「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟

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甘い新婚生活①

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 夫婦の寝室で、胸を高鳴らせながら夫の訪れを待っていたメアリだったが、いつまで経ってもアキレスは現れない。暗い表情を浮かべるメアリを見、精霊たちが即座に行動を起こした。初夜を待ちわびる新妻に待ちぼうけを食らわせるなど言語道断とばかりに、アキレスのところへ殴り込みに向かったのだが、



『大変だよ、メアリっ』

『エマージェンシー発生っ、エマージェンシー発生っ』



 精霊たちが連れてきたのはアキレスではなく、砂色の小さな子猫だった。大勢の精霊たちが『わっせっ』『よいせっ』と掛け声を上げながら子猫を抱えて連れてくる光景があまりにも可愛らしく、メアリは現状も忘れてほっこりした。



「ちょっ、メアリっ、和んでる場合じゃないから」



 仲間から事情を聞いたアルガが、慌てたように口を挟む。



「それ、子猫じゃなくてアキレス殿下よ」

「ちなみに猫ではなくて、獅子の赤ん坊です」



 言いながら部屋に入ってきたのはノエだった。 突然、目の前でアキレスが気絶したかと思えば、彼の身体がみるみる縮んでしまい、気づけば獅子の赤ん坊の姿に変化していたという。



「どうやら呪いをかけられたようですね」



 笑いを含んだ声で彼は続ける。

 それが事実なら笑い事ではないと、厚めのガウンを羽織りながらメアリは動揺した。



「アキレス様、私のことが分かりますか?」



 すぐさま話しかけるものの、獣の姿をしたアキレスはすやすやと寝息を立てていて、「まあ、可愛らしい」と思わず頬が緩んでしまう。



「分かりました、この子は私が責任を持って育てます」

「早まらないで、メアリっ」



 とりあえずストップをかけつつ、



「まさか、あんたたちじゃないでしょうねぇ?」



 ギロリとアルガに睨まれた精霊たちは、



『確かに僕たちのやりそうなことだけど』

『僕たちじゃないよねぇ?』

『じゃあやったの誰よ?』

『さあ、誰だろ』



 不思議そうに首を傾げている。



「アキレス様は敵が多いですから」



 やれやれといったように肩をすくめるノエに、「いまいち危機感ないわね」とぶつぶつ文句を言うアルガ。



『でもこんな高度な呪いをかけられる人間なんてそうそういない』

『だね、他国の呪術師か……」

「ニキアスに決まってるでしょ。彼の魔力の気配がするもの」



 いたずら好きな仲間たちが話をややこしくする前に、アルガは断言する。



『最初から分かってんなら疑うなよっ』

『そうだそうだっ』



 仲間たちのブーイングを綺麗に無視して、アルガはメアリに向き直った。



「どうする、メアリ?」

「ニキアス様の居場所は分かるかしら?」



『それがさぁ……この城にいないことは確かなんだけど』

『移動中も結界張ってるみたいでぇ』

「あれ以来、ずっと捜してはいるんだけど見つからないのよ」



 ニキアスが姿を消してからずっと捜索を続けているようだが、常に移動しているらしく、なかなか居所が掴めないらしい。



『呪いを解くには術者を殺すのが手っ取り早いけど』

『見つからないんじゃァ仕方ない』



「他に方法はないの?」



『ないこともない』

『けど解呪法を見つけるのは大変だよ』



「呪いには直接的な呪いと、間接的な呪いがあるんだけど、ノエの話を聞く限り、アキレス様は後者よ」



「間接的な呪い……呪いの指輪や首飾りといった類の話ですか?」

「ええ、呪いの込められた物を身につけたか、触れたかしたんだと思うわ」



 アルガの説明に「なるほど」とノエとメアリはうなずく。 



「それを見つければいいのね?」

「見つけ次第、破壊すれば解呪できるわ」

「ノエ様、どうでしょう? アキレス様のそばにいて、何か気づかれたことは?」



「そわそわと落ち着かない態度で――おそらく初夜を控えていたからでしょうが――何を訊ねても上の空、正直、仕事も手につかないといった体たらくで……あのご様子では、暗殺者に後ろから刺されたとしても気づかないでしょう」



 頬を赤くして俯くメアリの代わりにアルガが口を開いた。



「アキレス殿下の剣はどう? ニキアスの魔力が宿っている」

「いつも肌身離さず身に付けておられますが……」



『念の為に持ってきた』

『試しにぶっ壊す?』



 精霊たちの言葉を聞いて、メアリは弾かれるように顔を上げる。



「ダメよ、アキレス様の許可もないのに」

「軍に入る前、陛下から直々に賜った剣ですからねぇ」



 であれば国宝級の代物に違いない。

 そんな貴重な物を安易に壊せないとメアリは強く主張する。



「でもメアリ、このまま殿下の呪いが解けなくてもいいの?」

「その剣に呪いがかけられているとは限らないでしょう?」



『そんなの、壊してみれば分かることだよ』

『問題なければ鍛冶屋で元通りにしてもらえばいいさ』



 精霊たちの言葉をノエに伝えると、「それもそうですね」と彼はケロリとした口調で言った。



「殿下のお命には変えられませんから」



『と、いうことで』

『いっせのせっ、で真っ二つといきましょうか』



 やたらと張り切る精霊たちを見、メアリは本当にいいのかとハラハラしてしまう。



『では早速』

『いっせ~の~』



 声が聞こえたのはその時だった。





 

『や~め~て~むにゃむにゃ』







 小さすぎて、思わず聞き逃してしまいそうな声だったが、確かに聞こえた。

 精霊たちも動きを止めて、キョロキョロしている。



 メアリは素早く声の主を捜し、まさか……とテーブルの上に置かれた剣を見た。

 これまで気付かなかったが、剣の柄の辺りに小さな何かがくっついているようだ。  

  

 何かしら、と思い目を凝らすと、



「きゃっ、虫っ」

『虫じゃないよ、むにゃむにゃ』



 どうやら芋虫に似た妖精らしい。



「あらごめんなさい」



 とすぐさま謝罪するものの、 



『すーすー』



 寝息が聞こえるのはなぜだろう。



『このイモ野郎、起きやがれっ』

『たぬき寝入りしやがってっ』

『このお方をどなたと心得るっ』

『我らが女王陛下のお孫様ぞっ』

『ひかえおろうっ』



 いきり立つ精霊たちを「まあまあ」となだめながら、本当に寝ているのかしらとメアリは首を傾げる。アルガはアルガで、この状況をわかりやすくノエに説明していた。 



「あなたはアキレス様の剣に宿る妖精さん?」

『そうだよ、むにゃむにゃ』

「もしかしてあなたがアキレス様に呪いをかけたの?」

『ぼくじゃない……むにゃむにゃ』

「この子は関係ないそうよ」  



「メアリったら、信じるの?」

『そうだ、この妖精は嘘をついているに違いない』

『この下等生物めっ』

「あなたたち、言葉が過ぎるわよ」



 相変わらず、精霊たちは妖精に対してアタリが強いと窘めつつ、



「イモムシの妖精さん、アキレス様が呪いをかけられたことは知っているわよね?」

『知らない……むにゃむにゃ』



『早速嘘つきやがって、このイモ野郎っ』

『こいつは信用ならないなっ』

『正直に話さないと塩をかけるぞっ』

『溶かされたくなかったら知っていることを全部吐けっ』



「あんたたち、イモムシとナメクジの違いも分からないの?」



 アルガの呆れたようなツッコミをスルーしつつ、『ヤっちまう?』『ああ、ヤっちまおう』と精霊たちは密談を始めていた。「この子に手を出したら許さないから。もちろん、お塩をかけるのもダメよ」と注意しつつ、メアリは頭を悩ませる。



 肝心の妖精は「すーすー」と安らかな寝息を立てていて、起きる気配はない。『たくさん眠って、立派な蝶になるんだ……むにゃむにゃ』と時おり寝言めいたことを口にするだけ。それでもめげずに話しかけるも、まるで答えてくれず、「完全に眠ってしまったみたいね」とため息をつく。

 



 結局、解決策が見つからないまま夜が明けてしまった。

 目もとに隈を作りながらも、アキレスにミルクを与えようとしたメアリだったが、



 ――少し、大きくなってる?



 昨晩はまだ生後まもないといった感じの獅子の赤ん坊が、ぱちっと目を開けて、ウロウロと動き回っていた。頼りなくて儚げで、なんて可愛らしいの、とため息をこぼしつつ、そっと抱き抱える。



「アキレス様、私のことがお分かりですか?」



 試しに話しかけるものの、「みゃっ」と猫のような鳴き声が聞こえて、メアリはだらしなく頬を緩ませる。



「そのようなお姿になられて、さぞかし不安でしょう。ですが心配はいりません。私が責任をもってお世話させて頂きますわ」



 それを聞いたアキレスは、いっそう不安そうに「……みゃ」と返事した。どうやら変わったのは姿だけで、中身に変化はないらしく、「このような姿になっていたたまれない、とおっしゃっているわ」すかさずアルガが通訳してくれた。



「みゃ、みゃ」

「せっかくの夜を台無しにしてしまい申し訳ない、だそうよ」

「まあ、アキレス様、どうかお気になさらないで」



 呪いをかけられても尚、自分のことを気にかけてくれるアキレスに涙ぐみながらメアリは言った。



「私は、こうして一緒にいられるだけで幸せですから」



 そのままミルクを飲ませようとすると「……みゃあ」と軽く抵抗されてしまった。肉球のある小さな前足を突っぱねて、いやいやする様子を見、メアリは今にも悶え死にしそうになる。



「それはそれで複雑、だそうよ」



『育児というより介護されてる気分になるんじゃない?』

『男としては辛いよねぇ』

「そういう話はメアリの聞こえないところでしてくれる?」

『あいあいさー』



 再びアルガに睨みつけられた精霊たちはサーと部屋の隅に行くと、こそこそと話しだした。



『にしてもあれ、かなり厄介な呪いだよ』

『小さいうちはまだいいけど……』

『大きくなったら大変なことに』

『まあ、僕らの敵じゃないけど』

『そうだね、メアリは僕らが守るから』
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