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こんなところに異世界 ―俺は勇者じゃないとそろそろ気づいてほしい―

コボルトの警戒網

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 俺たちはゼノが去ってから、廃屋に待機していた。

 メリルの予定では彼から情報を手に入れるつもりだったわけだが、ゼノが非協力的な姿勢を見せたことでそれが難しい状況だった。
 それに彼は漁師に紛れているから問題ないものの、俺やメリルが出歩けばモンスターの目に留まる可能性が高い。

「最初の作戦通り、まずは夜を待とうか」
「はい、それが安全な気がします」

 敵の戦力が不透明なままなので、このまま夜を待つことにした。


 
 敵の侵入を警戒していたせいか、日が沈むまでの時間があっという間に感じた。
 
 月の光や町の照明が届かないので、部屋の中は真っ暗になっている。
 火の魔術で明るくしたいところだが、見つかるのを避けるために控えていた。

「それでは、町の様子を見に行きましょう」

 俺はメリルに続いて外に出た。

 二人で外に出ると周囲は闇に閉ざされていた。
 夜になって気温が下がり、アルヒ村でもらった衣服では少し肌寒い。
 
 周りに街灯などはないが、離れた場所に篝火のようなものが置かれている。
 
「とりあえず向こうまで行こうか?」
「そうしましょう」

 小走りで移動して監視がないかを確かめた。

 モンスターの気配はなく、漁師や町の人たちは見当たらなかった。
 夜はあまり出歩かないのだろうか。

 民家の窓からは明かりが漏れているので、屋内に人はいるようだ。
 やたらと他人の家に上がりこむわけにもいかず、そのまま素通りした。

 メリルと町中を歩いてみたが、目ぼしい収穫はなかった。

「さて、どうしよう」
「町の規模が今までで一番大きいのに、オーク一体というのが気がかりです」
「他にも、モンスターがいるかもしれないってこと?」
「その通りです。事前に情報があればよかったのですが、残念ながら詳細な情報はありません」

 彼女は低く落ち着いた声で言った。

 それならば仕方がない。
 ゼノと連携を取れていないことが悔やまれる。

 ――グルルッ。

 ふいに犬が唸るような声が聞こえた。

「あれっ、どこかに野良犬でもいるのか?」
「カナタさん、どうしました?」
「いや、犬の鳴き声が――」
「あっ、う、後ろです!」

 メリルが素早い動作で剣を抜いた。
 ただならぬ様子に振り返ると、篝火の炎に照らされた獣人がいた。

「うわっ、何だ!?」
「これは……コボルトですね。町の見回りでしょうか」

 気が緩んでいたので、慌てて魔術を発動可能な状態にした。
 戦うことになれば物音で町の人たちが気づくだろうが、メリルが応戦するつもりならそれに合わせるだけだ。

 コボルトは三体いて、今にも襲いかかろうとしている。
 言葉を発する様子はなく、ゴブリンやオークほどの知能はないのかもしれない。

「コボルトが相手では逃げられないので、ここで戦います」
「うん、了解」

 デグラスにばれるリスクはあるが、逃げ切れないなら倒すしかあるまい。

「メリル、ここは俺に任せて」

 この明るさで剣術は不利だと感じた。
 敵が様子を見ている間に決着をつけよう。  

 俺は両手を正面に突き出して、強めの出力で氷魔術を発動した。
 三体のうち一体が遠吠えを始めそうな雰囲気だったので、マナの流れを促進させて放出するスピードを早めた。

 正面に凍てつく空気が放出されて、全てのコボルトが急速に凍りついた。
 完全に凍らせることに成功したので、そのまま三体とも消滅した。  

「お見事です」
「うん、ありがとう」

 ひとまずピンチを脱することができた。
 すぐに襲いかかってきたらどうなっていたか分からない。

「あんたたち、大丈夫かい? よかったらうちへ入りな」

 近くの民家から男性が出てきて、こちらに声をかけてきた。

「……メリル、どうする?」
「他にもコボルトが徘徊している可能性があるので、入らせてもらいましょう」

 扉から家の中に入ると、冷えた空気が遮られて暖かく感じた。
 
 招き入れてくれたのはがっちりした体格の青年だった。
 年齢は二十代後半ぐらいに見え、人の良さそうな柔和な顔つきをしている。
 
 日に焼けてもいるし、雰囲気からして漁師の一人だろう。

「ゼノが仲間が来るって話してたけど、あんたたちのことだったか」 
「……彼は町の人に伝えていたんですね」
「漁師に混ぜてくれなんて言うもんだから、おかしいと思ってよくよく聞いてみるとデグラスを倒そうっていう話じゃないか。あれにはずいぶん驚かされたな」

 さらに男性は、短期間でゼノはすっかり馴染んだと付け加えた。
 ゼノが無愛想なだけの男ではなく、援軍に期待を抱いていたことを知った。

 話を聞いた限り、そこまでの援軍を期待するのは高望みのようにも思うが、彼なりにタラサの町をどうにかしたいという思いがあったのかもしれない。
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