みゃ」

「まあ、アキレス様ったら。本当によろしいんですか?」

「みゃ」



 よほどこの場所へ来られたことが嬉しかったのか、すぐに呪いを解く必要はない、人間の姿に戻る前に、ここでメアリがどのように暮らしているのか知りたいと強く望まれて、メアリは吹き出してしまう。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。